(3)住居に関する動向 (全国では持ち家率は減少、東京圏では持ち家率は持ち直しの傾向)  全年齢平均の持ち家率は1983年から1993年にかけて微減したが、その後は2008年にかけて持ち直しの傾向が見られる。また、この間を通して6割程度の水準で推移している。年齢別に見ると、40代以下の持ち家率は1983年以降おおむね減少傾向にあり、特に30代の持ち家率については、1983年から2008年にかけて53.3%から39.0%になるなど減少幅が大きい(図表116)。 図表116 年齢階級別持ち家率の推移  東京圏においては、30代の持ち家率は、1983年から1998年にかけて46.0%から31.3%に下落したが、その後持ち直しの傾向が見られ、2008年には36.8%まで上昇した。30才未満の持ち家率についても、1983年から1993年にかけて減少した後、持ち直しの動きが見られる(図表117)。 図表117 年齢階級別持ち家率の推移(東京圏)  東京圏の中でも、特に持ち家率の持ち直しの傾向が顕著なのは東京都である。東京都と近隣三県の30代の持ち家率の推移を見ると、近隣三県では1998年から2008年にかけて4.4ポイント(37.8%から42.2%)上昇しているのに対し、東京都では7.0ポイント(21.8%から28.8%)上昇しており、東京都の方が上昇幅が大きいことがわかる(図表118、119)。 図表118 年齢階級別持ち家率の推移(東京都) 図表119 年齢階級別持ち家率の推移(近隣三県)  東京圏における持ち家率の持ち直しの動向を裏付けるものとして、1990年代半ばから2000年代半ばにかけては、東京圏において持ち家の住宅供給が高水準で進んだことが見て取れる。持ち家(注文住宅、分譲住宅の合計)の新設着工戸数は1990年代半ばから2000年代半ばにかけて毎年25万戸前後で堅調に推移し、東京圏における人々の住宅取得意欲に応えたと考えられる。1990年代後半から2000年代後半にかけては、持ち家の中でも特に分譲住宅(マンション)の供給が増加し、持ち家の新設住宅着工戸数に占める分譲住宅の割合は4割を超える水準で推移した(図表120)。この結果、東京圏の新設住宅着工戸数に占める貸家の割合は1990年代前半には約6割近くあったが、2000年には約32%にまで落ち込んだ(図表121)。 図表120 持ち家の新設住宅着工戸数の推移 図表121 貸家の新設着工戸数の推移  一方、全国については、東京圏と異なり、バブル崩壊後に約69万戸まで落ち込んだ住宅供給が1990年代半ば頃に一旦回復を見せたものの、その後2000年代はバブル崩壊後とほぼ同水準の70万戸前後で推移した。また、持ち家に占める分譲マンションの割合を見ても東京圏と比較して低い水準で推移している。  また、東京圏において、1990年代半ばから2000年代半ばにかけて持ち家の住宅供給が高水準で推移する中で、従来と異なるタイプの住宅の供給が進んだことも分かる。部屋数別にマンションの販売戸数を見ると、東京圏においては、2000年代初め頃から、1部屋や2部屋といった部屋数の少ないマンションの販売割合が上昇傾向にある一方で、4部屋以上の割合は減少してきている(図表122)。これは、単身世帯や夫婦のみの世帯が増加することによる世帯人員の縮小を受けての動向と考えられる。実際に、東京圏においては、全国と比較して、全世帯に占める単身世帯や夫婦のみの世帯の割合が高く、世帯人員の縮小が特に進んでいる(図表123)。  全国においては30代の持ち家率が減少する中で、東京圏においては持ち直しの傾向が見られた要因としては、住宅取得に関する人々の意識の変化や人口動態、東京圏における住宅購入環境の変化等、様々なことが考えられる。 図表122 タイプ別マンション販売戸数(東京圏) 図表123 世帯構成の推移(世帯主が30代) 1)住宅取得に関する人々の意識の変化  国民意識調査において、実家以外の場所のうち、近い将来(5〜10年後)に住んでみたいところ及び老後に住んでみたいところについてそれぞれ尋ねたところ、20〜30代では東京圏を挙げる者の割合が高いという結果となった(図表124、図表125)。また、1994年及び2001年に実施された「国土の将来像に関する世論調査」の結果からは、理想の居住地として三大都市圏の主な都市(東京23区及び政令指定都市)を挙げる若者(20代・30代)の割合が上昇していることが示され、過去と現在の若者を比較した場合も都心居住意向が高まっていることが分かる(図表126)。このような若者の都心居住意向の高まりを受け、東京圏で持ち家を取得する者が増えた可能性がある。 図表124 近い将来の居住地の意向 図表125 老後の居住地の意向 図表126 若者の理想の居住地 2)人口動態の影響  また、人口動態として、持ち家の中心的な需要者である30代後半から40代前半にかけての年齢層の人口が増加したことにより、30代に占める持ち家需要者の割合が高まったことが、持ち家率の動向にも影響を与えたと考えられる。特に2008年前後は、人口ボリュームの大きい第2次ベビーブーム世代(1971〜1974年生まれで、2008年時点で34〜37歳の者)が30代後半の一部を構成するようになったことから、30代後半の人口が増加するとともに、30代に占める30代後半の者の割合も高まった。このことは、30代人口の中で、住宅取得年齢にあたる者の占める割合が高くなっていることを意味することから、これにより、統計上、30代の持ち家率が引き上げられている可能性がある。実際に、全国では35〜39歳人口は2000年の811.5万人から2010年の978.6万人へ21%増加しているのに対し、東京圏においては2000年の235.3万人から2010年の306.0万人へ30%増加しており、全国よりも高い割合で35〜39歳人口が増加している(図表127)。また、30代人口に占める35〜39歳人口の割合についても、全国では2000年の48.0%から2010年の54.0%へと6ポイント上昇しているのに対し、東京圏では2000年の46.3%から2010年の54.1%へと7.8ポイント上昇しており、上昇幅が大きい(図表128)。 図表127 年齢階級別人口の推移 図表128 30代人口の内訳 3)住宅購入環境の変化 (ア)住宅価格  東京圏における住宅価格の変化も、若者の持ち家率の持ち直しの動向に影響を与えたと考えられる。1980年代後半から1990年代初頭にかけては、全国的に地価の高騰に伴う住宅価格の上昇が見られたが、東京圏においては特にその傾向が顕著に見られ、1990年代半ば頃から住宅価格が下落した際も、下落幅が大きなものとなった。このように、東京圏においては、1980年代後半から1990年代初頭にかけての時期と2000年代を比較した場合、全国よりも相対的に大きく住宅価格が下落したことが人々の住宅取得を促したと考えられる(図表129)。 図表129 マンション価格の推移 (イ)住宅ローン金利  東京圏における若者の住宅取得を促した要因として、住宅ローン金利の低下も考えられる。住宅ローン金利は、1990年のバブル期には8.5%を記録したが、1998年には2.5%にまで下がり、以降は2.5%前後を推移している(図表130)。 図表130 住宅ローン金利の推移 (持ち家志向は依然として高水準)  全国的に見て若者の持ち家率が減少する一方で、土地・建物の所有意思を見ると、土地・建物の両方を所有したいと考える者の割合は年々減少傾向にあるものの、依然として約8割という高い水準で推移している。一方で、借家(賃貸住宅)でも構わないと考える者の割合も徐々にではあるが増加してきている(図表131)。 図表131 土地・建物の所有意思(20代・30代) (民間賃貸住宅に居住する者の割合が増加)  また、若者の住宅の所有別世帯数の推移を見ると、先に見たとおり持ち家率が減少する中で、借家に居住する世帯の割合が増えてきている。その中でも特に民間賃貸住宅の割合が高まってきており、1983年から2008年にかけて公社・公団・公営住宅や給与住宅に居住する世帯の割合はそれぞれ9.8%、8.3%から5.2%、6.8%に減少する一方で、民間賃貸住宅に居住する世帯の割合は39.7%から59.7%に高まっている(図表132)。公営住宅や都市再生機構賃貸住宅の入居者を年齢別に見た場合も、入居者に占める若者(40歳未満)の割合は年々減少している(図表133、134)。 図表132 若者(40歳未満)の住宅の所有関係の推移 図表133 公営住宅の居住者の世帯主年齢 図表134 都市再生機構賃貸住宅の居住者の世帯主年齢 (住居費負担の増加) 1)持ち家取得に係る経済的負担  30歳未満と30代の住宅(マンション)価格の年収倍率を見ると、バブル期には地価高騰等により住宅(マンション)価格が上昇し、1990年にはそれぞれ9.2倍、7.8倍となった。バブル崩壊以降1990年代終盤までは、住宅価格が下落する中で年収倍率の減少が続き、1998年においてはそれぞれ7.2倍、5.5倍となった。しかし、その後は、住宅価格が上昇する一方で若者の年収は減少傾向にあるため年収倍率は上昇を続けており、2011年には8.7倍、6.8倍となった(図表135)。 図表135 住宅(マンション)価格の年収倍率の推移  また、可処分所得に占める住宅ローン返済額の割合について見ると、同割合は全年齢で増加傾向にあるが、30代は全年齢より高い水準で推移している。このような持ち家取得に係る経済的負担の増加が、先に述べた若者の持ち家率の減少の一因と考えられる(図表136)。 図表136 住宅ローン返済額の対可処分所得比の推移 2)借家の住居費負担  可処分所得に占める家賃の割合は増加傾向にあり、1989年から2009年にかけて、40歳未満の単身の男性で12.4%から19.9%に、40歳未満の単身の女性で19.0%から24.7%に、世帯主が40歳未満の二人以上の世帯では10.5%から14.9%に上昇するなど、特に単身世帯での住居費負担の高まりが見られる。また、男性よりも女性の方が可処分所得に占める家賃の割合が高くなっているが、これは、家賃については男性よりも女性の方が高い傾向にあることに加え、可処分所得については女性の方が男性よりも低い傾向にあることによる(図表137、138、139)。家賃について男性よりも女性の方が高くなっている要因の一つとして、女性の方が民間賃貸住宅に付いていて欲しいと思う設備や仕様の水準が高く、特に安全性に強いこだわりがある注1ということが考えられる。 図表137 家賃の対可処分所得比の推移 図表138 家賃の推移 図表139 可処分所得の推移 (持ち家と民間賃貸住宅で異なる質)  ここでは、若者の多くが居住する民間賃貸住宅の質について持ち家との比較を行う。 1)持ち家と民間賃貸住宅の評価  住宅に対する評価(全年齢)について見ると、持ち家の不満率(「多少不満がある」、「非常に不満がある」と回答した者の割合)は28%であるのに対し、民間賃貸住宅の不満率は42%と高い(図表140)。また、住宅に対する不満の内容について項目別に見ると、持ち家と民間賃貸住宅で比較して総じて民間賃貸住宅への不満率が高く、特に遮音性について不満率に差がある(図表141)。 図表140 住宅に対する不満率 図表141 住宅の各要素に対する不満率 2)若者の居住する住宅の居住面積  若者(40歳未満)の単身世帯について見ると、6.7%が持ち家に居住しており、その居住面積の平均は、戸建て、共同建てでそれぞれ104.4m2、62.3m2と、単身者の一般型誘導居住面積水準(55m2)、都市居住型誘導居住面積水準(40m2)注2を上回っている。一方、約8割が居住している民間賃貸住宅の居住面積の平均は、35.1m2で単身者の都市居住型誘導居住面積水準(40m2)を下回っている(図表142)。 図表142 若者(40歳未満)の単身世帯の住宅ストックの状況  若者(世帯主が40歳未満)の二人以上世帯について見ると、43.7%が持ち家に居住しており、その居住面積の平均は、戸建て、共同建てでそれぞれ115.7m2、78.3m2と居住者が二人の場合の一般型誘導居住面積水準(75m2)、都市居住型誘導居住面積水準(55m2)を上回っている。若者の二人以上世帯の約4割が居住している民間賃貸住宅の居住面積の平均は、55.4m2で居住者が二人の場合の都市居住型誘導居住面積水準(55m2)を辛うじて上回っている(図表143)。しかし、若者の二人以上世帯数と50m2以上の住宅数とを比較すると、民間賃貸住宅に居住する二人以上世帯数が272万世帯である一方、50m2以上の民間賃貸住宅に居住する世帯数が181万世帯であることから、いわゆるファミリー向け民間賃貸住宅は91万戸不足していると考えることもできる注3(図表144)。 図表143 若者(世帯主が40歳未満)の二人以上世帯の住宅ストックの状況 図表144 民間賃貸住宅に居住する世帯主が40歳未満の世帯人員別世帯数と延床面積別戸数との比較 3)バリアフリー性能、省エネ性能  共同住宅のバリアフリー化率について見ると、共同住宅における共用部分が道路から玄関までベビーカー等の通行が可能であるものの割合は、持ち家で41.2%、借家で8.9%となっている(図表145)。また、省エネルギー性能についてみると、二重サッシ又は複層ガラス窓のある住宅の割合は、持ち家で27.6%、民間賃貸住宅で12.0%となっている(図表146)。 図表145 共同住宅のバリアフリー化率 図表146 二重サッシ又は複層ガラス窓のある住宅ストックの割合 (子育てをしやすい環境の整備)  暮らしの豊かさを広げるためには住宅のみならず、住宅を取り巻く周辺環境の充実が必要である。子育てにおいて重要な要素を聞いたところ、「子どもの遊び場、公園」、「まわりの道路の歩行時の安全性」、「幼稚園・小学校などの利便」、「子育て支援サービスの状況」、「託児・保育所などの利便」と回答した者が36.9%おり、住宅の周辺の子育てをしやすい施設等の整備が求められている注4(図表147)。 図表147 子育てにおいて重要な要素 注1 東京圏(東京・神奈川・埼玉・千葉)在住の20代・30代の一人暮らしの賃貸住宅居住者を対象に「付いていて当たり前」、「付いていない部屋は借りない」と思う設備・仕様について聞いたところ、「2階以上」と答えた者の割合は女性で64.1%、男性で43.7%、「オートロック」と答えた者の割合は女性で18.4%、男性で13.6%となっている(「賃貸のお部屋「絶対に欲しい設備」・「なくてもいい設備」ランキング(2010年2月17日)」、著作者:SUUMO、発行者:リクルート住まいカンパニー)。 注2 誘導居住面積水準は、世帯人数に応じて、豊かな住生活の実現の前提として多様なライフスタイルに対応するために必要と考えられる住宅の面積に関する水準であり、都市の郊外及び都市部以外の一般地域における戸建住宅居住を想定した一般型誘導居住面積水準と、都市の中心及びその周辺における共同住宅居住を想定した都市居住型誘導居住面積水準からなる。詳細は参考資料参照。 注3 二人の場合の都市居住型誘導居住面積水準は55m2であるが、総務省「住宅・土地統計調査」では55m2以上という区分がないため、便宜上ファミリー向け賃貸住宅を50m2以上の住宅としている。 注4 保育所待機児童数については2007年の17,926人から増加傾向にあったが、2011年に4年ぶりに減少となり、2012年は前年に引き続き減少し、24,825人となった。待機児童の解消策の一つとして保育所の定員の増加を図っているところ、定員は2012年において224万人となり、2004年の203万人から一貫して増加している。