(6)旅行の動向  「社会生活基本調査」により、宿泊を伴う国内外への旅行や半日以上かけた日帰り旅行(行楽)をした者の割合の推移を見ると、50代以上の年齢層においては1986年から2001年にかけて当該割合は上昇したが、2001年から2011年にかけてはそれ以上に減少したため、2011年は1986年よりも低い水準となった。一方、15〜19歳、20代及び30代の若者については、1986年から2011年にかけて当該割合の減少が続いており、他の年齢層よりも大きな減少幅となっている(図表180)。 図表180 宿泊旅行・行楽(日帰り)をした人の割合 (国内宿泊観光旅行、行楽の減少)  20代の若者が1年以内に国内旅行(宿泊観光旅行及び行楽)に行った回数を見ると、宿泊観光旅行や行楽に行かなかった者(0回と回答した者)の割合はそれぞれ増加傾向にある。行楽については、1991年から2011年にかけて、0回と回答した者の割合は24.0%から37.9%に上昇(+13.9ポイント)したのに対し、宿泊観光旅行については32.7%から49.9%に上昇(+17.2ポイント)しており、若者の中で特に宿泊観光旅行に行かなくなった者が多いことが分かる。  1回以上旅行に行った者について旅行回数別に動向を見ると、国内宿泊観光旅行では1〜2回の者の割合が最も高く、3〜4回の者、5回以上の者と、旅行回数が増えるにつれて割合が減少するのに対し、行楽では5回以上の者の割合が最も高くなっていることから、時間や金銭的な負担の軽さから、若者にとっては行楽がより身近な旅行形態となっていると推察される(図表181、182)。 図表181 国内宿泊観光旅行の回数別行動者率の推移 図表182 行楽の回数別行動者率の推移  若者が国内宿泊観光旅行に行かなくなっている傾向は、国内宿泊観光旅行の平均回数の減少からも見て取れる。全年齢平均では1994年から2010年にかけて1.43回から0.93回に減少しているのに対し、20代は1.86回から0.89回と大幅に減少している(図表183)。 図表183 国内宿泊観光旅行の年間平均回数  このように若者の国内宿泊観光旅行回数が1990年代半ばから2000年代に急激に減少した背景としては、1990年半ば頃に活発になったスポーツを目的とする旅行、特にスキー旅行が、その後落ち込んだ影響等があると考えられる。 (旅行動向を左右する要因)  国内旅行が減少した要因としては、1990年前後から現在にかけての経済状況の変化や旅行の同行者の変化等があったと考えられる。 1)経済状況の変化  1980年代後半から1990年代初頭にかけては、バブル期の好景気が若者の旅行を促していた側面があると考えられる。国内宿泊観光旅行1回当たりの国内宿泊観光旅行の平均費用額を見ると、平均費用額が最も高かったのはバブル期であり、20代の1回当たりの旅行の平均費用額は1986年には約4.5万円であったが、バブル崩壊後の1998年には約3.3万円にまで落ち込んだ。  その後、2004年、2010年には、それぞれ約3.4万円、3.5万円となるなど、旅行の平均費用額の回復が見られるが、国内宿泊観光旅行の平均回数がバブル崩壊後継続して減少していることと合わせて考えると、バブル期と比較し、総額としては引き続き旅行費用を抑えようとする動きがあることが分かる(図表184)。 図表184 国内宿泊観光旅行1回あたりの平均費用 2)同行者の変化  国内旅行に行きたいと思ったきっかけについて尋ねると、「気分転換をしたい」、「魅力的な旅先を見つけた」といった能動的な理由よりも、「友人・知人に誘われた」等、受動的な理由を挙げる者が多いことが分かる。特に女性については、「友人・知人に誘われた」のほか、「家族に誘われた」、「恋人に誘われた」という理由を挙げる者も男性と比べて多い(図表185)。また、国内旅行に行かない理由について尋ねた場合も、特に一年内非旅行者(一年内に旅行をしていない者)では、「一緒に行く人がいない」、「誘われない」等の理由を挙げる者が全体より多い結果となった(図表186)。 図表185 国内旅行に行きたいと思ったきっかけ 図表186 国内旅行に行かない理由  このように、旅行に出かけるきっかけとして、誰かに誘われるかどうかが大きな意味を持つと考えると、バブル期のように若者の旅行が全般的に盛んな時期には、能動的に旅行に出かける者に加え、「誰かに誘われたから参加する」といった理由から受動的に旅行に参加する者が生まれることから、潜在的な(能動的な)旅行需要よりも多くの人々が実際に旅行行動を取ることになると考えられる。一方で、現在のように若者が全体としてあまり旅行に出かけない状況では、能動的に旅行に出かけようとする者の中で、「誰かと一緒に旅行に行きたいが、一緒に行ってくれる人がいないので行かない」という決断をする者が出てくることから、実際に旅行に出かける者が、潜在的な旅行需要よりも少なくなってしまう可能性もある。  宿泊観光旅行及び行楽に出かける際の同行者について、同行者別の割合を見ると、「学校・職場の人」及び「友人・知人など」の割合が減少傾向にあるが、特に「学校・職場の人」の割合が大きく減少している。1991年から2011年にかけ、宿泊観光旅行については39.8%から19.3%に、行楽については28.5%から20.7%に減少している(図表187、188)。国内旅行に出かけるきっかけとして、誰かに誘われることが大きな要因となっていることを踏まえると、職場や大学のサークルの仲間との旅行等、誰かに誘われて参加する旅行が減少したことが若者の国内旅行回数が減少する一因になったと考えられる。 図表187 宿泊観光旅行をした者の同行者割合(20代) 図表188 行楽(日帰り)をした者の同行者割合(20代)  一方で、近年、宿泊観光旅行及び行楽ともに1人で行く者の割合は増えており、旅行に強い関心がある者は、同行者がいなくとも1人で旅行に出かけるようになっている様子が見られる。この割合は、特に行楽について高くなっているが、これは行楽の方が同行者がいなくも行きやすいという性格があるためと考えられる。若者の国内旅行の動向について、宿泊観光旅行と比べ行楽の方が旅行回数の減少の幅が小さいということを先に述べたが、行楽については、旅行の同行者のうち、「学校・職場の人」の割合の減少幅が小さいことや、「1人」の割合が高いことから旅行回数の減少幅が小さくなっているものと考えられる。 (海外旅行の動向の二極化)  海外旅行の動向について、出国率を見てみると、他の年齢層と比較して20代後半及び30代前半の出国率は高い水準にあるが、1996年と2011年の出国率を比較すると、10代後半と30代後半以降の年齢層においては出国率が上昇しているのに対し、20代及び30代前半の出国率は減少しており、特に20代後半の減少幅が5.5%と最も大きくなっている(図表189)。 図表189 出国率の推移  男女別・年齢別に出国率の推移を見ると、男女で異なる傾向があることが分かる。男性については、15〜19歳の年齢層の出国率が最も低い水準で推移しており、20〜24歳、25〜29歳、30〜34歳、35〜39歳と年齢層が上がるにつれて出国率が高い水準で推移しているのに対し、女性では、15〜19歳の年齢層の出国率が最も低い水準で推移している点は男性と共通しているものの、20〜24歳の年齢層で出国率が上昇し、更に25〜29歳の年齢層は最も出国率が高い年齢層となっている。30〜34歳、35〜39歳の出国率は20代よりは低い水準となるものの、全年齢平均よりは高い水準であることから、女性については、20〜30代の時期に海外に渡航する者が多いと言える。  長期的な推移を見ると、男性については、1990年代初頭から1990年代半ばにかけて各年齢層で出国率が上昇したが、15〜19歳を除く年齢層ではその後出国率の低下が続いており、この数年は回復傾向にあるものの、1990年代半ばと比べ未だ低い水準にある。女性については、男性と同様に1990年代初頭から1990年代半ばにかけて各年齢層で出国率が上昇したが、20〜24歳及び25〜29歳でその後出国率が著しく減少しており、この数年は回復傾向にあるものの、1990年代半ばと比べ未だ低い水準にある。その他の年齢層については、2003年や2008年に一時的な減少は見られたものの、出国率はおおむね上昇傾向で推移している(図表190)。 図表190 男女別・年齢別出国率の推移  20代の海外観光旅行の動向を旅行回数別に見てみると、国内旅行と同様に、海外観光旅行に行かなかった者(0回と回答した者)の割合が増えている一方で、旅行をした者の中で旅行回数別の割合の推移を見ると、1回の者の割合が減少している一方、2回以上行く者の割合が増加していることから、旅行に行かない者と頻繁に行く者との間で旅行動向が二極化してきていることが分かる(図表191、192)。 図表191 20代の海外観光旅行の旅行回数別行動者率の推移 図表192 20代の海外観光旅行をした者の海外旅行回数の推移  このような旅行動向の二極化は、旅行需要が過去の旅行経験に基づいて生まれる側面があることから生じていると考えられる。海外旅行経験者と未経験者が挙げた項目の違いに着目すると、最も違いが大きかったのは、「海外旅行に行くことが、自分にとってどのような価値があるのかわからない」という項目であるが、このことは、実際に一度でも海外旅行を経験すれば、その経験から得られる価値が認識され、次の旅行への動機付けが行われる可能性があることを示唆している(図表193)。実際に、旅行の経験回数別に旅行意向を見ると、海外旅行の経験回数が多い者ほど海外旅行意欲が高くなっている(図表194)。 図表193 海外旅行の阻害要因 図表194 若者の海外旅行意向(海外旅行経験別)  若者の海外旅行を阻害している要因を見てみると、上位の項目には、「海外旅行の旅行代金が高すぎる」、「余暇・趣味にかけるお金がない」等、資金の不足を挙げる者が多く、また、「海外旅行よりも他のレジャー・趣味に優先的にお金をかけている」という理由を挙げる者も多いことから、余暇や趣味に充てられる資金が不足していることや、資金があったとしても、その使途としての旅行の相対的順位が落ちていることが分かる。また、海外旅行の阻害要因として「長期休暇がとりにくい」ことを理由に挙げる者も多いが、2005年と2010年の比較では男女ともに余暇時間は増えていることから、余暇時間は総計としては増えているものの、実際にはその時間は細分化されており、旅行に出かけられるほどまとまった時間となっていないのが実態と推察される。なお、余暇時間の過ごし方として、男女ともインターネットに費やされる時間が顕著に増加していることや、携帯電話にかかる通信費やその消費支出に占める割合が増加していることから、インターネットや携帯電話の普及により若者の時間やお金の使い方が変化し、旅行動向に影響を与えている側面があると考えられる(図表195、196)。 図表195 携帯電話にかかる通信費とその消費支出に占める割合 図表196 余暇時間の過ごし方と増減 (旅行に関する新たな動き)  以上で見たように、若者の行動は、国内旅行についても海外旅行についても以前の若者と比較し、あまり活発でなくなっている側面があるが、現在若者の旅行に関して以下のような新たな動きが見られており、今後の若者の旅行動向に影響を与える可能性がある。 1)海外旅行の利便性の向上  2012年5月ピーチ・アビエーション社により大阪(関西)・ソウル(仁川)間の直行便が就航するなど、我が国のLCC(格安航空会社)が海外への運航を開始し、その路線数や便数も徐々に増加している(図表197)。このように、低価格で、乗継ぎなしで渡航できる都市の選択肢が増えるなど海外旅行の利便性は年々向上していることから、金銭的な理由や時間的な制約によりこれまで海外旅行に出かけられなかった者の間に、今後新たな旅行需要が生まれる可能性がある。今後の海外旅行でのLCC利用意向について各年齢層に尋ねた調査においては、若者ほど利用意向が高いという結果も出ている(図表198)。 図表197 1990年以降に就航した日本発の直行便 図表198 今後の海外旅行でのLCC利用意向 2)インターネットの普及  先に見たように、若者の間ではインターネットに費やす時間が著しく増加しており、情報の主な入手先としてインターネットを頼る者も増えている(図表199)。 図表199 メディアの利用者割合の増減(2005年=100)  インターネットは、自らの所在地に関係なく、世界各国の情報をリアルタイムに入手することを可能にしたが、これにより若者の旅行行動には相反する二つの影響が出ていると考えられる。一つは、インターネットの普及により旅行に行かずとも情報が容易に手に入るようになったことから、それに満足し、旅行に行かなくなったというものである(図表200)。もう一つは、インターネットの普及により様々な地域に関する情報が手に入りやすくなったため、実際にそこに旅行してみたいと思うようになったというものである(図表201)。現在のところ、若者がインターネットに費やす時間やお金が増加する一方で海外旅行が減少していることから、前者の効果が大きく出ていると推察されるが、今後、インターネットから入手できる情報が個人や社会としてある程度蓄積された時に、インターネットからの情報だけでは満足できず、実際に現地を訪れてみたいと考える者が増える可能性もある。 図表200 若者の旅行減少はネット普及により情報の入手が容易となったから 図表201 携帯電話やインターネットの普及により、色々な地域に関する情報が手に入りやすくなったため、実際にそこに旅行してみたいと思うようになった 3)新しい旅行形態の登場  若者の旅行の減少の背景として、学校・職場の人や友人・知人等とともに出かける旅行が減少していることに触れたが、近年は、SNS注1の普及により、SNSを介して見た場所に惹かれて出かけたり、SNSで知り合った友人に会うために出かけたりするなど、SNSをきっかけとした外出・旅行需要が新たに生まれている(図表202)。 図表202 SNSがきっかけとなったお出かけ・旅行  また、興味を同じくする者たちで「ソーシャル旅行」(旅行プランをSNS上で提案し、賛同者が一定数以上集まると旅行会社がツアー化するもの)を企画する動きもある(図表203)。現在の認知度はそれほど高くないものの、若者の中でソーシャル旅行に何らかの関心を持つ者は4割に上っており、今後、新たな旅行需要につながる可能性がある。 図表203 ソーシャル旅行への興味 注1 Social Networking Serviceの略。インターネット上で友人を紹介しあって、個人間の交流を支援するサービス。