(1)若者の就労支援 1)建設産業における取組み  前章で見たように、我が国の建設業においては、若者の入職者数が減少するとともに高齢化が進展している。今後、豊富な経験を有する世代が引退する局面を迎えることからも、技術・技能の継承が世代間でスムーズに行われ、将来的にも足腰の強い建設産業を構築できるよう、次世代を担う若年入職者を確保するとともに、熟練工の持つ技能を若い世代に継承することが必要である。 (ア)若年者の入職支援  若者の入職促進については、建設産業団体等から構成される建設産業人材確保・育成推進協議会や関係省と連携し、ポータルサイトの積極的な活用等によって、技能労働者が、学生にものづくりの楽しさや喜びを伝える出前講座、工事現場での見学会、現場実習、インターンシップ、建設関係の資格取得の支援等を展開し、若者の入職動機の形成、入職促進を図っていくこととしている(図表204)。 図表204 高校生現場見学会の実施風景  また、建設産業は、住宅・社会資本の整備や維持管理、災害時における地域社会の安全・安心の確保等、社会において大きな役割を果たしている産業であるが、若者の建設産業への就業を促すためには、このような建設産業の魅力をPRし、正しく理解してもらうことが重要である。このため、行政機関や建設業団体等が一体となり、若者だけでなく子どもや一般市民も対象とし、それぞれの受け手に応じた戦略的広報を行うこととしている。 (イ)技術者や技能労働者の確保・育成  建設業への若年入職者が減少する中でも、特に、技術者や技能労働者となる人材の減少が進行しており、元請企業が一定金額以上の下請工事を出す場合に配置が義務づけられている監理技術者については、40歳未満が約1割程度しかない業種があるなど、高齢化の進展も著しく、優秀な技術者の確保・育成が図られる環境を整備することが急務となっている(図表205)。 図表205 業種別資格者証保有者年齢の変化  このため、国土交通省においては、技術者の実態把握に向けた技術者データベースの整備について検討を進めてきたところであるが、今後は、技術力のある技術者が適正に評価され、技術者を雇用し施工力のある建設企業となるインセンティブが高い仕組みとなるよう検討を続けることとしている。  また、若年入職者の減少の背景として、技能労働者の就労環境の悪化が進んだことが一因と考えられることから、若者が継続して就労できるよう、社会保険等未加入対策の更なる徹底を図るとともに、技能労働者が保有する資格や研修履歴等の技能に係る情報を蓄積することにより、技能に見合った処遇が受けられる就労環境づくりを進めるなど、就労環境の向上に向けた取組みを行うこととしている。 2)観光産業における取組み  観光産業は、一般には魅力ある職場と認識されており、就職時の希望先企業として学生から人気を得ているが、実際の労働環境は他産業に比して決して恵まれているとは言えない。いわゆる「3年の壁」といわれる定着率の低さ、長時間労働・処遇改善等の課題、さらには優秀なスキルを有するベテランの活用やその雇用確保も含め、改善のための取組みを進める必要がある。  このため、観光産業についての若者の興味を喚起し、理解を深めてもらうことにより、将来にわたって観光産業界が魅力ある職場として位置づけられるよう、インターンシップモデル事業や大学の教育プログラムの開発等、産学官が連携した人材育成に取り組んでいる(図表206)。今後は、適切な労務管理等による労働時間の削減等、労働環境の改善を図るとともに、若い世代が将来を見通したキャリアパスやライフプランを持つことができるよう、キャリアについて考える機会を提供していく必要がある。 図表206 インターンシップモデル事業 3)海事産業における取組み  我が国における輸出入貨物の99.7%、国内貨物輸送の39.5%を担っている海運は、国民生活・経済を支える上で大きな役割を果たしている。海運の安定輸送確保の観点からは、船員の確保・育成が極めて重要であるが、現在、我が国における船員を取り巻く状況をみると、外航日本人船員の減少や内航船員の高齢化が進行しており、内航海運、外航海運それぞれにおいて人材の確保が課題となっている(図表207)。 図表207 内航船員の年齢構成比  こうした課題に対応するため、海の魅力のPRや船員の職業としての魅力を向上させるための取組み等を通し、船員を目指す若者の裾野を拡大することが必要であり、海事関係者が一丸となり効果的な海事広報を推進するとともに、船員の労働条件や労働環境の向上に向けた取組みを推進している。また、即戦力を備えた新人船員の養成に向け、海運事業者の自社船による乗船実習の導入や航海訓練所における船員志望者への重点的な乗船実習の実施等、乗船実習の見直しを行っている。また、水産高校卒業者の就職機会の増大を促進するため、2013年4月より、水産高校卒業者について、六級及び三級の海技免許取得に必要な乗船履歴をそれぞれ短縮することにより、免許取得までの期間を縮小する措置を講じている。さらに、外航船員については、運航技術者としての役割だけでなく、我が国の外航商船隊の船員のうち多数を占める外国人船員を指揮監督する役割も担っていることから、英語力・コミュニケーション能力等の向上を目指したカリキュラムを充実させるなど、船員教育機関における教育内容等の見直しが図られている。 4)インフラ海外展開により求められる人材  近年のアジアをはじめとする諸国の経済発展、都市の成長は著しく、途上国を中心とした人口の増加、世界的な経済成長やそれに伴う所得水準の向上、中所得層の増加等によりインフラ整備に対する需要の伸びは今後とも世界的に大きくなることが見込まれており、特にアジアでは、2020年までに約8兆ドル超のインフラ需要が見込まれている(図表208)。 図表208 アジアにおけるインフラ需要(2010〜2020年)  少子高齢化の進展等により我が国の国内市場が縮小する中で、今後も我が国が成長を継続していくためには、我が国が培ってきた技術と経験を活かしたインフラを展開することにより、これらの国々の成長を取り込んでいくことが不可欠である。  インフラの海外展開を進めるに当たっては、関係する国土交通に関連する産業の事業者だけでなく、学会や国内外の大学、研究機関等を含めた幅広い産学官の連携の下、それを担う人材を確保・育成する必要がある。特に、プロジェクトの一番の「川上」である構想段階や「川下」である施工後の維持・管理運営段階において、必要な知識・知見を持ったグルーバル人材を確保・育成していくことが求められており、国際的な契約実務、労務管理やプロジェクトファイナンスに関する知見等、トータルの受注を可能とする体制を担うべき人材の確保・育成を進めることが必要となっている。2013年3月時点で、国際的な建設マネジメント能力を修得し、海外のリーダー層との人脈を有する人材を育成するため、フランス、英国、タイ、フィリピンの大学と我が国建設業との人材交流プログラムを構築している。