はじめに

はじめに

 インフラ整備の起源をたどれば、太古の時代より様々な足跡が考古学的見地から見つかっているが、インフラストラクチャーの語源に依拠すれば、その起源は古代ローマ時代に遡ることができる。古代ローマ人は、現代人から「インフラの父」とも呼ばれる民族であって、インフラストラクチャーという言葉は、古代ローマ人が使用したラテン語の「下部」を意味する「インフラ」と、「構造」を意味する「ストゥルクトゥーラ」から合成されたものであると言われている。
 古代ローマ人が築いたインフラには、神殿、円形闘技場、公共浴場等様々なものがあるが、ローマの政治家「アッピウス・クラウディウス」(紀元前340〜273年)によって立案・着工されたアッピア街道・アッピア水道は、偉大なインフラとして後世に名を残すこととなるローマ街道とローマ水道の手本となった
 アッピア街道の着工から数百年後の紀元6世紀に、イタリアを訪れた東ローマ帝国の重臣が、ローマ街道が長きにわたり機能し続けることに驚嘆したというエピソードがあるが、ローマ帝国において、各街道の修理修復が適切に行われていたことがその背景にある。
 
図表1 アッピア街道(イタリア・ローマ)
図表1 アッピア街道(イタリア・ローマ)

 一方、古代中国のインフラ整備に目を向けると、秦の時代(紀元前221〜206年)、蜀の郡守・李冰(りひょう)が、現在の中国四川省成都市の北西約60kmに位置する長江の支流岷江(みんこう)に、都江堰(とこうえん)と呼ばれる水利施設を築造している。都江堰の築造は、岷江の水害を防ぐだけでなく、成都平原への引水を可能とした。以来、成都平原は「天府の地」と呼ばれ、中国でも有数な農業地帯となった。都江堰は、2200年余りを経た現在も築造当時の機能を果たし続けているが、それは、歴代の河川管理者によって維持管理のための改修工事が行われ続けたことによるところが大きい。
 このように歴史を紐解けば、偉大なインフラは洋の東西を問わず不断の維持管理・更新によって、時代を越えてその役割を果たし続け、歴史に名を残してきたと言える。
 
図表2 都江堰の位置
図表2 都江堰の位置

 
図表3 都江堰(中国・四川省都江堰)
図表3 都江堰(中国・四川省都江堰)

 国土交通省では、高度成長期以降に整備された我が国の社会インフラが、今後急速に老朽化することが見込まれるなか、社会資本全般に関する本格的なメンテナンス時代に向け2013年を「メンテナンス元年」と位置付け本格的な対策を始動させたところである。本白書では、これからの社会インフラの維持管理・更新について、経済社会の状況やインフラの老朽化の現状等を踏まえて考察し、今後の国土交通行政の方向性を提示する

(参考文献)


注 更に古い時代の道としては、例えばアケメネス朝ペルシアの王ダレイオス1世(在位:紀元前522〜486年)によって建設された王の道がある。
注 一般に、「インフラ」という場合、道路や下水道等の物理的なものが想定される。例えば広辞苑(第6版)では、インフラは「産業や社会生活の基盤となる施設。道路・鉄道・港湾・ダムなど産業基盤の社会資本、および学校・病院・公園・社会福祉施設等の生活関連の社会資本など。」とされている。一方、「社会インフラ」という場合には、各種公共サービスや制度一般を含めて論じられることもある。例えば、内閣府(2013)「平成25年度年次経済財政報告」では、「社会インフラ」について「道路、港湾、空港、上下水道や電気・ガス、医療、消防・警察、行政サービスなど多岐に渡る」としている。このように「社会インフラ」という場合、その概念は非常に幅の広いものを含む場合があるが、本白書では、物理的な施設である社会資本、いわゆる「インフラ」を中心に、交通関連インフラに関連して提供される公共交通サービスを含めて「社会インフラ」として捉え、その維持管理・更新について考察する。このため、本白書において、一般には「社会インフラ」という用語を用いることとするが、物理的な施設のみを対象として論じる場合には「インフラ」もしくは「社会資本」という用語を用いることがある。


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