◯4 脆弱な国土と高まる災害リスク  以上のような人口動態や経済・財政の状況に加え、我が国における社会インフラのあり方を考えるうえでは、国土の特性にも留意する必要がある。 (1)国土条件と気候  我が国の国土は南北2,000kmに細長い形状で、その中央部を急峻な山脈が縦断している。国土の大部分を山地が占め、居住可能な平野部は小さく分散しており、国土面積に占める可住地面積割合は27%とヨーロッパの60〜80%に比べるとはるかに少ない(図表1-2-15)。 図表1-2-15 日本とヨーロッパの可住地面積の比較  気候面では、年間平均降水量が世界の約2倍となっており、特に梅雨や台風の時期に降雨が集中する(図表1-2-16)。河川は急勾配で距離が短く、大雨が降れば山から海へと一気に流下するため、洪水や土砂災害が起こりやすい(図表1-2-17)。これに加え、多くの都市が河川の水位より低い河口の平野部に位置しており、洪水が発生すれば大きな被害となる危険性が高い。 図表1-2-16 世界各国の年間平均降水量 図表1-2-17 我が国と諸外国の河川勾配の比較  また、国土面積の約51%が豪雪地帯となっており、総人口の約15%が居住している(図表1-2-18)。そこに暮らす人々の生活と経済活動を維持するためには、継続的に雪崩や吹雪対策、除雪や融雪対策等を行う必要がある。また、豪雪地帯のみならず、2014年2月には、関東甲信地方を中心に大雪に見舞われ、過去100年で最大の積雪深を記録した地点もあった。この影響で、死傷者が出たほか、交通機関が麻痺し甲府市等で孤立する集落が多数出るといった甚大な被害が発生したことは記憶に新しい。 図表1-2-18 豪雪地帯の地域指定図、人口と面積  我が国周辺は、地球の表面を覆うプレートが4つ重なり合う境界に位置しており、世界のマグニチュード6以上の地震の約2割が発生している地震多発地域であることに加え、四方を海に囲まれ、海岸線は長く複雑であるため、津波による大きな被害も発生しやすい。特に、過去幾多にわたり広範囲で甚大な被害をもたらしてきた南海トラフでは、100年から150年程度の周期でマグニチュード8クラスの海溝型地震が発生しており、過去の発生周期からみて、この地域での地震発生の切迫性が高まっていることが指摘されている(図表1-2-19)。また、首都圏においては、1923年(大正12年)に発生した関東大震災のようなマグニチュード8クラスの海溝型地震が200〜400年周期で発生するものと考えられており、次の海溝型巨大地震は今後100〜300年程度先と考えられているが、それに先立って、マグニチュード7クラスの「首都直下地震」が数回発生することが予想されている(図表1-2-20)。 図表1-2-19 南海トラフ巨大地震で想定される最大クラスの震度分布 図表1-2-20 首都直下地震で想定される震度分布(都心南部直下地震) (2)気候変動と都市の近代化がもたらした脆弱性  2013年9月に公表されたIPCC(国連「気候変動に関する政府間パネル」)の第5次評価報告書第1作業部会報告書(自然科学根拠)によれば、前回報告と同様「気候システムの温暖化については疑う余地がない」とされ、さらに、「世界平均地上気温が上昇するにつれて、中緯度の陸域のほとんどと湿潤な熱帯域において、今世紀末までに極端な降水がより強く、より頻繁となる可能性が非常に高い」という見解が示されている。既に我が国でも、年平均気温は上昇を続けており、統計期間が短いことから地球温暖化との関連は明確ではないが、気象庁のアメダス観測による1時間降水量50mm以上の発生回数は増加傾向にある。この発生回数については地球温暖化の進行に伴い21世紀末には更に増加するとの予測があり(気象庁「地球温暖化予測情報第8巻」)、水害や土砂災害の発生の危険性が高まっている(図表1-2-21、図表1-2-22)。 図表1-2-21 日本の年平均気温偏差 図表1-2-22 1時間降水量50mm以上の年間発生件数(1,000地点当たり)  また、大規模地震発生の切迫性の高まりや集中豪雨発生件数の増加といった状況にあるなかで、都市部においては、人口、資産、交通等が集中した結果、自然災害が発生した場合に、都市特有の被害の様相を呈したり、被害規模が拡大するなど、自然災害に対する脆弱性が高まっている。電力や公共交通等に依存する大都市においては、地震等によりその機能が停止すると、大量の帰宅困難者が発生し、混雑による混乱が起きる可能性が指摘されている。また、都市部の高層マンションは増加を続けており、長周期地震動による大きな揺れや、高層階でエレベーターが停止し避難時や復旧までの生活において支障が出る危険性が高まっている。  さらに、我が国の大都市では諸外国に比べて地下街や地下鉄等の地下空間の利用が発達しており、大雨による水害被害の危険性をはらんでいる。大規模水害が首都圏を襲った場合には、荒川の堤防決壊により、地下鉄で17路線、97駅、約147kmが浸水する可能性があるなど、地下空間での大きな被害の発生が予測されている(図表1-2-23)。 図表1-2-23 荒川が氾濫した際の浸水想定  このような国土の特徴や厳しい自然条件を持つ我が国では、あらゆる社会インフラの整備において、高度な耐震性確保や軟弱地盤対策等の高い水準の防災機能が求められるほか、道路、鉄道等のネットワーク整備においても山地や河川が多く急峻な地形に対応するため、諸外国に比べて橋梁やトンネル等の構造物の比率が高くなっており、それに伴って社会インフラの維持管理・更新に要するコストは高くなると考えられる(図表1-2-24、1-2-25)。 図表1-2-24 日本とフランスの橋脚の比較 図表1-2-25 各国の構造物比率の比較  人口減少や厳しい財政制約等により、社会インフラを取り巻く状況はますます厳しいものとなってきているが、以上のような国土の脆弱性にどのように対応していくかも、今後の社会インフラの維持管理・更新を考えるうえでは重要である。