コラム ハリケーン・サンディと米国の防災対応  2012年10月29日、ハリケーン・サンディが米国東海岸に上陸し、ニューヨークは1938年以来74年ぶりに大規模な高潮被害を受けました。この高潮災害は都市機能が高度に集積した先進国の大都市に壊滅的な被害をもたらした初めての大規模な災害であり、ニューヨーク州及びニュージャージー州の被害額は合わせて8兆円規模にのぼり、米国災害史上2番目に大きな経済損失となりました。  上陸時はカテゴリ1のハリケーンに相当する1分間平均風速約36m/s、勢力範囲が約1400kmという巨大なストームであったことに加え、大潮の時期と重なったため、マンハッタンをはじめとしたニューヨーク市、ニュージャージーの都市部で深刻な高潮による浸水被害が発生しました。高潮による浸水は地下鉄、道路、鉄道のトンネルや地下鉄駅にまで及び、公共交通機関は運行を停止しました。また、マンハッタン南東部の東十三番街に位置する変電所が高潮に襲われ、浸水さらに爆発に至り、マンハッタン南部一帯の停電が続きました。これに加え、ニューヨーク証券取引所は2日間にわたり閉鎖して取引を停止し、金融活動を含む社会経済活動の中枢に大きな影響を及ぼしました。 図表1-2-26 浸水した86ストリート駅  ハリケーン・サンディによるニューヨーク州の被害と2005年のハリケーン・カトリーナによるルイジアナ州の被害を比べると、中枢都市であるニューヨーク市が被害を受けたサンディは、地方都市であるニューオーリンズ市の被害が大きかったカトリーナよりも停電被害は2.7倍、ビジネスへのインパクトは14倍以上と言われており、各種の社会インフラが集積する大都市は自然災害を被った際の影響が大きく、大都市を直撃する自然災害の被害が大規模であることがわかります。  ハリケーン・サンディは甚大な被害をもたらした一方で、米国のハリケーン対策プログラムに基づく対応が大きな減災効果を上げたと言われています。米国の災害対策は、防災に関わる組織が事前調整を図って役割分担し、発災前から実施すべき対策を予め時系列でプログラム化した「タイムライン」と呼ばれる計画に基づき行動することが決められています。また、タイムラインにおける発災時(ゼロアワー)までには防災担当者や消防団自らも安全に避難が完了していることとされています。  このタイムラインに従い、ニューヨーク地下鉄はハリケーン・サンディ上陸1日前に、乗客に事前通知予告したうえで地下鉄の運行を停止し、浸水による被害は生じたものの、最短2日で一部区間の運行を再開させました。また、ニュージャージー州では上陸の36時間前に州知事から住民に対し避難を呼びかけました。 図表1-2-27 タイムライン(ニュージャージー州) 図表1-2-28 ハリケーン・サンディでの地下鉄会社の浸水防止の取組み  ハリケーンは、発生してから被害が生じるまでの猶予時間があり、このような「先を見越した対応」が減災に有効であったといえます。  我が国の大都市圏は、1959年の伊勢湾台風以降60年近く高潮災害を受けていません。しかし、3大都市圏には多くの住民が居住し、海面以下にある「ゼロメートル地帯」と大規模な地下空間が存在しており、同様の大規模な災害が起きれば多くの命が危険にさらされ、国全体の経済活動に多大な影響が生じる危険性は共通しています。この災害により得られた教訓を今後の我が国の取組みや対策に活かしていかなければなりません。 (参考文献)  国土交通省・防災関連学会合同調査団(2013)「米国ハリケーン・サンディに関する現地調査報告書」