第3節 利便性の高い交通の実現

第3節 利便性の高い交通の実現

(1)都市・地域における総合交通戦略の推進
 安全で円滑な交通が確保された集約型のまちづくりを実現するためには、自転車、鉄道、バス等の輸送モード別、事業者別ではなく、利用者の立場でモードを横断的にとらえる必要がある。このため、地方公共団体が公共交通事業者等の関係者からなる協議会を設立し、協議会において目指すべき都市・地域の将来像と提供すべき交通サービス等を明確にした上で、必要となる交通施策やまちづくり施策、実施プログラム等を内容とする「都市・地域総合交通戦略」を策定(平成27年3月現在81都市で策定・策定中)し、関係者がそれぞれの責任の下、施策・事業を実行する仕組みを構築することが必要である。国は、同戦略に基づき実施されるLRT等の整備等、交通事業とまちづくりが連携した総合的かつ戦略的な交通施策の推進を支援することとしている。

(2)道路を賢く使う取組みの推進
 我が国の道路は、他国と比較して高速道路の車線数が少ないなど、ネットワークが貧弱であり、加えて、そのネットワークを十分に使い切れていない状況にある。具体的には、交通需要の時間的・空間的な偏在により、特定の時間帯や時期に、特定の箇所や路線で渋滞が発生するなどの走行性や安全性、使いやすさ、地域との連携について課題がある。例えば、現状では、自動車が渋滞に巻き込まれている時間が、全走行時間の約4割を占めており、約2割である欧米と比較しても、大きな社会的な損失が生じている。
 
図表II-5-3-1 年間の走行時間と渋滞による損失時間
図表II-5-3-1年間の走行時間と渋滞による損失時間

 円滑、安全、快適で、地域の活力向上にも資する道路交通サービスを実現するため、必要なネットワークの整備と合わせ、運用改善や小規模な改良等、今ある道路の更なる機能の向上に向けた取組みを進めている。
 円滑な走行を実現するため、科学的な分析に基づくボトルネック対策や交通需要マネジメントを実施している。
 安全な道路交通の確保にむけて、幹線道路では急ブレーキデータ等のビッグデータを活用し、きめ細かく効率的な事故対策を実施し、生活道路では、安全性の高い高速道路等へ交通転換させ、通過交通を排除するとともに走行速度抑制を推進している。
 道路の使いやすさを向上するため、案内の充実や休憩等のサービスの向上を目指すとともに、空港・港湾等の交通拠点へのアクセス性の向上や駅前広場等の交通結節点の整備により、人流・物流の活性化を図っている。
 地域との連携促進のため、高速道路と施設との直結等によるアクセス機能の強化を進めている。スマートIC等を柔軟に追加設置することにより、高速道路から物流拠点や観光拠点等へのアクセス向上や、「コンパクト+ネットワーク」の考え方による機能の集約化・高度化、既存のIC周辺の渋滞緩和を図る。特に、高速道路の近傍に位置する大規模な物流拠点や工業団地、商業施設等については、高速道路の利用促進や利便性の向上による地域活性化の観点から、適切な負担の下、スマートIC等を活用した高速道路と施設の直結を進めていく。
 
図表II-5-3-2 スマートIC整備効果の例
図表II-5-3-2 スマートIC整備効果の例

 首都圏の料金体系については、国土幹線道路部会の「基本方針」における、平成28年度より水準の整理・統一及び起終点を基本とした料金を導入すべきとの方針を踏まえ、具体の検討を進める(近畿圏は、29年度からの導入に向け、地域固有の課題等の整理を進める)。
 
図表II-5-3-3 首都圏内の料金水準の整理統一
図表II-5-3-3 首都圏内の料金水準の整理統一
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図表II-5-3-4 起終点を基本とした継ぎ目のない料金の実現(イメージ)
図表II-5-3-4 起終点を基本とした継ぎ目のない料金の実現(イメージ)

(3)公共交通の利用環境改善に向けた取組み
 地域の公共交通について、バリアフリー化されたまちづくりの一環として、より制約の少ないシステムの導入等、地域公共交通の利用環境改善を促進するために、地域公共交通確保維持改善事業により、LRT、BRT、ICカードの導入等を支援している。平成26年度においては、富山地方鉄道等で低床式車両の導入が行われている。

(4)都市鉄道ネットワークの充実
 都市鉄道ネットワークは、輸送力増強による混雑緩和を主眼とした整備が進められてきた結果、相当程度拡充されてきた。その結果、大都市圏における鉄道の通勤・通学時の混雑は少子高齢化の進展等と相まって低下傾向にあるが、一部の路線では混雑率が180%を超えるなど依然として高く、引き続き混雑緩和に取り組む必要がある。このため、特定都市鉄道整備積立金制度を活用した小田急小田原線複々線化工事や東急東横線改良工事を進めている。
 また、既存の都市鉄道ネットワークを有効活用しつつ、速達性の向上や交通結節機能の高度化を図ることを目的とする「都市鉄道等利便増進法」を活用し、神奈川東部方面線(相鉄〜JR・東急直通線)等の整備を進め、利用者利便を増進するなど、都市鉄道ネットワークの一層の充実を図っている。
 都市の国際競争力強化の必要性の高まり、少子高齢化の進展や人口減少時代の到来、訪日外国人観光客の増加など、都市鉄道を取り巻く環境が大きく変化している。このような状況の中、より質の高い東京圏の都市鉄道ネットワークを構築していく観点から、空港アクセスの改善、列車遅延への対応、まちづくりとの連携等を進めることが急務となっている。このため、平成26年4月に、東京圏における今後の都市鉄道のあり方について、交通政策審議会に諮問した。
 
図表II-5-3-5 三大都市圏における主要区間の平均混雑率・輸送力・輸送人員の推移
図表II-5-3-5 三大都市圏における主要区間の平均混雑率・輸送力・輸送人員の推移
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(5)都市モノレール・新交通システム・LRTの整備
 少子高齢化に対応した交通弱者のモビリティの確保を図るとともに、都市内交通の円滑化、環境負荷の軽減、中心市街地の活性化の観点から公共交通機関への利用転換を促進するため、LRT等の整備を推進している。平成26年度は、札幌市において路面電車の既設線を接続するループ化整備や、富山市において富山駅の南北を路面電車で接続する整備、福井市において路面電車と鉄道の相互乗り入れ整備が進められるなど、各都市で公共交通ネットワークの再構築等が進められている。
 
図表II-5-3-6 ループ化整備イメージパース(札幌市)
図表II-5-3-6 ループ化整備イメージパース(札幌市)

(6)バスの利便性の向上
 バスについては、公共車両優先システム(PTPS)やバスレーン等を活用した定時性・速達性の向上、バスの位置情報を提供するバスロケーションシステム、円滑な乗降を可能とするICカードシステムの導入等を行い、利便性の向上を図っている。


注 Light Rail Transitの略で、低床式車両(LRV)の活用や軌道・電停の改良による乗降の容易性、定時性、速達性、快適性などの面で優れた特徴を有する次世代の軌道系交通システム


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