第3節 産業の活性化

■9 持続可能な建設産業の構築

(1)建設産業を取り巻く現状と課題
 建設産業は、地域のインフラの整備や維持管理等の担い手であると同時に、地域経済・雇用を支え、災害時には最前線で地域社会の安全・安心の確保を担う地域の守り手として、国民生活や社会経済を支える大きな役割を担う。
 一方、近年の建設投資の急激な減少や競争の激化によるダンピング受注や下請企業へのしわ寄せなどにより、現場の技能労働者の減少、若手入職者の減少、高齢化の進行などの問題が発生している。
 今後は、こうした課題に対応し、建設産業が防災・減災、老朽化対策、インフラメンテナンス、耐震化等の業務に十分対応できるよう、中長期的に持続可能な建設産業の構築が重要となる。
 建設投資、許可業者数及び就業者数の推移は図表II-6-3-15のとおりである。
 
図表II-6-3-15 建設投資、許可業者数及び就業者数の推移
図表II-6-3-15 建設投資、許可業者数及び就業者数の推移
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(2)建設産業の担い手確保・育成
 建設産業は、技術者・技能者等多くの「人」で成り立つ産業である。建設業就業者数は近年、回復の兆しも見られるが、今後の少子化や高齢化の進展を見据え、建設産業が地域の守り手として持続的に役割を果たしていくためには、引き続き、若者をはじめとする担い手の確保・育成を図っていくことが重要である。
 このため、まずは、適切な賃金水準の確保や社会保険等への加入促進等の技能者の処遇改善を徹底し、魅力的な就労環境の整備を推進することに加え、公共事業予算の持続的・安定的な確保をはじめとした、建設業者が将来を見通すことができる環境整備も図っている。また、優秀な若手技術者の早期活躍を推進するため、技術検定試験の受験資格の見直し等を行うほか、建設業における円滑な技能承継を図るため、富士教育訓練センターの機能の充実など、教育訓練の充実強化を図るとともに、建設業における女性の更なる活躍を推進するため、官民挙げた行動計画を策定し、5年で女性技術者・技能者の倍増を目指すこととしている。
 加えて、将来の労働力人口の減少を踏まえ、現場の省力化や重層下請構造の改善等による生産性の向上も図っていく。
 こうした取組みを通じ、建設業への入職を促進し、技術・技能を身につけながら、誇りを持って仕事に打ち込めるような環境整備に向けて、官民一体となって取組みを推進していく。
 このほか、国内人材の確保を基本としつつ、今後の復興事業やオリンピック・パラリンピック東京大会による当面の一時的な建設需要の増大への緊急かつ時限的措置(2020年度で終了)として、即戦力となり得る外国人材の活用を図る。

(3)公正な競争基盤の確立
 地域のインフラの整備や維持管理等、地域社会の安全・安心を確保するための担い手である建設産業においては、「その技術力・施工力・経営力に優れた企業」が成長していけるよう、建設業者における法令遵守の徹底をはじめとする公正な競争基盤の確立が重要である。このため、従前より下請取引等実態調査や立入検査等の実施、建設工事の請負契約を巡るトラブル・苦情等の相談窓口「建設業取引適正化センター」の設置、「建設業取引適正化推進月間」(11月)における都道府県との連携等を通じて、建設業における元請・下請間の取引の適正化に取り組んでいる。

(4)建設企業の支援施策
1)地域建設業経営強化融資制度
 地域建設業経営強化融資制度は、元請建設企業が公共工事請負代金債権を担保に事業協同組合等又は一定の民間事業者から工事の出来高に応じて融資を受けることが可能となるものであり、これにより元請建設企業の資金繰りの円滑化と金利負担等の軽減を図っている。
 
図表II-6-3-16 地域建設業経営強化融資制度
図表II-6-3-16 地域建設業経営強化融資制度

 なお、本制度は平成20年11月から実施されており、27年度においても引き続き実施することとした。

2)下請債権保全支援事業
 下請債権保全支援事業は、ファクタリング会社が、下請建設企業等が元請建設企業に対して有する工事請負代金等債権の支払を保証する場合に、保証時における下請建設企業等の保証料負担を軽減するとともに、保証債務履行時のファクタリング会社の損失を補償することにより、積極的な債権の支払保証を促進する事業である。
 
図表II-6-3-17 下請債権保全支援事業
図表II-6-3-17 下請債権保全支援事業

 なお、本事業は平成22年3月から実施されており、27年度においても引き続き実施することとした。

3)建設業災害対応金融支援事業
 建設業災害対応金融支援事業は、災害対応等のため災害時において使用される代表的な建設機械の中小・中堅建設企業による購入及び東日本大震災により被災した中小・中堅建設企業による建設機械の購入に係る借入金の金利負担の一部を支援する事業である。
 なお、本事業は平成25年3月から26年度にかけて実施した。

4)建設企業のための経営戦略アドバイザリー事業
 建設企業のための経営戦略アドバイザリー事業は、社会資本の整備・維持管理や地域の防災・減災など、地域社会を支える中小・中堅建設企業及び建設関連企業(測量業、建設コンサルタント及び地質調査業)の体質を強化すべく、新事業展開等の経営上の課題又は施工管理等の技術的な課題の解決を支援するための専門家によるアドバイスを実施する事業である。また、インフラメンテナンス分野への進出をはじめとする新たな事業展開や企業再編等の取組みでモデル性の高い案件については、重点支援として専門家の支援チームによる経営改善計画の策定等の目標達成までの継続支援(チームアドバイス支援)や建設企業のもつノウハウを活かした地域の課題解決に資する事業に要する経費の一部支援(ステップアップ支援)を実施しており、平成26年度はチームアドバイス支援29件、ステップアップ支援19件を選定して支援を実施した。
 なお、本事業は23年度から26年度にかけて実施した。

(5)建設関連業の振興
 建設関連業(測量業、建設コンサルタント、地質調査業)全体の登録業者情報を毎翌月末に、その情報を基にした業種ごとの経営状況の分析を翌年度末に公表しており、また関連団体と協力し就学前の学生を対象に建設関連業の説明会を開催するなど、建設関連業の健全な発展と登録制度の有効な活用に努めている。

(6)建設機械の現状と建設生産技術の発展
 情報化施工の普及促進のため、平成26年度は、第二期「情報化施工推進戦略」(25年3月策定)に基づき、測量結果の自動データ化など出来形管理の効率化に資するトータルステーションや機械の自動制御等により高精度かつ効率的な施工を実現するマシンコントロール/マシンガイダンス技術の積極的な活用を図っている。

(7)建設工事における紛争処理
 建設工事の請負契約に関する紛争を迅速に処理するため、建設工事紛争審査会において紛争処理手続を行っている。平成25年度の申請実績は、中央建設工事紛争審査会では53件(仲裁6件、調停43件、あっせん4件)、都道府県建設工事紛争審査会では92件(仲裁15件、調停64件、あっせん13件)となっている。


注 他人が有する売掛債権の保証や債権の買取りを行い、その債権の回収を行う金融事業会社のこと。現在、銀行子会社系・前払保証会社系・リース会社系など10社のファクタリング会社が、当事業を運営している。


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