■8 不動産業の動向と施策 (1)不動産業の動向  不動産業は、全産業の売上高の2.7%、法人数の11.2%(平成25年度)を占める重要な産業の一つである。  これまで全国的に下落傾向が続いていた地価は、平成27年地価公示(27年1月1日時点)の結果によると、全国平均では、住宅地は下落したものの下落率は縮小し、商業地は下落から横ばい(0.0%)に転換した。昨年上昇に転換した三大都市圏平均では、住宅地、商業地とも上昇を継続した。一方、地方圏では依然として下落傾向が続いているものの、下落率は縮小した。新規住宅着工戸数は、24年度は89万戸を超え、25年度には98万戸を超えたものの、26年度は消費税率引上げに伴う駆け込み需要の反動減もあって88万戸となった。  既存住宅の流通市場については、指定流通機構(レインズ) 注1 の26年度の成約件数が15.8万件(前年度比3.1%減)となった。 (2)不動産市場の現状  宅地建物取引に係る消費者利益の保護と流通の円滑化を図るため、「宅地建物取引業法」の的確な運用に努めている。宅地建物取引業者については、122,127業者(平成26年3月末)であり、近年、微減傾向が続いている。  国土交通省及び都道府県は、関係機関と連携しながら苦情・紛争の未然防止に努めるとともに、同法に違反した業者には、厳正な監督処分を行っており、25年度の監督処分件数は314件(免許取消184件、業務停止65件、指示65件)となっている。  マンションの販売の際の悪質な勧誘については、宅地建物取引に係る勧誘をする際の禁止行為などについて、引き続き、国土交通省ウェブサイト等で消費者に注意喚起を図るとともに、関係機関とも連携して必要な指導監督に努めている。  また、マンションストックの増大に伴い、その適正な管理を図るため、「マンションの管理の適正化の推進に関する法律」に基づき、マンション管理業者の登録制度や業務規制を実施している。マンション管理業者の登録は、平成25年度末において2,230業者であり、ここ数年大きな増減はない。  マンション管理業者に対しては法令遵守を促進し、不正行為の未然防止を図る観点から、立入検査を実施している。  さらに、賃貸住宅管理業務に関して一定のルールを設ける、「賃貸住宅管理業者登録制度」を23年12月から施行し、優良な賃貸住宅管理業の育成と発展に努めている。登録業者数は、26年3月末現在で3,267業者となっている。 (3)市場の活性化のための環境整備 1)不動産市場の現状  我が国における不動産の資産額は、平成25年末現在で約2,400兆円となっている 注2 。  26年度にJリート(不動産投資法人)、不動産特定共同事業者、特定目的会社等により証券化の対象として取得された、不動産又はその信託受益権の資産額は、約5.5兆円となっている。  不動産投資市場の中心的存在であるJリートについては、26年度の1年間で新たに7件の新規上場が行われた。27年3月末現在、51銘柄が東京証券取引所に上場されており、対象不動産の総額約13兆円、不動産投資証券の時価総額約10.7兆円となっている。  Jリート市場全体の値動きを示す東証リート指数は、26年1〜3月は、概ね1,450ポイントから1,500ポイントの範囲で安定的に推移した。その後不動産市況の回復期待に加え、長期金利の一段の低下や円安・株高の流れを受けて堅調に推移し、9ヶ月連続で上昇した。とりわけ、日銀が10月末に追加緩和を決定すると、これらの傾向が一気に強まり、東証リート指数は年末には一時7年ぶりに1,900ポイント台に到達した。  また、Jリートにおける1年間の資産取得額を見ると、26年は約1.6兆円となった。 2)不動産に係る情報の環境整備  国土交通省では、不動産市場の透明化、取引の円滑化・活性化等を図るため、全国の不動産の取引価格等の調査を行っている。調査によって得られた情報は、個別の物件が特定できないよう配慮した上で、取引された不動産の所在、面積、価格等をインターネット(土地総合情報システム 注3 )を通じて公表している(平成27年3月現在の提供件数は、2,321,324件、Webアクセス総数は、約5億4千万件)。  また、サブプライム危機等の教訓から、不動産バブルに対するEarly Warning Signal(早期警戒指標)を構築するため、国際機関が協力して住宅価格指数の作成に関する国際指針を23年に作成した。国土交通省では、この指針に基づく不動産価格指数(住宅)を作成し、24年8月より試験運用を開始、27年3月に本格運用に移行した。また、不動産価格指数(商業用不動産)についても、運用に向け整備を進めている。 3)中古住宅流通に係る市場環境の整備  欧米に比して住宅流通量全体に占めるシェアが低い中古住宅の流通促進を図るため、中古住宅の取引環境の整備に取り組んでいる。平成26年度は過去の取引履歴や周辺の取引事例、災害リスク・法令制限に関する情報等の不動産取引に必要な情報を効率的に集約し、宅地建物取引業者が消費者に対し必要な情報を適時適切に提供するシステムの整備に向けた検討、宅地建物取引業者がリフォーム等の不動産取引に関連する分野の専門事業者と連携して消費者に充実した情報提供を行う先進的取組の促進、25年度に策定した「中古戸建て住宅に係る建物評価の改善に向けた指針」の考え方を宅建業者に普及・定着させるために必要な検討、不動産鑑定評価における既存住宅の現況を適切に反映する評価方法の検討を行った。 4)税制の活用  平成27年度税制改正においては、長期保有土地等に係る事業用資産の買換特例について、要件を一部見直した上で適用期限を延長したほか、土地に係る固定資産税の負担調整措置等及び土地等に係る流通税の特例措置の適用期限の延長、Jリート・特例事業者等が取得する不動産に係る特例措置の適用期限の延長及び拡充(対象となる不動産に物流施設を追加)、投資法人(Jリート)における「税会不一致問題」の解消等を実施した。 図表II-6-3-14 土地総合情報システム (4)新しい時代に対応した不動産市場の構築  不動産市場の国際化やストック型社会の進展、不動産証券化市場の発展など不動産鑑定評価に対するニーズの多様化を踏まえ、不動産鑑定評価基準等を改正(平成26年11月1日施行)し、その周知に努めている。  また、鑑定評価の信頼性を向上させるため、不動産鑑定業者に対する立入検査や証券化対象不動産の鑑定評価等に関する業務の実態調査等を内容とする鑑定評価モニタリングを実施している。  Jリートの取得資産は、これまでオフィスや住宅が中心であったが、近年、商業施設や物流施設等多様化してきており、今後に向けて、高齢者向け住宅等のヘルスケア施設を対象とするニーズが高まっている。「日本再興戦略」(25年6月14日閣議決定)、「産業競争力の強化に関する実行計画」(26年1月24日閣議決定)等を受け、26年6月に「高齢者向け住宅等を対象とするヘルスケアリートの活用に係るガイドライン」を公表し、Jリートがヘルスケア施設を取得する際の環境整備を行った。  また、建築物の耐震化等、都市機能の更新に民間資金の導入を促進するため、「改正不動産特定共同事業法」(25年12月20日施行)の仕組みを活用した不動産再生事業が行われるよう、全国13カ所において研修会・協議会を開催し、モデル事業を実施するとともに、耐震・環境不動産形成促進事業においても、26年度には4件の建物の環境改修案件及び新規開発案件に出資を決定した。  さらに、地方公共団体の所有する公的不動産(Public Real Estate:PRE)の活用を促進し、不動産投資市場の更なる拡大を目指すため、「不動産証券化手法等による公的不動産(PRE)の活用のあり方に関する検討会」を開催した。今後、まち・ひと・しごと創生総合戦略(平成26年12月27日閣議決定)を受け、公的不動産に係る証券化手法等の活用についての地方公共団体向けの手引書の作成・普及や関連モデル事業を実施することとしている。 注1 宅地建物取引業者が指定流通機構に物件情報を登録し、業者間で情報交換を行う仕組み。成約した物件の取引価格情報等は指定流通機構に蓄積される。 注2 国民経済計算をもとに建物、構築物及び土地の資産額を合計 注3 http://www.land.mlit.go.jp/webland/