第1節 交通ネットワークの整備

■3 航空ネットワークの整備

 航空については、交通政策審議会航空分科会基本政策部会において、平成24年10月より、今後の航空のあり方に関する審議が重ねられ、26年6月に取りまとめが行われた。本とりまとめにおいて、1)航空ネットワークの構築のための強固な基盤づくり、2)充実した航空ネットワークの構築と需要の開拓、3)質の高い航空・空港サービスの提供の三本柱について、中長期的に目指すべき方向が示されている。
 
図表II-6-1-7 東京国際空港の概要
図表II-6-1-7 東京国際空港の概要

(1)航空ネットワークの拡充
1)首都圏空港の機能強化
 我が国のビジネス・観光両面における国際競争力を強化するため、首都圏空港の機能強化を図り、平成27年3月に羽田・成田両空港の年間合計発着枠75万回化を達成した。
 東京国際空港(羽田空港)については、国際線旅客ターミナルビルの拡張等により、26年3月より国際線の発着枠を3万回増枠し、年間発着枠45万回化を実現した。引き続き、国内線・国際線地区を結ぶトンネルや駐機場の整備等を進め、空港機能の拡充を目指す。
 
図表II-6-1-8 東京国際空港の旅客数・発着回数の推移
図表II-6-1-8 東京国際空港の旅客数・発着回数の推移
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 一方、成田国際空港については、LCCターミナルの整備等により、27年3月に年間発着枠30万回化を実現した。今後とも、LCCを含む国際・国内の航空ネットワークの充実を図り、アジアのハブ空港としての地位を確立していく。
 また、75万回化達成以降においても、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会の円滑な開催、さらにはその先を見据え、首都圏の国際競争力の強化、増加する訪日外国人旅行者の受け入れ、地方創生の観点から、首都圏空港の機能強化に向けて、32年までに羽田・成田両空港の空港処理能力を拡大することに取り組んでいる。
 具体的には、羽田空港における飛行経路の見直し等による機能強化方策の具体化に向けて、同年8月に関係自治体や航空会社等の関係者が参画した協議会を設置し、協議を進めているところである。
 特に、羽田空港については、住民の幅広い理解を得るため、説明会の開催等を行った。今後は、頂いたご意見等も踏まえて、28年夏までに環境影響等に配慮した方策を策定する予定である。
 また、32年以降については、成田空港における抜本的な容量拡大などの機能強化方策の具体化に向けて、関係自治体と検討を行っている。
 
図表II-6-1-9 成田国際空港の概要
図表II-6-1-9 成田国際空港の概要

 
図表II-6-1-10 成田国際空港の旅客数・発着回数の推移
図表II-6-1-10 成田国際空港の旅客数・発着回数の推移
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2)オープンスカイの戦略的な推進
 アジア等海外の旺盛な経済成長を取り込みつつ、世界的な航空自由化に伴う競争環境の変化に対応するため、首都圏空港を含むオープンスカイ注1を戦略的に推進し、平成28年3月までに合計で27箇国・地域注2との間でオープンスカイを実現することとなった。また、日・ASEAN航空協定締結に向け、ASEANとの議論を継続している。
 この他、平成28年2月、米国との間で、羽田空港国際線二次増枠注3分の発着枠について、平成28年10月末からの運航開始を目指し、日米の航空会社が昼間時間帯に双方1日5便ずつ、深夜早朝時間帯に1日1便ずつの運航が可能となる枠組みに合意した。

3)関西国際空港及び大阪国際空港に係るコンセッションの実現
 関西国際空港と大阪国際空港については、関西国際空港の国際拠点空港としての再生及び強化、両空港の適切かつ有効な活用を通じた関西における航空輸送需要の拡大を図ることを目的として、平成24年7月に新関西国際空港株式会社の下で経営統合され、一体的に運用されている。
 同社は、LCCをはじめとする旅客ネットワークの拡大や貨物ハブ化等、積極的な取組みを進め、両空港の事業価値の増大を図るとともに、26年7月25日に「PFI法」に基づく実施方針を策定・公表して以来、27年度中の事業移管を目指して、コンセッションの手続きを進めてきたところ、今般、27年11月10日に「オリックス、ヴァンシ・エアポート コンソーシアム」を優先交渉権者として選定し、27年12月15日に同コンソーシアムが設立したSPC(関西エアポート株式会社)と実施契約を締結した。

4)空港整備の現状
 沖縄県と国内外とを結ぶ人流・物流の拠点として極めて重要な役割を果たしている那覇空港において、更なる沖縄振興を図るため、滑走路増設事業を平成27年度も引き続き実施している。福岡空港については、慢性的に発生しているピーク時の航空機混雑を抜本的に解消するため、滑走路増設に係る環境影響評価手続を引き続き実施するとともに、滑走路増設事業に新規着手した。また、航空機の安全運航を確保するため、老朽化が進んでいる施設について戦略的維持管理を踏まえた空港の老朽化対策を実施するとともに、地震災害時における空港機能の確保等を図るため、空港の耐震化を着実に推進している。さらに、我が国全体の国際競争力や空港後背地域の地域競争力強化のため、ターミナル地域再編等を推進している。

5)航空機操縦士等の養成・確保
 我が国の航空業界においては、国際線を中心とする航空需要の大幅な増大や、現在主力となっている40代の操縦士の将来における大量退職が見込まれているが、現状の年間の新規操縦士供給量だけでは将来の操縦士需要を十分に満たすことは困難であり、中長期的な操縦士不足への対策が求められている。
 このため、平成25年12月に交通政策審議会航空分科会 基本政策部会 技術・安全部会の下に「乗員政策等検討合同小委員会」が設置され、今後講じていくべき具体的施策の方向性について検討が行われ、26年7月に報告書が取りまとめられた。その後、取りまとめに従って、以下の取組み等を行っている。なお、航空会社、養成機関等関係者からなる「航空機操縦士養成連絡協議会」等が26年8月に立ち上げられたところであり、こうした場も活用して操縦士等の養成・確保に向けた諸課題について検討が進められている。
 即戦力となる操縦士の確保を図るため、自衛隊操縦士の活用、在留資格要件の緩和等による外国人操縦士の活用、操縦士の年齢制限の上限引き上げなど健康管理向上等による現役操縦士の有効活用等の取組みを促進している。
 
図表II-6-1-11 我が国主要航空会社操縦士の年齢構成
図表II-6-1-11 我が国主要航空会社操縦士の年齢構成
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図表II-6-1-12 我が国LCC操縦士の年齢構成
図表II-6-1-12 我が国LCC操縦士の年齢構成
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 また、若手操縦士の供給拡大を図るため、27年12月に航空に関する仕事の魅力を伝える共通ウェブサイト「skyworks」(http://www.skyworks.info)を開設するとともに、航空会社における効率的な操縦士養成、私立大学等の民間養成機関の供給能力拡充、航空大学校の更なる活用等の取組みを促進している。
 さらに、公共性の高いドクターヘリや消防・防災ヘリ等のヘリコプター操縦士の需要が増大する中で、ヘリコプター操縦士の養成・確保が重要な課題となっていることから、関係省庁による連絡会議を立ち上げ、ヘリコプター操縦士の養成・確保のあり方について検討を行い、27年7月に取りまとめを行った。この取りまとめを踏まえ、航空機操縦士養成連絡協議会の下に設置された「ヘリコプター部会」において、官民で連携してドクターヘリ等の操縦士に係る訓練プログラムの開発など具体的施策の検討が進められている。

(2)空港運営の充実・効率化
1)空港経営改革の推進
 国管理空港等において、「民間の能力を活用した国管理空港等の運営等に関する法律(民活空港運営法)」を活用し、地域の実情を踏まえつつ民間の能力の活用や航空系事業と非航空系事業の一体的経営等を通じた空港経営改革を推進し、空港を活用した内外の交流人口拡大等による地域活性化を図っていくこととしている。
 国管理空港の第1号案件である仙台空港については、平成27年12月に公共施設等運営権者と実施契約を締結したところであり、28年7月の運営開始に向けて準備を進めている。

2)LCCの参入促進
 平成24年3月に本邦初となるLCCが就航した。以降、28年3月時点で、ピーチ・アビエーションは国内14路線、国際10路線、ジェットスター・ジャパンは国内16路線、国際6路線、バニラ・エアは国内3路線、国際3路線、春秋航空日本は国内2路線、国際2路線へネットワークを展開し、28年中にはエアアジア・ジャパンの新規就航(エアアジアグループによる再参入)も予定されている。
 LCC参入促進により、訪日旅行客の増大や国内観光の拡大等、新たな需要の創出が期待されている。政府の目標としては「2020年の航空旅客のうち、国内線LCC旅客の占める割合14%、国際線LCC旅客の占める割合17%」としている。LCC参入を促進させるため、我が国及び各空港では様々な施策を行ってきている。
 国の施策としては、大きく以下の2点を実施・検討しているところである。1点目は、25年度において、地方路線維持やLCC支援による地域活性化実現のため、主に使用される機材(100t以下)に着目し実施した着陸料の引き下げを、27年度も引き続き実施している。2点目は、空港経営改革の推進である。日本の空港の多くは、国や自治体が管理しており、今後、滑走路等と空港ビルの運営を一体化するなどし、民間事業者による戦略的な料金体系や営業活動等を行うことによって、LCCを誘致することを期待している。
 上記の施策に加え、各空港でもLCC受入の環境整備を行っており、大きく以下の2点を実施している。1点目は、LCC専用ターミナルの整備である。24年度には、成田国際空港においてLCCの暫定受入施設が供用開始されるとともに、関西国際空港において本邦初のLCC専用ターミナル(T2)が、那覇空港において既存施設を活用した暫定LCCターミナルが供用開始された。更に27年4月には成田国際空港では第3ターミナル(LCCターミナル)が供用開始された。また、関西国際空港では28年度中の供用開始を目指して新たなLCC専用ターミナルの整備が図られており、中部国際空港でも新ターミナルの整備が検討されている。2点目は、着陸料をはじめとする空港使用料の引き下げである。27年度も前年に引き続き、成田国際空港及び関西国際空港において、着陸料を含む空港使用料の引き下げ・見直しを実施している。
 
図表II-6-1-13 我が国LCC事業の概要
図表II-6-1-13 我が国LCC事業の概要

3)ビジネスジェットの受入れ推進
 ビジネスジェットとは、数人から十数人程度を定員とする小型の航空機であり、利用者のスケジュールに応じた時間設定や、プライバシーが確保されるため搭乗中に商談等が可能であることから、時間価値の高いビジネスマン等が利用の対象となっている。
 欧米では既にビジネスジェットがグローバルな企業活動の手段となっている。我が国においても、経済のグローバル化に伴い、日本から工場を進出するなど一方的な交流ではなく、外国から日本に投資を呼び込む必要性が認識されはじめており、今後のアジア地域における経済成長の取り込みの観点から、我が国においてビジネスジェットの重要性・可能性は増してきている。
 そこで、我が国ではビジネスジェットの受入環境の整備を推進するため、首都圏空港をはじめとしたハード整備、規制緩和を行っている。例えば、東京国際空港において、28年3月末運航分よりビジネスジェットの運航計画の月次申請締切日及び確定日を早期化(5日前倒し)したほか、関西国際空港において訪日外国人のビジネスジェット利用者も使用可能なファーストレーンの設置、成田国際空港において、ビジネスジェットが乗降に利用可能なスポットの増設(2スポット)を行った。
 今後も、ビジネスジェットの利用定着のため、積極的な情報発信やビジネスジェットに関する規制の緩和も含めて施策の検討を行っていく。

4)地方空港における国際線の就航促進
 日本を訪れる外国人の数が増加の一途をたどる一方、入国空港の約70%は、首都圏と関西を結ぶ観光ルート「ゴールデン・ルート」上に集中している。今後、より多くの旅行者を迎えるためには、首都圏空港の機能強化のみならず、全国各地へ外国人旅行者を直接呼び込み「地方イン・地方アウト」の流れを作ることが重要な課題となっている。
 国が管理する空港については、既に国際線の着陸料を定期便は7/10、チャーター便は1/2に軽減している。これに加え、平成28年度、地方空港において、インバウンド拡大に向けた国際線の着陸料軽減措置を新設する。東京国際、新千歳、福岡を除いた国管理空港において、国際旅客便の新規就航又は増便があった場合に、路線誘致等にかかる地域の取組みと協調して着陸料を1/2に軽減する。これにより、広域観光周遊ルートの形成促進等、外国人旅行者の受入環境改善に積極的な地域にある空港への国際旅客便の就航を促進する。

(3)航空交通システムの整備
1)新たな航空交通システムの構築
 長期的な航空交通需要の増加やニーズの多様化に対応するとともに、国際民間航空機関(ICAO)や欧米等の動向も踏まえた世界的に相互運用性のある航空交通システムの実現のため、平成22年に「将来の航空交通システムに関する長期ビジョン(CARATS)」を産学官の航空関係者により策定し、ICAOの「世界航空交通計画(GANP)」と協調しつつ、その実現に向けた検討を進めている。
 平成27年度の取組みとしては、効率的な運航による燃料費やCO2排出量の削減のため、離陸から巡航まで一時的な水平飛行を行うことなく継続的に上昇できる運航の実現に向けた検討を進めている。また、現在直線に限定されている精密進入経路の曲線化等を実現し、安全性や利便性の向上を図るため、地上型衛星航法補強システム(GBAS)の導入に向けた検討を進めている。さらに、航空情報を世界的に共有するための新たなネットワーク網についての検討も引き続き実施している。

2)首都圏空港の容量増大への対応
 首都圏空港・空域の容量拡大による航空交通サービスの充実を進め、東京国際空港(羽田)においては、平成26年3月に年間44.7万回の発着容量を達成した。成田国際空港においては、現行の2本の滑走路を前提としつつ、騒音影響区域を広げずに発着能力を拡大するため、我が国では初、世界的にも例の少ない同時平行離陸方式を23年10月より導入し、運用方式の慣熟を着実に進めつつ、より高い精度での航空機の監視が可能となる装置の導入により、27年3月に年間30万回の発着容量を達成した。
 今後は、首都圏空港の更なる機能強化に向けて具体的な検討を進める。

(4)国際航空施策の戦略的推進
 アジア・太平洋地域は、近い将来世界最大の航空市場に成長するとされている。同地域の航空ネットワークの強化に貢献するとともに、数多くの航空インフラプロジェクトが進行中である新興国の成長を我が国に積極的に取り込むことが、戦略上重要である。
 案件受注のためには、官民連携した取組みが重要であり、航空インフラ国際展開協議会を中心に情報収集や二国間関係の強化に努めている。
 平成27年度においては、モンゴル政府要人招聘の実施(27年6月)やベトナムでの航空セミナー(27年12月)の開催等を行った。


注1 航空会社の新規参入や増便、航空会社間の競争促進による運賃低下等のサービス水準の向上を図るため、国際航空輸送における企業数、路線及び便数に係る制約を二カ国間で相互に撤廃することをいい、近年、世界の多くの国がこれを進めている。
注2 当該27箇国・地域との間の旅客数は、我が国に発着する総旅客数の約94%を占めている。
注3 平成26年3月より、羽田空港昼間時間帯国際線発着枠を年間3万回(1日40便)から年間6万回(1日80便)に拡大。


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