■7 道路交通における安全対策  平成27年の交通事故死者数は、昭和45年のピーク時の1万6千人より4分の1の4,117人(対前年比4人増)まで減少したものの15年ぶりに増加に転じた。また、高齢者が交通事故死者数の半数以上を占め、約半数の2,160人が歩行中・自転車乗車中に発生し、そのうち約半数が自宅から500m以内の身近な場所で発生するなど依然として厳しい状況である。このため、更なる交通事故の削減を目指し、警察庁等と連携して各種対策を実施している。 図表II-7-4-10 交通事故件数及び死傷者数等の推移 (1)効率的・効果的な交通事故対策の推進  道路の機能分化を推進することで自動車交通を安全性の高い高速道路等へ転換させるとともに、交通事故死者数の約6割を占めている幹線道路については、安全性を一層高めるために都道府県公安委員会と連携した「事故危険箇所」の対策や「事故ゼロプラン(事故危険区間重点解消作戦)」により、効果的・効率的に事故対策を推進している。  一方、歩行者・自転車に係る死傷事故発生割合が大きい生活道路については、車両の通過交通抑制並びに速度低減による安全な歩行空間の確保等を目的として、ハンプ・狭さく等の標準仕様を策定するとともに、都道府県公安委員会と連携し、面的な速度規制と組み合わせた車道幅員の縮小・路側帯の拡幅、歩道整備、ハンプの設置等の対策を行うなど、総合的な交通事故抑止対策を推進している。 (2)通学路の交通安全対策の推進  通学路については、平成24年4月に相次いだ集団登校中の児童等の事故を受け、学校や教育委員会、警察等と連携した「通学路緊急合同点検」を実施しており、その結果に基づく対策への支援を重点的に実施している。  さらに、継続的な通学路の安全確保のため、市町村ごとの「通学路交通安全プログラム」の策定などにより、定期的な合同点検の実施や対策の改善・充実等の取組みを推進している。 (3)ITを活用した高速道路上における安全運転支援  我が国では世界に先駆けて、全国の高速道路上の通信スポットと車載器を活用したETC2.0サービスを開始しており、事故多発地点、道路上の落下物等の注意喚起及び積雪や越波等の状況に関する情報を自動車のカーナビ等に提供することにより安全運転支援を推進している。また、重大事故につながる可能性が高い高速道路での逆走に対し、IT技術の活用や自動車メーカー等民間と連携した効果的な対策を検討している。 (4)安全で安心な道路サービスを提供する計画的な道路施設の管理  全国約72万の橋梁のうち、市町村管理が約7割(約48万橋)を占めている。米国では市町村レベルが管理している橋梁は約1割に過ぎず、極めて多くの橋梁を管理している日本の市町村は、橋梁等の維持修繕・更新にしっかりと取り組んでいく必要がある。  そこで、道路の適切な管理を図るため、点検を行うべきことの明確化や、道路構造物への影響が大きい大型車両の通行を誘導する道路を指定する制度の創設、制限違反車両の取り締まりの強化などを内容とする「改正道路法」を公布し、政令において、改築・修繕の代行の対象となる施設等はトンネル、橋等とすることや、道路の維持・修繕に関する技術的基準等を定めた。  橋梁・トンネルなどは、5年に1度、近接目視で点検する等、道路管理者の義務を明確化する省令を、26年3月31日に公布した。  さらに、同年4月14日に、社会資本整備審議会道路分科会において取りまとめられた「道路の老朽化対策の本格実施に関する提言」を受けて、今後、メンテナンスサイクルの確定(道路管理者の義務の明確化)を図るとともに、メンテナンスサイクルを回す仕組みを構築することとしている。  引き続き、同年7月迄に全都道府県で設置された「道路メンテナンス会議」を活用した定期点検の着実な推進、地域単位での点検業務の一括発注の実施、地方公共団体職員向けの研修の充実、直轄診断を実施し、その結果に応じた修繕代行事業等の国の技術支援や、大規模修繕・更新に対する補助制度の創設など、地方公共団体の実施する老朽化対策の支援についても、より一層積極的に取り組んでいるところである。  また、高速道路の老朽化に対応するため、同年6月の「道路法」等の改正により新たに業務実施計画等に位置づけた大規模更新・修繕事業を計画的に進めている。 (5)「高速・貸切バス安全・安心回復プラン」の着実な実施  平成24年4月に発生した関越道高速ツアーバス事故を受けて、25年4月に「高速・貸切バス安全・安心回復プラン」を策定し、25・26年の2年間にわたり、高速ツアーバスの新高速乗合バスへの移行・一本化や交替運転者の配置基準の設定等の措置を実施するとともに、その実施状況について随時フォローアップ・効果検証を行ってきた。引き続き、街頭監査の実施や継続的に監視すべき事業者の把握など本プランの各措置の実効性を確保し、バス事業の安全性向上・信頼の回復に向けた取組みを推進していく。 (6)事業用自動車の安全プラン等に基づく安全対策の推進  平成21年から30年までの10年間で、「事業用自動車の死者数・人身事故件数を半減」、「飲酒運転ゼロ」を目標として策定した「事業用自動車総合安全プラン2009」について26年11月に中間見直しを行い、業態毎の事故発生傾向、主要な要因等を踏まえた事故防止対策の実施や運転者の体調急変に伴う事故防止対策の浸透・徹底、監査情報や事故情報など各種情報を活用した事故防止対策の実施等の新たな施策を追加し、更なる事故削減に向けた各種取組を進めている。 1)運輸安全マネジメントを通じた安全体質の確立  平成18年10月より導入した「運輸安全マネジメント制度」により、事業者が社内一丸となった安全管理体制を構築・改善し、国がその実施状況を確認する運輸安全マネジメント評価を、27年において146者に対して実施した。 2)自動車運送事業者に対するコンプライアンスの徹底  労働基準法等の関係法令等の履行及び運行管理の徹底を図るため、飲酒運転等の悪質違反を犯した事業者、重大事故を引き起こした事業者及び新規参入事業者等に対する監査を徹底するとともに、関係機関合同による監査・監督を実施し、不適切な事業者に対しては、厳格化された基準に基づき厳正な処分を行っている。  また、法令違反等を行う悪質な事業者に対しては、重点的かつ優先的に監査を行う等、効率的・効果的な監査を実施するとともに、28年1月に発生した軽井沢スキーバス事故を受け、全国の貸切バス事業者に対し、街頭監査及び集中的な監査を緊急実施した。  さらに、監査情報や事故情報等の統合及び分析機能の強化を図り、事故を惹起するおそれの高い事業者を抽出することにより、事故の未然防止のための監査機能の強化を図るため、「事業用自動車総合安全情報システム」の開発を進めている。 3)飲酒運転の根絶  点呼時にアルコール検知器を使用した酒気帯びの有無の確認の徹底や、危険ドラッグ等薬物使用による運行の絶無を図るため、危険ドラッグ等薬物に関する正しい知識や使用禁止について、運転者に対する日常的な指導・監督を徹底するよう、講習会や全国交通安全運動、年末年始の輸送等安全総点検なども活用し、機会あるごとに事業者や運行管理者等に対し指導を行っている。 4)IT・新技術を活用した安全対策の推進  自動車運送事業者における交通事故防止のための取組を支援する観点から、デジタル式運行記録計等の運行管理の高度化に資する機器の導入や、過労運転防止のための先進的な取組等に対し支援を行っている。また、車両と車載機器、ヘルスケア機器等を連携させた次世代型の運行管理・支援システムを検討している。 5)業態毎の事故発生傾向、主要な要因等を踏まえた事故防止対策  輸送の安全を図るため、トラック・バス・タクシーの業態毎の特徴的な事故傾向を踏まえた事故防止の取組を現場関係者とも一丸となって実施させるとともに、トラックの新たな免許区分である準中型免許の創設を踏まえ、初任運転者向けの指導・監督の拡充を図った。 6)事業用自動車の事故調査委員会の提案を踏まえた対策  平成26年に警察庁と連携して設置した「事業用自動車事故調査委員会」において、客観性があり、より質の高い再発防止策の提言を得るため、社会的影響の大きな事業用自動車の重大事故の背景にある組織的・構造的問題の更なる解明を図るなど、より高度かつ複合的な事故要因の調査分析を行い、特別重要調査対象事案等について8件の報告書を公表した。 7)運転者の体調急変に伴う事故防止対策の推進  26年4月に改訂した、「事業用自動車の運転者の健康管理マニュアル」の周知徹底を図るとともに、同マニュアルで推奨している、睡眠呼吸障害、脳疾患、心疾患等の主要疾病の早期発見に寄与する各種スクリーニング検査をより効果的なものとして普及させるため、27年9月に、「事業用自動車健康起因事故対策協議会」を立ち上げ、普及促進方策等を検討している。 8)国際海上コンテナの陸上運送の安全対策  国際海上コンテナの陸上運送の安全対策を充実させるため、平成25年6月に新たな「国際海上コンテナの陸上における安全輸送ガイドライン」等を策定し、地方での関係者会議や関係業界による講習会等を通じ、ガイドライン等の浸透や関係者と連携した実効性の確保に取り組んでいる。 (7)軽井沢スキーバス事故を受けた対策  28年1月15日、長野県軽井沢町の国道18号線碓氷バイパス入山峠付近において、貸切バス(乗員乗客41名)が反対車線を越えて道路右側に転落、乗員乗客15名(乗客13名・乗員2名)が死亡、乗客26名が重軽傷を負う重大な事故が発生した。二度とこのような悲惨な事故を起こさないよう、徹底的な再発防止策について検討するため、有識者からなる「軽井沢スキーバス事故対策検討委員会」を開催し、規制緩和後の貸切バス事業者の大幅な増加と監査要員体制、人口減少・高齢化に伴うバス運転者の不足、旅行業者と貸切バス事業者の取引関係等の構造的な問題を踏まえつつ、抜本的な安全対策について、貸切バス事業者に対する事前及び事後の安全性のチェックの強化や、旅行業者等との取引環境の適正化、利用者に対する安全性の「見える化」等の観点から議論を進めている。  28年3月29日には、再発防止策についての「中間整理」をとりまとめ、その検討の熟度に応じ、複数回にわたり法令違反を是正・改善しない事業者に対する事業許可の取消し等の厳しい処分の実施といった「速やかに講ずべき事項」、貸切バス事業者の安全情報提供の仕組みの構築やドライバー異常時対応システムの普及促進といった「今後具体化を図るべき事項」、運行管理者等の在り方の見直しといった「引き続き検討すべき事項」の3つに整理した。  「速やかに講ずべき事項」については、実施可能なものから速やかに実施に移すとともに、「今後具体化を図るべき事項」、「引き続き検討すべき事項」については、引き続き、同委員会での議論を行い、今夏までに再発防止に向けた「総合的な対策」をとりまとめ、確実に実施に移していく。 (8)自動車の総合的な安全対策1)今後の車両安全対策の検討  第10次交通安全基本計画(計画年度:平成28〜32年度)の策定にあわせて、交通事故の現状や自動車技術の発展を踏まえつつ、交通政策審議会陸上交通分科会自動車部会技術安全ワーキンググループにおいて、衝突被害軽減ブレーキ等の先進技術を活用した安全対策の推進など、今後の車両安全対策に関する検討を行った。 2)安全基準等の拡充・強化  自動車の安全性の向上を図るため、10項目の国際基準を国内へ導入し、電柱等との側面衝突を模擬した試験要件やバッテリー式電気二輪自動車等の安全基準等を新たに整備した。また、燃料電池二輪自動車に関する安全基準を世界に先駆けて策定した。 3)先進安全自動車(ASV)の開発・実用化・普及の促進  産学官の連携により、衝突被害軽減ブレーキなど実用化されたASV技術の本格的な普及を促進するとともに、第5期ASV推進計画の取りまとめとして、ドライバー異常時対応システムや通信利用型運転支援システムに関するガイドラインを策定した。 図表II-7-4-11 衝突被害軽減ブレーキ 4)自動車アセスメントによる安全情報の提供  安全な自動車及びチャイルドシートの開発やユーザーによる選択を促すため、これらの安全性能を評価し結果を公表している。平成27年度より、車両周辺視界情報提供装置(リアビューモニター)の評価を新たに開始した。 5)自動運転の実現に向けた取組み  国連の自動車基準調和世界フォーラム(WP29)の下に設立された自動操舵専門家会議において、日本は共同議長を務め、高速道路での自動運転を可能とする自動操舵の基準を提案するなど、自動運転に関する国際基準の策定を主導している。 6)リコールの迅速かつ着実な実施・ユーザー等への注意喚起  自動車のリコールの迅速かつ確実な実施のため、自動車メーカー等及びユーザーからの情報収集に加えて、装置メーカー等からの情報収集体制の強化を図るとともに、自動車メーカー等のリコール業務について監査等の際に確認・指導を行い、安全・環境性に疑義のある自動車については(独)自動車技術総合機構(平成28年3月31日までは(独)交通安全環境研究所)において技術的検証を行っている。また、不具合情報の収集を強化するため、「自動車不具合情報ホットライン」(www.mlit.go.jp/RJ/)について周知活動を積極的に行っている。  さらに、国土交通省に寄せられた不具合情報や事故・火災情報等を公表し、ユーザーへの注意喚起が必要な事案や適切な使用及び保守管理、不具合発生時の適切な対応について、ユーザーへの情報提供を実施している。  なお、平成27年度のリコール届出件数は368件及び対象台数は1,899万台であった。 7)自動車検査の高度化  不正な二次架装注の防止やリコールにつながる車両不具合の早期抽出等に資するため、情報通信技術の活用による自動車検査の高度化を進めている。 (9)自動車損害賠償保障制度による被害者保護  自動車損害賠償保障制度は、クルマ社会の支え合いの考えに基づき、自賠責保険の保険金支払い、ひき逃げ・無保険車事故による被害者の救済(政府保障事業)を行うほか、重度後遺障害者への介護料の支給や療護施設の設置等の自動車事故対策事業を実施するものであり、交通事故被害者の保護に大きな役割を担っている。 図表II-7-4-12 自動車損害賠償保障制度 (10)機械式立体駐車場の安全対策  機械式立体駐車場で死亡事故等が発生している状況にかんがみ、機械式駐車装置の安全性の更なる向上を図ることを目的に、機械式駐車装置の安全基準のJIS規格化について、業界団体とともに検討を進めている。 注 部品等を取り外した状態で新規検査を受検し、検査終了後に当該部品を再度取り付けて使用する行為等