はじめに  現在、我が国では人口減少社会を迎え、高齢化も速いスピードで進むなど、産業を支える生産年齢人口が減少を続けており、また、財政制約及び国際競争環境も厳しさを増している。  一方で、今後、これまで経済を支えてきた労働力が減少し続けたとしても、様々な社会の「ムダ」を減らし、生産性を向上させていけば、持続的な経済成長を実現することができると考えられる。  このような観点から、国土交通省としては、人口減少社会を迎え、社会のあらゆる生産性を向上させることで経済成長を実現するため、2016年を「生産性革命元年」と位置づけ、総力を挙げて生産性革命に取り組むこととしているi。  以上の背景及び問題意識を踏まえ、平成27年度国土交通白書の第I部では、「我が国の経済成長を支える国土交通行政の展開〜生産性革命をもたらす戦略的なインフラマネジメント〜」をテーマとし、我が国の経済成長を支える国土交通行政の取組みについて、「社会のベース」の生産性を高めるストック効果iiの高い戦略的なインフラ整備を中心に、インフラiiiに関連する切口から紹介・考察し、今後の方向性を検討する。  具体的には、第1章「我が国の経済と国土交通行政の関わり」において、人口減少、経済・財政状況など我が国の課題を認識するとともに、近世以降、特に江戸時代と戦後の経済成長期のインフラ整備の歴史や、インフラ投資の推移及びインフラ・ストックの蓄積による効果を概観すること等により、インフラ整備が経済成長にもたらす効果について歴史的視点等から考察する。  次に、第2章「生産性革命をもたらす戦略的なインフラマネジメント」において、安全・安心の確保を前提とした、生産性向上等ストック効果最大化を目指した取組み(「賢く投資・賢く使う」取組みやストック効果「見える化」等の取組みなど)、官民連携による新たな民間需要の創出やインフラの効率的な整備・運用の事例を紹介するとともに、インフラのユーザーである「民間事業者」に対する意識調査(アンケート調査)により、企業活動とインフラの関わりや、生産性向上等ストック効果最大化を目指してインフラ整備側・利用者側双方に求められること等を明らかにする。  そして、第3章「新たな市場の開拓・拡大、担い手の確保、新技術導入等」においては、海外の成長分野の取込みの観点から、インフラシステムの海外展開に関する取組み及びインフラを活用したインバウンド(訪日外国人旅行者)の取込みに関する事例を紹介するとともに、インフラ整備を支える建設業界の担い手の確保及び“i-Construction”などインフラ整備の現場の生産性向上に資する先進的な取組みを紹介する。  また、2016年4月14日夜以降、熊本県及び大分県を中心に発生した一連の地震は、広い範囲に甚大な被害をもたらした。本白書では、「追部」として「平成28年(2016年)熊本地震」への対応(2016年5月中旬時点)について報告する。  さらに、第II部では、平成27年度の国土交通行政の各分野の動向を政策課題ごとに報告する。 i 具体的には、2016年3月に、国土交通省内に「国土交通省生産性革命本部」を設置し、1)「社会のベース」、2)「産業別」、3)「未来型」投資・新技術、の3つの分野の生産性向上に取り組み、熟度の高まったものから順次プロジェクトとして発表していくこととしている。 ii ストック効果:「社会資本のストック効果とは、整備された社会資本が機能することによって、整備直後から継続的に中長期にわたり得られる効果であり、国民生活における防災力の向上、生活環境の改善といった生活の質の向上をもたらす効果や、移動時間の短縮等における効率性・生産性の向上をもたらす生産拡大効果がある。」(社会資本整備重点計画(2015年9月閣議決定)第1章第2節2.(1)1)より) iii インフラの定義:本白書では、文中に特段の断りがない限りは、国交省所管の物理的な社会資本(道路・鉄道・空港・港湾・堤防・ダム・下水道・公園等)を中心に、交通関連の物理的社会資本に関連して提供される公共交通サービスを含めて、広い意味で「インフラ」として記述することとする。  なお、一般に、「インフラ」という場合、道路や下水道等の物理的なものが想定される。例えば広辞苑(第6版)では、インフラは「産業や社会生活の基盤となる施設。道路・鉄道・港湾・ダムなど産業基盤の社会資本、および学校・病院・公園・社会福祉施設等の生活関連の社会資本など。」とされている。