第1節 イノベーションの創出と社会実装に向けた各国の取組み

コラム 月島荘

 月島に新しいスタイルの企業寮があり、注目を集めています。企業向けの社員寮でありながらシェアハウスの概念を取り入れ、単独企業ではなく、さまざまな企業の社員が入居しています。他業種かつ多世代のビジネスパーソンが活発に交流できる「月島荘」、いったいどのような人たちが住んでいるのでしょうか。
 
図表2-1-12 月島荘
図表2-1-12 月島荘

 事業主は、月島・勝どきエリアに不動産施設を所有する乾汽船(株)です。「月島荘」は所有していたボウリング場と賃貸マンション跡地の再開発であり、当初は200mの高さの高級賃貸マンションを建設する案もありましたが、職住近接のかなう立地から考えられる実需を検討する中でシェアハウス型の企業寮(25mの高さの3棟構成)へ方向転換しました。単独企業の社員寮ではなく、複数の企業が法人契約を結び、それぞれ50室まで自社の社員に提供できるシステムになっています。
 644人分の個室と充実した共用施設があり、キッチンダイニングルーム、ジム、大浴場、シアタールーム、スタデイルーム、ミーティングルームがあります。個室はシンプルなつくりになっていて、寝たり着替えたりの基本的な生活シーン以外は、居心地の良い共用部分をシェアすることを促すよう快適なつくりになっています。1階にある共用部分のほかに、クラスター・リビングという住居階ごとの共用リビングスペースがあり、簡単な食事やちょっとしたリラックスタイムを過ごすことができます。また、同一企業の社員は、同じクラスターに5室までという制限も設けているため、他企業の人との交流が生まれやすくなっています。
 現在、41社の企業が利用しており、業種も多岐に渡っています。シンクタンクや化学メーカー、不動産、商社、金融など様々で、入居者の年齢層は20代が8割強を占めています。男女比率は約7割弱が男性、3割強が女性です。企業側からは、「異業種の社員とのふれあいの中でコミュニケーション能力を高めて欲しい」との期待値が高いようですが、実際にキッチンダイニングルームで他社の社員と食事会を催したり、共用部を使用した趣味の集まりを開催したり、入居者それぞれが仕事の専門分野についての知識や自己の活動について、プレゼン形式で発表する勉強会も活発に行われています。
 
図表2-1-13 月島荘でのイベント
図表2-1-13 月島荘でのイベント

 バブル崩壊後、景気の低迷が長引き企業の多くが社員寮を手放し、最近の社宅制度の現状は「社有社宅」から「借上社宅」への移行がトレンドとなっています。しかし、その結果、違う職場や年代の社員相互の交流が減ったと言われています。そのような状況の中、「月島荘」のような複数の企業の社員が入居する社員寮で他業種かつ多世代の人間が若いうちから新しい交流を深めることは、オープンイノベーションにもつながる取組みとして有効であると言えます。


テキスト形式のファイルはこちら

前の項目に戻る     次の項目に進む