第2節 イノベーションが描く2050年の我が国

■2 2050年における国土交通分野の未来予想図

 以下では、1.における考察や国民意識調査により得られた国民の願う未来社会の姿をもとに、我が国の未来予想図を国土交通分野に着目して描いていく。

(1)国土、インフラ整備
 2050年の社会では、高速道路ネットワークやリニア中央新幹線等の基幹的な交通インフラが整備され、都市間の時間的な距離はより短くなっている。また、そうした高速交通インフラと地域内を結ぶ公共交通やインフラの整備等も進み、移動が飛躍的に速く、便利になっている。地域内ではコンパクトシティの取組み等により、徒歩や公共交通による移動で生活に必要な機能が全て揃っている。加えて、ICTの発達により、テレワーク等の場所や時間の制約が少ない働き方が広がったことや、自宅で医師による診療を受けること等も可能となり、居住地に求める条件が大きく変わってきている。依然として、人や物が集約された首都圏を好む人は多いものの、私たちは自分の生活スタイルや好みに合った居住地を選択できるようになり、昔よりも居住地は多様化している。
 気候の変動等により災害の頻度や種類は多様化しているが、人工衛星や地滑り等を検知するセンサを活用した観測やAIによる分析等により、豪雨や土砂災害等の災害予測の精度が向上したことや、私たちに情報を伝えるインフラも整備されたことで、一層迅速に事態を把握し、防災・減災の対応に取り組むことが可能となっている。地域ごとの基本的な防災・減災の方針のもと、各自が事前の避難や防災グッズの準備等、具体的な行動を選択している。一人ひとりの災害に対する意識も高まり、VR(仮想現実)、AR(拡張現実)を利用した避難訓練等の実施も強化されており、どの段階でどのように行動すべきかを具体的に把握し、防災がより身近なものとなっている。
 都市のコンパクト化により、維持・管理を優先するインフラが整理されたことや、日々のインフラの点検業務やデータ収集にAIを搭載したドローンやロボットが活用されたことで、効率的な維持・管理が可能になった。修繕を行うタイミング等の判断も定量的かつ適切に行われるようになり、どの地域のインフラも良好な状態を維持している。

(2)交通
 前述の高速交通網の整備は、移動に関する制約を小さくし、より活発に、より遠くに旅行することや、遠隔地にいる家族や友人に気軽に会いに行くことができるようになった。また、VR技術が発達したことで、実際に現地を訪れなくても各地の景色や雰囲気を楽しむことができるが、VRによる疑似体験を通して旅行意欲が喚起され、実際に旅行に行く機会も増えている。AI技術の活用により精度の高い翻訳・通訳サービスが提供され、日本と世界の言葉の壁は消え、日本人が海外旅行に行く機会や、日本に訪れる外国人旅行者も増加している。
 地域の交通網の維持には、自動運転技術が大きく寄与している。利用者数や移動ニーズ等のデータを収集し、AIが分析するとともに、自動走行車を活用することで、利用者数やニーズに応じた最適な交通網の形成が可能となった。従来の自動車の概念にとらわれず、個人のライフスタイルに合った多種多様なモビリティ(移動手段、乗り物)が存在し、使い方も所有・シェアと様々である。そのモビリティも自動運転技術により交通事故が大幅に減少し、安全性の高い便利な乗り物となっている。
 完全自動運転の実現により、移動時間の充実や別の機能がモビリティに求められるようになり、「プライベートな快適空間」、「カスタマイズ」といった新たな価値を提供している。また、常時モビリティが活用され、需要に応じた最適な台数のモビリティが走行することで、特に都心部では個人住宅や集客施設等の駐車場が不要になり、土地の有効利用が進んでいる。

(3)暮らし方(住環境や働き方)
 ワークスタイルについては、テレワークの普及やVR技術を利用して遠隔地にいても会議に参加すること等が可能になり、働く場所や時間を気にせず働くことができるようになった。仕事を行う場が従来の職場から、自宅や自宅近くのサテライトオフィス等に変化したことで、自宅近くで日常の買い物を行うことが増えるなど、消費活動を行う場も変化している。また、自宅で仕事を行う人が多く、仕事とプライベートをうまく切り替えることのできる環境を整えるなど、思い思いの空間を作る人が増えている。働く時間は比較的自由になり、通勤時間も少なくなったことで、家族と過ごす時間や趣味に費やす時間が増え、家庭と仕事の両立や余暇の充実が図られている。
 また、環境問題や将来予想されるエネルギー問題等を契機に、各家庭や地域で太陽光等の再生可能エネルギーを利用した発電設備や蓄電設備が完備されている。発電量やエネルギーの利用量が地域全体で管理され、エネルギーのシェアも行われている。各家庭が所有するモビリティは蓄電池の役割も持ち、災害時には非常用電源として活用される。
 居住スタイルが変化し、若い世代や高齢者で一人世帯やシェアハウスに住む人が増えているが、地域や共通の趣味を持つコミュニティ等が形成され、ICTを活用してリアルタイムで地域情報や個人のスキル・物を共有できるなど、家族に限定しないつながりのある社会が形成されている。

 以上は、予想される一つの未来の姿であり、私たち国民の意識やライフスタイルが変わることで新たな需要が生まれ、様々な未来が創造されていく。
 企業や地域の取組事例や国民意識調査からわかるように、国土交通分野におけるイノベーションは、私たち国民の暮らしと大きく関係しており、イノベーションの伸展により私たちの意識は変化していく。国土交通行政は、イノベーションの創出と社会実装に向けたこれまでの取組みを不断に見直していくことに加え、その時々の時代の要請に応じた取組みを着実に実施していくとともに、時代を先取りした取組みを産み出すための自らのイノベーションに果敢に挑んでいくことが重要である。


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