第1節 豊かな住生活の実現

第5章 心地よい生活空間の創生

第1節 豊かな住生活の実現

■1 住生活の安定の確保及び向上の促進

 本格的な少子高齢社会の到来、人口・世帯数の減少といった社会経済情勢の変化を踏まえ、平成28年3月に閣議決定した、28年度から37年度を計画年度とする住生活基本計画(全国計画)において、「居住者からの視点」から1)結婚・出産を希望する若年世帯・子育て世帯が安心して暮らせる住生活の実現、2)高齢者が自立して暮らすことができる住生活の実現、3)住宅の確保に特に配慮を要する者の居住の安定の確保、「住宅ストックからの視点」から4)住宅すごろくを超える新たな住宅循環システムの構築、5)建替えやリフォームによる安全で質の高い住宅ストックへの更新、6)急増する空き家の活用・除却の推進、「産業・地域からの視点」から7)強い経済の実現に貢献する住生活産業の成長、8)住宅地の魅力の維持・向上という8つの目標と基本的な施策を位置づけており、この計画に基づき、国民それぞれのニーズに合った住生活を提供するとともに、安全・良質で安心できる住環境の実現に向けて、施策を推進している。

(1)目標と基本的施策
1)結婚・出産を希望する若年世帯・子育て世帯が安心して暮らせる住生活の実現
 結婚・出産を希望する若年世帯や子育て世帯が望む住宅を選択・確保できる環境を整備するため、このような世帯が必要とする質や広さの住宅に、収入等の世帯の状況に応じて居住できるよう支援の実施を図っている。
 また、子どもを産み育てたいという思いを実現できる環境を整備し、希望出生率1.8の実現につなげるため、世代間で助け合いながら子どもを育てることができる三世代同居・近居の促進等を図っている。

2)高齢者が自立して暮らすことができる住生活の実現
 高齢者が安全に安心して生涯を送ることができるための住宅の改善・供給に向けて、住宅のバリアフリー化やヒートショック対策を推進するとともに、高齢者生活支援施設を併設したサービス付き高齢者向け住宅の供給などを推進している。
 さらに、高齢者が望む地域で住宅を確保し、日常生活圏において、介護・医療サービスや生活サービスが利用できる居住環境の実現を図っている。

3)住宅の確保に特に配慮を要する者の居住の安定の確保
 住宅を市場において自力で確保することが難しい低額所得者、高齢者、障害者、ひとり親・多子世帯等の子育て世帯、生活保護受給者、外国人、ホームレス等(住宅確保要配慮者)が、安心して暮らせる住宅を確保できる環境の実現を図っている。

(ア)民間賃貸住宅や空き家を活用した新たな住宅セーフティネット制度の創設
 住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進を図るため、地方公共団体による供給促進計画の作成、住宅確保要配慮者の円滑な入居を促進するための賃貸住宅の登録制度の創設等の措置を講じる「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律の一部を改正する法律案」を29年2月に閣議決定し、国会に提出した。

(イ)公的賃貸住宅の供給
 住宅に困窮する低額所得者に対し地方公共団体が供給する公営住宅を的確に支援するとともに、各地域における居住の安定に特に配慮が必要な高齢者等の世帯を対象とした良質な賃貸住宅の供給を促進するため、公営住宅を補完する制度として地域優良賃貸住宅制度を位置付けており、これらを含む公的賃貸住宅の整備や家賃の減額に要する費用等に対して助成を行っている。
 
図表II-5-1-1 公的賃貸住宅等の趣旨と実績
図表II-5-1-1 公的賃貸住宅等の趣旨と実績

(ウ)民間賃貸住宅の活用
 高齢者、障害者、外国人、子育て世帯等の民間賃貸住宅への円滑な入居の促進を図るため、地方公共団体、不動産関係団体、居住支援団体等により構成される居住支援協議会(28年度末で66協議会(47都道府県・19市区町)が設立。)を通じ、住宅の情報提供、相談サービス等の居住支援等を行うこととしている。

4)住宅すごろくを超える新たな住宅循環システムの構築
 既存住宅流通市場の活性化は、住宅ストックの有効活用、市場拡大による経済効果の発現、ライフステージに応じた住みかえの円滑化による豊かな住生活の実現等の観点から重要であり、既存住宅の質の向上、良質な既存住宅が適正に評価される市場の形成、既存住宅を安心して取引できる環境の整備に向けた施策を展開している。

(ア)既存住宅の質の向上
 「長期優良住宅の普及の促進に関する法律」に基づき、住宅の構造や設備について、一定以上の耐久性、維持管理容易性等の性能を備えた住宅(「長期優良住宅」)の普及を図っている(27年度認定戸数:104,633戸)。また、28年度から、既存住宅の増築・改築に係る長期優良住宅の認定制度を開始した。
 さらに、既存住宅の長寿命化や耐震化、省エネ性能の向上等を図るリフォームに対して補助・税制面での支援を行っている。

(イ)良質な既存住宅が適正に評価される市場の形成
 我が国の住宅は、築後20〜25年程度で市場価値がゼロとなる取り扱いが一般的となっており、この慣行を是正し、良質な既存住宅が適正に評価される環境を整備することが重要である。
 そのため、宅建業者や不動産鑑定士の適正な評価手法の普及・定着を進め、建物の性能やリフォームの状況が評価に適切に反映されるよう取り組んでいる。
 また、金融市場を含め市場全体において良質な住宅ストックが適正に評価されるよう、金融機関も含め関係者が連携し、住宅ストックの維持向上・評価・流通・金融等の仕組みを一体的に開発・普及等する取組みに対し支援を行っている。

(ウ)安心して取引できる環境の整備
 「住宅の品質確保の促進等に関する法律」に基づき、新築住宅の基本構造部分に係る10年間の瑕疵担保責任を義務付けるとともに、新築住宅及び既存住宅に対し、耐震性、省エネ対策、劣化対策等、住宅の基本的な性能を客観的に評価し,表示する住宅性能表示制度を実施している。
 また、不動産取引のプロである宅地建物取引業者が、専門家による建物状況調査(インスペクション)の活用を促すことで、住宅の品質に関する正確な情報を消費者に提供し、既存住宅取引の不安を解消するため、「宅地建物取引業法の一部を改正する法律」を28年6月に公布した。

5)建替えやリフォームによる安全で質の高い住宅ストックへの更新
 住宅投資は経済波及効果が大きく、内需の柱として、その果たす役割は重要である。耐震性を充たさない住宅を建て替えるなど、古いストックを更新するとともに、バリアフリー化されていない住宅等のリフォームを進めることで、耐震性、断熱などの省エネ性、耐久性の向上を促進するなど、質の向上に向けた住宅投資を推進している。
 また、住宅団地の再生促進に向けての「都市再生特別措置法等の一部を改正する法律」が28年6月に成立し、同年9月に施行された。

(ア)消費者が安心してリフォームができる市場環境の整備
 住宅リフォームを検討する消費者は、費用や事業者選びに関して不安を有しており、これを取り除くことが住宅リフォーム市場の拡大には必要である。
 このため、「住まいるダイヤル」((公財)住宅リフォーム・紛争処理支援センター)における電話相談業務及び具体的な見積書についての相談を受ける「リフォーム無料見積チェックサービス」、各地の弁護士会における「専門家相談制度」等の取組みを進めている。
 また、施工中の検査と欠陥への保証がセットになったリフォーム瑕疵保険制度や、マンション大規模修繕工事を対象とした大規模修繕工事瑕疵保険制度による消費者が安心してリフォームができるような取組みを進めている。
 なお、事業者が保険に加入するには、建設業許可の有無や実績等の状況を充たした上で、住宅瑕疵担保責任保険法人に事業者登録をする必要があり、登録された事業者は(一社)住宅瑕疵担保責任保険協会のウェブサイトで公開されるため、消費者は事業者選びの参考とすることができる。
 さらに、「住宅リフォーム事業者団体登録制度」において、住宅リフォーム事業者の業務の適正な運営の確保及び消費者への情報提供等を行うなど、一定の要件を満たす住宅リフォーム事業者の団体を国が登録することにより、住宅リフォーム事業の健全な発達及び消費者が安心してリフォームを行うことができる環境の整備を図っている。

6)急増する空き家の活用・除却の推進
 27年5月に全面施行された「空家等対策の推進に関する特別措置法」に基づく市区町村の地域の実情に応じた空家等対策計画の策定を促進し(357市区町村策定済み(29年3月31日時点))、空き家や空き建築物の活用・除却等を推進するとともに、住宅としての流通活性化に取り組んでいる。

7)強い経済の実現に貢献する住生活産業の成長
 強い経済の実現に貢献できるよう、良質な木造住宅・建築物の整備促進や大工技能者等の担い手の育成支援、CLT(直交集成板)等新たな技術の開発と普及、IoTの活用等の住生活に関連する新しいビジネス市場の創出・拡大など、住生活産業の成長の促進を図っている。

8)住宅地の魅力の維持・向上
 地域の自然、歴史、文化その他の特性に応じて、個々の住宅だけでなく、居住環境やコミュニティをより豊かなものにすることを目指し、密集市街地の改善整備等による住宅地の安全性の向上や豊かなコミュニティの形成を進めるなど、住宅地の魅力の維持・向上を図っている。

(2)施策の総合的かつ計画的な推進
1)住宅金融
 消費者が、市場を通じて住宅を選択・確保するためには、短期・変動型や長期・固定型といった多様な住宅ローンが安定的に供給されることが重要である。
 民間金融機関による相対的に低利な長期・固定金利住宅ローンの供給を支援するため、(独)住宅金融支援機構では証券化支援業務を行っている。当業務には、民間金融機関の住宅ローン債権を集約し証券化するフラット35(買取型)と民間金融機関自らがオリジネーターとなって行う証券化を支援するフラット35(保証型)がある。証券化支援業務の対象となる住宅については、耐久性等の技術基準を定め、物件検査を行うことで住宅の質の確保を図るとともに、証券化支援業務の枠組みを活用し,耐震性、省エネルギー性、バリアフリー性及び耐久性・可変性の4つの性能のうち、いずれかの基準を満たした住宅の取得に係る当初5年間(長期優良住宅等については当初10年間)の融資金利を引き下げるフラット35Sを実施している。
 また、同機構は、災害復興住宅融資やサービス付き高齢者向け賃貸住宅融資等、政策的に重要でかつ民間金融機関では対応が困難な分野について、直接融資業務を行っている。

2)住宅税制
 平成29年度税制改正において、既存住宅流通・リフォーム市場の活性化に向けて耐久性等に優れた良質な住宅ストックの形成を促進するため、耐震改修・省エネ改修に加え、耐久性向上改修をリフォーム減税の対象とすることにより、長期優良住宅化リフォーム減税を創設するとともに、省エネ改修に係る適用要件の合理化を行った。また、買取再販で扱われる住宅の取得に係る不動産取得税の特例措置や住宅用家屋に係る所有権の保存登記等に係る登録免許税の特例措置の適用期限を延長した。
 また、消費税率10%への引上げ時期が変更されたことに伴い、住宅ローン減税、すまい給付金、贈与税の非課税措置等の適用期限を33年12月31日まで2年半延長するとともに、すまい給付金の拡充(最大給付額30万円→50万円)と贈与税の非課税措置の拡充(最大限度額1,200万円→3,000万円)の導入時期を2年半延期し、31年4月とした。こうした措置により、若い世代の住宅取得が促進されるとともに、住宅取得等を検討している人々の予見性が高まり、住宅市場の安定に資することが期待される。


注 資産流動化の仕組みにおいて流動化の対象となる資産を保有している企業。オリジネーターは、債権や不動産などの資産を特定目的会社に譲渡するなどして資産を証券化することで資金調達を行う。


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