第3節 産業の活性化

■8 不動産業の動向と施策

(1)不動産業の動向
 不動産業は、全産業の売上高の2.8%、法人数の11.4%(平成27年度)を占める重要な産業の一つである。
 平成29年地価公示(29年1月1日時点)の結果によると、全国平均では、住宅地は下落から横ばいに転じ、商業地は2年連続の上昇となった。三大都市圏平均では、住宅地、商業地とも上昇を継続した。一方、地方圏では住宅地、商業地ともに下落が続いているものの、下落率は縮小している。新規住宅着工戸数は、25年度は98万戸、26年度は消費税率引上げに伴う駆け込み需要の反動減もあって88万戸となったが、27年度には、92万戸と再び増加した。
 既存住宅の流通市場については、指定流通機構(レインズ)注1の28年度の成約件数が17.9万件(前年度比3.4%増)となった。

(2)不動産業の現状
 宅地建物取引に係る消費者利益の保護と流通の円滑化を図るため、「宅地建物取引業法」の的確な運用に努めている。宅地建物取引業者数は、平成27年度末において123,307業者となっている。
 国土交通省及び都道府県は、関係機関と連携しながら苦情・紛争の未然防止に努めるとともに、同法に違反した業者には、厳正な監督処分を行っており、27年度の監督処分件数は227件(免許取消137件、業務停止63件、指示27件)となっている。
 また、マンションの適正な管理を図るため、「マンションの管理の適正化の推進に関する法律」に基づき、マンション管理業者の登録制度や適正な業務運営を確保するための措置を実施している。マンション管理業者数は、27年度末において2,185業者となっている。
 マンション管理業者に対しては、不正行為の未然防止等を図る観点から、立入検査を実施するとともに、必要な指導監督に努めている。
 さらに、賃貸住宅管理業務に関して一定のルールを設ける、「賃貸住宅管理業者登録制度」を23年12月から施行し、優良な賃貸住宅管理業の育成と発展に努めている。登録業者数は、27年度末において3,815業者となっている。また、制度創設5年を迎えるにあたり、第三者の有識者会議での検討を踏まえ、より一層の管理業務の適正化、増加するサブリースへの対応など、現下の諸課題に対応するため、28年8月に制度の見直しを行った。

(3)市場の活性化のための環境整備
1)不動産市場の現状
 我が国における不動産の資産額は、平成27年末現在で約2,519兆円となっている注2
 28年度にJリート(不動産投資法人)、不動産特定共同事業者、特定目的会社等により証券化の対象として取得された、不動産又は信託受益権の資産額は、約4.8兆円となっている。
 不動産投資市場の中心的存在であるJリートについては、28年度の1年間で新たに7件の新規上場が行われた。29年3月末現在、58銘柄が東京証券取引所に上場されており、対象不動産の総額は約17.2兆円、不動産投資証券の時価総額は約11.9兆円となっている。
 Jリート市場全体の値動きを示す東証リート指数は、28年前半は日銀によるマイナス金利政策等により市場に有利な状態となり、1月初旬の1,700ポイント前後から上昇し、2〜7月は概ね1,850〜1,900ポイントで推移した。8月以降は、長期金利の上昇等により軟調に推移したが、米国大統領選挙の結果を受けた米国景気上昇への期待、連邦準備理事会による利上げや我が国の長期金利の安定を背景とした円相場の下落等を受け、12月下旬は1,850ポイント前後で推移した。
 また、Jリートにおける28年の1年間における資産取得額は、約1.7兆円となった。

2)不動産に係る情報の環境整備
 国土交通省では、不動産市場の透明化、取引の円滑化・活性化等を図るため、全国の不動産の取引価格等の調査を行っている。調査によって得られた情報は、個別の物件が特定できないよう配慮した上で、取引された不動産の所在、面積、価格等をインターネット(土地総合情報システム注3)を通じて公表している(平成29年3月末現在の提供件数は、2,971,491件、Webアクセス総数は、約7億1千万件)。
 近年の金融危機などの教訓から、不動産価格の動向を適時・的確に把握するため、国土交通省では、IMF等の国際機関が作成した指針に基づき不動産価格指数(住宅)を毎月公表するとともに、28年3月より試験運用している不動産価格指数(商業用不動産)については四半期毎に公表した。
 
図表II-6-3-15 土地総合情報システム
図表II-6-3-15 土地総合情報システム

3)既存住宅流通に係る市場環境の整備
 欧米に比して住宅流通量全体に占めるシェアが低い既存住宅の流通促進を図るため、既存住宅の取引環境の整備に取り組んでいる。平成28年度は、宅地建物取引業者とインスペクションやリフォーム等の関連サービス事業者との連携業務に係る制度設計等の検討を踏まえ、建物状況調査(インスペクション)の活用等を促進するため、宅地建物取引業法を改正した。また、過去の取引履歴や周辺の取引事例、災害リスク・法令制限に関する情報等の不動産取引に必要な情報を効率的に集約し、宅地建物取引業者が消費者に対し必要な情報を適時適切に提供する不動産総合データベースの試行運用を横浜市、静岡市、大阪市及び福岡市で実施し、25年度に策定した「中古戸建て住宅に係る建物評価の改善に向けた指針」の考え方を反映して27年度に改訂した、宅地建物取引業者が査定時に用いる「価格査定マニュアル」の実務における普及・定着を図った。

4)税制の活用
 平成29年度税制改正においては、長期保有土地等に係る事業用資産の買換特例の適用期限を延長したほか、土地の所有権移転登記等に係る登録免許税の特例措置等の適用期限の延長、Jリート等が取得する不動産に係る特例措置の適用期限の延長及び拡充(不動産取得税の特例対象となる不動産にヘルスケア施設を追加)、特例事業者が取得する不動産に係る特例措置の適用期限の延長及び適用要件の緩和、不動産特定共同事業法における新たな事業類型の創設に伴う特例措置の創設を実施した。

(4)新しい時代に対応した不動産市場の構築
 「土地政策の新たな方向性2016」(平成28年8月国土審議会土地政策分科会企画部会)において示された土地政策の新たな方向性を踏まえ、今後の不動産鑑定評価制度の課題等について幅広く検討を行うため、不動産鑑定評価制度懇談会を開催した。
 また、不動産鑑定評価の信頼性を更に向上させるため、不動産鑑定業者に対する立入検査や証券化対象不動産の鑑定評価等に関する業務の実態調査等を内容とする鑑定評価モニタリングを実施している。
 リートの取得資産は、これまでオフィスや住宅が中心であったが、近年、ホテルや物流施設、ヘルスケア施設等の取得が進んでいる。リートがヘルスケア施設を取得する際の環境整備として、26、27年度に策定したヘルスケア施設を対象とするリートに係るガイドラインを活用し、関係省庁等と連携してヘルスケア関連事業者を対象としたセミナーを開催した。
 地方における不動産証券化手法の普及のため、地方都市における不動産証券化プロジェクトに対する専門家派遣やセミナーの開催等を行ったほかクラウドファンディング等を活用した空き家・空き店舗等の再生の取組みを促進するため、小規模不動産特定共同事業の登録制度の創設、クラウドファンディングに係る規定の整備等の措置を講ずる「不動産特定共同事業法の一部を改正する法律案」を29年3月に閣議決定し、国会に提出した。
 耐震・環境不動産形成促進事業においては、28年度には2件の環境開発案件及び環境改修案件に出資するための官民ファンドに出資を決定した。
 また、地方公共団体の所有する公的不動産(Public Real Estate:PRE)の活用を促進し、不動産投資市場の更なる拡大を目指すため、証券化手法等の活用についての地方公共団体職員向けの手引書の普及や関連モデル事業を実施した。さらに、民間活用等に積極的な地方公共団体等が公表している低未利用地の売却・貸付け情報や民間提案窓口情報を一元的に集約し公開する「公的不動産(PRE)ポータルサイト注4」を開設した。


注1 宅地建物取引業者が指定流通機構に物件情報を登録し、業者間で情報交換を行う仕組み。成約した物件の取引価格情報等は指定流通機構に蓄積される。
注2 国民経済計算をもとに建物、構築物及び土地の資産額を合計
注3 http://www.land.mlit.go.jp/webland/
注4 http://tochi.mlit.go.jp/pre-portal-site/preportalsite


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