第4節 健全な水循環の維持又は回復

コラム 平成28年の利根川水系の渇水とその対応

 平成28年は、関東や四国をはじめ複数の地域で取水制限が実施されるなど、全国の広い範囲で渇水となりました。特に、利根川水系においては、上流の降雪量が観測開始以来最小であったこと、雪解けが例年よりも1か月早くなったこと、5月の降雨量が平年の約48%(総雨量56mm)であったことから、5月以降、河川の流量が減少し始めました。
 
例年より早かった利根川水系上流の雪解け(奈良俣ダム周辺)
例年より早かった利根川水系上流の雪解け(奈良俣ダム周辺)

 この状況を受け、国土交通省関東地方整備局又は独立行政法人水資源機構が管理している首都圏の水瓶とされる利根川上流8ダム(矢木沢、奈良俣、藤原、相俣、薗原、草木、下久保、渡良瀬貯水池の各ダム)では、断水等の被害が発生しないよう、不足する水量を連日補給しました。
 
主な渇水年における利根川上流8ダムの貯水量の推移
主な渇水年における利根川上流8ダムの貯水量の推移

 その間も、まとまった降雨がなかったため、各ダムの貯水量がみるみるうちに減少し、現行の8ダム体制となった過去25年間で最小レベルにまで低下したことで、水不足による首都圏への深刻な影響が懸念されたため、6月14日に国土交通省渇水対策本部(本部長:石井啓一国土交通大臣)を設置し、本部会議を開催しました。
 石井大臣からは、「利根川水系での渇水対策協議会等を通じ、利水者間の円滑な調整を図ること」、「渇水に関わる情報を共有・発信するとともに、限られた水資源を有効に活用するべく、国民に節水等の協力を呼びかけること」、「今後渇水の影響が拡大した場合に備え、関係部局において、必要な措置が講じられるよう準備を開始すること」との指示がありました。
 
国土交通省渇水対策本部における石井大臣の指示
国土交通省渇水対策本部における石井大臣の指示

 
利根川水系の10%取水制限開始のお知らせ(ツイッター)
利根川水系の10%取水制限開始のお知らせ(ツイッター)

 6月16日からは、利根川本川としては昭和62年以来となる6月からの取水制限(10%)に踏み切りました。これを受け、利根川流域のあらゆる場所において、様々な媒体を通じた情報発信により、節水を呼びかけました。また、利根大堰では、休日夜間を問わずきめ細やかな操作を行うなどの監視・操作体制を強化し、できる限りの節水に努めました。さらに、8ダムの貯水が枯渇する最悪の事態を想定し、ダムの発電専用容量を保有する電力事業者に対し、非常時に当該容量からの放流協力を得るため、予め協議を行うなどの対応にも取り組みました。
 
国土交通省の渇水対応の例(情報の発信、北千葉導水路の活用)
国土交通省の渇水対応の例(情報の発信、北千葉導水路の活用)

 このほか、利根川の下流に位置する北千葉導水路では、少雪・暖冬傾向に鑑み、夏場の渇水が懸念されていたため、2月以降、河川の流量の状況を見ながら断続的に利根川から江戸川に導水することを徹底し、8ダムからの補給を最小限に抑えその貯水量の温存に努めました。その結果、導水がなかった場合と比較し、取水制限開始時期を8日間遅らせるとともに、20%の取水制限を回避することができたと想定しています。
 
地下鉄駅等に掲示された節水を呼びかけるポスター
地下鉄駅等に掲示された節水を呼びかけるポスター

 このような渇水対策の取組みを行う中で、幸いにもまとまった降雨がもたらされたため、9月2日に取水制限は全面解除され、渇水は解消しました。結果として、平成28年の渇水においては、断水等の深刻な影響は発生しませんでしたが、限りある水資源の重要性を改めて認識し、引き続き有効活用に努めていくことが求められています。


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