第3節 産業の活性化

■8 不動産業の動向と施策

(1)不動産業の動向
 不動産業は、全産業の売上高の3.0%、法人数の11.6%(平成28年度)を占める重要な産業の一つである。
 平成30年地価公示(30年1月1日時点)の結果によると、平均変動率について、全国平均では、住宅地は昨年の横ばいから10年ぶりに上昇に転じ、商業地は3年連続の上昇、工業地は2年連続の上昇となった。三大都市圏平均では、住宅地、商業地及び工業地のいずれについても、各圏域で上昇を示した。また、地方圏平均では住宅地は下落幅の縮小傾向が継続し、商業地及び工業地は26年ぶりに上昇に転じた。新規住宅着工戸数は、26年度は消費税率引上げに伴う駆け込み需要の反動減もあって88万戸と前年比で減少したが、27年度には92万戸と再び増加し、28年度には97万戸と更に増加した。
 既存住宅の流通市場については、指定流通機構(レインズ)注1の29年度の成約件数が179万件(前年度比0.4%増)となった。

(2)不動産業の現状
 宅地建物取引に係る消費者利益の保護と流通の円滑化を図るため、「宅地建物取引業法」の的確な運用に努めている。宅地建物取引業者数は、平成28年度末において123,416業者となっている。
 国土交通省及び都道府県は、関係機関と連携しながら苦情・紛争の未然防止に努めるとともに、同法に違反した業者には、厳正な監督処分を行っており、28年度の監督処分件数は251件(免許取消168件、業務停止55件、指示28件)となっている。
 また、マンションの適正な管理を図るため、「マンションの管理の適正化の推進に関する法律」に基づき、マンション管理業者の登録制度や適正な業務運営を確保するための措置を実施している。マンション管理業者数は、28年度末において2,131業者となっている。
 マンション管理業者に対しては、不正行為の未然防止等を図る観点から、立入検査を実施するとともに、必要な指導監督に努めている。
 さらに、賃貸住宅管理業務に関して一定のルールを設ける、「賃貸住宅管理業者登録制度」を23年12月から施行し、優良な賃貸住宅管理業の育成と発展に努めている。登録業者数は、28年度末において3,896業者となっている。また、28年8月に制度の改正を行ったことを受け、検討会を開催し住宅の標準賃貸借代理及び管理委託契約書の見直しを行った。
 加えて、29年6月に、適切な規制のもとに民泊サービスを推進するため「住宅宿泊事業法」が成立し、民泊に関する新たな事業類型として住宅宿泊管理業が定義された。標準管理受託契約書の策定や制度に関する説明会の開催等、30年6月の同法の円滑な施行に向けた環境整備に努めた。

(3)市場の活性化のための環境整備
1)不動産投資市場の現状
 我が国における不動産の資産額は、平成28年末現在で約2,562兆円となっている注2
 29年度にJリート(不動産投資法人)、不動産特定共同事業者、特定目的会社等により証券化の対象として取得された、不動産又は信託受益権の資産額は、約4.8兆円となっている。
 不動産投資市場の中心的存在であるJリートについては、29年度の1年間で新たに3件の新規上場が行われた。30年3月末現在、60銘柄が東京証券取引所に上場されており、対象不動産の総額は約18.6兆円、不動産投資証券の時価総額は約11.9兆円となっている。
 Jリート市場全体の値動きを示す東証リート指数は、29年前半は、長期金利の不安定な動きや毎月分配型投資信託の解約売り等により1,800ポイント台半ばから1,600ポイント台まで低下した。29年後半初めは、投資口価格下落に伴う利回りの高さへの着目から1,700ポイント台まで上昇した。その後、長期金利の上昇や東アジア情勢等の地政学リスク、米国株高等により、1,600ポイント付近まで再び低下した後、割安感から買いが進行し1,600ポイント台後半まで上昇した。
 また、Jリートにおける29年の1年間における資産取得額は、約1.3兆円となった。

2)不動産投資市場の整備
 2020年頃までにリート等の資産規模を約30兆円にすることを目指し、平成29年6月に「不動産投資市場の成長に向けたアクションプラン」注3を策定した。

3)公的不動産の利用促進
 地方公共団体への専門家の派遣や民間事業者等の関係者との協議を通じて、公的不動産(PRE)の証券化を進めるための条件の調査・検討を実施し、地方公共団体職員向けの手引書の改訂を実施した。

4)リートの多様化の推進
 リートの取得資産は、これまでオフィスや住宅、商業施設が中心であったが、近年、ホテルや物流施設、ヘルスケア施設等の取得が進んでいる。リート市場の更なる拡大に資するため、関係省庁等と連携し、介護・医療施設関連事業者を対象としたヘルスケアリートに関するセミナーを実施した。

5)環境不動産の普及促進
 投資家が企業に対して環境・社会・ガバナンスへの配慮を求めるESG投資の世界的潮流を踏まえ、健康性、快適性等に優れた不動産の普及促進に向けた検討を行った。また、環境不動産等の良質な不動産の形成を促進するため、耐震・環境不動産形成促進事業においては、平成29年度には4件の環境改修案件に出資するための官民ファンドに出資を決定した。

6)不動産特定共同事業の推進
 小規模不動産特定共同事業の創設、クラウドファンディングに対応した環境整備、適格特例投資家限定事業の創設等を主な内容とする不動産特定共同事業法の一部を改正する法律を平成29年6月に公布、12月に施行した。同法に係る説明会やセミナーを全国で開催し、各地の事業者等に向けて改正の概要等について説明を行ったほか、実務手引書やモデル約款の作成等、同法の適切な運用に必要な措置を講じるとともに、小規模不動産特定共同事業に係る登録を受けることを検討している事業者に対し、専門家を派遣するなど、新制度の活用促進に向けた取組を実施した。

7)不動産に係る情報の環境整備
 国土交通省では、不動産市場の透明化、取引の円滑化・活性化等を図るため、以下の通り、不動産に係る情報を公表している。

(ア)不動産取引価格情報
 全国の不動産の取引価格等の調査を行っている。調査によって得られた情報は、個別の物件が特定できないよう配慮した上で、取引された不動産の所在、面積、価格等をインターネット(土地総合情報システム)を通じて公表している(平成30年3月末現在の提供件数は、3,265,830件 、Webアクセス総数は、約7億9千万件)。
 
図表II-6-3-14 土地総合情報システム
図表II-6-3-14 土地総合情報システム

(イ)不動産価格指数
 IMF等の国際機関が作成した基準に基づき、不動産価格指数(住宅)を毎月、公表している。また、不動産価格指数(商業用・試験運用段階)を四半期毎に公表している。

8)既存住宅流通に係る市場環境の整備
 欧米に比して住宅流通量全体に占めるシェアが低い既存住宅の流通促進を図るため、既存住宅の取引環境の整備に取り組んでいる。平成29年度は、宅地建物取引業者が専門家による建物状況調査(インスペクション)の活用を促す改正宅地建物取引業法(28年6月成立)の施行(平成30年4月)に向け、制度内容に関する説明会を開催する等、制度の周知徹底を図った。
 また、空き家等の媒介・マッチング機能の強化を図るため、低廉な空き家等であって通常より現地調査費用等を要するものについて、従前の報酬額の上限に加え、当該費用等を考慮した額の報酬を売主から受領できるようにするためいわゆる報酬告示注4を改正したほか、全国の空き家・空き地の情報がワンストップで検索可能な「全国版空き家・空き地バンク」の試行運用を開始した。

9)土地税制の活用
 平成30年度税制改正においては、土地に係る固定資産税の負担調整措置及び条例減額制度を延長したほか、土地等に係る不動産取得税の特例措置の適用期限の延長等を実施した。

10)不動産市場を支える制度インフラの整備
 不動産鑑定評価制度の課題等について検討するために開催された不動産鑑定評価制度懇談会において、「不動産鑑定評価制度の今後の方向性(当面の方策に関する提言)」をとりまとめた。
 また、不動産鑑定評価の信頼性を更に向上させるため、不動産鑑定業者に対する立入検査などを内容とする鑑定評価モニタリングを実施した。


注1 宅地建物取引業者が指定流通機構に物件情報を登録し、業者間で情報交換を行う仕組み。成約した物件の取引価格情報等は指定流通機構に蓄積される。
注2 国民経済計算をもとに建物、構築物及び土地の資産額を合計
注3 具体的施策の柱立ては以下の通り。「1.CRE等の改革(企業・団体不動産の活性化)」、「2.リート市場等の改革」、「3.不動産投資家の投資環境の改革」、「4.人材育成の改革」
注4 「宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買等に関して受けることができる報酬の額」(昭和45年建設省告示第1552号)


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