第1節 ICTの利活用による国土交通分野のイノベーションの推進

コラム 「日本の重力値の基準を40年ぶりに更新」

 「水は低きに就く如し(ごとし)」という言葉をご存じでしょうか。この言葉は、孟子が性善説を説明するときに用いた言葉で、「人間の本性が善であることは、水が高いところから低いところに流れるのと同じような自然の摂理である」との意味です。
 水が高いところから低いところに流れるのは当たり前の自然現象です。では、真っ平らな地面に水滴が落ちた場合、水滴はそのまま移動しないのでしょうか?その答えは、水滴はほとんどの場合移動します。理由は、真っ平らな地面でも、地下に重い物質があると、その物質に引っ張られる力(引力)により重力が大きくなり、水は移動します。(図1)
 
図1 重力と水の流れ
図1 重力と水の流れ

 では、重力とはどのような力でしょうか。私たちが暮らす地球上では、地球の引力が働くとともに、地球の自転による遠心力も働いています。重力は、地球の引力と遠心力の合力です。そして重力は時間や場所によって大きさが異なります。(図2)
 
図2 引力、遠心力及び重力の関係
図2 引力、遠心力及び重力の関係

 国土地理院で測定する重力値は、1)水の流れを知るための標高の決定、2)物の質量を量る「はかり」の校正、3)活断層の調査や資源探査など、私たちが地球上で社会生活を営む上で役に立てられています。(写真)
 
写真 重力測定
写真 重力測定

 物の質量を量る「はかり」の校正に重力値が使われるのはなぜでしょうか。物の重さは重力の大きさによって変わります。地球の遠心力は高緯度ほど小さくなるので、緯度が異なる北海道と沖縄を比べると、北海道の方が少しだけ重力値が大きくなり、同じ物でもその分重くなります。例えば、沖縄で1キログラムの金を購入し、北海道に持っていくだけで約1グラム大きい値を「はかり」が指し示します。これでは社会が混乱するため、同じ物が地球上のどこにいても同じ重さで量れるように、各地の重力値で「はかり」を校正するために重力値が使われています。(図3)
 
図3 各地の重力値
図3 各地の重力値

 また、鉱床のような周囲より高密度の物質が地中にあると、その物質の引力の影響で、地上で測定する重力値は増加します。さらに、活断層などによる地層の不連続でも、断層の両側で密度が違うため重力値に変化が生じます。重力値の分布を調べることで地下構造の様子を知ることができ、地下の活断層の分布や形状、規模の推定など、防災・減災分野や地下資源の探査などにも活用されています。(図4)
 
図4 地下構造と重力値の関係
図4 地下構造と重力値の関係

 国土地理院では、水の流れを知るための標高の決定、物の質量を量る「はかり」の校正、活断層調査や資源探査などに活用されている国内の重力値の基準を40年ぶりに更新し「日本重力基準網2016(JGSN2016)」を公開しました。今後は、航空機で効率良く重力を測定し、全国を網羅した均一かつ高品質な重力値を整備する計画です。


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