■9 持続可能な建設産業の構築 (1)建設産業を取り巻く現状と課題  建設産業は、社会資本の整備を支える不可欠の存在であり、都市再生や地方創生など、我が国の活力ある未来を築く上で大きな役割を果たすとともに、震災復興、防災・減災、老朽化対策、メンテナンスなど地域の守り手としても極めて重要な役割を担っている。  一方、少子高齢化の進展に伴い、建設産業は高齢化の進行等の構造的な課題に直面しており、今後、これらの課題に対応し、持続的な建設産業を構築していくことが必要である。  こうした中、平成28年10月に建設産業政策会議を立ち上げ、10年後においても建設産業が「生産性」を高めながら「現場力」を維持できるよう、建設業関連制度の基本的な枠組みについて検討を行い、平成29年7月には「建設産業政策2017(にぃまるいちなな)+(プラス)10(テン)〜若い人たちに明日(あす)の建設産業を語ろう〜」がとりまとめられた。これを受け、同年7月に経営事項審査、建設工事標準請負契約約款の改正を行ったほか、同年8月には「適正な工期設定等のためのガイドライン」を策定するなど、提言された政策については、スピード感を持って着実に実施・具体化に取り組んでいるところである。  この他、平成28年12月に成立した「建設工事従事者の安全及び健康の確保の推進に関する法律」に基づく基本計画が平成29年6月に閣議決定された。  建設投資、許可業者数及び就業者数の推移は図表II-6-3-15のとおりである。 図表II-6-3-15 建設投資、許可業者数及び就業者数の推移 (2)建設産業の担い手確保・育成  建設産業は、多くの「人」で成り立つ産業である。建設業就業者数は近年、横ばいで推移しているが、今後、高齢者の大量離職が見込まれており、建設産業が地域の守り手として持続的に役割を果たしていくためには、引き続き、若者をはじめとする担い手の確保・育成を図るとともに、働き方改革に取り組んでいくことが重要である。  このため、平成30年3月に策定した「建設業働き方加速化プログラム」を踏まえ、長時間労働の是正を図るとともに、適切な賃金水準の確保や社会保険への加入徹底、建設キャリアアップシステムの構築等による処遇改善に取り組む。また、将来の労働力人口の減少を踏まえ、建設現場におけるi-Constructionや重層下請構造の改善、建設業従事者に必要とされる技能の習得をICT等を活用し効果的・継続的に行う「建設リカレント教育」等による生産性の向上も図っていく。  加えて、若者の早期活躍を推進するため、技術検定制度の見直しを進めるとともに、建設業における円滑な技能承継を図るため、教育訓練の充実強化を図り、さらに、建設業における女性の更なる活躍を推進する。  こうした取組みを官民一体となって推進し、建設業への入職を促進し、誇りを持って仕事に打ち込めるような環境整備に取り組んでいく。  このほか、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会等による当面の一時的な建設需要の増大に対応するための時限的措置として、平成27年4月1日より外国人建設就労者受入事業を実施しており、2,983人の外国人建設就労者が入国している(30年3月31日時点)。 (3)公正な競争基盤の確立  建設産業においては、「技術力・施工力・経営力に優れた企業」が成長していけるよう、建設業者の法令遵守の徹底をはじめとする公正な競争基盤の確立が重要である。このため、従前より下請取引等実態調査や立入検査等の実施、建設工事の請負契約を巡るトラブル等の相談窓口「建設業取引適正化センター」の設置、「建設業取引適正化推進月間」の取組みを行っているほか、「建設企業のための適正取引ハンドブック」の作成、配布を通じて、建設業における元請・下請間の取引の適正化に取り組んでいる。 (4)建設企業の支援施策 1)地域建設業経営強化融資制度  地域建設業経営強化融資制度は、元請建設企業が工事請負代金債権を担保に融資事業者(事業協同組合等)から工事の出来高に応じて融資を受けることを可能とするものであり、これにより元請建設企業の資金繰りの円滑化を推進している。本制度では、融資事業者が融資を行うにあたって金融機関から借り入れる転貸融資資金に対して債務保証を付すことにより、融資資金の確保と調達金利等の軽減を図っている。  なお、本制度は平成20年11月から実施されており、30年度以降も引き続き実施することとした。 図表II-6-3-16 地域建設業経営強化融資制度 2)下請債権保全支援事業  下請債権保全支援事業は、ファクタリング会社(注)が、下請建設企業等が元請建設企業に対して有する工事請負代金等債権の支払を保証する場合に、保証時における下請建設企業等の保証料負担を軽減するとともに、保証債務履行時のファクタリング会社の損失の一部を補償することにより、元請建設企業の倒産等に伴う下請建設企業等の連鎖倒産を防止する事業である。  なお、本事業は平成22年3月から実施されており、30年度においても引き続き実施することとした。 図表II-6-3-17 下請債権保全支援事業 3)建設産業生産性向上支援事業  建設産業生産性向上支援事業は、社会資本の整備・維持管理や地域の防災・減災など、地域社会を支える中小・中堅建設企業に対して、人材開発の専門家や中小企業診断士等の相談支援アドバイザーが、建設産業を取り巻く様々な課題解決に向けたアドバイスを実施する事業である。また、複数の企業等の協働による生産性向上に資する取組みでモデル性の高い案件については、重点支援として計画実行段階の経費の一部支援を実施しており、平成29年度は5件を選定して支援を実施した。 (5)建設関連業の振興  建設関連業(測量業、建設コンサルタント、地質調査業)全体の登録業者情報を毎月、その情報を基にした業種ごとの経営状況の分析を翌年度末に公表しており、また関連団体と協力し就職前の学生を対象に建設関連業の説明会を開催するなど、建設関連業の健全な発展と登録制度の有効な活用に努めている。 (6)建設機械の現状と建設生産技術の発展  我が国における主要建設機械の保有台数は、平成25年度で約87万台であり、建設機械の購入台数における業種別シェアは、建設機械器具賃貸業が約54%、建設業が約25%となっている。  情報化施工の普及促進のため、第二期「情報化施工推進戦略」(25年3月策定)に基づき、機械の自動制御等により高精度かつ効率的な施工を実現するマシンコントロール/マシンガイダンス技術等の積極的な活用を図っている。情報化施工の普及促進のためには、現状、情報化施工機器の普及が十分とは言えないことから、建設業とともに、建設機械の購入シェアの大きい建設機械器具賃貸業の健全な育成発展が欠かせないものとなっている。 (7)建設工事における紛争処理  建設工事の請負契約に関する紛争を迅速に処理するため、建設工事紛争審査会において紛争処理手続を行っている。平成28年度の申請実績は、中央建設工事紛争審査会では33件(仲裁4件、調停23件、あっせん6件)、都道府県建設工事紛争審査会では99件(仲裁17件、調停63件、あっせん19件)となっている。 注 他人が有する売掛債権の保証や債権の買取りを行い、その債権の回収を行う金融事業会社のこと。現在、銀行子会社系・前払保証会社系・リース会社系など10社のファクタリング会社が、当事業を運営している。