■3 海上交通における安全対策
我が国の周辺海域では、毎年2,000隻前後の船舶事故が発生している。ひとたび船舶事故が発生すると、尊い人命や財産が失われるばかりでなく、我が国の経済活動や海洋環境にまで多大な影響を及ぼす可能性があるため、更なる安全対策の推進が必要である。
(1)船舶の安全性の向上及び船舶航行の安全確保
1)船舶の安全性の向上
船舶の安全に関しては、国際海事機関(IMO)を中心に国際的な規則及び基準が定められており、我が国はIMOにおける議論に積極的に参画している。
IMOにおいて、ヒューマンエラーの防止等による海上安全の向上のため、最新のICT技術を活用した自動運航船に係る国際ルールの検討が、我が国等の提案に基づき行われることになった。
また、近年旅客フェリーの火災事故が世界的に多発していることが指摘されており、IMOにおいて旅客フェリーの火災安全対策の検討を進めている。我が国としても国内の火災事例に基づく対策をIMOに提示して、議論に貢献している。
このような国際規則・基準が我が国に入港する外国船舶によって遵守されることを確保し、サブスタンダード船注1を排除するため、ポートステートコントロール(PSC)注2が実施されている。
国内の船舶安全対策に特化した取組みとしては、27年7月に北海道苫小牧沖で発生したフェリーの火災事故を受けて、フェリー事業者による消火活動の備えを強化するための有効な消火手順、消火設備の特性、訓練の方法などをまとめた手引き書を取りまとめて公表しており、30年度も引き続き、全国のフェリー事業者に対して指導を行った。
また、小型船舶の安全対策として、関係省令の改正によって30年2月1日から、原則としてすべての乗船者にライフジャケットの着用が義務付けられたことを踏まえ、各種イベントにおいて規制の説明やリーフレットの配布を行うなど、関係省庁、団体と連携して周知啓発を図った。
2)船舶航行の安全確保
STCW条約注3に準拠した「船舶職員及び小型船舶操縦者法」に基づき、船舶職員の資格を定めるとともに、小型船舶操縦者の資格及び遵守事項について定め、人的な面から船舶航行の安全を確保している。また、海難全体の約7割を占める小型船舶の事故件数減少を目的として、遵守事項の周知徹底を図り、違反者への再教育講習を行っている。また、「水先法」に基づき、水先人の資格を定め、船舶交通の安全を確保しており、水先人の安定的な確保を目的に設置した水先人の人材確保・育成等に関する検討会第2次とりまとめを踏まえ、平成30年1月に法令を一部改正し、試験事項の一部合格制度を新設する等により、水先人への応募をより活性化させる取組みを行っている。
職務上の故意又は過失によって海難を発生させた海技士、小型船舶操縦士及び水先人等に対しては、「海難審判法」に基づく調査、審判を実施しており、30年には303件の裁決を行い、海技士、小型船舶操縦士及び水先人等計410名に対する業務停止(1箇月から2箇月)及び戒告の懲戒を行うなど、海難の発生防止に努めている。
海上保安庁では、平成15年以来、おおむね5年間に取組むべき船舶交通安全政策の方向性と具体的施策を「交通ビジョン」として位置づけており、平成30年4月に新たな「第4次交通ビジョン」を策定し、より広く海上安全を確保するための各種施策を推進している。
船舶事故の原因は、見張り不十分、操船不適切といった人為的な要因が約7割を占めることから、海上保安庁では、これら不注意による事故を防止するため、発生した海難を日々分析し、その結果を踏まえ、関係機関や民間団体と連携の上、船舶の種類や活動シーズンに応じた事故防止対策に取り組んでいる。
また、情報不足に起因する海難を防止するため、広く国民に対し「海の安全情報」注4等による情報提供を実施している。
津波等の非常災害発生時において、船舶を迅速かつ円滑に安全な海域に避難させるとともに、平時において、混雑を緩和し、安全かつ効率的な船舶の運航を実現するため、東京湾海上交通センターと千葉港、横浜港、川崎港及び東京港の港内交通管制室を統合のうえ、これら業務を一体的に実施する新たな海上交通センターを横浜に設置し、平成30年1月に運用を開始するとともに、船舶交通がふくそうしている東京湾口海域において、船舶交通の整流化を図るため、平成31年3月1日から、海上交通安全法に基づき海上保安庁長官が経路を指定し、バーチャルAIS航路標識を活用した安全対策を開始した。
海図については、電子海図情報表示装置(ECDIS)の普及に伴い、重要性の増した電子海図の更なる充実を図っている。また、外国人船員に対する海難防止対策の一環として英語表記のみの海図等を刊行しており、平成30年度は、海上交通安全法第25条第2項に基づく東京湾に新たな経路が指定されたことに伴い、関係する東京湾の海図へ反映を行った。
水路通報・航行警報については、有効な情報を地図上に表示したビジュアル情報をインターネットで提供しており、30年11月5日からは、スマートフォン向けの運用も開始した。また、水路通報・航行警報はもとより、気象海象や船舶通航量等の様々な情報を提供する海洋状況表示システム(海しる)を4月から運用を開始した。