■8 不動産業の動向と施策 (1)不動産業の動向  不動産業は、全産業の売上高の2.8%、法人数の11.5%(平成29年度)を占める重要な産業の一つである。  平成31年地価公示(31年1月1日時点)の結果によると、平均変動率について、全国平均では、住宅地は2年連続、商業地は4年連続、工業地は3年連続の上昇となった。三大都市圏では、住宅地、商業地及び工業地のいずれについても、各圏域で上昇を示した。また、地方圏では住宅地は27年ぶりに上昇に転じ、商業地及び工業地は2年連続の上昇となった。既存住宅の流通市場については、指定流通機構(レインズ)(注1)における30年度の成約件数が18.2万件(前年度比1.3%増)となった。 (2)不動産業の現状  宅地建物取引に係る消費者利益の保護と流通の円滑化を図るため、「宅地建物取引業法」の的確な運用に努めている。宅地建物取引業者数は、平成29年度末において123,782業者となっている。  国土交通省及び都道府県は、関係機関と連携しながら苦情・紛争の未然防止に努めるとともに、同法に違反した業者には、厳正な監督処分を行っており、29年度の監督処分件数は208件(免許取消146件、業務停止36件、指示26件)となっている。  また、マンションの適正な管理を図るため、「マンションの管理の適正化の推進に関する法律」に基づき、マンション管理業者の登録制度や適正な業務運営を確保するための措置を実施している。マンション管理業者数は、29年度末において2,001業者となっている。  マンション管理業者に対しては、不正行為の未然防止等を図る観点から、立入検査を実施するとともに、必要な指導監督に努めている。  さらに、賃貸住宅管理業務に関して一定のルールを設ける、「賃貸住宅管理業者登録制度」を23年12月から施行し、賃貸住宅管理業の健全な発達に努めている。登録業者数は、29年度末において4,065業者となっている。また、平成30年度は、サブリースに関するトラブル等の発生を受けて、関係省庁と連携して、サブリース契約に係る注意喚起等を実施した。加えて、「住宅宿泊事業法」(平成30年6月施行)に基づき、住宅宿泊管理業を営む者の登録業務を推進したほか、住宅宿泊管理業者に関係法令等の遵守徹底を求めるなど、同事業の適正な運営の確保に努めている。 (3)市場の活性化のための環境整備 1)不動産投資市場の現状  我が国における不動産の資産額は、平成29年末現在で約2,607兆円となっている(注2)。  国土交通省では、未来投資戦略2017において、2020年頃にリート等(注3)の資産総額を約30兆円にするという目標を掲げているが、不動産投資市場の中心的存在であるJリートについては、30年度の1年間で新たに4件の新規上場が行われた。31年3月末現在、63銘柄が東京証券取引所に上場されており、30年3月末現在で対象不動産の総額は約18.6兆円、私募リートと不動産特定共同事業と併せて21.8兆円となっている。  Jリート市場全体の値動きを示す東証リート指数は、平成30年前半は、米国株高の影響により相対的に割安なJリート市場に資金が流入し1,700ポイント台半ばまで上昇したが、米国長期金利の上昇等を原因とする国内株式下落の影響による投資家心理の悪化により1,600ポイント台まで低下した。その後は、長期金利等の影響を受けながらも好調な不動産市況等を背景に堅調に推移し、1,700ポイント台後半まで上昇した。平成30年後半は、1,700ポイント台を安定して推移し、株式を始めとした商品市況のなか、安定した運用先として資金が流入し1,800ポイント台まで上昇した。年末にかけて株式相場の下落等により一時的に1,700ポイント台前半まで低下したものの、その後1,700ポイント台半ばまで上昇した。  また、Jリートにおける30年の1年間における資産取得額は、約1.8兆円となった。 2)不動産特定共同事業の推進  平成29年12月に施行された「不動産特定共同事業法の一部を改正する法律」により整備された不動産特定共同事業におけるクラウドファンディングに係る規定について、業務管理体制や情報開示に係るガイドラインを策定したほか、小規模不動産特定共同事業等の不動産証券化を活用したモデル事業の支援等、民間の資金・アイデアを活用した老朽不動産の再生の推進に向けた取組みを実施した。また、個人が安全に投資することができる長期・安定的な不動産投資商品の組成を促進するべく、対象不動産変更型契約に係る規制の合理化等を内容とする「不動産特定共同事業法施行規則」等の改正を行った。 3)環境不動産の普及促進  ESGへの配慮を求める動きが拡大していることを踏まえ、環境整備に向けた検討を行う。また、環境不動産等の良質な不動産の形成を促進するため、耐震・環境不動産形成促進事業においては、平成30年度には45億円の出資を決定した。 4)不動産に係る情報の環境整備  国土交通省では、不動産市場の透明化、取引の円滑化・活性化等を図るため、以下の通り、不動産に係る情報を公表している。 (ア)不動産取引価格情報  全国の不動産の取引価格等の調査を行っている。調査によって得られた情報は、個別の物件が特定できないよう配慮した上で、取引された不動産の所在、面積、価格等を公表している(平成31年3月末現在の提供件数は、約360万件)。 図表II-6-3-14 土地総合情報システム (イ)不動産価格指数  IMF等の国際機関が作成した基準に基づき、不動産価格指数(住宅)を毎月、公表している。また、不動産価格指数(商業用・試験運用段階)を四半期毎に公表している。 5)既存住宅流通に係る市場環境の整備  欧米に比して住宅流通量全体に占めるシェアが低い既存住宅の流通促進を図るため、既存住宅の取引環境の整備に取り組んでいる。平成30年度は、建物状況調査を受けるなど、一定の要件を満たす既存住宅を対象に、国が商標登録をしたロゴマークの使用を認める「安心R住宅」制度の運用を開始した。また、平成28年に改正された「宅地建物取引業法」(平成30年4月施行)に基づき、宅地建物取引業者が専門家による建物状況調査(インスペクション)の活用を促すなど、消費者が安心して既存住宅を取引できる市場環境の整備を推進した。さらに、平成30年4月より全国の空き家等の情報を簡単にアクセス・検索できる「全国版空き家・空き地バンク」の運用を公募で選定した2事業者により開始するとともに、不動産団体等による空き家等の利活用に向けた先進的な取組みに対する支援を実施する等、空き家等に係るマッチング機能の強化を図った。 6)土地税制の活用  平成31年度税制改正においては、土地の所有権移転登記等に係る登録免許税の特例措置の適用期限を延長したほか、Jリート等が取得する不動産に係る特例措置の適用期限の延長、特例事業者等が取得する不動産に係る特例措置の適用期限の延長及び拡充(特例事業者又は適格特例投資家限定事業者に係る登録免許税の特例措置の要件のうち、「対象不動産に係る工事の竣工後10年以内の譲渡」の要件の撤廃、「土地及び建物」の取得要件の見直し(借地上の建物の追加))、所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法に規定する地域福利増進事業の用に供する資産に係る特例措置の創設等を実施した。 7)不動産市場を支える制度インフラの整備  不動産鑑定評価の信頼性を更に向上させるため、不動産鑑定業者に対する立入検査などを内容とする鑑定評価モニタリングを実施した。また、不動産鑑定評価基準等について、社会ニーズや環境の変化に的確に対応していくための検討を実施した。 注1 宅地建物取引業者が指定流通機構に物件情報を登録し、業者間で情報交換を行う仕組み。成約した物件の取引価格情報等は指定流通機構に蓄積される。 注2 国民経済計算をもとに建物、構築物及び土地の資産額を合計 注3 Jリート、私募リート、不動産特定共同事業