■3 各分野における多国間・二国間国際交渉・連携の取組み (1)国土政策分野  平成30年度は、ハビタットIIIにおける戦略的な国土政策の推進に関する国際的な合意を踏まえ、我が国の国土・地域政策の海外展開を積極的に推進していくため、アジア各国を中心に、政府関係者、国際機関等様々なステークホルダーをネットワーク化し、会議、HP等により国土・地域政策に係る知見等を共有し課題解決を目指す「国土・地域計画策定・推進支援プラットフォーム」を構築した。 (2)都市分野  平成30年5月は、EUとの間で都市政策に関する政策対話を行った。  ミャンマーに対しては、同国建設省及びヤンゴン地域政府の要請を受け、都市・地域開発計画法関連法令の策定支援及び、ヤンゴン市ヤンキン地区における公有地を活用した都市機能の向上に関する調査を実施するとともに、現地JICA専門家を通じて技術協力を行った。  また、タイに対し、同国運輸省の要請を受け、バンスー開発計画の実現に向けて、現地JICA専門家を通じて技術協力を行った。 (3)水分野  水問題は地球規模の問題であるという共通認識のもと、国際会議等において問題解決に向けた議論が行われている。平成30年7月にシンガポールで開催された環境・水リーダーズフォーラムに秋本国土交通大臣政務官がパネリストとして登壇した。逼迫する天然資源のマネジメントとして新たに提唱されている環境型経済をテーマにした同フォーラムにおいて、水の分野での実践の一例として、健全な水循環に向けた日本の取組みについて事例を交えて情報発信を行った。また、平成30年5月にアメリカ(ワシントン)で第13回日米治水及び水資源管理会議を実施し、気候変動による危機的な渇水や大規模災害、施設の老朽化などリスクを前提とした新たな水資源政策を紹介し議論を行った。平成30年9月に日本(東京)で開催された国際水協会(IWA)の世界会議では、石井国土交通大臣より、水環境問題が顕在化する地域において、下水道整備のハード整備のみならず、人材育成や法制度等の整備といったソフト面が重要である旨を述べた。さらに、平成30年12月に日本で第28回日中河川及び水資源交流会議を開催し、水資源・水循環に関わる最近の取組み、ダム等の建設事業の資金の流れ、雨水利用に関する議論を行った。  それに加え、水資源分野では、水資源機構を事務局とし関係業界団体や関係省庁からなる「水資源分野における我が国事業者の海外展開活性化に向けた協議会」を設置し、関係機関で連携して水資源分野の案件形成に向けた調査を実施した。また、アジア河川流域機関ネットワーク(NARBO)と連携し、統合水資源管理(IWRM)の普及・促進に貢献している。このほか、アジアにおける汚水管理の意識向上等を目的としたアジア汚水管理パートナーシップ(AWaP)を設立し、国連サミットで採択されたSDGs(ターケ゛ット6.3「未処理汚水の割合の半減」)の目標達成に貢献するための協力関係を参加国・国際機関及び日本下水道事業団を含む関係機関と構築した。 (4)防災分野  世界の水関連災害による被害の軽減に向けて、災害予防が持続可能な開発の鍵であるという共通認識を形成するため、我が国の経験・技術を発信するとともに、水災害予防の強化に関する国際連帯の形成に努めている。防災面での課題を抱えたインドネシア、ベトナム、ミャンマー等を対象に、両国の産学官で連携し、平常時から防災分野の協力関係を強化する「防災協働対話」の取組みを国別に展開している。現在、既存ダムを有効活用するダム再生や危機管理型水位計などの本邦技術を活用した案件形成を進めているところ。米国及び中国とは、河川・防災分野について二国間会議を開催し、両国が直面している課題を共有し解決に向けた意見交換を実施した。また、国立研究開発法人土木研究所水災害・リスクマネジメント国際センター(ICHARM)では、統合洪水解析システム(IFAS)や降雨流出氾濫(RRI)モデル等の開発、リスクマネジメントの研究、博士課程及び修士課程を含む人材育成プログラムの実施、UNESCOやアジア開発銀行、及び世界銀行のプロジェクトへの参画及び国際洪水イニシアチブ(IFI)事務局としての活動等を通じ、水災害に脆弱な国・地域を対象にした技術協力・国際支援を実施している。  また、砂防分野においては、イタリア、韓国、スイス及びオーストリアと砂防技術に係る二国間会議を開催しているほか、JICA専門家の派遣等や研修の受入を通じて土砂災害対策や警戒避難、土地利用規制などの技術協力を行っている。 (5)道路分野  世界道路協会(PIARC)の各技術委員会等に継続的に参画し、積極的に情報発信し国際貢献に努めている。平成30年10月には、ホスト国としてPIARC年次総会を横浜市で開催し、世界47カ国から140名あまりの道路行政担当者が参加し情報交換を行った。総会では「道路メンテナンスへの革新的技術の活用」をテーマとして、従来の事後的に対処するアプローチから、ICT、ビックデータ、AIを活用した新たな取り組み、科学的検証に基づく予防的な対策等、各国の最新動向が報告され意見交換が行われた。また、日ASEAN交通連携の枠組みの下、ASEAN地域における質の高いインフラとしての国際的な道路網の整備を目指して実施した舗装技術や過積載対策に関する共同研究の成果として「ASEAN国際幹線道路向け道路舗装技術資料」が、30年11月に開催された第16回日ASEAN交通大臣会合において承認された。 (6)住宅・建築分野  国際建築規制協力委員会(IRCC)等への参加など、建築基準等に係る国際動向について関係国間での情報交換を行った。  二国間としては、ドイツ、中国との会合を開催し、住宅の市場動向、住宅政策、省エネ建築等に関する情報交換等を行った。  ミャンマー・カザフスタン・カンボジア等に対しては、JICA専門家の派遣やセミナーの開催等を通じて幅広く技術協力を行った。 (7)鉄道分野  平成30年度も、インド高速鉄道に関する合同委員会や日英鉄道協力会議の開催、JICA専門家の派遣を通じた技術協力など、二国間での連携に向けた取組みを実施している。  また、(一社)海外鉄道技術協力協会(JARTS)や(一社)国際高速鉄道協会(IHRA)において国際フォーラムやセミナーを開催するなど、我が国鉄道技術の強みの紹介にも積極的に取り組んでいる。 (8)自動車分野  平成27年の第13回日ASEAN交通大臣会合にて承認された、「自動車基準・認証制度をはじめとした包括的な交通安全・環境施策に関する日ASEAN新協力プログラム」に基づき、30年12月にアジア地域官民共同フォーラムを開催するなど、アジア地域における基準調和・相互認証活動について情報交換を行った。また、29年に引き続き、同プログラムに基づくASEANにおける自動車の交通安全・環境保全施策策定プロセスを改善する事業を実施し、必要となる調査及び情報・意見交換を行った。 (9)海事分野  海事分野では、IMOにおける世界的な議題への対応の他、局長級会談等を通じた二国間の議題への対応を行っている。平成30年度には中国及びインドと局長級会談をそれぞれ8月及び1月に開催し、海事分野における諸問題の解決に向け、情報共有や意見交換を実施した。また、国土交通省とベトナム交通運輸省との間で、「海事関係の強化に向けた協力覚書」を12月に締結した。  この他、マラッカ・シンガポール海峡の共同水路測量調査事業の現地調査が平成30年3月に開始された。また、日ASEAN交通大臣会合で承認された「日ASEANクルーズ振興戦略」に基づき、インドネシアにて現地旅行会社等を対象としたセミナーを開催するとともに、「日ASEAN低環境負荷船普及促進プロジェクト」の一環として、同年8月、戦略策定のための第2回実務者会合をマレーシアにて開催した。 (10)港湾分野  北東アジア港湾局長会議やAPEC交通WGを通じて、港湾行政に関する情報交換や、クルーズの促進等を実施している。また、国際航路協会(PIANC)や国際港湾協会(IAPH)等との協調を重視し、政府自らその会員となり、各国の政府関係者等との交流を行うとともに、各種研究委員会活動に積極的に参画している。特にPIANCに関しては、技術基準等の海外展開・国際標準化の推進にも積極的に取り組んでいる。  さらに、平成30年10月には、LNGバンカリングを促進するための国際的な港湾間協力に関する覚書(28年10月に7カ国8者の港湾当局により署名、29年7月に3カ国3者が追加署名)に、新たにスエズ運河経済特区庁が加わり11カ国12者となり、LNGバンカリング港湾の国際的なネットワークが更に強化された。 (11)航空分野  平成30年10月、フィジーにて第55回アジア太平洋航空局長会議が開催され、航空安全、航空保安及び航空管制等、航空全般に関するアジア太平洋地域各国の取組みについて意見交換を行った。  また、平成31年2月、フランスとの「民間航空分野における技術協力に関する覚書」に基づき、パリ及びトゥールーズにて第4回日仏協力作業部会を開催し、今後も定期的な会合の開催など、協力を進めていくこととした。 (12)物流分野  平成30年7月、韓国にて第7回日中韓物流大臣会合が開催され、シャーシの相互通行の拡大、北東アジア物流情報サービスネットワーク(NEAL-NET)の日中韓における対象港湾の拡大やASEAN諸国等への拡大に向けた検討等、日中韓3国間の物流分野における協力の推進について合意した。  また、日ASEAN交通連携の枠組みの下、二国間政策対話において物流環境の改善に係る協議等を行っており、平成30年9月にはベトナムと、31年1月にはカンボジアと、物流政策対話を開催した。また、30年5月には、ラオスにおける優秀な物流人材の育成のため、高等教育機関及び公共事業運輸省の職員を対象とした物流人材育成事業を実施し、同年7月にはベトナムにおける高等教育機関を対象とした物流人材育成事業を実施した。  加えて、海上輸送、航空輸送に続く第3の輸送手段としてのシベリア鉄道の利用促進に向けて、30年8月から12月にかけて、ロシア政府と共同で、シベリア鉄道を利用した貨物実証輸送を実施した。 (13)地理空間情報分野  ASEAN諸国等に対し、世界測地系の導入や電子基準点網の統合的な運用に向けた支援を行っている。タイでは、平成27年の日タイ首脳会談での協力合意等を踏まえ、電子基準点利活用に関する知見の共有や専門家派遣を通した電子基準点網の整備支援を行った。ミャンマーでは、ヤンゴン管区の地形図及び電子基準点の整備を目的とした「ヤンゴンマッピングプロジェクト」に参画し、30年9月には国土地理院で電子基準点に関する技術研修を実施した。また、韓国との間では測量・地図に関する協力会議を開催し、測量技術・事業について情報交換を行った。 (14)気象・地震津波分野  世界気象機関(WMO)の枠組みの下、気象観測データや技術情報の交換に加え、我が国の技術を活かした台風情報等を提供している。また、国際連合教育科学文化機関(UNESCO)政府間海洋学委員会(IOC)の枠組みの下、北西太平洋における津波情報を各国に提供している。 (15)海上保安分野  北太平洋海上保安フォーラム(日本、カナダ、中国、韓国、ロシア及びアメリカの6箇国)及びアジア海上保安機関長官級会合(アジア21箇国・1地域)並びに二国間長官級会合、連携訓練等を通じて、捜索救助、海上セキュリティ対策等の各分野で海上保安機関間の連携・協力を積極的に推進している。  また、海上保安庁は国際水路機関(IHO)の委員会等における海図作製に関する基準の策定、コスパス・サーサット機構における北西太平洋地域の取りまとめ、国際航路標識協会(IALA)の委員会等におけるVDES(注)の開発に係る検討、アジア海賊対策地域協力協定(ReCAAP)に基づく情報共有センターへの職員の派遣など、国際機関へ積極的に参画している。  このほか、インド太平洋沿岸国の警備、救難、環境防災、海上交通安全、海図作製分野の能力向上支援のため、国際協力機構(JICA)や日本財団の枠組みにより、専門的な知識を有する海上保安官を専門家として各国に派遣しているほか、各国の海上保安機関等の職員を日本に招へいし、能力向上支援に当たった。  さらに、アジア諸国の海上保安機関の相互理解の醸成と交流の促進を通じて、海洋の安全確保に向けた各国の連携協力、そして「力ではなく、法とルールが支配する海洋秩序」の強化の重要性について認識の共有を図るため、平成27年10月に開設した海上保安政策に関する修士課程「海上保安政策プログラム」に、アジア諸国の海上保安機関の若手幹部職員を受入れている。  加えて、近年では海上保安機関が相次いで設立され、技術指導の支援要請について質的向上、量的増加が求められてきたことから、海上保安庁では、平成29年10月、海上保安国際協力推進官を責任者とする7名体制の能力向上支援の専従部門「海上保安庁モバイルコーポレーションチーム:MCT」を発足させ、現在までにMCT職員を9箇国へ21回派遣した。今後も各国海上保安機関からの要請等に応じて能力向上支援を実施していくこととしている。 図表II-9-2-1 フィリピン沿岸警備隊に対する高速小型艇等を用いた海上法執行訓練 注 VHF Data Exchange Systemの略