第I部 進行する地球温暖化とわたしたちのくらし〜地球温暖化対策に向けた国土交通行政の展開〜 

2 外航海運からの二酸化炭素排出削減に向けた課題

 外航海運についても、グローバル化が進展する中で国際航空と同様にCO2排出量に向けた取組みの重要性が増している。その一方で、国際航空とは異なる面もある。例えば、船舶の場合には、便宜置籍船と言われるように、コスト削減等を目的として船主が船籍を便宜的にパナマ・リベリア等の国に登録していることが多い。我が国商船隊(我が国外航海運企業が運航する2,000総トン以上の外航商船群)においても、日本籍船は約4%に過ぎず、約3分の2がパナマに船籍が置かれている状況である。そのため、外航海運は国際航空以上にCO2排出量の捕捉が難しいという実情がある。

(1)外航海運からの二酸化炭素排出量の推移
 世界全体の外航海運からのCO2排出量は世界全体の排出量の約3%に相当すると推測され、1990年(平成2年)から2004年(平成16年)までの間に40%以上増加している。このようなCO2排出量の増加は、グローバル化の進展に伴い輸送量が60%以上増加しているためと考えられる。燃費効率の良い機器の採用や船体機器の適正な整備、海洋気象サービスの利用による最適航路の選定などのほか、新造船の投入による輸送効率の向上により、CO2排出量の増加は輸送量の増加よりも低く抑えられているものの、今後も輸送量の増加に伴い、外航海運からのCO2排出量は増加するものと考えられる。
 
図表I-2-1-40 世界全体の外航海運及び内航海運からのCO2排出量の推移

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図表I-2-1-41 世界全体の海上輸送量の推移

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(2)外航海運の地域別の状況と国際的な議論の状況
 地域別に外航海運からのCO2排出量の推移を見ると、東アジアでの大幅な増加が目立つ。全世界で1990年(平成2年)から2004年(平成16年)までに約40%増加している一方で、東アジアでは2.3倍以上に増加している。これは東アジアの急速な経済発展により、貨物輸送量が急増しているためと考えられる。
 
図表I-2-1-42 外航海運からのCO2排出量の推移(地域別)

図表I-2-1-42 外航海運からのCO2排出量の推移(地域別)
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 現在、外航海運からのCO2排出削減に向けては、IMOで議論が行われている。IMOでは、2003年(平成15年)に「船舶から排出される温室効果ガスの削減に関するIMOの政策及び実行」について決議が採択され、2008年(平成20年)夏を目途に外航海運からのCO2排出量予測等の基礎的調査資料を作成した後、具体的なCO2排出削減策が検討される予定となっている。
 こうした中、我が国は新しく建造される船舶をエネルギー効率の高いものに置き換えていくことが外航海運からのCO2排出量を抑制する上で効果的な対策であるとしている。現在、船舶のエネルギー効率については、一般的に波や風のない静穏な海象で評価されることから、造船会社は穏やかな海でのエネルギー効率の最適化を追求している。しかし、静穏な海域ではほぼ同程度の速度の出る船舶でも、波が高くなるにつれて速度に大きな差が生じることが知られており、例えば、実海域におけるエネルギー効率の良い船舶と悪い船舶を比較すると、CO2排出量の差は年間6,000トン、燃料油価格の差は年間約1億円にも達するという試算がある(注)。こうした差は、実運航時の船舶のエネルギー効率を測る評価基準(評価指標)が存在しなかったことが大きな要因である。
 
静穏な海域と波や風のある海域における運航の差のイメージ

静穏な海域と波や風のある海域における運航の差のイメージ

 このような状況を受け、我が国は実運航時のエネルギー効率を示す評価指標(実燃費指標)の開発に取り組んでおり、IMOにおいて実燃費指標の導入及び国際基準化を提案することとしている。これにより、市場においてエネルギー効率に優れた船舶の普及が促進されCO2排出量の削減が図られるとともに、世界トップレベルにある我が国の造船・運航技術の評価が可能となり我が国の造船・舶用工業、海運業等の海事産業の発展にもつながると期待される。
 また、外航海運からのCO2排出量削減のためには、抜本的な対策として、エネルギー効率改善のための技術開発を進める必要がある。こうした実燃費指標の開発や技術開発を通じて、外航海運からのCO2排出削減について、我が国が国際的イニシアティブを発揮し、積極的に取り組んでいく必要がある。


(注)田中良和「最適速力と実海域での性能差」(TECHNO MARINE 884号 2005年(平成17年)3月)を元に、2007年(平成19年)末のレート(燃料油1トン=510ドル、1ドル=110円)で換算して算出

 

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