3 海上交通における安全対策  過去5年間を見ると、海難に伴う死者・行方不明者数は、減少傾向にあるが、海難に遭遇した船舶の隻数(海難船舶隻数)は、ほぼ横ばいで推移していることから、更なる安全対策の推進が必要である。 (1)船舶の安全性の向上及び船舶航行の安全確保 1)船舶の安全性の向上  船舶の安全に関しては、国際海事機関(IMO)を中心に国際的な基準が定められており、現在は、平成20年から22年に予定されているSOLAS条約(注1)の改正に対応するため、損傷時・非損傷時の船舶の復原性能、消防設備・防火構造・救命設備やレーダー等の航海設備の性能要件についての国内法令改正等に取り組むとともに、技術的な規制の効果を客観的に評価する「船舶の総合的安全評価」を実施している。  また、サブスタンダード船(注2)の排除のため、ポートステートコントロール(PSC)(注3)を実施している。  さらに、18年3月に策定した「内航船舶の代替建造推進アクションプラン」に基づき、船舶の推進機関等の状態を陸上から遠隔監視・診断する「高度船舶安全管理システム」の実用化・普及に向けて取り組んでいる。 2)船舶航行の安全確保  船舶の高速化等海上交通環境の変化に対応し、船舶航行の安全を確保するため、船舶自動識別装置(AIS)を活用した次世代型航行支援システムの整備等を行うなど、航路標識の改良・改修を306箇所、避難港の整備を下田港等6港で実施している。平成19年度からは、交通政策審議会海事分科会において、AISの整備等を踏まえた新たな船舶交通安全政策についての検討が行われている。また、海図等の充実を図るとともに外国人船員に対する海難防止対策の一環として英語表記のみの海図を刊行した。衝突事故原因の大半を占めるヒューマンエラーの防止を図るため、「協調型航行支援システム(SCAS)」(注4)の調査研究等を実施している。加えて、Class-B AIS等の簡易型電子航海機器の有効性評価を開始した。さらに、近年、我が国近海において、水中翼型超高速船(注5)が航行中に流木や鯨類と衝突する事故が相次いでいることから、18年4月より「超高速船に関する安全対策検討委員会」を開催し、ハード及びソフト面から事故防止に向けた方策について検討している。19年度からは、交通政策審議会海事分科会において、AISの整備等を踏まえた新たな船舶交通安全政策についての検討が行われている。  また、最近の事故発生状況等を踏まえ、酒気帯び状態での航海当直防止や超高速船のシートベルト着用徹底等のための運航労務監理官による監査を強化している。さらに、19年7月に発生したクレーン船による高圧送電線切断事故等を契機として、クレーンを安全な位置に保持させるべく航海の際の船長の遵守事項を見直し、同年12月に「船員法施行規則」を改正し(20年1月施行)、同種事故の再発防止を図っている。  水先制度に関しては、水先人供給源不足、船舶交通の安全確保及び海洋環境の保全への要請の高まり等、近年における水先制度をめぐる社会情勢の変化に対応するため、免許制度の改革・養成教育の充実強化等を内容とする「水先法」が改正(19年4月1日施行)された。これを受け、水先人養成施設及び水先免許更新講習として3機関を登録し、1級水先人養成施設における水先人養成課程が開始されるなど、新制度の適切な運用を図っている。  また、輸入原油の8割以上が通航する我が国にとって極めて重要な海上輸送路であるマラッカ・シンガポール海峡については、2007年(平成19年)9月にシンガポールで開催された「マラッカ・シンガポール海峡に関する会議」において、国連海洋法条約に規定された国際海峡における沿岸国と利用国の協力を具体化した「協力メカニズム」の設立が合意された。我が国はこれに参画し、官民連携して同海峡の安全対策に積極的に協力していくこととしている。 (2)乗船者の安全対策の推進  乗船者が、死者・行方不明者となる原因の大多数は海中転落によるものである。転落時に生還するためには、まず海に浮いていることが重要で、その上で速やかな救助要請を行う必要がある。このため、海上保安庁では、ライフジャケットの常時着用、携帯電話等の適切な連絡手段の確保、海上保安庁への緊急通報用電話番号「118番」の有効活用を3つの基本とする自己救命策確保キャンペーンを実施して普及・啓発に努めている。  ライフジャケットについては、平成15年から19年までの5年間で小型船舶から海中転落した事故者の生存率が、着用の場合82%、非着用の場合28%であることからも明らかなように、その着用が死者・行方不明事故の防止に大きく寄与している。このため、大型連休や夏休み期間中の集中的な安全推進活動を実施するなど、ライフジャケット着用を促進している。 (3)救助体制の強化  海上保安庁では、迅速な救助を行うため、24時間体制で遭難周波数の聴守及び緊急通報用電話番号「118番」の運用を行うなど、事故の発生情報の早期把握に努めている。  また、海難及び人身事故に迅速かつ的確に対応するため、ヘリコプターの機動性、捜索能力、吊り上げ救助能力等を活用した機動救難体制の充実強化、高性能化を図った巡視船艇・航空機の整備、救急救命士の養成、洋上救急体制の充実等救助体制の強化を図っている。  一方、マリンレジャー振興等の拠点である「海の駅」に緊急輸送支援機能を付加し、地域の防災・救難体制の強化を推進している。 図表II-6-3-3 機動救難士の業務フロー (4)海難の原因究明と発生の防止  海難審判庁では、海難の発生防止に寄与するため、迅速な調査及び審判による海難の原因究明に努めるとともに、所掌事務の遂行を通じて得られた海難の発生の防止のため講ずべき施策について意見を述べることとしているが、平成19年度には国土交通大臣に対し「酸欠等乗組員死傷事故防止」、防衛大臣に対し「潜水艦と船舶との衝突防止」、水産庁長官に対し「遊漁船の海難防止」について意見を提出した。  また、裁決等を活用し、「海難分析集」の発行、定期情報誌「マイアニュースレター」や外国人船員向けの同英語版「MAIA DIGEST」による情報提供、海難防止講習会等を通じ、海難防止策の普及の徹底に努めている。  さらに、国際海事機関(IMO)における「事故調査コード」(注6)条約化の議論に積極的に参加したほか、再発防止のための施策の検討に寄与する重大な海難の審判結果を報告するなど、国際的な取組みに協力している。  なお、平成20年2月19日、野島埼の南方海上で、漁船「清徳丸」と海上自衛隊の護衛艦「あたご」が衝突し、漁船の船体が2つに分断され、漁船の乗組員2名が行方不明になった。海上保安庁では事故発生時から捜索救助活動等を実施し、海難審判庁では海難の原因究明と発生の防止のための調査を実施している。 (注1)海上における人命の安全のための国際条約 (注2)国際条約の基準に適合していない船舶 (注3)寄港国による外国船舶の監督 (注4)操船意思を相手船に伝達することにより、相手船と協調して衝突回避を可能とする新たな航行支援システム (注5)高速航行をする際に、水中翼から得られる揚力で海面上に船体を持ち上げて航行する船舶 (注6)海難調査の共通手法、各国間の協力方法等を定めた「海上事故及び海上インシデントの安全調査のための国際標準と勧告方式に関するコード」のこと