
国土交通白書 2020
第4節 交通分野における安全対策の強化
鉄軌道交通における運転事故件数は、自動列車停止装置(ATS)等の運転保安設備の整備や踏切対策の推進等を行ってきた結果、長期的には減少傾向注1にあるが、一たび列車の衝突や脱線等が発生すると、多数の死傷者を生じるおそれがあることから、引き続き安全対策の推進が必要である。

(1)鉄軌道の安全性の向上
過去の事故等を踏まえて、必要な基準を制定するなどの対策を実施し、これを鉄軌道事業者が着実に実行するよう指導するとともに、保安監査等を通じた実行状況の確認や、監査結果等のフィードバックによる更なる対策の実施を通じて、鉄軌道の安全性の向上を促している。
また、鉄軌道事業者に対し、計画的に保安監査を実施するほか、重大な事故、同種トラブル等の発生を契機に臨時に保安監査を実施するなど、メリハリの効いた効果的な保安監査を実施することにより、保安監査の充実を図っている。
(2)踏切対策の推進
都市部を中心とした「開かずの踏切」注2等は、踏切事故や慢性的な交通渋滞等の原因となり、早急な対策が求められている。このため、道路管理者と鉄道事業者が連携し、「踏切道改良促進法」及び「第10次交通安全基本計画」に基づき、立体交差化、構造改良、横断歩道橋等の歩行者等立体横断施設の整備、踏切遮断機等の踏切保安設備の整備等により踏切事故の防止に努めている。
令和元年度は、「踏切道改良促進法」に基づき、改良すべき踏切道として、新たに129箇所を指定し、平成30年度までに指定した1,000箇所と合わせ、1,129箇所となった。指定した踏切道については、地方踏切道改良協議会を順次開催し、道路管理者と鉄道事業者が、地域の実情に応じた踏切道対策の一層の推進を図った。また、踏切対策の好事例の収集・提供を行い、指定した踏切道の対策検討を支援した。
今後も、地域の関係者と連携した「地方踏切道改良協議会」での検討のもと、立体交差化、構造改良、歩行者等立体横断施設の整備、踏切保安設備の整備に加え、カラー舗装等の当面の対策や駐輪場整備等の踏切周辺対策など、ソフト・ハード両面からできる対策を総動員し、踏切対策の更なる促進を図る。
(3)ホームドアの整備促進
視覚障害者等をはじめとしたすべての駅利用者の安全性向上を図ることを目的に、ホームからの転落等を防止するホームドアの設置を促進している(平成30年度末現在、783駅で設置)。「移動等の円滑化の促進に関する基本方針」(23年3月)、「交通政策基本計画」(27年2月)、「社会資本整備重点計画」(27年9月)等を踏まえ、ホームドアや内方線付き点状ブロックの整備促進、車両ドア位置の不一致等の課題に対応した新しいタイプのホームドアの技術開発等ハード面の対策とともに、視覚障害者等への声かけを推進する等ソフト面の対策にも取り組んできた。
平成31年3月より、学識経験者、視覚障害者団体、消費者団体の参画の下、「ホームドア整備に関するWG」を設置し、今後のホームドア整備の考え方等について検討を重ね、令和元年7月に「ホームドアの更なる整備促進に向けた提言」を公表した。
本提言においては、これまで優先整備の対象としてきた10万人以上の駅について、コストや車両の扉位置が揃っていない等の課題により、整備済み駅数が123駅/279駅(平成30年度末現在)となっていることから、引き続き優先的に整備を推進していく必要があるとしている。
また、10万人以上の駅には複数の番線があるものの、整備済み番線数は353番線/1,219番線(平成30年度末現在)に留まっていることから、今後は番線ごとの整備状況にも着目して計画的に整備を推進していく必要があるとしている。なお、番線ごとの整備の推進に当たっては、視覚障害者に対してホームドアの有無の誤認を与えないようにするための配慮が求められるとしている。
さらに、ホームドア整備にかかる多額の費用が、普及に当たり大きな課題となっていることから、安全性に十分配慮しつつ整備費用を低減させる、新たなタイプの軽量型ホームドア等の整備を促す政策的誘因の検討が必要であるとしているほか、その実用化・導入に当たっては、視覚障害者への事前の意見聴取や、ホームドアの形状、動作等の情報に関して、事前に十分な周知に努めることが盛り込まれた。


(4)鉄道施設の戦略的な維持管理・更新
鉄道の橋梁やトンネル等については、法定耐用年数を超えるものも多く、老朽化が進んでおり、これらの鉄道施設を適切に維持管理することが課題となっている。鉄道利用者の安全確保及び鉄道の安全・安定輸送の確保を図るため、地域の人口減少が進み経営環境が厳しさを増す地方の鉄道事業者に対して、鉄道事業の継続性等を確認した上で、将来的な維持管理費用を低減し長寿命化に資する鉄道施設の改良・補強を支援している。
- 注1 JR西日本福知山線列車脱線事故があった平成17年度など、甚大な人的被害を生じた運転事故があった年度の死傷者数は多くなっている。
- 注2 列車の運行本数が多い時間帯において、踏切遮断時間が40分/時以上となる踏切