国土交通省ロゴ

国土交通白書 2021

第3節 産業の活性化

■8 不動産業の動向と施策

( 1 )不動産業の動向

 不動産業は、全産業の売上高の3.0%、法人数の12.0%(平成30年度)を占める重要な産業の一つである。令和3年地価公示(3年1月1日時点)によると、全国の地価は、全用途平均は6年ぶり、住宅地は5年ぶり、商業地は7年ぶりの下落となった。新型コロナウイルス感染症の影響により全体的に需要が弱含みとなっている背景として、住宅地については、取引の減少、建築費等の上昇、商業地については、店舗等賃貸需要の減退、国内外の来訪客減少などがあげられる。既存住宅の流通市場については、指定流通機構(レインズ)における令和2年度の成約件数が18.8万件(前年度比0.2%増)となった。

( 2 )不動産業の現状

 宅地建物取引に係る消費者利益の保護と流通の円滑化を図るため、「宅地建物取引業法」の的確な運用に努めている。宅地建物取引業者数は、令和元年度末において125,638業者となっている。国土交通省及び都道府県は、関係機関と連携しながら苦情・紛争の未然防止に努めるとともに、同法に違反した業者には、厳正な監督処分を行っており、元年度の監督処分件数は198件(免許取消109件、業務停止32件、指示57件)となっている。

 また、マンションの適正な管理を図るため、「マンションの管理の適正化の推進に関する法律」に基づき、マンション管理業者の登録制度や適正な業務運営を確保するための措置を実施している。マンション管理業者数は、元年度末において1,962業者となっている。マンション管理業者に対しては、不正行為の未然防止等を図る観点から、立入検査を実施するとともに、必要な指導監督に努めている。

 さらに、「住宅宿泊事業法」に基づき、住宅宿泊管理業を営む者の登録業務を推進したほか、住宅宿泊管理業者に関係法令等の遵守徹底を求めるなど、同事業の適正な運営の確保に努めている。

 加えて、2年6月に成立した「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」に基づき、賃貸住宅のサブリースを行う事業者に対する新たな規制について運用を開始するとともに、3年6月に施行される賃貸住宅管理業登録制度についても、不動産業・建設業などの関係業界や賃貸住宅のオーナー・入居者等に対して広く周知の徹底を図った。

( 3 )市場の活性化のための環境整備

①不動産投資市場の現状

 我が国における不動産の資産額は、令和元年末現在で約2,847兆円となっている注7

 国土交通省では、未来投資戦略2017において、2020年頃にリート等注8の資産総額を約30兆円にするという目標を掲げているが、不動産投資市場の中心的存在であるJリートについては、令和3年3月末現在、61銘柄が東京証券取引所に上場されており、同年3月末現在で対象不動産の総額は約23.2兆円、私募リートと不動産特定共同事業と併せて28.3兆円注9となっている。

 Jリート市場全体の値動きを示す東証リート指数は、新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、令和2年3月には1,145ポイントと平成25年1月以来の安値まで下落したが、緊急事態宣言が段階的に解除されたことで経済活動再開の期待が高まり、令和2年5月末には1,700ポイント台まで回復した。その後、欧米での新型コロナウイルス感染症拡大による投資家心理の悪化等により同年10月末に1,600ポイント前半まで下落したものの、新型コロナウイルスワクチンの開発の進展等を背景に、令和3年3月末には2,013ポイントと令和2年3月以来となる2,000ポイント台まで回復した。

 また、Jリートにおける同年の1年間における資産取得額は、約1.4兆円となった。

②不動産特定共同事業の推進

 不動産特定共同事業について、環境性能の高い不動産への投資を促すことにより、ESG投資を促進するとともに、一層のガバナンスの確保を図る観点から、「不動産特定共同事業の監督に当たっての留意事項について」の一部を改正した。

 また、小規模不動産特定共同事業等の不動産証券化を活用したモデル事業の支援等、民間の資金・アイデアを活用した老朽不動産の再生の推進に向けた取組みを実施した。

③環境不動産の普及促進

 我が国不動産へのESG投資を促進する上での留意点や方向性について検討を行い、環境分野についてはTCFDガイダンスのとりまとめを行い、社会分野については不動産分野における課題整理をし、事例集をとりまとめた。

 また、環境不動産等の良質な不動産の形成を促進するため、耐震・環境不動産形成促進事業においては、令和2年度には約22億円の出資を決定した。

④不動産に係る情報の環境整備

 国土交通省では、不動産市場の透明化、取引の円滑化・活性化等を図るため、以下の通り、不動産に係る情報を公表している。

図表Ⅱ-6-3-15 土地総合情報システム
図表Ⅱ-6-3-15 土地総合情報システム

(ア)不動産取引価格情報

 全国の不動産の取引価格等の調査を行っている。調査によって得られた情報は、個別の物件が特定できないよう配慮した上で、取引された不動産の所在、面積、価格等を公表している(令和3年3月末現在の提供件数は、約422万件)。

(イ)不動産価格指数

 IMF等の国際機関が作成した基準に基づき、不動産価格指数(住宅)を毎月、不動産価格指数(商業用不動産・試験運用段階)を四半期毎に公表している。即時的な動向把握を可能とするため、令和2年6月より、季節調整を加えた指数の公表を開始した。

(ウ)既存住宅販売量指数

 令和2年4月より、建物の売買を原因とした所有権移転登記個数をもとに、個人が購入した既存住宅の販売量の毎月の動向を指数化した「既存住宅販売量指数」の公表(試験運用)を開始した。

⑤安心・安全な不動産取引環境の整備

 既存住宅の流通促進を図るため、「安心R住宅」制度の運用や、インスペクション(建物状況調査等)の活用促進など、消費者が安心して既存住宅を取引できる市場環境整備の推進を図っている。さらに、不動産団体等による空き家等の利活用に向けた先進的な取組みに対し支援するとともに、「全国版空き家・空き地バンク」内にこれまで支援した取組事例を紹介するサイトを構築する等の機能拡充を行うなど、空き家等に係るマッチング機能の強化を図った。加えて、不動産売買取引におけるオンラインでの重要事項説明、書面の電子化に係る社会実験の延長やガイドラインの改訂など、不動産業分野における新技術の活用を推進した。

⑥土地税制の活用

 商業地の地価の状況を見ると、新型コロナウイルス感染症の影響により、令和2年7月時点では三大都市圏や地方圏の一部では上昇が続いている一方で、全国では5年ぶりに下落に転じた。

 このような状況を踏まえ、固定資産税の負担調整措置については、納税者の予見可能性に配慮するとともに固定資産税の安定的な確保を図るため、令和3年度から5年度までの間、下落修正措置を含め土地に係る固定資産税の負担調整の仕組みと地方公共団体の条例による減額制度を継続することとした。

  その上で、新型コロナウイルス感染症により社会経済活動や国民生活全般を取り巻く状況が大きく変化したことを踏まえ、納税者の負担感に配慮する観点から、令和3年度に限り、負担調整措置等により税額が増加する土地について前年度の税額に据え置くこととした。このほか、土地等に係る流通税(登録免許税・不動産取得税)の特例措置の適用期限の延長、Jリート及び特定目的会社が取得する不動産に係る特例措置の適用期限の延長、不動産特定共同事業において取得される不動産に係る特例措置の適用期限の延長及び拡充等(10年以内譲渡要件の撤廃・借地上の建物の追加等)、地域福利増進事業に係る特例措置の適用期限の延長、相続税等納税猶予農地を公共事業用地として譲渡した者に対する利子税の免除特例措置の適用期限の延長を行った。

⑦不動産市場を支える制度インフラの整備

 不動産鑑定評価の信頼性を更に向上させるため、不動産鑑定業者に対し、法令及び不動産鑑定評価基準の遵守状況を検査する鑑定評価モニタリングを実施した。また、不動産鑑定評価基準等について、社会ニーズや環境の変化に的確に対応していくための検討を実施した。

  1. 注7 国民経済計算をもとに建物、構築物及び土地の資産額を合計
  2. 注8 Jリート、私募リート、不動産特定共同事業
  3. 注9 不動産特定共同事業については、令和元年度末時点の数値を使用