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国土交通白書 2022

第3節 産業の活性化

■1 鉄道関連産業の動向と施策

(1)鉄道分野の生産性向上に向けた取組み

 将来的な人材不足に対応し、特に経営の厳しい地方鉄道におけるコスト削減等を図るため、踏切がある等の一般的な路線での自動運転の導入に向けた検討、無線通信技術の活用により信号機などの地上設備の削減を可能とする地方鉄道向けの無線式列車制御システムや、レーザーを活用した鉄道施設等の保守点検システムの開発等鉄道分野における生産性向上に資する取組みを推進する。

(2)鉄道事業

①鉄道事業の動向と施策

 各鉄道事業者においては、鉄道の競争力向上、生活サービスとの連携等による更なる利便性の向上や、訪日外国人への対応として、案内表示の多言語化や路線名や駅名にアルファベットや数字を併記するナンバリング、無料公衆無線LANサービスの提供などを進めている。

 また、平成13年にJR東日本が「Suica」を導入してから全国で交通系ICカードの普及が進んでいる。25年3月からは、JRと主な民鉄等の各エリアで導入されている10種類の交通系ICカードの全国相互利用が開始された。今後も順次、導入事業者やエリアが拡大するなど、更なる利用者の利便性の向上及び地域の活性化が期待される。

②JRの完全民営化に向けた取組み

 かつての国鉄は、公社制度の下、全国一元的な組織であったため、適切な経営管理や、地域の実情に即した運営がなされなかったことなどから、巨額の長期債務を抱え、経営が破綻した。このため、昭和62年4月に国鉄を分割民営化し、鉄道事業の再生が行われた。平成29年4月にJR各社の発足から30年を迎えた。

 国鉄の分割民営化によって、効率的で責任のある経営ができる体制が整えられた結果、全体として鉄道サービスの信頼性や快適性が格段に向上し、経営面でも、JR東日本、JR西日本及びJR東海に続いてJR九州も完全民営化されるなど、国鉄改革の所期の目的を果たしつつある。

 一方で、JR北海道、JR四国及びJR貨物については、未だ上場が可能となるような安定的利益を計上できる段階には至っていないため、国としても、設備投資に対する助成や無利子貸付など、経営自立に向けた様々な支援を行ってきた。しかしながら、JR北海道及びJR四国については、地域の人口減少や他の交通手段の発達、低金利による経営安定基金の運用益の低下等に加え、新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、その経営環境はより一層厳しさを増している。また、JR貨物については、近年は経常黒字を計上しているものの、災害等の影響を受けやすいなど安定的な事業運営にはなお課題が残されている。

 こうした背景を踏まえ、令和3年度以降も各社の経営状況に応じた適切な支援を講じ、各社の完全民営化に向けた経営自立を図っていくことを目的に、令和3年3月に「日本国有鉄道清算事業団の債務等の処理に関する法律等の一部を改正する法律(令和3年法律第17号)」が可決・成立し、各社への支援の期限が延長された。これに基づき、令和3年度より、各社に対して経営安定基金の下支え、安全に資する設備投資や修繕費に対する助成金の交付、省力化・省人化に資する設備投資のための出資、DES(債務の株式化)など、経営自立に向けた支援を順次実施している。

(3)鉄道車両工業

 鉄道新造車両の生産金額は、国内向けは平成28年度から増加傾向である一方、輸出向けはその年の受注状況によって波がある。令和2年度の生産金額は2,286億円(1,784両)であった。生産金額の構成比は国内向け86.4%(1,974億円)、輸出向け13.6%(312億円)であり、前年度比は国内向け0.6%減少、輸出向け19.2%増加であった。

 また、鉄道車両部品(動力発生装置、台車等)の生産金額は4,228億円(前年度比7.5%増)、信号保安装置(列車自動制御装置用品、電気連動装置等)の生産金額は1,308億円(前年度比6.0%減)となっている。

 車両メーカー等は、鉄道事業者と連携し、高速化、安全性・快適性等の向上、低騒音・バリアフリーといった様々な社会的ニーズを満たす車両の開発を進めている。