
国土交通白書 2023
第3節 産業の活性化
(1)不動産業の動向
不動産業は、全産業の売上高の3.4%、法人数の12.8%(令和3年度)を占める重要な産業の1つである。令和5年地価公示(令和5年1月1日時点)によると、全国の地価動向は、全用途平均・住宅地・商業地のいずれも2年連続で上昇し、上昇率が拡大した。住宅地では、都市中心部や生活利便性に優れた地域で、住宅需要は堅調であり、地価上昇が継続している。商業地では、都市部を中心に、店舗需要は回復傾向にあり、堅調なオフィス需要やマンション用地需要等から地価の回復傾向がより進んでいる。既存住宅の流通市場については、指定流通機構(レインズ)における令和4年度の成約件数が17.4万件(前年度比6.5%減)となった。
(2)不動産業の現状
宅地建物取引に係る消費者利益の保護と流通の円滑化を図るため、「宅地建物取引業法」の的確な運用に努めている。宅地建物取引業者数は、令和3年度末において128,597業者となっている。国土交通省及び都道府県は、関係機関と連携しながら苦情・紛争の未然防止に努めるとともに、同法に違反した業者には、厳正な監督処分を行っており、3年度の監督処分件数は162件(免許取消93件、業務停止27件、指示42件)となっている。
不動産管理業については、マンション管理業・住宅宿泊管理業・賃貸住宅管理業それぞれ法律に基づき管理業を営む者に係る登録制度を設け、適正な業務運営を確保するための措置を実施している。マンション管理業は、立入検査や指導監督を行い管理の適正化を図るとともに、令和4年度から標準管理委託契約書の見直しを行っている。また、住宅宿泊管理業は、地方部における担い手確保を目的とした講習制度の創設を図るとともに、関係法令等の遵守徹底等を図っている。さらに、賃貸住宅管理業は、登録の義務化(令和3年6月施行)により、法施行前の任意登録制度での登録数5,104件を上回る9,031件の登録(令和5年5月末日時点)を行うとともに、サブリース事業に関する法律の解釈・運用の考え方の改正等により、管理業やサブリース事業の適正な運営の確保に努めている。
(3)市場の活性化のための環境整備
①不動産投資市場の現状
我が国における不動産の資産額は、令和3年末現在で約2,956兆円となっている注8。
国土交通省では、令和12年までにリート等注9の資産総額を約40兆円にするという目標を新たに設定したところ、不動産投資市場の中心的存在であるJリートについては、5年3月末現在、60銘柄が東京証券取引所に上場されており、対象不動産の総額は約22.2兆円、私募リートと不動産特定共同事業と併せて約28.4兆円注10となっている。
Jリート市場全体の値動きを示す東証REIT指数は、欧米の金融引き締め強化への警戒感から令和4年6月に一時1,900ポイントを下回ることがあったものの、同年4月から9月までの上半期は概ね1,900ポイント台から2,000ポイント台を推移した。同年10月から令和5年3月の下半期は、令和4年12月の日銀による金融政策の一部見直しや、令和5年3月の米銀行の経営破綻や欧州金融機関の信用不安等を経て下落し、同年3月末時点で1,700ポイント台となった。
また、Jリートにおける令和4年の1年間における資産取得額は、約0.9兆円となった。
②不動産特定共同事業の推進
不動産特定共同事業の意義・活用のメリットや好事例、成功のポイントをまとめた「不動産特定共同事業(FTK)の利活用促進ハンドブック」を更新・周知した。また、不動産特定共同事業等の不動産証券化を活用したモデル事業の支援等、民間の資金・アイデアを活用した老朽・遊休不動産の再生の推進に向けた取組みを実施した。
③ESG投資等による良好な不動産の形成促進
我が国不動産へのESG投資を促進するため、不動産のE(環境課題)分野について気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)対応ガイダンスの周知と改訂に向けた課題整理を行うとともに、S(社会課題)分野における基本的な考え方と評価項目や指標例について検討する有識者会議を開催し、ガイダンスを策定した。また、環境不動産等の良質な不動産の形成を促進するため、耐震・環境不動産形成促進事業においては、令和4年度には約20億円の出資を決定した。
④不動産に係る情報の環境整備
国土交通省では、不動産市場の透明化、不動産取引の円滑化・活性化等を図るため、以下の通り、不動産に係る情報を公表している。
(ア)不動産取引価格情報
全国の不動産の取引価格等の調査を行っている。調査によって得られた情報は、個別の物件が特定できないよう配慮した上で、国土交通省ホームページ(土地総合情報システム)で、取引された不動産の所在、面積、価格等を四半期ごとに公表している(令和5年3月末現在の提供件数は、約488万件)。
また、不動産取引価格情報を他の土地・不動産関連情報と重ね合わせて表示することが出来る新システム(土地・不動産情報ライブラリ)を令和6年度から公開できるようにするため、当該システムの開発を進めている。
(イ)不動産価格指数
国際通貨基金(IMF)等の国際機関が作成した基準に基づき、不動産価格指数(住宅)を毎月、不動産価格指数(商業用不動産・試験運用)を四半期毎に公表している。即時的な動向把握を可能とするため、令和2年6月より、季節調整を加えた指数の公表を開始した。
(ウ)既存住宅販売量指数
令和2年4月より、建物の売買を原因とした所有権移転登記個数をもとに、個人が購入した既存住宅の販売量に係る動向を指数化した「既存住宅販売量指数」の公表(試験運用)を開始した。
(エ)法人取引量指数
令和4年3月より、建物の売買を原因とした所有権移転登記件数をもとに、法人が購入した既存建物の取引量に係る動向を指数化した「法人取引量指数」の公表(試験運用)を開始した。
⑤安心・安全な不動産取引環境の整備
既存住宅の流通促進を図るため、「安心R住宅」制度の運用や、インスペクション(建物状況調査等)の活用促進など、消費者が安心して既存住宅を取引できる市場環境整備の推進を図っている。さらに、地方公共団体が把握・提供している空き家・空き地の情報について、横断的に簡単に検索することを可能とする「全国版空き家・空き地バンク」の活用促進を通じて、空き家等に係るマッチング機能の強化を図っている。加えて、不動産取引における書面の電磁的方法による提供を可能とする改正「宅地建物取引業法」の施行(令和4年5月18日)に併せ「重要事項説明書等の電磁的方法による提供及びITを活用した重要事項説明実施マニュアル」を公表するなど、不動産取引のオンライン化を推進した。
⑥土地税制の活用
令和5年度税制改正においては低未利用地の適切な利用・管理を促進するための特例措置について、適用期限を3年間延長するとともに、①市街化区域又は非線引き都市計画区域のうち用途地域設定区域に所在する土地、②所有者不明土地対策計画を策定した自治体に所在する土地については、土地等の譲渡対価に係る要件を500万円以下から800万円以下に引き上げる等の措置を講じた。これによって、今後、人口減少や世帯数減少等の影響によりさらに多くの低未利用地が発生する可能性があるところ、低未利用地が新たな利用意向のあるものに譲渡され、活用されることを促すとともに、本特例措置の活用などを通じた地域活性化の実現や、所有者不明土地の発生予防が期待される。
また、特例事業者等が不動産特定共同事業契約に基づき不動産を取得した場合の所有権の移転登記等に係る税率の特例措置については、適用期限を延長するとともに、不動産取得税の軽減対象となる建物用途に保育所を追加することとした。
このほか、長期保有土地等に係る事業用資産の買換え等の場合の課税の特例措置については、本社の買換についてのみ圧縮率を見直したうえで、優良住宅地の造成等のために土地等を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例については、対象事業の一部見直しを行ったうえで、適用期限を延長した。
土地の所有権移転登記等に係る登録免許税の特例措置、土地等の譲渡益に対する追加課税制度(重課)の停止措置、Jリート及び特定目的会社に係る登録免許税の特例措置、地域福利増進事業に係る課税標準の特例措置についても、それぞれ適用期限の延長を行った。
⑦「不動産ID」の活用による不動産関連情報の連携・活用促進
我が国の不動産については、土地・建物いずれも、幅広い主体で共通で用いられている番号(ID)が存在せず、現状、住居表示の表記ゆれ等により、物件情報の照合やデータ連携が困難となっている。このため、国土交通省において、令和4年3月に「不動産IDルールガイドライン」を策定・公表し、不動産を一意に特定することができ情報連携のキーとなる「不動産ID」のルールを整備するとともに、「不動産ID」を情報連携のキーとした官民のデータ連携の促進に取り組んでいる。
- 注8 国民経済計算をもとに建物、構築物及び土地の資産額を合計
- 注9 Jリート、私募リート、不動産特定共同事業
- 注10 不動産特定共同事業については、令和3年度末時点の数値を使用