
国土交通白書 2024
第5節 危機管理・安全保障対策
(1) 各国との連携による危機管理・安全保障対策
①セキュリティに関する国際的な取組み
主要国首脳会議(G7)、国際海事機関(IMO)、国際民間航空機関(ICAO)、アジア太平洋経済協力(APEC)等の国際機関における交通セキュリティ分野の会合やプロジェクトに参加し、我が国のセキュリティ対策に活かすとともに、国際的な連携・調和に向けた取組みを進めている。平成18年に創設された「陸上交通セキュリティ国際ワーキンググループ(IWGLTS)」には、現在16か国以上が参加しており、陸上交通のセキュリティ対策に関する枠組みとして、更なる発展が見込まれているほか、日米、日EUといった二国間会議も活用し、国内の保安向上、国際貢献に努めている。
②海賊対策
国際海事局(IMB)によると、令和5年における海賊及び武装強盗事案の発生件数は120件であり、地域別では、ソマリア周辺海域が1件、西アフリカ(ギニア湾)が22件及び東南アジア海域が67件となっている。
平成20年以降、ソマリア周辺海域において凶悪な海賊事案が急増したが、各国海軍等による海賊対処活動、商船側によるベスト・マネジメント・プラクティス(BMP)注24に基づく自衛措置の実施、商船の民間武装警備員の乗船等国際社会の取組みにより、近年は低い水準で推移していた。しかしながら、令和6年1月以降同海域で海賊事案が続発するようになり、商船の航行にとって予断を許さない状況が続いている。
このような状況の下、我が国としては、「海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律」に基づき、海上自衛隊の護衛艦により、アデン湾において通航船舶の護衛を行うと同時に、P-3C哨戒機による警戒監視活動を行っている。国土交通省においては、船社等からの護衛申請の窓口及び護衛対象船舶の選定を担うほか、一定の要件を満たす日本船舶において民間武装警備員による乗船警備を可能とする「海賊多発海域における日本船舶の警備に関する特別措置法」の運用を適切に行い、日本船舶の航行安全の確保に万全を期していく。
海上保安庁においては、ソマリア沖・アデン湾における海賊対処のために派遣された護衛艦に、海賊行為があった場合の司法警察活動を行うため海上保安官を同乗させ、海上自衛官とともに海賊行為の警戒及び情報収集活動に従事させている。また、同周辺海域沿岸国の海上保安機関との間で海賊の護送と引渡しに関する訓練等を実施している。
東南アジア海域等においては、巡視船や航空機を派遣し、公海上でのしょう戒のほか、寄港国海上保安機関等と連携訓練や意見・情報交換を行うなど連携・協力関係の推進に取り組んでいる。
③中東地域における対応
我が国に輸入される原油の9割以上を中東地域に依存しており、中東地域における船舶の安全確保は必要不可欠である。しかしながら、中東地域においては、高い緊張状態が継続しており、令和元年6月13日には、オマーン湾において、我が国海運事業者が運航する船舶が攻撃を受ける事態が発生した。
また、令和5年11月19日には、紅海において、我が国海運事業者が運航する船舶が「拿捕」される事案が発生した。
我が国としては、令和5年11月に閣議決定にて一部変更した「中東地域における日本関係船舶の安全確保に関する政府の取組みについて」を踏まえ、引き続き、更なる外交努力や航行安全対策の徹底、自衛隊による情報収集活動を行い、我が国関係船舶の航行安全の確保に万全を期していく。
(2) 公共交通機関等におけるテロ対策の徹底・強化
国際的なテロの脅威は極めて深刻な状況であり、公共交通機関や重要インフラにおけるテロ対策の取組みを進めることは重要な課題である。今後の大阪・関西万博の開催等も見据え、国土交通省では、所管の分野においてハード・ソフトの両面からテロ対策を強化するなど、引き続き、関係省庁と連携しつつ、取組みを進める。
①鉄道におけるテロ対策の推進
令和3年10月に発生した京王線車内傷害事件等を受けて同年12月に取りまとめた対応策等を踏まえ、各種非常用設備の表示の共通化ガイドラインの運用、非常時の通報装置の活用や危険物の持ち込み制限の利用者への呼びかけ実施等に取り組んでいる。また、他人に危害を及ぼすおそれのある行為などを抑止する効果を高めるため、「鉄道運輸規程及び軌道運輸規程の一部を改正する省令」を令和5年10月に施行し、新幹線や利用者の多い在来線の新造車両に車内防犯カメラの設置を義務付けた。
②船舶・港湾におけるテロ対策の推進
「国際航海船舶及び国際港湾施設の保安の確保等に関する法律」に基づく国際航海船舶の保安規程の承認・船舶検査、国際港湾施設の保安規程の承認、入港船舶に関する規制、国際航海船舶・国際港湾施設に対する立入検査及びポートステートコントロール(PSC)を通じて、保安の確保に取り組んでいる。
③航空におけるテロ対策の推進
国際民間航空条約に規定される国際標準や航空法に基づき策定している危害行為防止基本方針等に従って、関係者と連携を図りながら、航空保安対策を推進している。具体的には、各空港において、車両及び人の侵入防止対策としてフェンス等にセンサーを設置するなど、侵入があった場合の迅速な対応を可能とする対策を講じているほか、先進的な保安検査機器の導入を促進するなど航空保安検査の高度化を図っている。
加えて、令和2年7月に「重要施設の周辺地域の上空における小型無人機等の飛行の禁止に関する法律」に基づき8空港注25を対象空港として指定し、当該空港周辺での小型無人機等の飛行を禁止するとともに、これに違反して飛行する小型無人機等に対する退去命令や飛行妨害等の措置をとることができるよう体制整備を行っている。また、上記8空港以外の空港についても、同年9月より、空港の機能を確保する観点から、空港の設置者に対し、空港周辺における無人航空機の飛行等の行為に関し、行為が禁止されていることの周知や場周警備の一環としての巡視の実施、違反行為が確認された場合の連絡体制の構築等を義務付け、空港の設置者においてこれらの実施のための体制整備を行っている。
④自動車におけるテロ対策の推進
車内の点検、営業所・車庫内外における巡回強化、警備要員等の主要バス乗降場への派遣、防犯カメラの設置、不審者・不審物発見時の警察への通報や協力体制の整備等、テロの未然防止対策を推進している。さらに、バスジャック対応訓練の実施等についても推進している。
⑤重要施設等におけるテロ対策の推進
河川関係施設等では、河川・砂防・海岸等の点検・巡視時における不審物等への特段の注意、ダム管理庁舎及び堤体監査廊等の出入口の施錠強化等を行っている。道路関係施設では、高速道路や直轄国道の点検・巡視時における不審物等への特段の注意、休憩施設のごみ箱の集約等を行っている。都市公園関係施設では国営公園における、巡回警備の強化、貼り紙掲示等による注意喚起等を行っている。
(3)物流におけるセキュリティと効率化の両立
航空貨物に対する保安体制については、荷主から航空機搭載まで一貫して航空貨物を保護することを目的に、ICAOの国際基準に基づき制定されたKS/RA制度注26を運用している。
また、主要港のコンテナターミナルにおいては、トラック運転手等の本人確認及び所属確認等を確実かつ迅速に行うため、出入管理情報システムを導入し、平成27年1月より本格運用を開始しているほか、CONPAS(新・港湾情報システム)における入場受付にもPS(Port Security)カードを活用することでゲート処理時間の短縮を図った。また、感染症が流行した際においても、港湾物流事業を継続する必要があるため、セキュリティを確保しつつ本人確認及び所属確認等を非接触に行えるよう出入管理情報システムの改修を進めている。
さらに、令和5年7月の名古屋港のコンテナターミナルに対するサイバー攻撃事案を受け、港湾における情報セキュリティ対策に取り組んでいる。
(4)サイバーセキュリティ対策
近年、情報システムのサプライチェーンリスクが指摘される中、サイバー攻撃が複雑化・巧妙化しており、サイバーセキュリティ対策の重要性がますます高まっている。
国土交通省においては、所管する独立行政法人や重要インフラ事業者等とともにサイバーセキュリティ対策の強化に取り組んでおり、内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)との連携の下、サイバー攻撃への対処態勢の充実・強化等の取組みを推進している。
- 注24 国際海運会議所等海運団体により作成されたソマリア海賊による被害を防止し又は最小化するための自衛措置(海賊行為の回避措置、船内の避難区画(シタデル)の整備等)を定めたもの。
- 注25 新千歳空港、成田国際空港、東京国際空港、中部国際空港、関西国際空港、大阪国際空港、福岡空港、那覇空港。
- 注26 航空機搭載前までに、特定荷主(Known Shipper)、特定航空貨物利用運送事業者又は特定航空運送代理店業者(Regulated Agent)又は航空会社においてすべての航空貨物の安全性を確認する制度。