平成元年度 運輸白書

第3章 国際的な環境の変化と運輸の課題
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第3章 国際的な環境の変化と運輸の課題 |
この章のポイント
〇 国際経済環境の変化や我が国の国際化の進展は、人、物の流れの変化を通じて、運輸に様々な影響を与えている。また、我が国が国際社会において果たすべき役割が大きくなっており、運輸分野においても国際協力の拡充、市場アクセスの改善等多様な対応が求められている。
〇 国際的地位の向上を反映して急増する我が国をめぐる国際的な人の流れに対応した国際交通網の充実を図るとともに、国際交流を促進し国際的な相互理解を増進するための観光施策を推進している。
〇 円高、経済摩擦、生産拠点の海外移転、NIEsの台頭等の国際環境の変化により我が国の輸出・輸入に係る国際物流が急激に変化しており、これに伴い国際海上貨物輸送、国際航空貨物輸送について、顧客のニーズ、時代の変化に的確に対応するための積極的な事業展開、輸入貨物の増大に対応した港湾、空港の受入れ体制の整備等を図っている。
〇 我が国の国際的地位の高まりに伴い、国際的な貢献への期待も一層高まっており、運輸関係分野においては、政府開発援助を通じての運輸施設整備等のほか、気象、科学技術に係る国際協力を推進するとともに、我が国の空港等の建設市場への外国企業の参入問題、自動車基準・認証制度の国際化について、種々の措置を講じている。
〇 地球的規模の環境問題については、地球温暖化、海洋汚染等各分野において、運輸省として早くから取り組んでおり、特に、気候変動に係る観測・監視や予測に関して国際的に重要な役割を果たしている。
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第1節 我が国をめぐる国際的な環境の変化 |
1 我が国をめぐる国際経済環境の変化
2 我が国の国際化の進展
3 国際化における運輸の役割と今後の課題
- 1 我が国をめぐる国際経済環境の変化
- 我が国経済は、第一次、第二次の二度にわたる石油危機、昭和60年以降の大幅な円高という国際経済環境の大きな変化を乗り越え、順調に成長を続けている。
一方、世界経済も、好調な先進国経済〔1−3−1図〕に牽引され順調に拡大しているが、先進国間の対外不均衡が依然として高水準であること、発展途上国の累積債務問題など、不安定な部分も残されている。
我が国をめぐる国際経済環境をみると、我が国の経常収支の黒字は、平成元年度に入り一進一退ながら縮小傾向にあるものの、依然として大幅な黒字幅を記録する一方、アジアNIEs、ASEAN諸国が急速な経済成長を遂げているなど、新たな変化が生じつつある。
こうしたなかで、世界の経済活動の一割以上を占め、世界経済に与える影響が極めて大きくなっている我が国は〔1−3−2図〕、世界経済の相互依存関係がますます強まるなか、世界貿易、国際金融等の面で主導的役割を果たすとともに、我が国の対外不均衡の是正に一層の努力を行うことを求められている。
- 2 我が国の国際化の進展
- このように国際経済環境が変化するなか、我が国経済は、対外不均衡是正の一環として内需主導型産業構造への転換を図る一方、国際化を積極的に進めている。
我が国企業は、大幅な円高に対応し、製造業を中心に、マイクロエレクトロニクス技術、情報関連技術を活用した製品の高付加価値化を進め〔1−3−3図〕、内需拡大をめざすとともに、輸出品の高度化を図っている。また、海外からの中間原材料・部品の調達、製品輸入を増やすとともに〔1−3−4図〕、海外直接投資を通じて、生産、販売等の最適立地をめざしており、これらによりNIEs等との水平分業が進展しているといえよう。
国民生活の面でも国際化が急速に進展している。円高の進行は我が国の対外的購買力を高め、かつては高嶺の花であった高級な海外ブランド品でも手軽に入手、消費できるようになったり、世界で一斉に解禁されるボジョレー・ヌーボーを味わう人々が増加したりと、外国の製品、習慣が国民生活の中に浸透してきている。また、情報化の進展とともに海外情報のリアルタイム化が進み、国際金融面での24時間ディーリングの常態化、海外メディアの国内放送日常化、海外有力誌の国内印刷化など、情報面で海外との結びつきが強まっている。
さらに、我が国の国際関係が対外不均衡等いくつかの問題を抱えつつも安定的に推移するなか、所得水準や対外的購買力の上昇、自由時間の増大、産業の国際化等とあいまって、海外旅行、海外勤務・留学が一般化するとともに、外国人の国内滞在が常態化している。このように、日常生活においても海外との多様な接触が行われるようになっており、特に、それが中央だけではなく地方においても進展していることが注目される。
こうした産業、国民生活両面にわたる本格的な国際化の進展は、我が国の国際関係を、これまでの加工貿易を中心とした係わりから、いわゆるヒト・モノ・カネ・情報等多面的な係わりへと変化させている。
- 3 国際化における運輸の役割と今後の課題
- こうした我が国の国際化の進展は、総じて、運輸、通信手段の急速な発達に負うところが大きく、運輸は、人、物の輸送を通じて、我が国の国際化に大きく貢献してきたといえる。
他方、国際経済環境の変化や国際化の進展は、人、物の流れを変化させることにより、逆に運輸に影響を与え、様々な課題を生じさせている。例えば、円高や我が国の国際的地位の高まりは、前述のように国際的な人の流れを変化させているが、急激な人の流れの増加は、我が国国際空港の容量不足を招いて国際航空路線網の充実に支障を来すとともに、空港ターミナルの混雑を生じさせている。また、生産拠点の海外移転やNIEsの台頭等の国際経済環境の変化は、我が国の輸出入構造の変化〔1−3−5図〕、製品輸入の増大、NIEsの物流拠点としての地位の向上等の国際物流の変化を生じさせており、我が国外航海運、国際航空貨物各社は、国際競争に生き残るため、世界的な視野に立った事業展開を迫られている。
一方、前述のように、我が国が国際社会において果たすべき役割が大きくなっており、我が国の高い経済力に応じた国際協力の拡充への要請が高まるとともに、我が国の対外不均衡の是正が国際的に喫緊の課題となっている。運輸においても、従来から、鉄道、港湾等の技術協力に代表される各種の国際協力を行ってきているが、さらに一層の充実を求められており、また、対外不均衡を背景として発生した経済摩擦問題に関しても、運輸関係大型公共事業への外国企業参入問題等に見られるように誠実に対応しているものの、今後とも市場アクセスの改善に努めていく必要がある。
また、近年、地球的規模での環境問題に対する関心が世界的に高まりを見せており、今後とも積極的にこの問題に取り組んでいく必要があろう。

平成元年度

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