平成元年度 運輸白書

第3章 国際的な環境の変化と運輸の課題
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第2節 人の流れの変化と運輸の課題 |
1 国際経済環境の変化に伴う国際間の人の流れの変化
2 国際人流の変化に伴う課題
- 1 国際経済環境の変化に伴う国際間の人の流れの変化
- (国際的な人の流れの急増)
運輸、通信手段の急速な発達により、財、サービス、技術等の国際取引や資本移動が世界的規模で活発化しており、我が国も産業、国民生活両面にわたり本格的な国際化時代を迎えている。このなかにあって、経済大国、技術大国となった我が国を中心とした国際的な人の流れがかつてないほど活発化している。
産業面においては、我が国市場への進出、資金獲得、情報収集をめざして外国企業が支店、工場、研究所または現地法人を設立する動きが高まる一方、我が国企業も、市場開拓・販路拡大の努力等に加え、円高、経済摩擦といった国際経済環境を考慮して、その資金力、技術力により世界的規模での生産拠点、営業拠点の展開を図っており、我が国をめぐる海外商用旅行者数を増加させる要因となっている。
一方、我が国国民の海外観光旅行者数は、所得水準の向上、自由時間の増加、手軽に利用できるパッケージ・ツアーの普及等により増加の一途をたどっており、特に近年は円高による割安感もあって急増している。また、我が国の国際的地位の高まりを反映し、我が国を観光に訪れる外国人も着実に増加している。
こうした要因から、我が国をめぐる国際的な人の流れが急増し、昭和63年における出国日本人数は、対前年比23%増の843万人と、2年連続で同20%以上も増加を記録し、かつ、100万人以上の増加を示した。訪日外国人数も同9%増の236万人と増加している。
このうち、観光目的の旅客は、出国日本人では8割以上、訪日外国人でも5割強を占めているが、出国日本人の場合対前年比で25%も伸びているのに対し、訪日外国人では4%しか伸びておらず、対照的となっている。一方、業務等を目的とした商用客は、出国日本人でも同17%増、訪日外国人では同18%増と平均的に伸びており、経済活動において国際的な結びつきが強まっていることがうかがわれる。
また、出国日本人の主要渡航先及び訪日外国人の国籍について見てみると〔1−3−6図〕〔1−3−7図〕、共にアジア州が過半数を占めており、特に63年については韓国、中国からの訪日外国人が激増し、アジア州全体では前年を20万人も上回った。一方、オーストラリア、ニュージーランドといったオセアニア州を訪れる日本人がここ10年間毎年対前年比20%増を超える伸びを続けており、アジア・太平洋地域における人的交流は活発化の相を深めている。
(国際運輸における課題の発生)
これらの出入国旅客のほとんど(98.6%)が航空利用客であることから、国際的な人の流れを円滑にするために、国際航空路線網の充実を図ると同時に、国際空港の整備を引き続き推進する必要がある。航空利用客のうち、新東京国際(成田)空港利用者は68%に達しており、その割合はここ数年間着実に増加している。また、我が国に発着する国際定期路線の便数をみても、約7割が成田空港に集中しており、こうしたことから、成田空港の処理能力が限界に近づき、国際航空路線網の充実に支障を来すようになりつつある。さらに、成田空港のターミナルの混雑が非常に激しくなっており、我が国の空の玄関として対外的にも問題となっている。
一方、出国日本人数が急増し、訪日外国人数も増加するなかで、国際相互理解の増進、国際収支の改善のために国際観光を政府において積極的に振興することにより、世界に貢献する必要が生じている。国際観光は、自らの体験を通じて国民相互が理解を深めることができ、国民の国際感覚の涵養、国際交流の促進等を図るうえで最も重要かつ効果的な手段であるが、海外における日本人観光客の受け入れ環境の改善や訪日外国人受け入れ体制の整備など、政府においても様々な環境整備を行う必要がある分野である。また、国民の海外旅行の増加は、我が国の対外不均衡の是正に効果が大きく、この面からも日本人海外旅行の促進を図ることが重要となっている。
先進国の中で貿易収支が黒字である日本と西ドイツの貿易収支と旅行収支を比較してみると、西ドイツでは貿易黒字の還元に旅行収支の赤字が大きく貢献していることがわかる。一方、我が国においても、海外旅行者の増加に伴い旅行収支及び旅行運賃収支の赤字が拡大しており、63年には貿易黒字の約20%に当たる195億ドルが諸外国に還元された〔1−3−8表〕〔1−3−9図〕。
- 2 国際人流の変化に伴う課題
- (1) 国際交通網の充実
- (ア) 国際航空路線網の充実
- 国際的な人の流れの急増に対応し、輸送需要に適合した輸送力を確保するため、国際交通網を充実させていく必要がある。国際航空についても、このような観点から、国際航空路線網の充実を図っているところであり、日本発着の運航便数は、輸送需要の急増に伴い大幅に増加している〔1−3−10表〕。
元年においては、ヴァージン・アトランティック航空(英国)、オーストリア航空及びトルコ航空が新規に日本乗入れを開始し、また、ストックホルム、ウィーン、イスタンブール、トロント、エドモントン等との新規路線が開設されたほか、多くの路線において輸送力の増強が行われている。また、我が国企業についても、全日本空輸が61年から国際定期路線を次々に開設しており、日本エアシステムも63年7月に初の国際定期路線である東京−ソウル線を開設するなど、国際線における我が国航空企業複数社化が着々と進められている。
さらに、欧州路線については、利用者利便向上の観点からも所要時間の短縮が望まれながらこれまで何ケ所かの寄港を余儀なくされていたが、航空関連技術の発達に伴う航続距離の長距離化や安全性の向上、日ソ航空交渉においてシベリア上空の飛行についての輸送力枠の拡大が合意されてきたこと等により、ノンストップ便の運航が可能となり、その欧州路線に占める割合も年々増加してきている〔1−3−10表〕。
他方、我が国の基幹的な国際空港については、成田空港はその発着処理能力の限界に近づいており、また、大阪空港は従来より発着回数が厳しく制限されているため、多くの航空企業の増便、新規路線の開設等の要望に対応することが次第に難しくなっているのが現状である。
今後とも、航空整備の進捗状況を踏まえつつ、地方航空の国際化も含め、国際的な人の流れの変化に対応した国際航空路線網の充実を図っていく必要がある。
- (イ) 地方空港国際化の推進
- 地方空港の国際化は、地域における利用者利便の向上、観光の振興、臨空産業の展開等により、地域社会の国際化、地域経済の活性化の推進に資するものである。また、成田、大阪といった我が国の基幹的な国際空港については物理的制約等があり、このような状況下において我が国の国際化を適切に推進するためにも、地方空港の国際化は重要である。
運輸省では、このような観点から、地方空港の国際化を積極的に推進してきているところであり、現在、新千歳、新潟、小松、名古屋、福岡、長崎、熊本、鹿児島及び那覇の9地方空港に国際定期便が就航している。さらに、本年9月に行われた日韓航空当局間協議において仙台−ソウル/釜山路線の開設が合意されたところであり、新たに仙台空港にも国際定期便が就航する予定である。また、本年11月に行われた日米航空交渉においては、旅客便については、東京、大阪以外の地点と米国本土(ハワイを含む。)とを結ぶ路線を日米双方3路線、グァム/サイパンとの間の新規路線を日米双方2路線開設すること等、また、貨物専用便については、既に成田等に乗入れている米国の航空企業がさらに地方空港の新規1地点に運航できること等を内容とする合意がなされたところであり、更に一層我が国の地方空港の国際化が図られることになる。
他方、一般的に、地方空港発着の国際定期路線の開設は、多くの場合需要の状況等から見て難しいため、まず、国際チャーター便を地方空港に就航させ、需要の堀起こしを図っていくことが重要である〔1−3−11図〕。このため、地方空港発着の国際チャーター便を実施する上で必要な地元の需要の堀起こし、機材の確保、CIQの協力等の課題を総合的に解決するためのテスト・ケースとして、地方空港発着のモデル・プログラム・チャーターを実施することとなった。昭和63年10月〜12月に第1回が、平成元年度上期に第2回が行われ、第3回が更に規模を拡大して現在(元年度下期)実施されているところであり、これらの運航実績は良好である〔1−3−12表〕。この運航結果等を様々な角度から検討することにより、今後のチャーターの促進策等に反映し、地方空港の国際化に資することとしている。
- (ウ) 国際海上交通網の整備
- 日本人の外航客船利用者は、航空機利用者の伸びには及ばないものの、近年着実に伸びている。
その中で、我が国と近隣諸国を結ぶ外航定期航路の旅客輸送実績も着実に伸びており、平成元年1月に海外渡航が自由化された韓国を中心に今後とも旅客数の増加が見込まれることから、4月に邦船社が大阪−釜山航路に第2船を投入したほか、10月には新たに長崎−済州間に高速船が就航しており、来年以降も近隣諸国との間に新規航路を開設する計画が数多く進められている。
これら定期航路の開設については、基本的には民間ベースで進めるべきことではあるが、国際航路であるため、必要に応じ政府間で協議を行い、両国の権益のバランスや既存航路との競合問題を検討するだけでなく、旅客輸送を行うという特性から安全運航の確保についても充分に配慮し、意見の調整を図る必要がある。
また、利用者等からの要望として、客船ターミナル施設の一層の整備・充実を求める声が多いほか、空港、鉄道等の交通網や他の観光施設に対する海上からのアクセス整備が未だ不十分と指摘されており、今後の外航客船需要の拡大に応じた適切な施設等の整備・充実が望まれる。
- (2) 国際空港の整備
- 我が国の国際航空路線の表玄関である新東京国際空港、大阪国際空港は既にその能力の限界に近づいており、現在のみならず今後の需要増加に対応することが極めて困難な状況となっている。このため抜本的解決策として、新東京国際空港の概成及び関西国際空港の整備を早急に行う必要があり、最重点課題として取り組んでいる。
さらに、多極分散型国土形成の観点からも今後、地方の国際化に対応した地方空港の国際化を図るための整備を推進する必要がある。
(ア) 新東京国際(成田)空港の二期工事等
新東京国際空港は、昭和53年5月に全体計画の約半分の用地に、4000m滑走路1本と第1旅客ターミナルビル等で開港して以降、その運用実績は順調に推移している。しかし、最近の日本経済の国際化や、円高による海外旅行ブーム等を背景とした空港の利用者の急増に伴い、ターミナルビルは年間適正処理容量を大幅に超え、滑走路についても処理能力の限界に近づきつつある。
こうした空港の利用に係る窮迫した状況を解消し、将来の国際航空輸送需要の増大に対処するために、残る2本の滑走路と第2旅客ターミナルビル等を早急に完成させる必要がある。このため61年11月より完全空港化に向けた本格的な工事に着工し、全体計画の残り約半分の用地に、既存のA滑走路と平行に配置される2500mのB滑走路及び横風用の3200mのC滑走路の2本と、第2旅客ターミナルビル等を整備するべく、平成2年度概成を目指し、現在、未供用区域の全域において事業を推進している。なお、敷地内には一部未買収地が残っており、地元の協力も得つつ全力を挙げて用地問題の解決に取組んでいるところである。
完全空港化されると、現在の約2倍の航空機の発着が可能となるとともに、建設中のエプロンに49の駐機スポットが配置される。
一方、空港アクセスの改善についても、運輸省は、昭和63年6月、東日本旅客鉄道、京成電鉄が都心から空港ターミナルまで直接乗入れる鉄道アクセス改善対策を至急実現するとの方針を決定した。本年3月には工事が開始されており、平成3年3月には開業する予定となっている。
(イ) 関西国際空港の整備
我が国の航空ネットワークの二大拠点の一つである大阪国際空港は環境対策上の配慮から利用時間、離着陸回数が制限されている。このため、増大する航空輸送需要に適切に対応することができない状況にある。このような現状に対処するためには、我が国初の本格的な24時間運用可能な国際空港である関西国際空港の整備が必要である。
関西国際空港は、環境保全に十分に配慮し、大阪湾南東部の泉州沖約5kmの海上に設置する。同空港は将来の全体構想を踏まえ、段階的に整備を図ることとし、現在、平成4年度末の開港を目途として、第一期計画の建設を進めている。
関西国際空港株式会社は、昭和62年1月に空港建設工事に着手し、現在、空港島、鉄道・道路併用の空港連絡橋等の工事を行っている。また、滑走路、旅客ターミナルビル等の空港諸施設については、現在、基本設計等の作業を進めており、平成2年度以降、埋立工事が完了した地区から順次建設に着手する予定である。
一方、空港利用者の利便に資するために、近畿圏の各都市から関西国際空港へのアクセスの整備が進められている。鉄道アクセスについては、西日本旅客鉄道が新大阪駅から、南海電鉄が難波駅からそれぞれ空港まで直通電車を運行することとし、海上アクセスについては、神戸、淡路島等からのアクセスルートを確保することとしており、道路アクセスについても、近畿自動車道紀勢線、関西国際空港線、阪神高速道路湾岸線等の整備が進められている。
関西国際空港の全体構想については、昭和63年度から近畿圏における航空需要予測、関西国際空港の長期的な収支採算の分析等の基礎調査を実施している。
- (3) 国際的な相互理解の増進
- 諸外国との国際親善、相互理解を増進するため、我が国において積極的な国際交流活動を展開していくことが重要となっている。
国際観光は、人的な国際交流の中でも国民各層が最も幅広く参加しえるものであることから、国際相互理解の増進を図る最も重要で効果的な手段である。
(ア) 海外旅行倍増計画(テン・ミリオン計画)
日本人の海外旅行を促進することは、国際相互理解の増進に役立つだけでなく、受入れ国においては、雇用機会の増大や観光関連産業の発展等による経済振興及び外貨獲得に資するとともに、我が国及び相手国の国際収支のバランス改善にも寄与するものであることから、極めて重要な施策となってきている。このため運輸省は、昭和62年9月、「海外旅行倍増計画(テン・ミリオン計画)」を策定し、海外旅行促進キャンペーン等の実施、海外における日本人観光客の受入れ環境の改善、海外旅行者安全対策の推進等の施策を官民が密接に連携を取りつつ、総合的、計画的に推進していくこととした。
(イ)90年代観光振興行動計画(TAP90's)
外国人旅行者受入体制の整備により、我が国を訪れた外国人旅行者が主体的に日本の姿を見聞きし、日本人との触れ合いの機会を持つことができるような環境を整えることは、国際的な相互理解を増進するだけでなく、地方の国際化を進める上でも重要なことである。このため運輸省では、昭和63年4月に策定した「90年代観光振興行動計画」の一環として外国人の訪日の促進のための施策を総合的、計画的に実施することとしている。

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