平成元年度 運輸白書

第3章 国際的な環境の変化と運輸の課題
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第3節 物の流れの変化と運輸の課題 |
1 国際経済環境の変化とそれに伴う国際物流の変化
2 国際物流の変化に伴う課題
- 1 国際経済環境の変化とそれに伴う国際物流の変化
- (1) 我が国を取り巻く国際経済環境の変化
- 我が国の経常収支は、昭和61年度に史上最高の941億ドルもの黒字を計上した後、縮小頃向を見せたが、63年度においても773億ドルという巨額の黒字を記録している。このような大幅な不均衡を背景として、60年9月のプラザ合意以降、円高が大幅に進行し、63年度平均では1ドル=128円となっており、60年9月に比べ円の価値はドルに対し約2倍になった。また、経済摩擦に伴って輸入制限や輸出自主規制といった措置が採られる等、輸出環境も悪化してきている。
また、アジアNIEs、ASEAN諸国は自国の技術力の向上に加えて先進国からの直接投資を受け入れることにより、世界経済の中での地位を大きく向上させている。
以上のような経済環境に対応するとともに世界的視野の下で生産の立地や販売経路を開拓するために、企業は積極的に事業展開のグローバル化を進めており、その一環として日本企業の生産拠点のNIEs、ASEAN及び欧米への海外移転が本格化してきている。
このように、円高、我が国企業の生産拠点の海外移転、NIEsの台頭等の国際経済環境の変化により、アジア地域における生産及び物流の拠点としての地位はわが国から他のアジア諸国にも移行しつつあると言え、この中で我が国経済は産業構造の高度化を図ることにより新たな時代に対応しつつある。加えて、巨額の対外不均衡を是正するために、輸入の促進による拡大均衡を図る必要があり、政策的にも様々な促進方策を講じるようになってきている。
- (2) 我が国を取り巻く国際物流の変化
- 輸出を見ると、60年秋以降の円高を契機として、円高による価格競争力の低下等から輸出数量が伸び悩む中、収益を確保するため我が国輸出企業は素材型製品から加工型製品へのシフト、また、同一業種内での高付加価値商品へのシフトという形により輸出品の高度化を進めている。
一方、輸入を見ると、近年の円高等の経済環境の変化を背景として、製品輸入(とりわけ家電製品等の消費財)のシェアの増加が顕著であり、また、国内需要の拡大による食料品、石油製品等の輸入も増加している。さらに、繊維及び繊維製品、テープレコーダー等のように我が国製品の高付加価値化への移行過程で輸出が減少する反面、開発輸入や技術移転等を通じたNIEs、ASEAN諸国との水平分業の進行の中でこれらの製品の輸入が増加してきていることが注目される〔1−3−13図〕。
これらの物流の変化を数量の面から見ると、暦年ベースで60年から63年にかけて、輸出量では、61年は対前年比7.3%減、62年は同4.7%減、63年には同0.6%減と減少している。また、輸入量では、同期間でそれぞれ1.1%減、3.4%増、9.2%増とかなりの伸びを示しており、我が国の輸入の拡大を裏付けている〔1−3−14図〕。
- 2 国際物流の変化に伴う課題
- (1) 外航海運に係る影響と今後の課題
- (ア) 海上輸送活動に与えた影響
- 昭和63年の我が国海上貿易量は、輸出は対前年比0.7%減と引続き減少を示したが、輸入については、円高を反映して同9.4%増と昨年に引続き大幅な増加を示しており、なかでも製品輸入は、機械類、金属・金属製品、その他軽工業品を中心に同35.9%の大幅な増加を示した結果、輸出入合計では対前年比8.3%増の7億3,137万トンと昨年を大きく上回る伸びとなった。
我が国は、従来より極東地域における一大工業生産拠点として多くの製品貨物を輸出しており、極東地域における定期船貿易の中心として繁栄してきたが、近年、NIEsの工業化に加え、我が国の第二次産業のNIEsを中心とする極東地域への海外移転が進んだことにより、生産拠点、ひいては海上貿易拠点が日本以外の極東地域へとシフトしてきている。
特に顕著であるのが、極東・アジア地域におけるコンテナ貨物取扱量の着実な増加傾向である。世界の主要360港におけるコンテナ取扱量を見ると、昭和62年に全体として対前年比8.2%増の6,584万TEUとなっているが、国・地域別では、台湾(世界第3位)、香港(同4位)、シンガポール(同8位)、韓国(同10位)のNIEsの取扱量は軒並み2桁台の大幅な増加を示している。
また、世界の外航定期航路のうち、最大の荷動き量を誇る日本・極東/北米航路の輸送量についてみると、昭和62年で対前年比10.9%増となっているが、その伸びのほとんどが日本以外の極東揚積の貨物によることがわかる〔1−3−15表〕。
このように、日本を含む東アジアの市場は、NIEsの工業化の進展や日本企業による生産拠点のシフト等により、従来の日本中心型の構造が急速に崩れてきており、またこれに伴い、これら諸国・地域においてもコンテナ輸送に対応した港湾施設の整備、利便性の改善が図られつつあるため、各船社としては、主要定期航路の運営において、よりグローバルな視点に立った経営戦略や、より高度な航路サービスの提供が求められるようになってきている。
- (イ) 外航海運企業の経営戦略
このような状況のなかで、邦船各社は、収益性の向上を目指して極東や北米地域を中心として積極的に経営戦略を展開している。
- (a) 極東地域における物流戦略
- NIEsがアジア地域における海上貿易拠点としての地位を着実に向上させていることに対応して、今後の企業経営における極東地域の重要性は増加する一方であり、我が国外航海運企業の極東地域における積極的な事業展開の動きが目立っている。
特に、極東地域における物流拠点の整備は、我が国外航海運企業にとって重要な課題となっており、@ターミナルの使用の円滑化、コンテナ船ネットワーク強化等を目指した現地におけるコンテナターミナル会社の設立やコンテナターミナル会社への出資、A集荷力の向上と荷主に対するサービスの充実を目指したフォワーダー業務を行う現地法人の設立、B極東地域におけるコンテナ需要の伸びに対応した、コンテナを低価格で現地調達するためのコンテナ製造を行う現地法人の設立等各社がそれぞれ独自の経営戦略に基づき、極東地域に乗り出している。
- (b) 北米地域における物流戦略
- 日本・極東/北米の外航定期航路は、世界で最も荷動きの多い定期航路であるが、海運各社間の競争が激しく、このなかで、複合一貫輸送サービス、国際宅配便サービスの開始等により総合物流業としての体制強化を図ることによって、高度化した顧客のニーズに対応し、厳しい国際競争のなかで生き残りを図っていこうとする動きが目立っている。
@北米航路の集荷力向上と米国内陸部への参入を狙いとした米国の有力陸運業者の買収、A北米の内陸輸送利用貨物の増大に対応した米国におけるDST(ダブルスタック・トレイン:二段積みコンテナ専用列車)の運行会社の設立、B物流の拠点としての流通センターの整備、C船舶・ターミナル・鉄道(DST)の複合輸送サービスの導入による北米内陸向け小口混載貨物輸送サービスの開始等により、日本・極東/北米のコンテナ貨物輸送において、高度化した顧客のニーズに対応したきめ細かい良質の物流サービスの提供を行い、加えて、海上部門における競争力の補完、強化を図ろうとしている。これらの動きは、我が国海運企業が総合物流業者へ脱皮していこうとする経営戦略の現れとみることができる。
- (c) 本社機能の一部の現地法人化
- 海運企業のなかには、本社機能の一部を現地法人化することにより、代理店費用、人件費等のコスト削減と同時に内陸輸送網の整備、集荷力の拡大、業務のスピードアップなどきめ細かな輸送サービスの向上等を図り、外国船社との競争力を強化しようとするものが現れている。
こうした動きは、特に、北米、極東、欧州といった企業経営上重要な地域において顕著であり、@大幅な赤字を出している北米コンテナ航路の費用削減と経営の効率化を目指した北米における定期船部門の現地法人化、A定期船部門に続く不定期船部門の北米や欧州における現地法人化、B極東地域の重要性の増加に対応した同地域における代理店業自営化のための現地法人化等の動きが注目される。
- (ウ) 今後の課題
- 国際的な貨物動向の変化や顧客サービスの高度化の要請は、我が国外航海運企業の経営にも大きな影響を与えており、その経営戦略は、今後、外航海運企業が単に船舶を運航して、日本と外国との間で物を運ぶということにとどまらず、総合物流業者として、あるいは、世界的な戦略の下にたって事業を展開していこうとする積極的な動きとなって現れてきている。
今後も厳しい国際競争の展開が予想されるなかで、我が国外航海運企業が生き残っていくためには、国際物流の変化を的確にとらえるとともに顧客のニーズを先取りした輸送サービスの一層の向上を図っていく必要があり、時代の変化に的確に対応した企業運営が求められているといえよう。
- (2) 国際航空貨物に係る影響と今後の課題
- (ア) 最近の物流動向
- 国際航空貨物についても、円高・貿易摩擦に伴う日本経済の内需拡大、輸入促進を背景として近年大きな変化が見られる。
まず、日本全体の継越も含めた国際航空貨物の出入り量は、〔1−3−16表〕に示すとおり、昭和60年度以降毎年10%以上の伸び率で推移してきているが、特に、ここ2〜3年は輸入を中心に急増しており、61年度以降輸入が輸出を上回っている。
輸入を品目別に見ると〔1−3−17表、推計値(前)〕〔1−3−17表、推計値(後)〕、食料品、機械機器のシェアが高く、中でも魚介類、電機機器(半導体、通信機器等)のウェイトが高い。輸出では、機械機器が70%を占め、次いで金属及び同製品が10%である。中でも電機機器、科学光学機器(カメラ、レンズ等)、事務用機器(コンピューター等)のウェイトが高い。
主要品目別の国際航空貨物量構成比の推移をみると、〔1−3−18図〕、〔1−3−19図〕に示すとおり、輸入食料品の構成比の増加が顕著であり、グルメ志向や食生活の変化等により海外の高級食料品や輸入ウィスキー、ワインなどが消費されるようになったことも一因と考えられる。
- (イ) 生産構造の変化
- ここ数年来、主要輸出メーカーは国際競争力の強化等のため、海外現地生産へのシフトを進めてきた。その結果、高技術品は国内生産、中・高級品は先進国の現地生産、コスト競争力の低下した中・低級品は海外生産委託と水平分業が定着しつつある。こうした生産構造の変化は、部品や中間製品の国際間の移動を増加させるとともに、我が国への製品輸入の増大等をもたらしている。例えば〔1−3−20図〕は、太平洋航空貨物市場における貨物流動構造を示したものであるが、日本、北米、東南アジアの三極化が進展していることがわかる。
- (ウ) 今後の課題
- 上述のとおり、我が国発着の国際航空貨物は著しい伸びを示しており、需要や生産構造の変化に応じ、今後も増加していくことが予想されている。これに伴い、国際航空貨物の8割以上を取り扱う新東京国際空港において、貨物取扱施設の狭隘化が深刻になってきており、今後の需要の増加に対応していくためには、新東京国際空港の航空貨物取扱施設の整備を進めるとともに、新東京国際空港一極集中の改善施策を検討していく必要がある。このため、航空貨物の特性、中長期的見通し等を踏えて、24時間空港となる関西国際空港を始めとするその他空港の活用方策、あるいは、その他空港活用の前提となる国内転送対策等の国際航空貨物物流対策全般について検討している。
- (3) 港湾に係る影響と今後の課題
- (ア) 港湾取扱貨物の動向
- 国際的な貿易環境の変化は港湾取扱貨物にも多大な影響を与えている。昭和63年に我が国の港湾において取扱われた貨物量は、対前年比4.3%増の30億トンと2年連続の増加を示し、過去最高の値となった。このうち、輸出貨物については、自主規制や韓国等競争相手国の台頭により、鉄鋼、非鉄金属等の重化学工業製品が減少傾向にあるほか、自動車など機械類が伸び悩み、全体として3年連続の微減となった(対前年比0.8%減)。輸入貨物については、国際分業化の進展、消費生活の向上に伴い鉄鋼、石油製品、食料工業品などの製品、食料品が急増する一方、減少傾向にあった原油、金属鉱などの工業原材料が増加に転じるなど、全体として3年連続の増加を示した(対前年比8.4%増)。
こうした中、海上コンテナを利用した定期船貨物量は年平均10%以上の伸び率で推移し、昭和63年にはついに1億トンに達した(対前年比11.8%)。その定期貨物船に占める割合は83.2%に達し、産業の国際水平分業の進む中、種々雑多な製品の輸出入に通したコンテナ定期船輸送の重要性はますます増大している。
- (イ) 今後の課題
- 経済摩擦の解消を目的とした輸入促進のための諸施策の展開及びNIEsの台頭等を背景に、今後とも港湾で取扱う輸入コンテナ貨物は増大を続けるものと考えられる。このため、従来の輸出中心の施設整備を見直すとともに、効率的な輸入貨物の受入れと海陸を通じた円滑な輸送体制を確立する必要がある。
また、近年、消費地である地方中心都市を背景にもつ港湾での輸入コンテナ貨物の増加は著しく、単に三大湾のみならず、地方における輸入コンテナ貨物に対応する諸施策を積極的に展開する必要がある。

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