平成元年度 運輸白書

第3章 国際的な環境の変化と運輸の課題

第4節 国際的地位の高まりと運輸の課題

    1 我が国の国際的地位の高まり
    2 国際協力の拡充
    3 市場開放への取り組み


1 我が国の国際的地位の高まり
 昭和60年の我が国のGNPは1兆3,503億ドルであり、1人当たりのGNPは1万1,184ドルと米国の1万6,779ドルよりも小さかった(IMF統計書)。
 その後我が国経済は、急速な景気拡大を継続し、63年の我が国のGNPは世界経済の1割を超えるシェアを占め(2兆8,640ドル)、1人当たりのGNPでも2万3,365ドルと米国の1万9,830ドル(米国政府統計)を上回るにいたった。加えて近年大幅な経常収支黒字を続け世界最大の純債権国となっており、我が国の経済的プレゼンスは国民が意識する以上に大きくなっている。そして、我が国は今、この経済力を活用していかに世界に貢献していくかを問われている。
 日本の発展は世界の繁栄と不可分であり、我が国が政府開発援助(ODA)を通じて行う各種の国際協力は、最も有力な国際貢献手段のひとつである。
 我が国のODAは年々着実に増加し、平成元年度には事業予算ベースで世界第1位となっている。また、実績についても1988年には米国に次いで世界第2位の援助国となっており、我が国の国際的な貢献の強化への期待はますます高まっている。
 また、経常収支の赤字を背景とした保護主義の台頭による米国からの要求のみならず、EC諸国や近年アジア諸国等からも我が国市場の開放を求める要求が高まっている。日米間の貿易不均衡を見ると、米国の対日貿易赤字は84年以来急速に拡大し、86年以降年間500億ドルを超えるものとなっている。89年5月には、米国が包括貿易法のいわゆるスーパー301条に基づき日本のスーパーコンピューター及び衛星の政府調達、林産物に関する技術的障壁の3項目を貿易自由化を求めていく上での優先慣行としたところである。また、マクロ経済政策協調等により日米間の貿易不均衡が着実に是正されつつあるものの依然として多額なものであることから、米国は我が国の経済構造そのものを問題にして、日米構造問題協議を求めてきたところである。このように、現在の対外不均衡を放置すれば各国との経済摩擦を激化させ、世界を保護主義に導き、国際社会における我が国の孤立を招く恐れが大きく、その是正は急務になっている。自由貿易体制を維持・強化し、世界経済の拡大均衡を目指すためにも我が国は積極的な対応を求められている。
 これまで運輸の分野においては、自動車の基準・認証制度や関西国際空港をはじめとする大型公共事業等への外国企業の参入が問題にされたケースが目立ったが、逐次その解決に努めてきており、個々のケースにおいては順調な市場開放が進んでいる。また、米国造船業界が通商法第301条に基づく措置を求める旨の提訴を行った我が国の造船助成政策については、OECDの場を通じた取決めの枠内であり不公正な助成ではなく、造船助成についてはOECD造船部会の場で協議すべきである旨反論したところ、米国造船業界は提訴を取り下げるに至り、その後OECD造船部会を通じて、日米両国政府が協力して正常かつ公平な競争を歪曲する政府助成を削減していく努力を行っているところである。
 しかし、最近の貿易摩擦には、前述のように構造的障害を問題として全般的な経済摩擦とする傾向が強いこと、ガット・ウルグアイ・ラウンドにみられるようにサービス分野に対する市場アクセスの改善を求める動きが強まっていることといった新たな特徴が表れてきている。このため、今後とも相互理解及び協力の下に冷静かつ実質的な話し合いを通じて経済摩擦における個別の問題を積極的に解決するとともに、経済政策全般にわたる国際協調体制の一層の強化を図っていく必要がある。

2 国際協力の拡充
(1) 国際社会への貢献
(ア) 運輸分野における経済協力の動向
 日本の発展は世界の繁栄と不可分であり、我が国の政府開発援助(ODA)を通じて行う各種の国際協力は、最も有力な国際貢献手段のひとつである。
 我が国政府は、63年6月、今後5年間のODAの実績総額を過去5年間の実績の2倍に当たる500億ドル以上とするよう努めるとともに援助の質的改善を図ること等を内容とした政府開発援助の第4次中期目標を定め、今後とも国際社会へ積極的に貢献していくこととしている。
 我が国は、従来から経済インフラストラクチャーの整備を通じ、開発途上国の自立的発展を目指した協力に力を入れてきている。中でも、鉄道、港湾、空港等運輸分野の協力は、物流及び人流の手段の整備という観点から開発途上国の経済発展の上で欠くことができないものであるばかりでなく、地域格差の是正に寄与し、民生の向上にも役立つものである。このため、我が国の有償資金協力においても、運輸関係分野は、インフラストラクチャー整備や発電所の建設等に対するプロジェクト借款の約2割という大きな割合を占めている。また、開発途上国のプロジェクトについて実現可能性を検討したり、短期あるいは中長期にわたる開発の基本計画等を作成する開発調査についても、全開発調査案件の約2割を占めている。
 最近は、新たな施設の整備を内容とした協力に加えて、既存施設の近代化、効率化等に対する協力や施設・機材の管理・運営に対する協力への要請が多くなっている。また、外貨獲得、雇用機会の増大等経済効果の大きい観光開発に対する協力や、最近の開発途上国における輸送事故の多発を反映して輸送安全関係の協力要請等が増大している。
 運輸省では、今後これら新しい国際協力のニーズにも力点を置きつつ、多様な運輸関係国際協力を積極的に推進していくこととしている。
(イ) 気象に係る国際協力
 大気に国境はなく、気象の観測・予報等には各国の協力が何よりも大切である。気象庁は世界気象機関(WMO)の中心的な構成員として、アジア地域の気象情報サービスの要としての役割を担うとともに、WMOの行う気象観測・通信網整備の推進、観測技術基準の統一、予報技術開発の推進等の活動に積極的に参加している。
(2) 国際科学技術協力
 先進国との間においては、お互いに科学技術能力を高めるために、また、開発途上国との間においては、開発途上国の自助努力を支援し、自らが自国に適した技術の開発を可能とするために、科学技術の分野における国際協力が近年ますます重要となってきている。
 運輸省では、二国間の科学技術協力協定等を中心とした国際的な枠組みの下、所掌する自動車、鉄道、船舶、港湾、航空、気象、海上保安等の各分野について、科学技術に関する情報交換、専門家交流、共同研究等の国際科学技術協力を積極的に推進している。

3 市場開放への取り組み
(1) 大型公共事業等への外国企業参入問題
 我が国の建設市場への外国企業の参入問題に関しては、約2年間の協議の後、昭和63年5月、日米両政府間で意見の一致がみられ、我が国政府のとる措置が閣議了解されるとともに、米国に対し書簡の通報が行われた。
 運輸省所管プロジェクトにおいても閣議了解に基づく措置が実施に移され、発注機関へのコンタクトポイント(相談窓口)の設置、対象プロジェクトのマスタープラン及び年度発注計画を公表する等の新たな措置をとった。
 実績についてみると、関西国際空港関係の空港総合通信システムの設計業務、東京国際空港(羽田)西側旅客ターミナルビルの搭乗橋等の選定、閣議了解後初の外国企業による建設工事受注となった横浜みなとみらい21の国際会議場・ホテル棟建設工事、テクノポート大阪のワールドトレードセンターのビルの設計業務など外国企業の参入が進んでいる。
 このほか、関西国際空港の旅客ターミナルビルの設計は国際コンペに付され、イタリア人が優勝するなど着実にその成果はあがっている。
 運輸省としては、今後とも所管のプロジェクトへの外国企業のアクセスを容易にする努力を行っていくこととしている。
 また、我が国は、外国企業の建設市場へのアクセスを容易にするため、政府、民間ともこれらの措置を誠実に実施しており、米国も計3回開催されたモニタリング委員会との会合において評価しているところであるが、本年11月22日米政府は、包括貿易法1305条に基づく調査結果を公表し、日本の建設市場の参入について障壁はあるものの対日制裁措置は当分の間発動しないと決定した。
(2) 自動車基準・認証制度の国際化の推進
 我が国の自動車の輸出入の大幅な不均衡を背景として、欧米諸国は我が国に市場アクセスの改善及び輸入の促進を進めてきている。
 これに対し、我が国は、自動車基準・認証制度について、従来より諸外国関係者の意見等を踏まえアクション・プログラムに基づく措置を全て実施するなど種々の措置を講じてきている。
 しかしながら、1992年のEC域内市場統合に伴い、統一自動車型式認証制度が検討されるなど自動車をめぐる世界情勢は依然として流動的であり、日・欧間、日・米間などにおいて関係政府機関及び業界との会合を通じ日本の基準の一層の国際化を進めているほか、基準の国際的調和活動が行われている国連の欧州経済委員会自動車安全公害専門家会議(ECE・WP29)に積極的に参加し、基準の国際化の推進を図っている。
 さらに、基準の国際化に必要な政府の諸活動を支援するため、62年「自動車基準認証国際化研究センター(JASIC)」を設立し、また、63年3月には同センター・ジュネーブ事務所を開設して、国からの補助金等により、本年2月の「灯火器基準調和国際会議」の東京開催をはじめ国際基準作成のための試験研究、情報収集活動など基準の国際化に貢献するための活動を行っている。



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