平成元年度 運輸白書

第1章 国鉄改革の一層の推進・定着化をめざして

第1章 国鉄改革の一層の推進・定着化をめざして


この章のポイント

○ 発足後2年目を迎えたJR各社の昭和63年度の事業運営状況については、好景気や青函トンネル及び瀬戸大橋の開通等を背景として、国鉄改革の趣旨に沿った積極的な営業施策の展開や健全経営の実現への努力が図られたことにより、輸送量、決算状況のいずれについても前年度に引き続きおおむね順調に推移している。
○ 国鉄長期債務等の処理, 日本国有鉄道清算事業団職員の再就職対策、日本鉄道共済年金問題という国鉄改革に残された課題については、国鉄改革のより一層の推進・定着化を目指して、必要なあらゆる努力を継続していく。


第1節 JR各社の事業運営等の状況

    1 JR各社の事業運営
    2 特定地方交通線対策の状況
    3 新幹線鉄道保有機構の状況


1 JR各社の事業運営
(1) 昭和63年度の事業運営の状況
(ア) 輸送の動向
 昭和63年度の旅客会社及び貨物会社の鉄道輸送は、青函トンネル及び瀬戸大橋の開通並びに国内の好景気に支えられたこと等によりおおむね順調に推移した。その概要は〔2−1−1表〕のとおりである。
 旅客会社の中では、青函トンネル及び瀬戸大橋の開通の影響を受けた北海道会社及び四国会社、さらに前年度に引き続いて東海道新幹線が好調であった東海会社の輸送量が前年度を大幅に上回っている。
 貨物会社については、車扱貨物輸送において輸送量が若干減少したものの、輸送トンキロでは前年度を上回っており、コンテナ貨物輸送においては輸送量及び輸送トンキロともに前年度を大幅に上回り、好調な状況となっている。
(イ) 決算状況
 JR各社は、平成元年6月下旬、昭和63年度の貸借対照表、損益計算書及び営業報告書を運輸大臣に提出したが、このうち、各社の収支の状況及び資産・債務の状況は〔2−1−2表〕及び〔2−1−3表〕のとおりである。
 63年度においては、鉄道事業等の営業損益及び経営安定基金の運用収入や承継長期債務の支払利息等の営業外損益を合わせた各社の経常損益は、北海道会社を除き利益を計上しており、7社合計では、対前年度比39.8%増の2,118億円の利益となっている。また、税引後の当期利益でみると、各社とも利益を計上しており、その額は7社合計で対前年度比77.8%増の889億円となっている。
 このように、各社の決算状況については、62年度に引き続きおおむね順調に推移しているが、その要因としては、
@ 国内景気が62年度に引き続き拡大基調で推移したことや青函トンネル及び瀬戸大橋の開通等により誘発的な需要の拡大があったこと等を背景として、JR各社が国鉄改革の趣旨に沿って、ダイヤ改正等を通じての地域密着型の輸送サービス提供や魅力ある企画商品づくり等積極的に営業施策を展開するとともに、関連事業を拡大する等健全経営の実現への努力を継続した結果、営業収入が7社合計で対前年度比7.3%増の約3兆9,000億円と順調に伸びたこと、
A 効率的な業務運営の確立のために業務体制の見直しを行う等経費節減努力を行ったため、老朽施設整備や駅・車両の改善等安全対策や利用者サービス向上対策を行ったことによる修繕費増等はあったものの、営業費用が7社合計で対前年度比6.0%増の約3兆4,800億円にとどまったこと、
等が考えられる。
 また、設備投資については、各社とも設備投資の執行体制が軌道にのり、車両の新製、輸送設備の維持更新等を中心に本格的な設備投資が開始された結果、63年度における実績は7社合計で対前年度比69.1%増加の3,525億円となった。

注)この章で「旅客会社」とあるのは北海道、東日本、東海、西日本、四国及び九州の各旅客鉄道株式会社(それぞれ「○○会社」と略す。)、「貨物会社」とあるのは日本貨物鉄道株式会社のことをいう。

(ウ) JR各社の事業の展開
(a) 鉄道事業の展開
 JR各社は、前年度に引き続いて利用者利便の向上を図り、需要の拡大に努めた。
 旅客会社においては、朝夕の通勤通学時のみならずデータイムや深夜を含めた列車の増発、運転区間の拡大、接続改善を図ることにより、地域に密着した輸送サービスを提供した。
 また、一部路線の延長開業(東日本会社京葉線)や新駅の設置、駅の設備(駅舎、放送設備、誘導案内機器等)の改良、新幹線二階建て車両の充実や電話付き列車及び弱冷房車の整備、イベント車両の運行等を行うことにより、利用者サービスを充実させた。
 さらに、大口利用者の切符購入の便宜を図るための端末装置の開発、旅行センターの増設・整備を図り、営業活動の充実・強化に努めた。
 貨物会社においても、新規路線の設定、列車の増発、スピードアップ、利用者のニーズに応じた発着時間帯の確保等を行うとともに、多様化、高度化する利用者のニーズに応えるため、クールコンテナや側二方開き広幅コンテナの導入を行い、さらに、航空会社とタイアップしたツーリング用バイク列車輸送を実施する等、新しい商品の拡大に努めた。
 また、ピギーバック輸送の拡大やスライド・ヴァンボディ・システムの導入の検討等により、トラックと鉄道による協同一貫輸送の充実に努めた。
(b) 関連事業の展開
 関連事業については、JR各社は、経営基盤の確立を図るとともに企業全体の活力を維持していくために、各社の創意工夫の下にそれぞれの保有するノウハウ、技術力、資産、人材等の経営資源を最大限に有効活用し、出資会社等関連会社と一体となって事業展開を行っている。
 具体的には、旅行業について、独自のブランドにより商品の浸透を図るなど積極的な営業展開を行うとともに、同種の事業を営む地域の中小企業者に配慮しつつ、不動産業等新規の事業分野への進出を行っている。
(c) 安全の確保
 安全の確保は、輸送機関としての基本的な使命であり、JR各社にとって積極的に取り組まなければならない課題である。
 JR各社は、安全推進委員会等を設置して安全運行体制の強化を図るとともに、踏切保安設備の整備、老朽施設の計画的更新等による輸送施設の安全性の確保等に努めている。
 昭和63年度の運転事故件数は900件であり、前年度の運転事故件数927件と比較して3%の減少を示している。このうち、踏切事故については、572件であり、前年度の642件と比較して11%の減少、列車事故(列車衝突、列車脱線及び列車火災をいう。)については、23件であり、前年度の26件と比較して12%の減少を示している。
 しかし、63年12月の中央線東中野駅列車衝突事故等、社会的に大きな影響を与える事故が相次いで発生したことにかんがみ、運輸省は、運輸省とJR各社の安全担当責任者で構成する鉄道保安連絡会議を定期的に開催することとし、安全対策の推進に努めている。また、JR各社においても、高機能の自動列車停止装置(ATS−P等)の導入の促進等、より一層の安全対策の推進を図っている。
(2) 平成元年度の事業運営の状況
 JR各社は、平成元年3月31日運輸大臣により認可された各社の元年度事業計画を基本方針として事業運営に取り組んでいるが、各社の事業計画については、
@ 発足後2年間の実績を踏まえ、各社とも利用者サービスの拡充、財務体質の強化等の課題に積極的に取り組む内容となっていること、
A 安全の確保について、昭和63年度に発生した事故等の教訓を踏まえ、各社ともハード・ソフトの両面にわたり、より一層の対策を講じることとしていること、
B 設備投資についても、安全対策、輸送力整備、利用者サービスの拡充等全体として前年度を相当上回る規模の計画(平成元年度計画7社合計で4,899億円、昭和63年度実績3,525億円)となっていること、
等国鉄改革の趣旨に沿って、63年度に引き続き、鉄道事業の円滑な運営及び財務体質の強化等健全な経営基盤の確立のため、事業運営に積極的に取り組む内容となっている。
 JR各社が策定した平成元年度事業計画における経営見通しは、7社合計で、営業収益は3兆9,385億円(対前年度実績比1%増)、税引後の当期利益は978億円(同10%増)となっており、おおむね順調な経営状況が維持できる見込みとなっている〔2−1−4表〕
 なお、平成元年度上半期の経営状況を取扱収入の面からみると、旅客会社については、4月は消費税導入に伴う運賃値上げによる「先買い」の影響により、対前年比6.6%減となったが、上半期計では対前年比4.1%増となっており、消費税相当分を除き前年を1%強上回る状況となっている。また、貨物会社については、上半期計で消費税相当分を除き対前年比4%強の増加となっている。

2 特定地方交通線対策の状況
 輸送密度が少なく、バス輸送に転換することが適切な路線である特定地方交通線については、旅客会社が将来にわたりその事業を健全に経営し得る基盤を整備するためにも、また、地域にとってより適切な交通体系を構築するという見地からもバス転換等を図ることが必要であり、国鉄改革時までに廃止・転換の完了しなかった30線約1,438kmの特定地方交通線について、日本国有鉄道改革法等施行法において経過措置を設けて従来の特定地方交通線対策を引き続き行っている。
 この経過措置に基づき、昭和62年4月1日以降、平成元年11月1日までに26線が転換(バス8線、鉄道18線)され、残る4線についても地元特定地方交通線対策協議会会議で転換の合意(バス3線、鉄道1線)がなされており、特定地方交通線83線約3,157km全線の転換が決定されている。
 なお、転換状況は〔2−1−5表〕のとおりである。

3 新幹線鉄道保有機構の状況
 新幹線鉄道保有機構(以下「保有機構」という。)は、新幹線鉄道の施設の一括保有及び貸付けに関する業務を行っているが、昭和63年度の業務運営の状況については、新幹線鉄道施設貸付収入7,098億円を含め収入が7,107億円、借入金利息支払等費用が7,012億円であり、差引き95億円の当期利益を生じている。当期利益は、積立金として処理されている。また、63年度末における資産総額は8兆3,825億円、負債総額は8兆3,712億円となった。
 なお、保有機構は、平成元年度より当分の間整備新幹線建設の財源として日本鉄道建設公団に対する交付金の交付業務を新たに行うこととなった。



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