平成元年度 運輸白書

第1章 国鉄改革の一層の推進・定着化をめざして
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第2節 残された課題への対応 |
1 国鉄長期債務等の処理
2 事業団職員の再就職対策
3 日本鉄道共済年金問題
- 1 国鉄長期債務等の処理
- (1) 国鉄長期債務等の処理の基本方針
- 日本国有鉄道清算事業団(以下「事業団」という。)に帰属した国鉄長期債務等(昭和62年度首25.5兆円)の処理は、国鉄改革に残された最重要課題の一つであるが、その基本的な方針については、63年1月26日に閣議決定されており(「日本国有鉄道清算事業団の債務の償還等に関する基本方針について」)、その柱は以下のとおりである。
@ 用地処分収入等の自主財源を充ててもなお残るものについては、最終的には国すなわち国民負担において処理するものとするが、当面は、土地等の適切かつ効率的な処分を進め極力国民負担の軽減に努める。
A 本格的処理のために必要な「新たな財源・措置」については、雇用対策、土地の処分等の見通しのおおよそつくと考えられる段階で歳入・歳出の全般的見直しとあわせて検討・決定する。
- (2) 事業団用地の処分
- (ア) 事業団用地の処分の現状
- 事業団が保有する土地は、国鉄長期債務等の償還に充てるための重要な財源である。
用地処分については、公正さの確保及び国民負担の軽減の観点から公開競争入札を原則としているが、国、地方公共団体その他の公法人又は公益法人(地方公共団体が出えんしているものに限る。)等が公用、公共用等の用途に供する場合には随意契約により適正な時価で処分することとしている。昭和63年度の土地処分収入は、予算計画においては3,000億円であったが、公開競争入札について、地価対策にも配慮し、「緊急土地対策要綱」(62年10月16日閣議決定)に基づき、地価高騰地域において見合わせていたことから、実績では、公開競争入札281億円、随意契約1,754億円の合計2,035億円となった。また、償却資産処分収入6億円を含めた固定資産処分は2,041億円となった。
貨物ヤード跡地等の大規模用地については、地域整備にも配慮して関係地方公共団体の参加も得ながら事業団の資産処分審議会において土地利用に関する計画を策定し、必要な基盤整備を行い資産価値を高めた上で処分することとしている。平成元年10月1日までに全国51か所について計画の策定が諮問され、汐留(東京都)等16地区について計画が策定されている。
- (イ)監視区域内における公開競争入札の実施
- 三大都市圏に所在する事業団用地は、面積からみると全事業団用地の約3割であるが、その資産価値は約9割を占めており、三大都市圏の用地の処分の円滑な実施は国鉄長期債務等の処理を左右するものである。事業団の原則的な土地の処分手法である公開競争入札については、緊急土地対策要綱に基づき、国土利用計画法の監視区域内においてその実施を見合わせてきたが、監視区域が全国的に拡大する一方、事業団債務が累増している状況にかんがみ、平成元年2月10日の土地対策関係閣僚会議において個別用地ごとに関係者間で地価に悪影響を与えないと判断されるものについて、公開競争入札を実施していく旨の申合せがなされ、6月から、順次、監視区域内における公開競争入札を実施している。
- (ウ) 地価を顕在化させない土地の処分方法の実施
- 地価を顕在化させない土地の処分方法については、資産処分審議会の答申(昭和63年5月30日)において土地信託方式、建物付土地売却方式、出資会社活用方式等が示されており、順次、実施に移している。このうち、土地信託方式については平成元年9月に渋谷駅用地(旧手小荷物取扱所)について、提案競技により受託予定者を決定し、また、蒲田駅、川崎駅、池袋駅に所在する事業団用地について信託銀行の選定手続きを行っている。また、建物付土地処分方式については、所要の建物建設費が元年度予算に計上され、横浜宿泊所等4か所を対象として実施することとしている。出資会社活用方式については、大規模用地を対象とすることから、不動産の証券化の手法を取り入れて実施することが効果的と考えられ、現在、その制度的、実態的問題点について具体化のための検討を行っているところである。
- (3) 国鉄長期債務等の推移と処理方策
- 事業団の国鉄長期債務等の償還等については、その確実かつ円滑な実施を図るため、「日本国有鉄道清算事業団の債務の償還等に関する基本方針について」に従い国鉄長期債務等の償還等を進めている。
事業団の63年度決算については、支払利息等の費用に加え、本四備讃線債務を新たに負担したこと等により経常費用が2兆4,992億円であったのに対し、主たる自主財源である土地等の固定資産の売却収入が2,041億円にとどまったこと等から、経常収益は7,184億円にとどまった。その結果、当期損失1兆7,807億円、繰越欠損金18兆3,219億円となり、63年度の決算上の長期債務(固定負債)の総額は22兆1,818億円となった。
なお、年金等の将来発生する債務を含めると全体債務は26兆9,281億円となった。
平成元年6月には、昭和62年度から3年間の土地処分収入不足約7,200億円について、保有機構に対する債権(63年度末2.8兆円)の中から同額を期限前に回収するとともに、残りの2.1兆円の債権についても残存償還期間を28年から14年に短縮する措置を講ずる(「新幹線鉄道保有機構法施行令の一部を改正する政令」)など、債務累増の防止に努めている。
- 2 事業団職員の再就職対策〔2−1−6表〕
- 事業団職員の再就職の促進についても、国鉄改革に残された最重要課題の一つである。
政府は、事業団職員の再就職の促進を図るため、昭和62年6月5日に「日本国有鉄道退職希望職員及び日本国有鉄道清算事業団職員の再就職の促進に関する特別措置法」(以下「再就職促進法」という。)に基づき「日本国有鉄道清算事業団職員の再就職促進基本計画について」を閣議決定した。この閣議決定においては、再就職を必要とする事業団職員に対して各分野における再就職の機会の確保、事業団等における教育訓練等の再就職の援助等の再就職対策を進めることにより、事業団移行後3年内にすべての事業団職員の再就職が達成されるように努めることとされている。
この再就職促進基本計画に沿って再就職対策が進められており、個々の職員の希望、能力等を踏まえ、再就職に必要な教育訓練、個別求人開拓、職業紹介等がきめ細かく実施されている。
特に、再就職先未定の職員の集中している北海道及び九州地域は雇用情勢が依然として厳しく、両地域の職員の再就職の促進を図るためには、全国的観点から対策を進めることが不可欠なことから、広域再就職が円滑に行われるようにするための子弟の転入学に関する情報提供等の援助措置も講じられている。
この結果、公的部門等に採用内定している事業団職員の採用が着実に進む一方、事業団移行時の62年4月1日には、7,628人であった再就職先未定の職員も平成元年11月1日現在で2,218人まで減少した。
今後は、2年4月1日限り再就職促進法が失効することとなるので、これまでに講じてきた施策を更に一層きめ細かく実施することとしている。
- 3 日本鉄道共済年金問題
- 日本鉄道共済年金は、極めて厳しい財政状況にあるが、平成元年度までは、国家公務員共済、日本たばこ産業共済及び日本電信電話共済の3共済の拠出による財政調整事業の実施に加え、過去の追加費用の見直し等により年金の支払に支障が生ずることのないよう措置されている。
大幅な財政赤字が見込まれる平成2年度以降の対策については、大蔵大臣、運輸大臣、年金問題担当大臣及び内閣官房長官の4大臣で構成する「日本鉄道共済年金問題に関する閣僚懇談会」において、昭和63年10月に提出された各界の有識者からなる「鉄道共済年金問題懇談会」(大来佐武郎座長)の報告書の趣旨を最大限尊重しつつ鋭意検討を行い、平成元年2月に、年金給付の見直し、保険料率の引上げ、JR・事業団の特別負担など日本鉄道共済年金の自助努力等の措置を講ずることとし、3月に所要の法律案が国会に提出された。
一方、本問題とは別に、「公的年金制度に関する関係閣僚懇談会」の指示の下に関係省庁間で、公的年金一元化へ向けての「地ならし」措置について検討が進められてきたが、元年2月に、被用者年金制度間の費用負担の調整措置を2年度から実施する旨が合意され、4月にこの措置に関する法律案が国会に提出された。
今後、関係法律案の早期成立が図られるよう適切に対処していく必要がある。

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