平成元年度 運輸白書
第10章 昭和63年度の概況と平成元年度の動き
第2節 青函トンネル、瀬戸大橋開通後1年を振り返って
1 青函トンネルの開通後1年
2 瀬戸大橋の開通後1年
1 青函トンネルの開通後1年
(1) 人の流れの変化
旅客交通についてみると、青函トンネルの開通(昭和63年3月13日)は、本州〜北海道間の旅客交通量を大幅に増加させ
〔2−10−46図〕
、特に63年9月までは、トンネル開通直後のブームと青函博覧会の開催(63年7月9日〜9月18日)とも相まってJR旅客(青函博覧会に際して運航されたJR船舶の実績を含む。)に毎月前年同月に比べ10万人前後の増加をもたらすとともに、JR旅客と競合すると思われたフェリーについても波及的効果を生じさせ、大幅な増加となった。 各交通機関別の特徴は次のとおりである
〔2−10−47図〕
。
(ア) JR(津軽海峡線及び青函連絡船)
63年度実績(上り下り合計。速報値による。以下同じ。)は、328.5万人(対前年度比18.4%増。以下同じ。)と、好調な伸びを示している(青函博覧会に際して運航されたJR船舶の実績を含む。)。
その要因としては、トンネル開通を契機とした利用しやすいダイヤの編成、札幌〜上野直通の夜行特急「北斗星」の導入、カートレイン、モトトレインの運行によるサービスの向上等のほか、トンネル開通自体がもつイベント的効果、青函博覧会の開催、廃止された青函連絡船が博覧会に合わせ再度運航されたことによるいわゆる青函連絡船フィーバーの再現等により相乗的に効果を発揮したものと考えられる。
なお、月別の推移でみると、63年10月以降は伸びが鈍化あるいは減少に転ずる月が目立つが、これは前年度の実績がいわゆる青函連絡船フィーバーにより極めて好調であったためと考えられる。
平成元年度になってからは各月とも前年同月を下回っている。
(イ) 航空
本州〜北海道間の航空路線のうち4路線(千歳〜東京、函館〜東京、千歳〜青森、千歳〜三沢)の合計でみると、昭和63年度実績は、743.1万人(5.9%増)となっており、概ね例年どおりの伸びを示している。また、平成元年度も同様の傾向となっている。
しかし、路線別にみると千歳〜三沢便は青森空港のジェット化もあって11.4%減と大幅に減少、千歳〜青森便も63年度下期はいわゆる青函連絡船フィーバーの反動減もあって対前年同期比7.1%減となっているが、これは短距離路線において青函トンネル開通の影響が現れているためとも考えられる。
(ウ) 旅客フェリー
函館〜青森航路の63年度実績は、輸送人員61.9万人(29.9%増)、航送台数13.4万台(31.5%増)、バス航送台数合計2,947台(21.1%増)といずれも大幅な増加を記録しており、懸念された青函トンネルへの旅客のシフトは生じておらず、むしろ波及効果による増加が認められる。
この要因としては、津軽海峡を往復する際、往路と復路をトンネル利用とフェリー利用に分ける観光客などが多かったこと、従前青函連絡フェリーを利用していた乗用車が旅客フェリーに転移したこと、好調な観光入込みに支えられて、貸切バスの航送が増加したこと等が考えられる。
なお、平成元年度も概ね例年どおりの伸びを示している。
(2) 物の流れの変化
本州〜北海道間の雑貨輸送の主体となっているコンテナ、フェリー、航空の動きから、その物の流れの変化をみてみると、JRコンテナが特に好調であったほか、JRコンテナと競合すると思われた内航コンテナ、フェリー、航空ともに伸び率は低下したものの、景気の拡大を背景として概ね好調であった。
各交通機関別の特徴は、次のとおりである
〔2−10−48図〕
(ア) JRコンテナ
昭和63年度実績は、405.9万トン(26.4%増、62年度7.5%増)と著しい伸びを示している。
その主な要因は、トンネル開通により輸送時間が短縮されたこと、輸送距離の短縮に伴い札幌〜東京間で運賃12%安くなったこと(運賃計算キロ程が146.4km短縮)、長距離を中心とするドライバー不足が深刻化しJRを利用する利用運送が増加してきていること、市場時間、集・配送時間に適したダイヤの設定により貨物の集荷が便利になったこと、定時制が確保でき輸送能力のアップしたことから、生鮮野菜、馬鈴薯、玉葱等の農産品、紙等の貨物を新たに獲得したことなどが考えられる。
なお、平成元年度も好調な伸びを示している。
(イ) 内航コンテナ
本州〜北海道間に就航する内航コンテナ船(本州〜北海道間の十勝港寄港分を除く全ての航路)の昭和63年度の輸送実績は177,725個(0.1%減)と、ほぼ横ばいであった。
北海道を発地又は着地とする内航船舶の全輸送量が、3,745万トンと前年度に比べ8.2%増となっていることを考えると、トンネル開通の影響が相当あったものと考えられる。
(ウ) フェリー
フェリー(「貨物フェリー」を含む。)による本州〜北海道間のトラック航送台数の63年度の実績は、87.8万台(4.9%増)であった。62年度の対前年度伸び率が9.0%増であったことを考えると、青函トンネル開通の影響が若干及んだものと考えられる。
航路別にみると、海峡航路(函館〜青森、室蘭〜青森航路の計)は2.8%増(62年度10.5%増)、中距離航路(室蘭〜八戸、苫小牧〜八戸航路の計)は0.5%増(同1.4%増)、長距離航路(室蘭〜大洗、苫小牧〜大洗、苫小牧〜東京、釧路〜東京、苫小牧〜仙台、苫小牧〜名古屋、小樽〜新潟、小樽〜敦賀、小樽〜舞鶴航路の計)は8.1%増(同11.0%増)であった。これをみると、トンネル開通の影響は主として海峡航路に現れている。
なお、平成元年度に入ってからは中距離航路で対前年同月を下回る月があったほか、海峡・長距離航路でも伸び率が鈍化し、徐々にではあるがトンネル開通の影響が現れていると考えられる。
(エ) 航空
本州〜北海道間を結ぶ航空路線のうち貨物の輸送量が圧倒的に多い上位3路線(千歳〜東京、千歳〜大阪、千歳〜名古屋)の動きをみると、63年度の実績は16.9万トン、対前年度比7.3%増と62年度の対前年度比13.8%を下回りはしたものの好調であった。
航空の輸送品目をみると、上りは生鮮野菜・果物・生鮮魚介類、雑貨等、下りは雑貨、生鮮野菜・果物・花き等が大宗をしめ、これらは一般に格段のスピードが要求される貨物であることから、青函トンネル開通の影響はほとんどないものと考えられていたが、トンネルの開通によりJRを利用しても宅配貨物の翌日配達が可能になるなど、JR利用が相当の速達性を有していることが実証され、また運賃も割安であることから航空と競合するようになる可能性はあるものと考えられる。
なお、平成元年度も概ね例年どおりの伸びを示している。
2 瀬戸大橋の開通後1年
(1) 旅客の動向
瀬戸大橋の開通(昭和63年4月10日)は、瀬戸大橋を通行する自動車が予想外に少なかった一方、JRが宇高連絡船時代の2.58倍と顕著な好調ぶりを示すなど明暗を分けた。
(ア) 自動車通行量
瀬戸大橋開通から平成元年3月末日までの全自動車の通行量は、約385万台で1日平均10,823台であった
〔2−10−49図〕
。
これは本州四国連絡橋公団が当初予測した1日平均24,900台に比べて43.5%と極めて低い利用にとどまっている。
このうち、乗用車のウェートの高い普通車は約288万台で全体の74.3%となっている。
月別にみると、8月が約63万台とピークになっており、夏休みに加えてお盆の帰省と瀬戸大橋観光を兼ねた利用客が増加したためと考えられる。また、大型連休で観光客の増加した5月が約50万台とこれに続き、その他の月はこの両月に比べて大幅に少なくなっている。
なお、昭和63年9月以降は、20〜30万台/月と低迷していたが平成元年度になってからもこの傾向は改善されず、わずかに5月のみが30万台を上回っている。このように瀬戸大橋の利用が振るわないのは通行料金(普通車174円/km、早島〜坂出インター間)が他の高速道路(同23円/km)に比べ割高なこと、瀬戸大橋に結ぶ両端の高速道路が本州側の西行きを除き未整備なこと等によるものと考えられる。
(イ) JR(瀬戸大橋線)
瀬戸大橋開通から平成元年3月末日までの輸送実績は、1,074万人(1日平均3万人)で、前年度実績(宇高連絡船)の2.58倍と開通前のJR四国の予想(1日平均1万4千人)を大幅に上回っている
〔2−10−50図〕
。
この要因としては、瀬戸大橋線の開業により運賃計算キロ程が変更となり総じて引き下げになったこと、マイカーの通行料金に比べJRの運賃に割安感があること、開業を期して特急列車が新設または増設されたこと、快速列車が新たに開設され人気を博したことなどが考えられる。
月別には、瀬戸大橋開業後の観光ブームや瀬戸大橋博覧会(昭和63年3月20日〜8月31日、香川・岡山両会場)の開催による観光客の増加があった4〜8月が特に大きな伸びとなっている。
(ウ) 高速バス
香川県と岡山県を直結する高速バスは、5社により4系統22往復(平成元年3月19日より27往復)が運行されており、瀬戸大橋開通から元年3月末日までの輸送実績
〔2−10−51表〕
は、約42万人、1車平均でも26人と開業前の予想(1車平均20人)を上回る好調な実績となっている。特に、4系統のうち、岡山〜高松(1日5往復)岡山〜琴平(1日4往復)の2系統は1車平均32人と好成績であるが、これは、岡山を新幹線等からの乗り継ぎ地点として、行きはバス、帰りはJRというように異なった交通機関を利用した観光客が多かったこと等によるものと考えられる。
なお、元年度には高松〜岡山が前年を上回っているほかは、毎月大幅な減少を示しておりブームが一段落したことがうかがえる。
(エ) 航空
四国内の4空港と東京、大阪を結ぶ航空路線の昭和63年度の輸送実績は、約429万人(1.0%減)であった。
路線別にみると
〔2−10−52図〕
、東京便は全体的に好調で約220万人、対前年度比8.5%増となったが、高松〜東京便については約24万人(7.4%減)と減少した。他の3路線は約196万人(10.8%増)と好調で東京〜松山便のダブルトラック化による競争が路線の活性化につながったこと等が寄与したものと考えられる。
一方、大阪線は各路線とも減少を示し、特に大阪〜高松便については対前年度比30.2%減と大幅な減少で、全体で約208万人(9.4%減)となった。この原因としては、アクセスを含めたJRとの所要時間の差が縮小したこと等が原因として考えられる。
なお、平成元年度も同様の傾向となっている。
(オ) フェリー・旅客船
四国から中国・阪神への7ルートに航路を持つ32社、52航路(フェリー・旅客船・高速船・水中翼船・ジェットフォイル)について調査した結果、瀬戸大橋開通から元年3月末日までの7ルートにおけるバス・乗用車の航送台数は、橋の開通の影響が比較的軽微と考えられていた愛媛〜中国、高知〜阪神の各航路で増加を示す一方、瀬戸大橋直下の西讃〜中国、高松〜宇野の両航路ではほぼ半減している。また、旅客の輸送人員は各航路とも減少を示し、航送台数同様瀬戸大橋直下の2航路の減少が著しい
〔2−10−53表〕
。
なお、元年度も同様の傾向となっている。
(2) 貨物の動向
瀬戸大橋開通により同大橋を利用するトラック、JRコンテナはいずれも好調であったが、瀬戸大橋直下航路のフェリーは大きな影響を受けた。
(ア) JR
コンテナ輸送については、コンテナ列車2本を4月から3本に増設して輸送力を増強したことや、大幅なダイヤ改正により所要時間が短縮されたこともあって、瀬戸大橋開通から元年3月末日までの四国発のコンテナ輸送トン数は、約37万トン(55.8%増)と大きな伸びを示し、また、車扱貨物についても約11万トン(12.0%増)と全国的に車扱が不振を示しているなかで大きな伸びとなっており、瀬戸大橋線開業の効果が現れているものと考えられる。
なお、元年度も順調な伸びを示している
〔2−10−54図〕
。
(イ) 路線トラック
瀬戸大橋経由の四国から本州向け路線トラック16社の、瀬戸大橋開通から元年3月末日までの輸送トン数は、約28万トンとなっており、当初予定数量(1ヶ月3万トン弱)の78%程度であったが、3月になって初めて当初予定数量を上回った
〔2−10−55図〕
。
なお、平成元年度に入ってからは25.0%増(5〜9月の実績)と極めて好調な伸びを示している。
(ウ) フェリー
四国から中国・阪神への7ルートに航路を持つ32社、52航路について調査した結果、瀬戸大橋開通から元年3月末日までの7ルートにおけるトラックの航送台数は、瀬戸大橋直下の西讃〜中国が対前年度比37.6%減、高松〜宇野が同14.1%減となったほかは、微増ないしは小幅減となっており予想されていたほど瀬戸大橋開通の影響は受けていない
〔2−10−56図〕
。
なお、元年度も同様の傾向となっている。
(エ) 航空
四国内の4空港と東京、大阪を結ぶ航空路線の63年度の貨物輸送実績は、約1.8万トン(7.9%増)であった。
このうち東京線は東京〜徳島便が対前年度比41.5%増と大きな伸びを示したのをはじめ4路線とも増加となり約1.2万トン(19.1%増)となった。一方、大阪線は各路線とも減少を示し約0.6万トン(8.3%減)であった
〔2−10−57図〕
。
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