平成元年度 運輸白書

第10章 昭和63年度の概況と平成元年度の動き

第3節 施設整備動向

    1 公共投資
    2 民間設備投資


1 公共投資
 (交通関係公共投資は横ばい)
 昭和63年度の交通関係公共投資は、〔2−10−58表〕のとおりであり、総額10兆5,926億円、対前年度比1.7%増と、62年度の伸び率14.5%増から一転して横ばい傾向となった。
 これは、62年度には公共投資の事業規模にして、総額5兆円の緊急経済対策が実施され、投資規模が大幅に増大したのに比べ、63年度は景気に対し中立的な財政運営が採られ、ほぼ前年度並みの事業規模となったためである。
 部門別にみると次のとおりである。
〔鉄道〕
 鉄道全体では、3,492億円、対前年度比9.8%減と減少傾向が続いているものの、62年度の減少率26.9%減と比べるとその幅が小さくなっている。
 63年度の内訳をみると、日本鉄道建設公団(貸付線)は、津軽海峡線が完成したことにより、10.3%減の629億円と減少し、本州四国連絡橋公団(鉄道分)は、本四備讃線(瀬戸大橋線)が完成したことにより、約十分の一の45億円となった。
 公営地下鉄は、東京都12号線光が丘〜新宿間、横浜市3号線新横浜〜新羽間、名古屋市6号線中村区役所〜野並間、大阪市鶴見緑地線京橋〜鶴見緑地間等の工事が進捗し、62年度に引き続き増加となったが、札幌市東豊線すすきの〜栄町間、東京都新宿線篠崎〜本八幡間等が完成したため、全体では0.7%減の2,598億円となった。
 また、公営ニュータウン鉄道は、横浜市3号線新羽〜あざみ野間の工事が本格化したため、150.0%増の220億円となった。
〔港湾〕
 港湾全体では、8,073億円、対前年度比2.7%増と、62年度の伸び率17.3%から横ばい傾向に転じた。
 63年度の内訳をみると、港湾整備事業費は全体として横ばいではあるが、新潟港、青森港等28港で多目的公共バースの整備、東京港、横浜港等24港で港湾の再開発、及び小名浜港、柏崎港等30港で公共マリーナの整備が積極的に進められた。
 また、港湾関係民活事業が本格化したため、港湾機能施設整備事業等事業費は、833億円、38.8%増と大幅に増加した。
〔空港〕
 空港は、全体として、2,995億円、対前年度比13.0%増と高い伸びを維持したものの、前年度の伸び率36.6%増に比べるとその率は低下している。これは、周辺環境対策費、航空保安施設の整備費が対前年度比マイナスとなったこと等によるものである。
 63年度の空港整備費は、2,224億円、20.5%増と高い伸びになっている。これは、いわゆる三大プロジェクトが引き続き本格的に実施され、東京国際空港の沖合展開事業費が23.1%増、新東京国際空港二期工事費が10.6%増と増加したことと、一般空港整備費が25.9%増と近年にない高い伸びを示したためである。
〔道路〕
 道路全体では、9兆1,366億円、対前年度比1.7%増と前年度の伸び率16.6%増から横ばい頃向となった。

 (道路、空港はシェアを伸ばし、鉄道は低下)
 63年度の部門別公共投資の交通関係公共投資全体に占めるシェアをみると、鉄道3.3%、港湾7.6%、空港2.8%、道路86.3%であった。
 昭和55年度以来の変化をみると、〔2−10−59図〕に示すとおり、道路は一貫してシェアを伸ばし、鉄道は一貫してシェアを低下させ、55年当時のほぼ三分の一のシェアとなっている。
 空港、港湾については、ほぼ安定したシェアとなっているが、ここ2、3年来は、ともにシェアを若干伸ばしている。

2 民間設備投資
 63年度の民間設備投資は、大蔵省「法人企業統計年報」によれば、41兆2,573億円で内需関連産業を中心に積極的な投資が行われた結果、前年度比18.0%増と引き続き大幅な伸びを示した。
 これは、前年度マイナスに停まっていた製造業が対前年度比25.7%増と大幅プラスに転じたことと、非製造業でも引き続き14.0%増と大幅に増加したことによる。
 業種別にみると、製造業では「電気機械」の52.1%増、「輸送用機械」の27.0%増が目立っている。また、非製造業では、「建設業」が23.7%増、「サービス業」が26.8%増と、高い水準を保っている一方、「不動産業」が8.4%減と前年度を下回った。
(1) 運輸関連民間設備投資の動向〔2−10−60図〕
 (運輸関連民間設備投資は運送業及び製造業で増加)
 「運輸省所管事業設備投資動向調査」(原則として資本金5,000万円以上の3,518社調べ)によると、63年度の運輸関連民間設備投資の実績額は、〔2−10−61表〕のとおり、工事ベースで、総額2兆3,537億円と、前年度の実績に比べ8.2%の増加となった。
 このうち「運送業」は、9.2%増で、通運業、内航海運業、鉄道業、倉庫業、トラック運送業等の設備投資が内需の拡大を背景とした輸送需要の伸びに牽引され、極めて活発であったが、航空機材の導入計画の谷間の年に当たった航空運送業は減少した。
 「製造業」は、全体として24.9%増の高い伸びを示したが、このうち造船業は22.4%減と相変わらず低調であった。
 「その他」事業は、2,665億円、0.4%減とほぼ横ばいであった。
 (鉄道業、倉庫業、トラック運送業の設備投資は活発化)
 次に、主な事業についてその設備投資動向をみると、鉄道業は、新線建設、複々線化等が活発に進展したために、車両、電路設備等を中心に28.8%の大幅増となった。
 トラック運送業は、自動車、ターミナルを中心に、倉庫業は、普通倉庫、冷蔵倉庫、荷役機械等を中心に投資額を増加させた。
 一方、航空運送業は部品、地上施設等が増加したものの、航空機の導入が大幅に減少したことに伴い27.2%減となった。また、登録ホテル業、外航海運業、国内旅客船業、造船業等で減少している。
 (顕著になった前向きな投資態度)
 63年度設備投資実績(工事ベース)を投資動機別にみると、〔2−10−62表〕のとおりである。このうち、「研究開発投資」が42.1%増、「現有設備の更新投資」が25.1%増、「サービス改善投資」が16.9%増となっており、シェアは、小さいながらも「研究開発投資」、「サービス改善投資」等の前向きな投資動機が上位を占めたのが注目される。
 また、投資動機別シェアをみると、「能力増強投資」が55.0%、次いで「現有設備の更新投資」19.9%、「安全対策投資」5.0%、「現有施設の補修・維持投資」5.0%がそれぞれ上位を占めている。
 投資動機別のシェアを部門別にみると、運送業部門においては、「能力増強投資」の割合が大きく、製造業部門においては、「合理化及び省力化投資」の割合が大きい。
 (内部資金の投入が活発)〔2−10−63図〕
 63年度設備投資実績を支払ベースでみると、2兆2,157億円で前年度実績に比べ18.9%増となった。調達資金別には、内部資金が62年度実績額6,389億円に対して、9,012億円、41.1%増と大幅増を示し、内部調達が活発化している。また、株式の新規発行による資金調達額も1,712億円で前年度の約3.8倍となった。
 この結果、投資総額に占める自己資本の割合は、48.4%と前年度に比べ11.7ポイントも増加し、各企業の資金ポジションが好転していることを示している。
 一方、借入金等では、外資の導入が44.6%減、政府系金融機関からの借入が3.9%減、社債が1.4%減と減少し、民間金融機関からの借入も2.1%増と少なかったため借入金等への依存度は、51.6%まで減少した。
 5年前の58年度の借入金等依存度65.7%と比べると、運輸企業の自己金融力が高まっていることが伺われる。
 (さらに増強の見込まれる平成元年度投資計画)〔2−10−64表〕
 平成元年度の設備投資計画をみると、総額2兆8,275億円、前年度実績比20.1%と極めて旺盛な投資意欲が伺われる。主な事業の投資計画をみると、航空関連施設業が新千歳空港の整備や羽田の沖合展開に伴いターミナル整備や建物の増強を考えており、前年度の約1.8倍の2,339億円となっているほか、倉庫業、鉄道業、航空運送業等で活発な投資が計画されている。
 また、投資動機別内訳をみると、「安全対策投資」52.1%増、「サービス改善投資」26.3%増、「能力増強投資」24.7%増、「合理化・省力化投資」22.3%増、「現有設備の更新投資」6.6%増となっており、運輸業にとって最も重要な安全対策投資が顕著な伸びを示しているほか、能力増強、サービス改善、合理化・省力化投資など前向きな投資動機が上位を占め、経済の好況を反映し運輸業においても投資意欲が極めて活発化していることが見受けられる。
(2) 運輸関係主要特殊法人の設備投資の動向
 (JR7社)
 JR7社の昭和63年度の設備投資の実績額は3,525億円で、62年度実績額2,084億円に対して69.1%増と顕著な伸びを示した。
 これは、民営化2年目を迎え、JR各社とも設備投資の執行体制が軌道にのるとともに、利用者のニーズに応え事業の一層の展開を図るため、輸送力の増強工事、安全輸送の確保のための施設整備、通勤用車両を中心とした車両の新造、サービス改善のための冷房化等の車両の改造等が積極的に行われたことによる。
 また、平成元年度設備投資計画額は4,899億円、対前年度比39.0%増と引き続き大幅増を見込んでいる。
 (帝都高速度交通営団)
 帝都高速度交通営団の63年度設備投資実績見込額は967億円で、62年度実績額766億円に対し26.2%増と活発であった。
 これは半蔵門線「半蔵門〜蛎殻町」間、7号線「岩淵町〜駒込」間の工事が進捗したこと、車両の増強が図られたこと等による。
 元年度の計画額は832億円と前年度より14.0%減少しているが、半蔵門線の「半蔵門〜三越前」間の工事が完了したことに伴い工事量が減少したためである。
 (関西国際空港株式会社)
 関西国際空港株式会社の63年度実績見込額は、1,156億円で、62年度の986億円に比べ17.2%増となった。これは62年度から本格化した建設工事が空港島の造成を中心に63年度も引き続き活発に行われたためである。
 元年度計画額は、2,074億円で対前年度比79.4%増と引き続き大幅増を見込んでおり、活発な展開が期待できる。



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