平成元年度 運輸白書

第2章 旅客交通体系の整備・充実
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第2節 地域交通の充実 |
1 都市交通の整備
2 地方交通の維持・整備
- 1 都市交通の整備
- (1) 都市交通の現状と課題
- (ア) 大都市の交通問題
- 首都圏をはじめ、大都市圏においては、人口、産業、諸機能等の集積が進み、通勤・通学時の鉄道の混雑、都心部を中心とする道路混雑の問題とともに、空間的制約や最近の地価高騰等による居住地の外延化の進展による通勤・通学時間の増大等が大きな問題となっている。
大都市において、増大する輸送需要に的確に対応するとともに、大量の住宅適地の開発を推進し、また、都心部に集中する諸機能の適切な分散を図るためには、交通網の整備が重要な課題である。
このため、大都市における鉄道網の整備については、従来より運輸政策審議会の答申に基づき、計画的かつ着実な整備に努めているところである。東京圏については、昭和60年7月に西暦2000年を目標年次とした鉄道網整備計画が答申されており、その実現が東京問題の解決の観点からも急務となっている。また、大阪圏については、平成元年5月に、西暦2005年を目標年次として、関西国際空港等の大規模プロジェクトへの対応等を図るべく新たな鉄道網整備計画が答申されたところであり、その実現に向けて努力しているところである。
しかしながら、近年の異常ともいえる地価高騰等により、用地費の著しい高騰や用地取得が著しく困難となるなど、鉄道整備を取り巻く環境は極めて厳しいものとなってきており、一方、厳しい国の財政事情等の制約もあり、このような状況の中でどのように鉄道整備を進めていくかが今後の重要な課題となっている。
- (イ) 地方中核都市の交通問題
- 多極分散型の国土形成を図り、地域の定住、活性化を促進するためには、それぞれの地域の核となる地方中核都市が、その機能を充実し、魅力ある都市となることが重要であり、それを可能とする都市活動や生活の基盤となる交通施設の整備、公共輸送の改善が重要な課題となっている。
通勤・通学時のバス輸送等の公共輸送サービスの拡充・改善や、日中の移動の利便性向上等を図るため、各地域ごとに、地域交通計画に基づきその改善に努めているところであるが、今後一層、関係機関との協力を図りつつ、各地域の実情に応じたきめ細かな具体的な施策を推進することが求められている。
- (2) 都市鉄道の整備
- (ア) 都市鉄道の整備の必要性
- 都市における公共交通機関の混雑を緩和するとともに、都市周辺の住宅適地の拡大に資する都市鉄道の整備を採算性に留意しつつ積極的に進める必要がある。
このため、国は旅客会社(JR)の都市鉄道の整備について助成を行っており、また、地方公共団体と協力して、地下鉄及びニュータウン鉄道の整備並びに日本鉄道建設公団の行う民鉄線の整備に対して補助を行っているほか、大都市の鉄道整備に対して日本開発銀行からの出融資、多目的旅客ターミナル整備に対してNTT株売却益を活用した無利子貸付が行われている。元年度には総額で補助金等550億円及び日本開発銀行からの融資を含め財投3,920億円が計上されている。
また、複々線化等の大規模な輸送力増強工事を促進するため、運賃収入の一部を非課税で積み立て、これを工事資金に充てることができる特定都市鉄道整備積立金制度の活用も図られている。
さらに、首都圏等大都市地域における地価高騰により平均的なサラリーマンが取得可能な通勤・通学に便利な住宅地が不足していることから、沿線の宅地開発と鉄道整備を整合性をとって一体的に推進するための特別措置を講ずることにより、大量の住宅地の円滑な供給と新たな鉄道の着実な整備を図ることを目的とした「大都市地域における宅地開発及び鉄道整備の一体的推進に関する特別措置法」が、平成元年6月に制定された。当面の適用対象プロジェクトとしては、都心と筑波研究学園都市を結ぶ常磐新線があり、現在、1都3県をはじめとする関係者間で検討を進めているところである。
- (イ) 旅客会社(JR)の鉄道の整備
- 旅客会社(JR)については、大都市圏における輸送力増強のための施策として元年3月に山陰線嵯峨・馬堀間、片町線長尾・松井山手間の複線化及び片町線長尾・木津間の電化が完成したほか、相模線茅ヶ崎・橋本間、山陰線京都・園部間の電化工事等が行われている。
また、京葉線東京・蘇我間全線開業のための工事が元年度完成を目途に日本鉄道建設公団により進められているが、新木場・蘇我間については、これまでの部分開業区間を拡大し昭和63年12月に暫定開業が行われた。京葉線はこれにより、営団地下鉄有楽町線を経由して都心と直結されることとなった。
- (ウ) 地下鉄の整備
- 地下鉄は、元年9月現在、帝都高速度交通営団及び9都市(札幌市、仙台市、東京都、横浜市、名古屋市、京都市、大阪市、神戸市及び福岡市)において総営業キロ497.6kmの運営が行われている。このうち最近では、営団半蔵門線(半蔵門・三越前間4.4km)、東京都新宿線(篠崎・本八幡間2.8km)、名古屋市6号線(中村区役所・今池間6.3km)の開業が見られたが、これに引き続き大阪市7号線(京橋・鶴見緑地間5.6km)の開業が「国際花と緑の博覧会」の開催にあわせ2年春に予定されているほか、65.1kmにのぼる新線建設が進められている(63年度投資額2,689億円)。
- (エ) ニュータウン鉄道の整備
- 公的主体が整備を行うニュータウン鉄道については、泉北ニュータウン、千葉ニュータウン及び西神ニュータウンにおいて営業が行われているが、さらに、港北ニュータウンにおいて横浜市3号線(新羽・あざみ野間)の建設が進められている。
- (オ) 大手民鉄線の整備
- 大手民鉄14社は、昭和36年度以降7次にわたる輸送力増強等投資計画を推進し、混雑緩和、輸送サービスの向上などに努めている。その結果、昭和63年度までに新線建設183.8km、複々線化36.8km等の整備を達成するなど輸送力は着実に整備され、混雑率も年々低下してきている〔2−2−9図〕。
第6次計画までの総投資額は3兆1,045億円となっており、現在推進している第7次計画(昭和62〜平成3年度)においては、総額1兆6,146億円の投資を予定している。第7次計画により、複々線化、車両の増備、運転保安の充実、エスカレーターの設置等を積極的に推進し、平成3年度には、ラッシュ時の混雑率は昭和61年度末の184%から180%に、車両の冷房化率は同85.7%から96.9%になる予定である。
また、複々線化等の抜本的な輸送力増強を図るため、昭和62年12月には、特定都市鉄道整備促進特別措置法に基づき、東武鉄道等5社の特定都市鉄道整備事業計画を認定し、63年5月にはこの計画を実施するための積立金分を含めた運賃改定を認可した。現在、積立金制度の活用による大規模な輸送力増強工事が進められているところである。〔2−2−10図〕〔2−2−11図〕。
- (カ) 日本鉄道建設公団による民鉄線の整備
- 日本鉄道建設公団は、大都市において、輸送力増強効果が大きくしかも緊急に整備することを要する地下鉄や地下鉄直通都心乗入れ工事、既設線の複々線化工事及びニュータウン線建設工事について、完成後民鉄事業者に譲渡する方式による整備を進めており、元年度予算におけるこの方式における工事規模は916億円となっている。元年10月までに16線93.6kmが民鉄事業者に譲渡されており、現在工事中のものは12線101.1kmである。
- (キ) モノレール、新交通システムの整備
- モノレールは、東京モノレールの羽田線等7路線が営業中であり、2年度開業予定の大阪高速鉄道の大阪モノレール線のほか、東京、千葉において2路線が工事中である。
また、新交通システムとしては、元年7月に開業した横浜新都市交通の金沢シーサイドライン線(10.6km)のほか、5路線が営業中であり、東京、埼玉、愛知、大阪、兵庫及び広島において6路線が工事中である
- (ク) リニア・メトロの導入にむけて
- リニアモーター駆動小型地下鉄(リニア・メトロ)については、高騰する地下鉄の建設費の低コスト化を図ることができることから、60年度より3か年にわたり運輸省が中心となって実用化の研究を進めてきた。この研究においてはプロトタイプ車両の製作や試験線の建設を行い、走行試験による実証を行うことによりリニア・メトロが十分実用に供しうること、さらに、今後の地下鉄路線の整備の促進に十分寄与しうるとの結論に達した。
リニア・メトロの導入については、大阪市地下鉄7号線(京橋・鶴見緑地間)及び東京都地下鉄12号線への採用が決定しており、大阪市地下鉄7号線においては、平成2年春の開業を目指してリニア・メトロによる試運転が行われている〔2−2−12図〕。
- (3) 鉄道輸送サービスの向上
- 都市鉄道については、国民の生活水準の向上に伴い、輸送サービスの量的側面のみならず、利便性、快適性といった質的側面の向上を図る必要がある。
このため、列車の長編成化、複々線化等の輸送力増強により混雑緩和を図ることに加えて、乗り換え不便の解消のための鉄道相互乗り入れ、車両の冷房化、駅施設の整備など輸送サービスの向上に努めている。
このうち、都市鉄道の相互乗り入れについてみると、平成元年9月現在、46区間809.8kmにおいて行われており、順次拡大されている。
また、車両の冷房化については、平成元年夏には東京・大阪地区の旅客会社(JR)の冷房化率が94.4%、大手民鉄14社合計の冷房化率が93.9%となっており、特に小田急電鉄、京阪電気鉄道及び西日本鉄道においては新たに冷房化率100%を達成するなど年々着実に向上している。
駅舎等の施設については、計画的にホーム屋根、エスカレーター等の整備に努めるとともに、身体障害者等交通弱者の移動の利便性を確保する観点から、順次、車椅子通路、誘導ブロック、身障者用トイレ等の整備を進めている。
さらに、近年、現金を持ち歩かずに鉄道に乗れるようにするプリペイドカードシステムの導入が進められているが、プリペイドカードを乗降駅の自動集改札機へ直接投入することにより運賃が自動的に清算されるという、より画期的なストアードフェア方式の導入も計画されており、横浜市においては、平成元年9月より一部駅において、ストアードフェア方式のテストを開始したところであり、阪急電鉄においても準備が進められている。
- (4) バスの活性化
(ア) 望まれるバスの活性化
- 都市交通においては、円滑なモビリティを確保するとともに道路交通混雑緩和、省エネルギー等の要請に対応していくために、バスを魅力ある交通機関として再生していくことが重要である。このため、バス専用レーンの設置を都道府県公安委員会に働きかける等バスの走行環境の改善を推進するとともに、運輸省は、バス車両、停留所施設等の改善を指導してきており、さらに、都市新バスシステム等新しい都市バスの方向を示す種々の試みに対して助成を行うことにより、都市におけるバスサービスの改善方策を強力に推進している。
- (イ) 進む都市新バスシステムの整備
- 都市新バスシステムは、都市交通体系上の根幹となるべき主要なバス路線において、バス専用レーンの設置と併せて、次のような施設の整備を総合的に行うものである。
(a) バス路線総合管理システムを導入し、コンピュータ制御による車両運行の中央管理により団子運転の解消を図るとともに、バスロケーションシステムの整備により停留所におけるバス接近表示を行い、バス待ちのイライラを解消させる。
(b) 低床、広ドア、冷暖房、大型窓等を備えた都市型車両の導入により、バス輸送の快適性を向上させる。
(c) シェルター、電照式ポールを備えた停留所施設の設置により、バス輸送の利便性を向上させる。
このシステムは、58年度から、東京都、新潟市、金沢市、名古屋市、大阪市、福岡市、富山市、神戸市、浜松市、福井市、鯖江市及び武生市の12都市において導入されている。地域によって程度の差はあるものの、おおむね表定速度、輸送人員が増加しており、都市新バスシステムは、確実にその効果を上げつつあるといえる〔2−2−13表〕。
- (ウ) 今後のバス交通活性化の方策
- バスの利便性を向上させ、バス需要を喚起するためには、都市新バスシステムの導入のほか、鉄道駅等においてバス乗り場、発車時刻、運賃等を総合的に案内表示するバス総合案内システム、鉄道等他の交通機関との乗り継ぎを円滑に行うための乗継システム、利用者の呼び出しに応じて機動的なバスの運行を行うディマンドバスシステム、現金、回数券を持ち歩かなくてもバスに乗れるようにするプリペイドカードシステムの導入等、様々な方策が考えられる。運輸省では62年度からは、これらの新たな技術を活かした施設、設備の整備も助成の対象として加え、バス交通の活性化を図っている。
- (5) タクシーサービスの高度化
- タクシーは、少量需要に対応する機動的な交通機関として、鉄道、バス等の大量交通機関により難い、便利できめ細かな交通サービスを提供しており、国民の日常生活にとって必要不可欠な交通機関となっている。
このようなタクシーが多様化・高度化する利用者のニーズにさらに的確に対応して行くため、無線化の推進や、AVMシステムの導入、タクシー乗場の整備、大きな荷物も同時に運べるワゴンタクシーの導入、東京及び神奈川におけるブルーラインタクシーの導入やタクシー乗場での計画配車等を行っている。
このうち、AVMシステムによって配車の迅速性、効率性が高まっており、63年度末では42,696台と普及している。
また、ワゴンタクシーによって空港等からの利用者の利便が高まっており、東京においては元年10月末現在271台が運行している。
ブルーラインタクシーは、東京都において62年11月に金曜日及び繁忙期における需要増に対応するため、888台導入されたが、63年11月からは、需要増に対応し、深夜時間帯を中心とした運行形態に変更するとともに、台数も1,343台に増車され、さらに、元年11月から1,783台に増車された。また、神奈川県(横浜市、川崎市)においても元年10月から151台が運行を開始した。
このほか、接客態度の向上、地理指導教育の徹底、すべてのタクシーに利用できる共通クーポン券の導入、観光需要等に対応した観光ルート別運賃(元年10月末現在79地区501ルート)の設定等を指導し、さらにはプリペイドカードシステム導入等の検討を行っている。
また、近年の高齢化社会の進行に伴い、タクシーを利用した民間患者等輸送事業について需要の増加が見込まれることから、63年12月に,円滑な導入が図られるよう基準の設定を行ったところ、元年9月末現在23事業者が免許を受けている。
さらに、近年、タクシーの機動性に着目した緊急救護システムや、タクシー便利屋等の新しいサービスの需要に応え、元年6月からタクシー車両を使用したこれらの救援事業が一定の条件の下に開始されている。
- (6) 深夜輸送力の確保
- 都市における活動時間の延長に伴い深夜における都心と郊外、郊外の鉄道駅と団地との間の輸送需要が増大しており、これに対応した輸送力を増強することが必要となっている。
鉄道にあっては、昭和63年7月から平成元年10月までに首都圏において列車増発(85本)、長編成化(22本)等の輸送力の増強が行なわれている。
一方、自動車輸送にあっては、昭和63年度において、四全総推進調査費を受けて行った「大都市圏における深夜輸送力の確保のための調査」において、都心部から郊外への鉄道代替的な深夜バス等の運行可能性について検討を行い、この結果を踏まえ、元年7月より渋谷−青葉台間に東京急行電鉄(株)により深夜急行バスが運行され現在までのところ順調に稼働しているが、さらに京浜急行電鉄(株)により新橋駅−鎌倉駅間及び新橋駅−金沢文庫駅間をはじめ数路線が計画されており、また、検討中の路線もある状況である。このほか、終バス時刻の延長を進めるとともに郊外の鉄道駅から団地等へ深夜バスを運行させる等の対応を行っているところである。
元年10月現在、このような深夜バス(深夜急行バスを含む。)は、東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県、愛知県及び岐阜県の6都県において252系統が運行されている〔2−2−14表〕。
また、これらのバス輸送の実施が困難であり、かつ、終バス後一定量の定型的輸送需要が存する区間においては、タクシーの相乗りを制度化した乗合タクシーの運行を行うよう指導してきており、元年8月末現在、このような乗合タクシーは、東京都、千葉県、埼玉県、神奈川県、愛知県、大阪府、京都府、奈良県及び兵庫県の9都府県において58系統が運行されているほか、都心ターミナル駅から近郊市街地を結ぶ都市型乗合タクシーが元年10月より東京都において運行を開始した。
さらに、深夜輸送力増強のため、東京都内において62年11月から導入されたブルーライン・タクシーを元年11月から1,783台に増車するとともに神奈川県内においても元年10月より151台のブルーライン・タクシーが運行を開始したほか、東京都内、神奈川県内において深夜需要の集中する特定の地区に計画的な配車を行っている。
- 2 地方交通の維持・整備
- (1) 地方交通の現状と課題
- (ア) 公共交通機関の確保
- 地方においては、自動車保有の利便性等にかんがみ、マイカーの普及のテンポが著しい状況にある。
このような状況の中で、地方では公共交通機関の維持整備が重要な課題となっており、公共交通機関を利用せざるを得ない人々の足の確保が重要な問題となっている。
- (イ) 地域交通計画を指針とした地域交通の整備
- 地方における交通の維持・整備を図るため、運輸省では昭和56年以来、都道府県単位に、長期的な展望に立った地域交通のあり方を示した地域交通計画を策定してきているが、今後は地域交通計画の中に示された公共交通維持・整備各種方策の具体化、実現を図ることこそが重要であり、地域の実情に応じた交通対策の推進に努めているところである。
また、各地方運輸局に設置されている地方交通審議会の常設機関である都道府県部会を活用し、地域の意向を的確に把握し、これを反映したきめ細かな地域行政を推進しているところである。
- (2) 中小民鉄及び地方バスの維持・整備
- (ア) 苦しい経営状況にある中小民鉄、地方バス
- 中小民鉄及び地方バスは、地域における生活基盤として必要不可欠なものである。しかしながら、輸送人員が62年度において、中小民鉄約3.1億人(対前年度比0.9%減)、地方バス(三大都市圏を除く。)約32億人(同3.0%減)と減少し
〔2−2−15図〕、運賃収入が伸び悩んでいる一方、人件費等の諸経費が増加し、極めて苦しい経営を余儀なくされている。
- (イ) 中小民鉄の維持・近代化の促進
- 中小民鉄は、経営改善を図りその維持に努めているものの、大部分の事業者が赤字経営となっているが、地方交通に重要な役割を果たしている。このため、国としても、地方公共団体と協力して、その運輸が継続されないと国民生活に著しい障害が生じるものについて、経常損失額に対し補助(欠損補助)を行うとともに、設備の近代化を推進することにより経営改善、保安度の向上又はサービスの改善効果が著しいと認められるものに対し、設備整備費の一部を補助(近代化補助)している。
63年度においては、34社に対し約7.7億円の国庫補助金を交付した〔2−2−16表〕。
- (ウ) 経営改善への努力が望まれる地方バス
- 地方バスは、地域住民の足として重要な役割を担っているが,これらの多くは過疎化の進行、マイカーの普及等により輸送需要が年々減少しているため、事業運営の合理化等の経営改善努力にもかかわらず、大部分の事業者が赤字経営を余儀なくされ、路線の維持が困難になっている。このため運輸省は、バス事業者に対し、車両の冷房化、フリー乗降制の導入等サービスの改善による利用客の維持・増加や、地域の実情に応じた路線の再編成による運行の効率化等、自主的経営努力を指導するとともに、それらの経営改善努力を前提として助成措置を講じ、バス事業の自立と地域住民の足の確保に努めている。
この助成措置は、住民生活にとって必要不可欠な路線の経常損失額及び車両購入費について、都道府県がバス事業者に対して行う補助の一部を国が補助(生活路線維持費補助)するものである。なお、これらの路線のうち利用者が極端に少ないいわゆる第3種生活路線(平均乗車密度5人未満の路線)は、乗合バス路線として維持していくことが困難であるため、欠損補助を一定期間に限って行うとともに、その間に路線の再編成、廃止等の整理を進めることとしている。
また、バス路線の廃止後においても、市町村又は市町村の依頼を受けた貸切バス事業者が代替バスを運行する場合には、代替バスの購入費等について、都道府県が行う補助の一部を国が補助(廃止路線代替車両購入費等補助)することにより、地域住民の足の確保を図っている。
なお、63年度においては、乗合バス事業者160社、374市町村等に対し、約99.7億円の国庫補助金を交付した〔2−2−17表〕。
- (3) 特定地方交通線の転換等
- (ア) 進む特定地方交通線の転換
- 鉄道による輸送に代えてバス輸送を行うことが適当な路線として選定された特定地方交通線は、元年11月1日現在までに42線1,821kmがバス輸送に転換されるとともに、32社37線1,227kmが第三セクター等地元が主体となって経営する鉄道に転換されている。
- (イ) 一層の経営努力が必要なバス転換線
- バス輸送は、停留所の数が増加すること、需要実態に合わせた運行系統や運行回数の設定が可能となること等から、国鉄当時に比べて利便性は増加していると考えられる。しかしながら、地域の全般的な過疎化の進行、モータリゼーションの進展等のため輸送人員が引き続き減少している路線が多い。
経営成績については、国鉄線当時と比べて経費が大幅に減少したため、バス転換したすべての線区において赤字額が大幅に縮小し、一部路線では黒字となっている。
なお、転換後のバス輸送において赤字が生じた場合、開業後5年間はその全額を国が補助することとなっているが、今後とも、輸送実績を踏まえつつ、一層の経営努力を重ね、地域の発展と住民の足の確保に努める必要がある〔2−2−18表〕。
- (ウ) 地元の一層の協力が求められる鉄道転換線
- 鉄道転換線は、地元の要請に基づいて設立された第三セクター等により運営されており、列車の運行回数が増加するなど利便性は高まっているが、モータリゼーションの進展等のため輸送人員が減少している事業者が多く、また、収支状況のついては、転換前と比較すると大幅に改善されているものの、経常損失を出している事業者が多いことから、必ずしもその経営の見通しは楽観できるものではない〔2−2−19表〕。
各社とも経費の削減、イベント列車の運行による増収を図るなど
経営努力を行っているが、地域のための鉄道という本来の目的を達成するためには、事業者における一層の経営努力はもちろんのこと、旅客誘致に対する地元関係者の積極的な協力が不可欠である。
- (エ) 地方鉄道新線建設の状況
- 地方鉄道新線(日本鉄道建設公団が国鉄新線として建設していた路線で工事が凍結されていたもののうち、JR各社(国鉄)以外の鉄道事業者が経営することとなり工事を再開したもの)は、地元自治体等が主体となった第三セクターにより運営されており、平成元年4月に開業した秋田内陸縦貫鉄道(比立内・松葉間)等8社が営業中であるが、さらに残る6路線の建設が進められている。
- (4) 離島航路対策
- (ア) 離島航路の現状と国の助成
- 我が国には有人島が420あまりあり、離島航路は、住民の不可欠な生活の足として重要な役割を果たしている。離島航路は、陸の孤島と呼ばれる僻地に通う準離島航路を含めて、平成元年4月現在372航路あるが、これら離島航路の多くは、輸送需要の低迷、諸経費の上昇等により赤字経営を余儀なくされている。
このため、国は離島航路の維持・整備を図るため、従来から地方公共団体と協力して離島航路のうち一定の要件を備えた生活航路について、その欠損に対し補助を行ってきており、63年度においては、116事業者、122航路に対し約29億円の国庫補助金を交付している〔2−2−20表〕。
- (イ) 必要な経営改善方策の積極的実施
- 離島航路の経営状況は、63年度は諸経費の上昇等により若干収支が悪化したが、将来的には輸送需要の減少、諸経費の上昇等により経営はさらに悪化することが予想される。また、このような状況に加え、近年においては離島住民の生活の生活基盤の充実を図るため、離島航路の就航している船舶の高速化、フェリー化等生活水準に見合ったサービス水準の高度化の要請が強まっているが、厳しい財政事情の中で、これらの要請に応え、今後とも生活航路としての離島航路を維持していくためには、一層の経営合理化、効率化等を図る必要がある。
- (5) 本州四国連絡橋の建設に伴う旅客船対策
- 本州四国連絡橋の建設に伴い、関連地域の交通輸送に重要な役割を果たしている一般旅客定期航路事業は、相当の影響を受けるものと予想されるところから、その影響を軽減するため、「本州四国連絡橋の建設に伴う一般旅客定期航路事業等に関する特別措置法」(昭和56年法律第72号)に基づき、一般旅客定期航路事業の再編成、当該事業を営む者に対する助成及び離職を余儀なくされる者の再就職の促進等の措置が講じられることになっている。
本州と四国が初めて陸続きとなる児島・坂出ルートについては、道路と鉄道との併用橋として63年4月10日に供用されたが、これに伴い関係者からなる現地の連絡協議の場において、62年9月及び63年3月に合意された関連航路の整理・縮小方針等に基づき、関連航路の再編成等旅客船対策の円滑な実施を図ってきている〔2−2−21表〕。
また、平成3年度に供用が予定されている尾道・今治ルートの生口橋について、63年11月に当該供用に伴い影響を受ける航路の指定(22航路、19事業者)を行っている。

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