平成元年度 運輸白書

第3章 物流における新たな展開

第3章 物流における新たな展開


この章のポイント

○ 我が国の産業構造等の変化に対応して、港湾における製品輸入体制の整備、航空貨物の物流対策の具体化が求められている。
○ 消費者ニーズに対応して、フレイトビラの本格的事業化に伴うわかりやすい料金体系の検討等消費者物流に係る利用者保護の施策を推進している。
○ 若年層を中心に労働力確保の問題が深刻化しており、労働環境の改善等の早急な対策が必要とされている。
○ 物流ニーズの高度化・多様化等に対応した物流拠点の整備として、物流近代化タ一ミナル及び物流高度化基盤施設の整備を進めるとともに、地域活性化に資する物流の核となる物流ネットワークシティ構想の調査を実施している。
○ 物流ニーズの変化に対応した規制の見直しを内容とする物流二法案の早期成立を図る必要がある。


第1節 高度化する物流ニーズへの対応

    1 製品輸入増大への対応
    2 消費者ニーズに対応した物流サービス
    3 国際複合一貫輸送の推進


1 製品輸入増大への対応
(1) 港湾における製品輸入体制の整備
 近年、国内産業構造の変化、NIEsの工業生産力の増大、農産物輸入自由化の進展等、我が国を取り巻く貿易環境は急速に変化しつつあり、その結果、輸出中心であった我が国において輸出が伸び悩む一方、製品や農産物を中心とした輸入が急増している。
 五大港(京浜、名古屋、大阪、神戸、関門の各港)について輸出入貨物量の増減を対比すれば、輸出貨物が昭和62年度には対前年比で約3%増であるのに対し、輸入貨物量は同年度に約12%の伸びを見せている。中でも実入コンテナの輸入貨物量は約20%も上昇し、製品・農産物輸入の急増ぶりを示している。今後のNIEsの工業力の一層の進展、農産物に対する消費者ニーズの多様化等を考えると、我が国の製品・農産物輸入は、更に増大していくものと思われる。
 以上のような貿易構造の変化に対応するため、港湾においても従来の輸出振興を基本とした港湾整備に代わって、輸入中心型の貨物流通施設の整備を推進していくことが重要な課題となっている。輸出製品と異なり輸入製品は、食料品・医薬品のように防塵・定温保管等の品質管理を必要とすること、市場との関係等から保管期間が長く在庫管理を要すること、食品衛生法上のラベル貼り等流通加工を必要とすること、少量多品種出庫のためきめ細かな在庫管理を要すること、農産物については、燻蒸・定温保管を要すること等の特徴があり、従来の単なる荷捌き施設では十分に対応できない。既に港頭地区において、部分的ながらも食料品・家具等の加工や輸入精密機器等のコンピューターにより在庫管理等が行われはじめている。今後は、製品輸入に必要なサービス等(デバンニング・保管・品質管理・流通加工・検疫等)を一括して行うとともに、商品展示・販売等の商品流通と結びついたサービスの場を提供する「総合輸入ターミナル」を主要貿易港に整備することが必要であり、その第一号として東京港青梅地区において整備が進んでいる。また、出荷元の外国港湾から総合輸入ターミナル、港湾業者等までをネットワーク化することにより貨物動静情報等を的確に利用者に伝達する「港湾貨物情報システム」の構築を検討しているところである。
(2) 航空貨物増大への対応
(ア) 航空貨物量の推移
 近年、我が国の航空貨物量は、他の輸送機関による貨物量が伸び悩む中、著しい伸びを示しており、昭和63年度には国際貨物量が約140万トン(対前年度比14.8%増)、国内航空貨物量が約62万トン(同8.0%増)となっている。
 特に、国際航空貨物については、円高による産業構造の変化とうに伴い昭和61年度以降輸入が上回り、グルメブームの影響もあり輸入貨物の約4割は、魚介類等の生鮮食品が占めている。
(イ) 国際航空貨物の物流対策
 現在、国際航空貨物の国内流動状況として、新東京国際空港の取引貨物量が全国の8割以上を占めている極端な一極集中構造となっており、新東京国際空港等において、貨物量の増加に伴い貨物取扱施設の狭隘化が顕著になっている。
 かかる状況の下、新東京国際空港内貨物取引地区及び空港外貨物取引施設である東京エアカーゴシティターミナル(TACT)において、緊急対策として既存上屋の処理能力の向上等が図られているが、将来的にも国際航空貨物の高い伸びが想定されることから、関係者により中長期的対策について検討がなされており、新東京国際空港の施設整備の推進、同空港への一極集中構造の改善等が必要であるとされている。航空貨物の増大は、我が国の産業構造の変化に対応した構造的なものであり、今後ともその傾向が継続すると考えられるので、より検討を深めるとともに、所要の対策の具体化が強く求められている。

2 消費者ニーズに対応した物流サービス
(1) フレイトビラ事業
 首都圏をはじめとする大都市においては、都市空間の制約、地価の高騰などの要因から住宅面積は狭く、住宅問題は大きな課題となっている。また、ライフスタイルの変化を背景に、「住まい」に対する考え方は変化してきており、都市住民は、より豊かで、ゆとりのある生活を望み、住生活空間の拡大を熱望している。一方、都市の住宅内をみると、多くの日曜雑貨品が存在し、そのうち相当部分が常時必要なものであるとは限らず、ストーブ、こたつなどの暖房器具等季節的にしか使用しない物、さらには、予備のふとん、記念品・飾り物など当面必要性の少ない物も多い。
 以上の状況を踏まえ、大都市周辺部に建設する保管施設と宅配便などの輸送手段とを組み合わせ、かつ最新の情報システムを活用して、都市部から離れたところに当面使用しない荷物の保管スペースの確保を図るという「フレイトビラ構想」が提案された。
 運輸省では、昭和63年4月から、構想を推進するため静岡県、茨城県、福島県の3カ所において実験事業を行い、その成果及び利用者、一般生活者アンケート調査結果を分析・評価し、その潜在需要を明らかにしたところである。
 主な調査結果についてみると、実験事業の契約状況については、2−3−1表となっている。
 利用者の特性についてみると、住宅形態では、比較的狭い床面積の賃貸住宅が半数以上を占めており、当面使用しない物品を預けることにより居住スペースを確保したいとする利用者が多い反面、より積極的に、季節毎にインテリアを変え、もっと快適な住まいを求めることを動機とする利用者もあった。また、潜在需要としては、4人に3人が収納に対する不満を持っており、現状では、当面使用しない物品を実家などの外部へ保管している者が全体の32%に達している。
 以上のような、実験事業の成果及びアンケート調査結果等に基づき、運輸省としては、「身近な窓口の確保」、「輸送・保管等の連携の重要性」、「採算性の確保」、「大口需要の獲得」等いくつかの課題をまとめるとともに、今後の本格的事業展開を円滑に推進するため、政策的意義に関するPRの継続、財政措置の活用、わかりやすい料金体系の検討などの「整備運営方策」を策定したところである。
(2) ドキュメントビラ構想
 都心部においては、オフィス需要が集中し、需要が逼迫しているばかりでなく、OA機器の普及と相俟って、オフィス環境の悪化が指摘されている。東京都の都心3区の企業、官公庁を対象として昭和63年に行ったアンケート調査結果をみると、オフィス環境について57%の企業が「不満」と回答しており、@オフィスが狭い、A収納スペースが足りない、B書類が氾濫している、等オフィススペースに対する不満が大半である。
 その原因となっている書類や磁気テープは、自社内での処理をはるかに上回る勢いで増加しており、現に調査対象の35%の企業が「営業倉庫を利用」している。しかも、これらは今後とも増え続けると予想する企業も80%以上あり、今後営業倉庫の利用が増加するとみている。
 また、磁気テープ等記録媒体の安全上の観点から、不慮の事故や震災等の災害に備えたバックアップデータの外部保管も、かなりの企業が既に実施している。
 このような都市部のオフィスを取り巻く環境を踏まえて提唱された「ドキュメントビラ構想」は、@都心部の企業において急増している書類、磁気テープ等をターゲットとして、Aオフィススペースの拡大や重要データのバックアップのため、B機密性、防災性等に優れた専用の倉庫における安全確実な保管を行うとともに、C輸配送機能及びデータ管理機能をも併せ持つ高度なサービスを提供するトータルシステムである。
 運輸省としては、この構想を積極的に推進するため、政策的意義に関するPRの継続、モデル事業の開始等の方策を講じることとしている。
(3) 宅配便
(ア) 拡大を続ける宅配便
 宅配便は、近年成長の一途をたどっており、宅配便全事業者39便153社の昭和63年度における取扱個数は、対前年度比約1億5,000万個増加(対前年度比19.5%増)の約9億1,100万個に達している。この成長は、小口・軽量輸送ニーズの高まりもさることながら、宅配便事業者が@わかりやすい運賃設定、A取扱店網の拡大による利便性の高まり、B貨物追跡システムの導入に代表される情報化による確実性の高まり、C自動仕分機の導入等による配送の迅速化等、利用者ニーズに適合したサービスの提供に努めていることによるものである。さらに、最近は新たなサービスの開拓やデパート配送等の商業物流への展開が行われており、最近の取り扱い個数の伸びは、こうした新たな需要の掘り起こしも寄与しているものと考えられる。
(イ) 宅配便の新しいサービス
 多様化・高度化する消費者ニーズへの対応を図るため、宅配便においても新しいサービスが登場している。集貨から配達まで低温で管理し、食品の鮮度を保つ保冷宅配、全国各地の名産品を産地から消費者に直接届ける産地直送便、注文された本を版元等から直接注文主に届ける書籍宅配などである。
(ウ) 宅配便に関わる行政施策
 宅配便については、昭和58年7月に宅配便運賃制度、昭和60年9月に標準宅配便約款が整備されたほか各事業社における苦情処理体制、各トラック協会における苦情相談窓口の充実等が図られている。標準宅配便約款は、契約内容・損害賠償責任を明確化すること等により消費者保護を図ったものである。
 また、昭和62年6月には、一度に一定数量以上の貨物の運送を行う場合に割引を実施する宅配便の数量割引制度の導入が行われた。
(4) 引越運送
(ア) 引越運送サービスの新たな展開
 現在、トラック運送事業者による引越運送の取扱件数、売上高は、年々増加している。これは、@大型・高級耐久消費財の普及、高層住宅の増加により引越作業が消費者の手に負えなくなってきたこと、A消費者の意識が煩雑な作業を自ら行うことを避け、有料であってもサービス産業に委ねるというように変化してきたこと、B引越事業者が消費者のニーズにあわせて、不用品の処理、冷暖房器具の取付け・取外し等各種付帯サービスの高付加価値化を図ってきたことによる。
 このような消費者の生活、意識の変化を勘案すると、トラック輸送を核とする引越産業は、付帯サービスの一層の拡大を図ることにより、今後も順調に成長していくものと考えられる。
(イ) 引越輸送に係る消費者保護対策
 このような状況に鑑み、運輸省は、付帯サービスのウェイトの高まりや内容の多様化に伴い複雑化する引越輸送を、利用者にとってわかりやすく、かつ、安心できるものとし、利用者と運送事業者間のトラブルを防止するため、昭和61年10月に契約内容、損害賠償責任の明確化等を内容とする標準引越運送・取扱約款を制定するとともに、引越運賃料金制度を整備し、中央及び地方における研修会の実施により事業者に対する周知徹底を図った上で、これらを昭和62年3月から実施に移しているところである。また、これらに併せて引越運送がら生ずる苦情処理体制も整備され、引越運送の事前相談・苦情処理が、全日本トラック協会及び各都道府県トラック協会の輸送相談窓口で無料で行われている。
(ウ) 国際引越輸送
 我が国企業の国際化の進展、国際間の人的交流の深化等を反映して、近年拡大している国際引越サービスについて、運輸省は、事業の健全な発展と利用者保護を図る見地から、昭和63年度に実態調査を行った。
 この結果、利用者の多くは予期していたとおりのサービスだったとしているものの、@約半数が破損事故、遅延事故等のトラブルに遭遇し、また苦情処理についての満足度が低いこと、A事業者によってかなりの運賃料金差があること等の問題点が明らかになった。
 これを受けて、平成元年度においては運賃料金事例等について一層調査を深めるとともに、改善対策等について検討を進めているところである。

3 国際複合一貫輸送の推進〔2−3−2図〕
 近年、国際物流の分野においては、ますます高度化・多様化する荷主の物流ニーズに対応したサービスとして、船舶、鉄道、航空機、トラックといった複数の輸送機関にまたがるサービスを、一般の運送人が一貫して引き受ける国際複合一貫輸送が進展している。
 国際複合一貫輸送の輸送ルートとしては、欧州航路のバイパスとして定着しているシベリア鉄道経由欧州・中近東向け一貫輸送(シベリア・ランドブリッジ)、主に欧州向けに行われている海上運送と航空運送を組み合わせた一貫輸送(シー・アンド・エア)や米国、欧州、韓国、中国、アフリカといった地域の内陸までの一貫輸送がある。
 国際複合一貫輸送の担い手としては、船社のように運送手段をもっているものと運送手段を持たないもの(フレイトフォワーダー)とがあるが、フレイトフォワーダーによる複合一貫輸送は、@多様なルートを形成できる、Aドア・ツー・ドアのキメ細かいサービスが提供できる、B輸送に付帯するサービスを提供できる、等の利点があるため、その輸送量は増加傾向にある。更に近年、わが国企業の海外進出が急速に進展していること等に対応して、フレイト・フォワーダーも海外拠点作りに積極的に取り組んでおり、輸送ルートの多様化、サービスの向上が図られている。
 しかし、フレイト・フォワーダーについては、一貫輸送責任を負う運送人としての歴史が浅いこと、様々な事業者による事業が展開されていることなどの理由により、信用力が不十分な事業者もみられるほか、責任関係の対応にバラつきがあるため、取引に円滑さを欠く事態もみられる。
 こうした状況に鑑み、(社)日本インターナショナルフレイトフォワーダーズ協会(JIFFA)では、標準的な運送約款の検討、国際的知識やノウハウを有する人材の育成、等の方策を進めている。特に、標準的な運送約款の制定については、昭和62年度、学識経験者等からなる検討委員会を設け、日本語による草案を策定し、平成元年度には、英文の正文を策定しその普及のための事業を行っている。これにより、責任内容の統一化、取引の円滑化が促され、フレイト・フォワーダーの国際複合一貫輸送の推進が図られるものと考えられる。また、人材の育成については、昭和60年度より、国際複合一貫輸送に必要な知識、ノウハウを有する人材の養成を行うための講座を開催しているが、平成元年度より開催地が拡充されるなど、講座の充実が図られている。



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