平成元年度 運輸白書

第3章 物流における新たな展開

第2節 物流事業対策の推進

    1 深刻化する労働力問題
    2 物流立地の新展開
    3 物流企業の構造改善事業等
    4 物流技術の開発・導入
    5 物流事業規制の見直し


1 深刻化する労働力問題
 近年の経済構造、産業構造の変化に伴い、物流業においても、輸送の小口化、多頻度化、ジャスト・イン・タイム化等に見られるように、多様化、高度化する物流ニーズに的確に対応し、高品位のサービスを提供していく必要に迫られており、事務部門、現場作業部門等あらゆる部門に、意欲と能力をそなえた優秀な労働力を確保、育成していくことが不可欠の要請となっている。更に、最近では、内需主導型の好景気に支えられた活発な荷動きも加わり、物流業界における労働力需要は増大している。
 他方、経済成長に伴う国民生活の質的向上は、個人の価値観、生活様式に変化をもたらし、特に若年層を中心に自由時間、私的生活を重んじる傾向にある。このような国民の価値観、ライフスタイルの変化等を背景に若干労働力の“売手市場”化が進んできている状況下にある。
 しかるに、トラックをはじめとする物流業は、その性格上労働集約的な産業であり、長時間労働をはじめとして労働条件が他業界に比べ厳しい現場部門を有することから、労働力確保の問題が深刻化している。
 トラック事業においては、(財)運輸経済研究センターの調査では、昭和63年10月から平成元年3月期に人手不足感が強まった企業は73.5%に達し、(社)日本トラック協会の調べでは、労働条件等のためトラック運転手の58.5%が転職を希望している。
 この問題をこのまま放置すれば、適正、良好、かつ安定的な輸送サービスの提供が困難となり、ひいては経済、産業活動、国民生活に重大な支障をもたらすおそれがあり、労働環境の改善等の早急な対応策が必要とされるところである。このためには、物流業界の努力のみならず荷主の協力が必要であり、運輸省としても、効率的物流システムの構築等物流業界と連携しつつ対応策の検討を行うこととしている。

2 物流立地の新展開
(1) 物流拠点の整備〔2−3−3図〕
(ア) 物流近代化ターミナル及び物流高度化基盤施設の整備
 近年、荷主の物流ニーズの高度化・多様化に伴い、トラックターミナル、倉庫、上屋等の物流施設についても、従来の荷捌き・保管機能に加え、@商品のラベル貼り等の流通加工のための専用スペース、A入出庫等の情報を処理するための機能、更にB商品の展示など流通機能の高度化に資する機能を付加した新しい物流施設の整備を進めていくことが必要となってきている。このため、このような機能を有するいわゆる「物流近代化ターミナル」について、昭和62年度予算において、日本開発銀行等からの出資並びに低利の融資が受けられる措置を講じたところであり、その第1号として日本自動車ターミナル(株)が、昭和63年2月より「葛西物流近代化ターミナル」の建設に着手し、平成元年10月17日に完成し、同年12月から供用開始の予定である。
 また、物流近代化ターミナルの機能に加え、会議場、研修施設等の共同利用施設をも備えた付加価値の高い施設である「物流高度化基盤施設」の整備を促進するため、昭和63年度予算において、民活法の特定施設に追加することによりNTT株の売却益による無利子貸付制度を活用できる道を開くとともに、財投、税制上の優遇措置等をも併せ講じることとした。日本自動車ターミナル(株)は、この第一号として「京浜総合物流ターミナル」(仮称)の建設に近く着手する予定であるとともに、日立埠頭(株)が「日立港物流高度化基盤施設」(仮称)の建設に着手する予定である。
(イ) 物流ネットワークシティ構想
 近年、地域の活性化が唱えられ、各地方において様々な方策が検討されているが、地域産業の振興を図る上で、円滑な物流確保が不可欠であるため、物流拠点整備を地域活性化の一方策として位置付けることが可能である。また一方で、高速道路の全面的展開等に伴い、効率的物流体系の構築による地域活性化の条件は整ってきている。
 このような背景の下に提唱されている「物流ネットワークシティ構想」は、高速道路網の整備等に伴い全国的物流ネットワークに組み込まれるとともに、地域における物流ネットワーク及び大消費地との間を結ぶ情報ネットワークの核と位置付けられる地区を「物流ネットワークシティ」と名付け、国が中心となって具体的プランを策定し、全国的に物流拠点整備を促進しようとする計画である。現在、佐賀県鳥栖市等15のモデル地区を選定して、学識経験者、トラック事業者、倉庫事業者、地方公共団体等からなる委員会を開催し、地域の特色を活かす観点から、単に物流機能のみならず、情報・商流・ふるさとPR・アメニティ等の機能の必要性まで含めた検討を行っている。
(2) 物流業の農村地域への導入
 (農村地域への物流業の立地展開)
 農村地域における就業機会の拡大等を図るため農村地域工業導入促進法が、昭和63年6月に一部改正され、農村地域への導入対象業種として従来の工業に加え物流業(道路貨物運送業、倉庫業、梱包業及び卸売業)の追加等が行われた。
 本法の目的は、@農業と工業等との均衡ある発展、A雇用構造の高度化にあり、この目的を達成するため、主務大臣が定める農村地域工業等導入基本方針、都道府県が定める農村地域工業等導入基本計画、都道府県又は市町村が定める農村地域工業等導入実施計画の三段階からなる計画制度が設けられており、計画達成のため、所要の税制・金融上の措置が執られている。

3 物流企業の構造改善事業等
(1) 内航海運事業
 (内航海運の現況)
 内航海運は、国内貨物輸送の44.0%(トンキロベース)を担う基幹的輸送機関であり、特に、石油、鉄鋼、セメント等の産業基礎物資の輸送においては、その80%以上(同ベース)を支えているなど、国内物流における役割は極めて大きい。
 また、最近では内航船の船型も大型化が図られる一方、RORO船等の普及に伴い、雑貨輸送の効率化等への取組みも拡大してきている。
 (構造改善)
 しかし、こうした中で内航海運業は中小企業が9割以上を占める業界であり、また産業構造が重厚長大型から軽薄短小型に質的に変化してきている中で、この業界を取り巻く環境には楽観を許さないものがある。
 こうしたことから、業界構造を改善し、内航海運業の健全な発展を図り、基幹的な輸送機関としての責務を果たしていくため、昭和59年6月「内航海運業構造改善指針」を策定し、これまでに生業的オーナーの新規参入の抑制、内航海運組合の再編・統合等の施策を総合的に実施、推進してきている。
 このような施策の結果、内航貸渡業者数は昭和58年度末5,197であったものが、昭和63年度末には4,408と5年間で約15%減少しており、内航海運組合についても、同期間で133から76まで集約・合併等を行ってきており、いずれもその数の適正化が着実に進捗している。
 なお、新行革審答申において、「今後、船腹調整に係る公的依存からの脱却に向けて、構造改善等の積極的推進を図る」と指摘されていることもあり、現在新たな構造改善指針について検討しているところである。
(2) 港湾運送事業
 港湾運送事業においても、機械化・情報化の波は確実に押し寄せてきており、貿易構造の変化にも対応しうる高度化事業への取組みが重要な課題となってきている。
 そのため、総合輸入ターミナルを整備する一方、港湾貨物情報ネットワークシステム(SHIPNETS)等の情報化も(財)港湾運送近代化基金による財政援助のもと進められている。
 一方、はしけ運送業等の在来荷役型港湾運送業は、コンテナ船輸送や自動車専用船輸送の発達等により、取扱貨物量が減少し、需給の不均衡が恒常化しており、長期的に見てもその回復が期待し難い構造不況に陥っている。このため、事業の集約・合併等の合理化、(財)港運構造改善促進財団によるはしけ対策等の構造改善対策、及び各種不況対策法に基づく業種指定等所要の措置を講じているところである。
(3) トラック運送事業
 トラック運送は、経済活動や国民生活に不可欠の物資輸送を担っており、昭和60年度以降は、輸送トンキロベースでも内航海運を上回るなど国内貨物輸送機関の大宗としての役割を果たすに至っている。
 しかし、一方で産業構造の変化や国民生活の高度化・多様化に伴って、多品種少量物品の多頻度で迅速な輸送サービスや流通加工等を含めた質の高い輸送サービスに対するニーズが高まるなど、物流動向に大きな変化が見られる。このため、トラック運送事業においても、このような利用者ニーズの変化に応えうる効率的なトラック輸送体系の形成、物流情報システムの構築等による対応を積極的に行い、付加価値の高い輸送サービスの提供に向けて事業の活性化を図ることが重要な課題となっている。
 このためには、そのほとんどが中小企業であるトラック運送事業について、その構造的脆弱性を克服し、経営基盤の強化を図るとともに、過積載、過労運転等の不法な手段で競争を行うことがないように、安全運転の確保、労働環境の整備等を図っていく必要があり、経営方式の改革、共同マーケッティング、コンピュータリゼーション、人材開発等の事業に主眼を置いた経営戦略化構造改善事業の積極的な推進を図るほか、運輸事業振興助成交付金(昭和63年度約150億円)の活用により、労働環境改善のためのトラックステーションの整備、人材開発に主眼を置いた研究研修事業等を推進しているところである。
(4) 利用運送業関係
 (通運事業の現況)
 鉄道貨物輸送の長期にわたる低落とこの間の国鉄貨物の相次ぐ合理化等は、通運事業の経営を厳しいものとし、昭和45年度に2億4,400万トンであった通運取扱量は、昭和63年度には7,900万トンまで減少したが、昭和62年4月設立の日本貨物鉄道株式会社(JR貨物会社)との密接な連携・協調体制の下、コンテナ輸送を中心とした販売方式が功を奏し、コンテナ輸送が順調に伸長し、これまでの鉄道貨物輸送の低落傾向に歯止めがかかってきている。そこで、今後とも運輸事業振興助成交付金の積極的活用により通運体制の充実・強化は図っていくこととしている。
 (利用航空運送の競争の激化)
 航空貨物輸送は、近年着実に伸びてきているが、航空会社の行う運送を利用して混載運送を行う利用航空運送事業も、重量ベースで国内・国際ともここ10年間平均10%を越える伸びを示すとともに、航空貨物全体に占めるウエイトも国内約78%、国際約76%(いずれも重量ベース)と、航空貨物の輸送にとって重要な役割を果たしている。
 国際利用航空運送においては、現在、邦人系17社、外資系9社の計26事業者が存在している。昭和60年5月の日米航空暫定合意に基づき、昭和63年6月には、米国より小口航空貨物専門企業であるフェデラルエクスプレスが我が国へ参入し、我が国の利用航空運送業界に少なからず影響を与えることとなったが、平成元年に入り、同社は、我が国にも参入している世界最大手の貨物航空会社フライングタイガー社を買収し、事業拡大を図るなど積極的な営業展開を示しており、この業界の競争は一層激化するものと予想される。
 (運送取扱業関係) 
 物流事業の中で、荷主とトラック等実際の運送事業者との間にたって、貨物の運送の取次等を行う事業がトラック、内航、航空の各事業分野に存在しており、これらは運送取扱業と呼ばれ、荷主に対してはきめ細かな輸送サービスを提供しており、多様化・高度化する物流の円滑化に重要な役割を担っている。
 これらの運送取扱事業者は、自らも運送事業を行っている事例が多く見受けられ、同業他者と貨物を融通し合う必要性等から出発したケースが多いが、今後は、陸海空にまたがる多様な運送事業を相互に結合してより総合的、一体的な輸送サービスを成立させるといった高度な役割が求められるようになるものと考えられる。

4 物流技術の開発・導入〔2−3−4図〕
 近年、物流事業に対する荷主のニーズは、輸送の小口化、高頻度化等高度化・多様化しており、物流事業者はこうした荷主のニーズに的確に対応するとともに、物流事業における労働力確保難の問題の深刻化のため、労働条件、作業方法改善等の対策を講じる必要に迫られている。
 こうした状況を踏まえ、物流拠点においては、大手物流事業者を中心に立体自動化倉庫、自動仕分け機、無人搬送車等が情報処理技術と結び付いた形で積極的に導入され、荷役・仕分け等の労働集約的な作業部門を中心として機械化・自動化に著しい進展が見られている。輸送手段においては、生鮮食料品等を良質な状態で輸送できるよう、温度、湿度等をきめ細かく制御できたり、魚介類等を生きた状態で長距離・長時間輸送できるコンテナ車両等が開発・導入され、新鮮な食料品を大量に輸送している。また、荷台上荷役装置を備えたバン型トラックも普及の兆しを見せはじめており、荷役作業の機械化・自動化の一翼を担うものとして期待されている。なお、鉄道貨物輸送の分野においても、日本貨物鉄道株式会社を中心に活発な技術の開発・導入が行われており、@コンテナの容積アップ等による積載効率の向上、Aトラックのバンボディを簡便に鉄道貨車へ積替えできるスライド・バンボディ・システム輸送の営業運転開始、B12フィートサイズの独立冷凍式コンテナの開発、C危険物積載タンクローリーのピギーバック輸送技術の開発など、その他各種サービスの向上と相俟って、長距離輸送分野を中心に鉄道貨物輸送を再活性化させつつある。
 今後の技術開発に当たっては、@自主開発力、資金力の弱い中小物流事業者に適した小型で廉価な物流機器の開発、A市場からの情報を処理する技術とピッキング等の物流技術を一体化するシステム化技術の開発、B高速・低廉にトラック等を積載・輸送するRORO船等の高速内航船の開発、C高度化するニーズに対応するための先端技術の導入、D複合一貫輸送等新しい輸送技術に対応した技術開発などに、より重点をおいて取り組んでいくことが必要となる。

5 物流事業規制の見直し
(1) 物流事業規制の見直しの経緯
 (物流ニーズの変化に対応した規制の見直し)
 経済構造が重厚長大型から軽薄短小型へ転換し、経済のソフト化が進む中で、国民生活の向上、産業界の流通に対する関心の高まりから、物流に対するニーズも小口化、多頻度化、スピード化するなど高度化、多様化の傾向にある。
 物流事業においては、このような産業・消費構造の転換と、これに伴い変化する物流ニーズに柔軟に対応することが課題となっており、特に物流の中核をなすトラック事業及び新しい時代のニーズに応ずる複合一貫輸送の規制制度について、事業活動が柔軟、的確に行われるとともに、各輸送機関を通じて効率的な物流システムを形成するという観点から見直しを行うことが求められている。
 また、トラック事業においては、以上のほか過労運転、過積載等輸送の安全、輸送秩序の維持を阻害する行為を防止するため、民間による自主的な活動の促進を含め、その防止に実効性ある措置を講ずること、中小トラック事業者が環境の変化に的確に対応し、円滑かつ安定的に事業を行うことができるようにすることが強く求められており、上記をも踏まえ、規制の見直しをすることとしたものである。
 (運輸政策審議会物流部会における審議)
 このような状況を受けて、昭和63年10月、運輸政策審議会物流部会(部会長 宇野政雄早稲田大学教授)は、「トラック事業及び複合一貫輸送に係る事業規制の在り方に関する意見」をとりまとめた。同意見は、両分野における改革の基本的方向として、トラック事業規制については、@免許制から許可制への移行(参入にあたっての需給調整規定の廃止)、A路線と区域に分かれている事業区分の統合、B運賃規制の認可制から届出制への移行、C社会的規制の強化、事業適正化の確保等を、複合一貫輸送については、運送取扱事業について横断的・総合的制度の創設等を指摘している。
 (新行革審における審議等) 
 昭和62年4月に発足した新行革審において、昭和63年1月より、流通、物流、情報・通信、金融等に関する公的規制のあり方について検討が行われ、同年12月に「公的規制の緩和等に関する答申」がとりまとめられたが、物流関係のうちトラック事業及び運送取扱事業については、運輸政策審議会物流部会の意見の基本的考え方を改革方策の骨子として示したものとなっている。これを受けて、政府は「規制緩和推進要綱」を閣議決定した。
(2) 物流二法案の国会提出
 運輸省は、上記経緯を踏まえ、本年3月「貨物日動車運送事業法案」及び「貨物運送取扱事業法案」の二法案を第114回通常国会に提出した。
 両法案の概要はそれぞれ次の通りであり、物流を取り巻く環境の変化に早急に対応するため、法案の早期成立を図る必要がある。
 なお、公布の日から起算して1年を越えない範囲において政令で定める日から施行することとされている。
 (貨物自動車運送事業法案)
a 道路運送法からトラック事業規制を切り離し、新たに「貨物自動車運送事業法案」とする。
b 路線トラックと区域トラックの事業区分を廃止し、従来の区域トラックも貨物の積合せができるようにする。
c 事業の免許制を許可制とする。需給規制は廃止し、許可基準は安全に重点を置く。ただし、特定の地域で供給が著しく過剰になる等緊急の場合は、期間を限って新規参入停止措置を講ずることができる。
d 運賃は認可制を届出制とする。ただし、不当な届出には変更命令をすることができる。運輸大臣は、特に必要があるときは、標準運賃を設定できる。
e 運行管理者に試験制度を導入する等運行管理者の資格要件を強化する。
f 過積みの禁止、過労運転の防止等輸送の安全に関する規定を整備する。
g 過積みの防止、過労運転の防止等輸送秩序の確立を指導することを目的とした法人を中央、地方(都道府県単位)に指定することができる。
h 運輸大臣は、輸送秩序に係る法令違反の再発防止のため、関係荷主に勧告することができる。
 (貨物運送取扱事業法案)
a 貨物運送取扱事業を利用運送事業と運送取次事業に区分し、前者を許可制、後者を登録制に整理する。これにより鉄道に係る貨物運送取扱事業、利用航空運送事業は、免許制が許可制となり、需給規制が廃止される。
b 航空、鉄道の利用運送と集配を一貫して行う事業は第二種利用運送事業とし、集配のトラック輸送も本法で一体的に許可することとしている。
c 運賃、料金は届出制とする。ただし、不当な届出には変更命令をすることができることとする。
d 通運事業は、本法上の鉄道に係る貨物運送取扱事業とし、通運事業法は廃止する。集配事業は、鉄道の利用運送と集配運送を一貫して行う事業として新法で位置付けることとし、貨車積卸業の規制(免許制)は廃止する。また、通運計算事業は新法において、届出事業として整理する。



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