平成元年度 運輸白書

第4章 外航海運、造船業の新たな展開と船員対策の推進
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第4章 外航海運、造船業の新たな展開と船員対策の推進 |
この章のポイント
○ 我が国外航海運については、長期化した海運不況はようやく底を脱したものの、今後も厳しい状況が予想されており、このなかで海運企業は、海外における経営戦略の強化や事業多角化、集約・統合を行う等経営基盤の強化に努めている。また、日本船のフラッギング・アウト(海外流出)の問題については、海運造船合理化審議会において日本船への混乗の拡大を内容とする報告書がとりまとめられ、労使協議の結果、混乗の実施について労使合意が成立した。
○ 我が国造船業は、昭和62年度に実施した設備処理等の構造対策の効果、世界的な景気の拡大等を背景とする船腹需給の改善等によって受注船価、受注量ともに回復基調にあり、不況は底を打った。
○ 造船業の活性化、海上輸送の高度化を図るため、次世代を担う船舶の研究開発促進制度を創設した。
○ 船員対策として、外国人船員受入れ体制の整備等を図るとともに、船員雇用対策、船員制度の近代化及び船員労働時間の短縮等を進めていく。
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第1節 新たな展開を図る我が国外航海運 |
1 海運助成対象企業の経営概況
2 外航海運業界における経営戦略と集約・統合の動向
3 定期船海運の現況
4 フラッギング・アウト問題
5 旅客輸送の増大と客船旅行時代の到来
- 1 海運助成対象企業の経営概況
- (ようやく底を打った海運市況)
昭和63年度の海運助成対象企業39社の損益状況は、〔2−4−1表〕のとおりであり、海運大手6社が営業損益ベースで182億円の損失から303億円の利益に転じたのをはじめ、39社中29社が経常利益を計上するなど、営業損益ベース、経常損益ベースともに3年ぶりに黒字転換し、長期化した海運不況もようやく底を打った内容となっている。
このように経営状況が改善されるに至ったのは、不定期船部門を中心に市況の回復が見られたこと、燃料油価格の低下等により営業費用が押さえられたこと、海運企業各社が人員削減、不採算船の処分、費用のドル化に努めたこと、昭和60年度後半に始まった大幅な円高傾向に歯止めがかかったこと等の要因による物と考えられる。
しかし、大部分の企業は復配を実施するまでには至らず、配当実施会社は前年度と同様、39社中わずか2社にとどまった。
海運市況は、平成元年度に入ってからも不定期船・専用船部門を中心に比較的好調に推移しており、北米定期航路の運賃修復の動き、円安など明るい材料が見受けられるが、燃料油価格が上昇傾向にあること、海運市況の先行きには依然として不透明感があること等から、いずれの企業も引き続き商船隊の国際競争力の回復と企業経営の改善のための努力を傾注していく必要がある。
- 2 外航海運業界における経営戦略と集約・統合の動向
- 厳しい経営状況の中で、海運各社の中には、海運業の収益性を向上させ、あるいは新規分野への進出を図ることにより、収支の改善や経営基盤の強化を図ろうとする積極的な事業展開の動きが見られる。また、なかには長期化した不況の中で、企業内の合理化に留まらず、企業間において自主的に集約・統合を行い、効率的で合理的な経営を目指す企業も現れた。
(1) 外航海運企業における経営戦略
経営の効率化や国際競争力の強化のため、邦船社は、海外における経営戦略を強化しており、@海外のコンテナターミナル会社への出資によるコンテナ戦略拠点の整備、A定期船部門に続き、不定期船部門の現地法人化、B荷動き増大に対応した海上コンテナ製造会社の設立、C有利な資金調達、為替リスク回避のための財務部門の国際化等特色のある海外戦略を打ち出している。
また、海運企業の中には、物流部門の合理化を図り、高度化した顧客ニーズに対応するため、@現地フォワーダー買収と流通センター整備による物流サービスの向上、A米国内陸向け小口貨物輸送サービスの開始等総合物流業としての体制強化を図るものが現れている。
さらに、この他にも、@世界的規模で多様なニーズに対応した客船事業を多角的に経営していこうとする物、A需要の増大が見込まれるLNGの輸送分野での業務拡大を図っていこうとするもの、B同じ営業種目を行っている系列会社の航空関係事業部門の統合を図るもの等が現れている。
(2) 外航海運企業の事業多角化の動き
海運各社は、海運不況に対応して新たな収益部門を形成するとともに、長年培ってきた証券や車内の人的資源の有効活用を図るため、事業多角化に取り組んでいる。
海運助成対象企業39社においては、昭和59年度以降平成2年度までに、121件の事業が新たに開始され、または開始が予定されている。このような事業多角化の動きは、昭和60年度以降の円高の影響等による収支悪化を背景に、ここ2〜3年で急増している。
これを事業分野別にみると、ビル、工場のメンテナンス業務を中心とする建設関連事業、物品販売業、保有資産等を活用した不動産業、マリンレジャーを中心とするレジャー関連産業、情報処理業等の新規分野が58%と、物流関連事業、海運代理店・保険代理店業、客船事業等の海運関連分野の42%を上回っている。
(3) 外航海運企業の集約・統合の動向
海運不況の長期化や円高等による日本船の国際競争力の低下等の経営環境の変化の中でより合理的な経営の確立を目指して海運企業の集約・統合の動きが生じている。
(ア) 山下新日本汽船(株)とジャパンライン(株)の定航部門の分離・統合と本体の合併
激しい国際競争等により極めて困難な運営を強いられていた北米等の定期航路の運営を抜本的に合理化し、両社の経営基盤を強化するため、昭和63年10月より、両社の定航部門を分離し、「日本ライナーシステム(株)」に統合した。
さらに、厳しい経営環境の中で、営業基盤の拡充とコスト競争力の強化を図るため、両社は残る不定期船、油送船の2部門についても統合を図ることとし、平成元年6月1日に合併し、「ナビックスライン(株)」が誕生し、昭和39年の海運集約以来20余年にわたって維持されてきた6社体制が5社体制へ移行した。
(イ) その他の集約・統合の動向
日本郵船グループ内各社及び大阪商船三井船舶グループ内各社等においても@重複する部門の徹底的な合理化、経営の効率化を目的とした営業部門の統合、A管理部門等の費用節減を目的とした会社の合併、B船員配乗等の効率化を目的とした船員の別会社への移籍、といった集約・統合が行われた。
- 3 定期船海運の現況
- 世界の外航定期航路のうち、主要航路はほとんどコンテナ化されているが、これらの航路における船腹は、日本・極東/北米、日本・極東/欧州、北米/欧州の三大航路にその約6割が集中している。このうち、世界の船腹量の約25%が集中する日本・極東/北米航路の荷動き量は毎年増加を続けており、昭和62年には対前年比11%増となっている。
北米定期航路は、世界で最も大きく、かつ、急速に拡大を続けている市場である。本航路は、近年の急速な円高の進行や、船腹の増強、運賃競争の激化等によって航路環境の厳しさが一層増し、邦船社は同航路において巨額の赤字を計上するに至ったが、昭和63年後半以降、同航路からの撤退、定期航路部門の分離・統合や、あるいは外国の主要船社との協調の気運の高まり等、航路秩序安定化に向けた努力が払われている。これにより、邦船社の航路損益も改善されつつあるものの、依然赤字体質は変わらず、引続き経営改善努力が必要となっている。
欧州定期航路は、我が国定期航路の中では北米定期航路に次いで輸送量の多い重要な航路である。本航路における運賃同盟は、加入船社を制限し、それぞれのシェアを固定する伝統的な閉鎖型同盟として長い間航路秩序の安定機能を果してきたが、近年、有力盟外船社の競争力向上に伴う同盟の積取シェアの低下等により、同盟機能にかげりがみられる。また、近時、各船社が大型船の建造計画を次々に発表しているので、このままでは船腹過剰を惹起し、同盟の弱体化と相俟って運賃競争が激化し、北米定期航路と同様の混乱が生じることが危惧されている。このため、同盟船社、盟外船社双方による、混乱を回避するための努力が求められている。
- 4 フラッギング・アウト問題
- 近年の我が国外航海運をめぐる厳しい状況の中で、内外の船員コスト格差の拡大等によって、日本人船員の乗り組む日本船の国際競争力が著しく低下し、フラッギング・アウト(海外流出)の動きが、著しく加速化してきている。フラッギング・アウトが極端に進行する場合には、我が国貿易物資の安定輸送の確保といった観点等から問題があると考えられる。
一方、船員コスト高という我が国と同様の問題に直面している欧州諸国においては、新船舶登録制度を導入する等の対策を講じてきている。
こうした認識を踏まえ、海運造船合理化審議会海運対策部会小委員会にワーキンググループが設置されフラッギング・アウト問題について検討が行われ、昭和63年12月16日に、「フラッギング・アウトの防止策について」と題する報告書がとりまとめられた。以下、その概要を紹介する。
(1) 日本船の減少とその影響
日本船の減少が顕著になってきているが、その大部分はフラッギング・アウトによるものであり、フラッギング・アウト急増の最大要因は、円高等による経営環境悪化の中で、内外の船員コストの格差拡大により、日本人船員の乗り組む日本船の国際競争力が著しく低下したことがあげられる。
フラッギング・アウトが極端に進行する場合には、長期的にみて我が国貿易物資の安定輸送の確保や技倆優秀な日本人船員の雇用の安定と海技の伝承に支障を生じるおそれがある。
(2) 我が国における対策の基本的方向
激しい国際競争場裡にある我が国外航海運にとっては、経済原則をベースに、相当数の日本船を維持しつつ、商船隊を全体として国際競争力を有するものとしていくことにより、フラッギング・アウトの急増に歯止めをかけていくことが課題となる。
対策の基本的方向としては、欧州の主要海運国と同様にコストの安い外国人船員を活用することができるような方式を実質的に整備し、フラッギング・アウトを防止していくことが適当と考えるられる。
その方法として、欧州諸国のような新しい船舶登録制度を設けることも考えられるが、我が国の場合には欧州諸国と異なり、船舶登録制度と配乗される船員の国籍要件とは関係がないこと等から、これについては、積極的な理由が認め難く、船員制度を中心としてこれに対応していくことが適当であると考えられる。しかし、船員制度を中心とする諸制度の抜本的な見直しを早急に行うことは、現実的には無理な状況にあり、中長期的な課題として今後検討していくことが適当であると考える。
このため、現下のフラッギング・アウトの急増に歯止めをかけるためには、当面、以下に述べる海外貸渡方式による日本人船員と外国人船員の混乗によって対処することが最も現実的かつ有効な方策であると考える。
(3) 当面の具体的対策
我が国における混乗問題に関する従来の経緯としては、我が国外航海運企業が配乗権を有する日本船については、陸上部門における外国人労働者の国内受入間題に係る閣議了解を準用するという形で、これまで外国人船員を配乗しないよう行政指導がなされてきている。しかし、日本船でも、外国の海運企業に裸用船という形で一旦貸し渡し、外国企業がこれに外国人船員を配乗した上で、再度我が国外航海運企業が定期用船するものについては、従来から外国人労働者の国内受入間題の範疇外とされており、実際上も近海船等においてこの方式による混乗(以下「海外貨渡方式による混乗」という。)が労使間の合意に基づき相当広範囲に実施されているところである。
したがって、当面は、労使合意に基づき既に近海船等においてこれまで広範囲に実施され、一定の歯止めをかけた形の制度として定着している海外貸渡方式による混乗を外航船舶一般に拡大することにより対応していくことが現実的な対応策であると考える。
この場合、船主サイドからは、日本人職員4名との混乗が主張されているが、日本人職員の乗組定員の低減に係る船舶職員法上の問題については、今回の海外貸渡方式による混乗が緊急を要する当面の措置であることにかんがみ、同法第20条の特例許可制度の運用により対応する方向で、関係者合意のうえ取扱いを決定することが望ましい。
また、その決定に当たっては、この措置が日本船の国際競争力を回復し、フラッギング・アウトの急増に歯止めをかけるために行われるものであるという趣旨に十分配慮がなされることが必要である。
このような形の混乗が今後実施に移される場合には、計画的、段階的に進め、船員雇用への影響をできる限り少なくすることが適当である。
(4) 外航海運企業の努力と政策支援
海外貸渡方式による混乗の導入によってこのまま事態が推移する場合と比べ、日本船及び日本人船員はより多く維持することができるとしても、外航海運企業にとっては厳しい経営環境の中でなお一層の経営改善へ向けての努力が課題となっている。
このため、外航海運企業においては、事業の多角化等による経営基盤の強化、船員の雇用問題への対応、後継者の育成等の問題について十分配慮を行う必要がある。
一方、政府においては、上記の諸対策が円滑に推進されるよう、船員雇用対策や計画造船制度等により環境整備を図る必要がある。
(5) 今後の展望
報告書の概要は以上のとおりであるが、日本船への混乗の拡大の問題については、その後、海運労使間で協議が進められ、本年10月25日に、対象船舶は原則として新造船とし、フラッギング・アウト防止の趣旨に沿う船舶とすること、日本人船員の配乗を職・部員合わせて9名とすること等の内容で労使合意が成立した。
今後、この労使合意に基づき、日本船への混乗が円滑に実施されていくことが期待されており、運輸省としても、必要な環境整備に努めていきたいと考えている。
- 5 旅客輸送の増大と客船旅行時代の到来
- 我が国外航海運をめぐる最近の動きとして注目されるのは、各社の客船事業への本格的な進出である。定期旅客航路については、近隣諸国との間に新規航路を開設する動きが数多くあり、また、邦船社による外航クルーズ事業も活発化するなど、我が国に客船旅行時代の到来を告げる動きが現れてきており、今後旅客数の大幅な増加が期待されている。

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