平成元年度 運輸白書

第4章 外航海運、造船業の新たな展開と船員対策の推進
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第2節 明るさが見え始めてきた造船業 |
1 我が国造船業を取り巻く情勢
2 造船業活性化対策の展開
3 国際問題への対応
4 舶用工業対策の推進
- 1 我が国造船業を取り巻く情勢
- (1) 造船業の現状
- 我が国造船業は、第2次石油危機等に起因する海上輸送構造の変化、産業構造の変化等による世界的な新造船建造需要の減退、プラザ合意以降の円相場の大幅な上昇等により深刻な不況に直面した。これに対処するため、我が国造船業は、大幅な人員合理化を行う一方、昭和62年度に約24%の過剰設備の処理、集約化等の構造対策を実施し、環境変化に対応した体制の整備を進めてきた。また、西欧や韓国の造船業についても、需要環境が悪化する中で、不採算造船所の閉鎖、人員合理化等を実施し、大幅に供給力を減少させてきている。このような世界的規模の造船能力の削減、最近の世界的な景気の拡大を背景とする船腹需給の改善等によって、長期低落傾向にあった受注船価(円ベース)は、昨年初めを底に上昇に転じており、また、受注量に関しても、船価先高感とも相まって顕著な回復を示している。
受注船価は、未だ十分な水準まで回復したとはいえず、今後の需要についても、海運市場には相当量の過剰船腹が潜在している等依然として予断を許さない状況にはあるが、一応、不況は底を打ったものと思われる〔2−4−2図〕〔2−4−3図〕。
このような状況に鑑み、昭和62年度から実施している不況カルテルについては、平成元年9月末をもって終了した。
- (2) 造船業をめぐる国際情勢
- 韓国、西欧等の主要造船国も経営環境の悪化に悩んでいる。韓国造船業は、「ウォン安、貸金安、資材安」のいわゆる「三安現象」を背景として近年急速な成長を遂げたが、対米黒字の増大によるウォン切上げ圧力を背景としたウォン高の進行による既受注船の為替差損の発生、国際市場における価格競争力の低下に加え、人件費、資材費等の高騰による生産コストの上昇等厳しい経営環境に直面している。また、西欧造船業についても最低限の造船能力を政府補助によって維持している状況にある。
このような状況において、今後本格的な需要回復が見込まれる1990年代後半に向けて、市場秩序の回復、船価の改善を図っていくことが世界造船業の健全な繁栄のために重要な課題となっている。
- 2 造船業活性化対策の展開
- 我が国造船業にもようやく明るい兆しが見え始めてきたが、不況産業のイメージが定着したことや就労条件が悪化したことなどによる若年層の「造船離れ」が進行し、技術者・技能者の高齢化等就労面での歪が顕在化してきており、また、長期にわたる業績悪化によって研究開発投資、設備投資等産業の活力を支える投資が低迷し、長期的な視野に立った創造的な技術開発が停滞しているなど長期不況の後遺症ともいえる問題が生じてきた。
これらの問題を放置し、現状のまま推移すれば、将来産業の活力の喪失、技術水準の低下というような事態も強く懸念されるため、運輸省としては、昨年8月に海運造船合理化審議会造船対策部会においてまとめられた「今後の造船対策のあり方について」の意見書の趣旨に沿って、次世代を担う船舶の技術開発や新たな海洋事業分野への進出等の活性化対策を強力に推進することとしている。
(1) 技術開発の促進
造船業の活性化、海上輸送の高度化を図るため、次世代を担う船舶の研究開発促進制度を創設することとし、特定船舶製造業安定事業協会を造船業基盤整備事業協会に改組し、同協会の業務に助成金の交付、債務保証等の助成業務を追加すること等を内容とする「特定船舶製造業安定事業協会法の一部を改正する法律案」を第114回国会に提出した。同法案は、同国会において成立し、平成元年7月20日施行された。さらに、これらの研究開発に対し、日本開発銀行からの出融資を併せて行うこととした〔2−4−4図〕。
平成元年度から、本制度を活用し、速力50ノット以上、載貨重量1,000トン以上の性能を有するテクノスーパーライナー'93等次世代を担う船舶の技術開発を推進することとしている。
(2) 新たな海洋事業分野への展開
造船業における新規事業分野の開拓を通じた活性化対策として、造船技術を活用した各種海上浮体施設の整備を促進することとし、NTT株式売却益を活用した無利子貸付制度等による助成を行っている。
- 3 国際問題への対応
- 世界の造船業が今後安定的な発展を遂げるためには、国際協調のもと、需給バランスのとれた公正な市場を実現するとともに、船価を健全な企業経営が可能なレベルまで改善する必要がある。
我が国は、世界一の造船国として、これらの課題克服のために主導的な役割を果たしていく責務があり、OECDにおける多国間協議を中心に、新たに国際的な協議の場に参加してきた韓国、米国も含め、主要造船国との対話をさらに緊密にしていく必要がある。
(1) OECD(経済協力開発機構)造船部会の動向
最近のOECD造船部会においては、造船能力過剰、船価改善、造船助成、船舶輸出信用了解等の問題が中心となっており、我が国は以下のような主張を展開している。
造船能力過剰の問題については、我が国は、世界的な需給の不均衡を解消するために、大幅な設備処理を実施した旨説明する一方、各国に対しても自助努力を促している。
船価の改善については、将来の需要見通し、船価に関する情報交換を通じて達成を図ることとし、非加盟国である韓国の参加を求めている。
EC諸国の船価助成を主とする造船助成については、我が国は、従来からOECDの諸取決めに反することであること等により早急に廃止するよう求めてきたところであるが、EC造船指令の導入により現在26%までの船価助成が容認されていることに関して強い懸念を示している。
船舶輸出信用了解については、了解金利(最低金利)が通貨の種類にかかわらず8%と我が国の市場金利と比べ著しく高いものとなっていることから、一般プラントの輸出と同様に低金利通貨については、市場金利を反映した金利を導入するよう昭和61年12月の部会で提案し、関係各国と協議を進めている。
(2) 造船における韓国との対話
成長著しい韓国との対話は重要であり、昭和59年より、政府レベルによる協議が定期的に行われている。この中では、世界の造船業の経営の安定のために双方がとるべき措置等について協議を行っており、我が方から設備処理、操業調整等の政策を説明し、韓国側の理解と協調を求めている。
(3) 米国通商法による提訴問題
商船マーケットにおける競争力回復を図る米国においては、平成元年6月、米国造船業界が、我が国を含む4ヶ国が不公正な政府助成を行っているとして、通商法第301条に基づく措置を求める旨の提訴を行った。これに対して、我が国は、従来からOECD造船部会の諸取決めを遵守しており、そのような事実はない旨反論し、その後、米国側は、多国間協議において政府助成削減を求めていくことを条件に同提訴を一旦取り下げた。今後、本問題は、米国も正式加盟したOECD造船部会を中心に、解決が図られることとなっている。
- 4 舶用工業対策の推進
- (1) 舶用工業の現状
- 我が国舶用工業は、船舶に搭載する多種多様な舶用機器の安定供給を担ってきたが、近年は、新造船工事量の減少、第三造船諸国における舶用機器の国産化の進展、円高傾向の定着による国際競争力の低下等により生産額が昭和59年以降毎年減少を続け、62年には6,479億円とピーク時の56年に比べると58%まで減少した。
昭和63年には、国内造船需要の回復及び輸出の伸びに支えられ、生産額は7,319億円と前年に比べ13%の増加を示す〔2−4−5図〕など明るい兆しが見え始め、舶用大型ディーゼル機関製造業についても、最近の需要の回復傾向に伴い62年度から実施してきた不況カルテルを平成元年9月末をもって廃止した。しかし、生産水準が低いことには変わりなく、需給ギャップに起因する過当競争により価格が低落したままの製品もあり、依然として舶用工業を取り巻く環境は厳しい状況にある。
- (2) 舶用工業対策の推進
- 舶用工業を取り巻く厳しい環境に対処するため、海運造船合理化審議会造船対策部会は、昭和63年8月、“舶用工業対策のあり方”として、舶用工業の経営安定化を図るため生産の集中等による生産体制及び生産能力の適正化、受注、資材購入等の協調又は共同化、異業種間の交流・協力等を推進する必要があることを意見書において明らかにした。
これを踏まえ舶用大型ディーゼル機関製造業については、過剰設備の削減を図るため、63年9月、産業構造転換円滑化臨時措置法の適用対象としたところであり、平成元年度中には約20%の試運転設備が処理される予定である。
この他の構造不況にある業種については、必要な構造改善措置を明らかにするとともに中小企業対策関連法及び雇用対策関連法等不況対策制度の活用を図っているところである。

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