平成元年度 運輸白書

第4章 外航海運、 造船業の新たな展開と船員対策の推進

第3節 船員対策の推進

    1 船員雇用
    2 船員制度の近代化と船員教育体制の充実
    3 船員労働時間の短縮と船員災害防止対策の推進


1 船員雇用
(1) 船員雇用の現状
 (雇用船員数)
 外航海運業における経営の減量、合理化や国際的漁業規制の強化による漁船の減船等により雇用船員数は引き続き減少しており、昭和63年10月には16万6千人と対前年同月比1万2千人(7%)の減少となった。特に外航海運業では62年度及び63年度の2年間に大幅な雇用調整が行われた結果、63年10月には1万3千人となり、61年の2万4千人からほぼ半減となった。
 (求人・求職状況)
 一方、船員労働需給面では、有効求人数の増加と有効求職者数の減少傾向が続いている。そのため有効求人倍率は上昇してきているが、未だ0.39(平成元年5月季節調整値)と低い水準となっている。しかし、部門別に見ると、外航船舶では0.13(同月)の有効求人倍率であるのに対し、内航船舶では0.61(同月)と高く、また、内航船舶では63年12月以降新規求人が新規求職者数を上回る状況となっており、全般的に改善しつつある需給面において、内航部門の改善が著しい。
(2) 船員雇用対策の推進
 (雇用対策)
 外航海運業等の不況業種からの離職船員あるいは国際規制による漁船の減船に伴う離職船員等については、船員の雇用の促進に関する特別措置法等のいわゆる離職四法に基づき職業転換給付金の支給等の措置を講じている。また、外航海運業では短期間に多数の船員が離職したが、これらの離職者については上記の対策のほか、船員雇用促進センター((財)日本船員福利雇用促進センター)の事業として外国船への配乗を促進するための外国船雇用確保助成金制度を平成元年度に新設したほか、陸上への転換を図るための再就職あっせん受け入れ助成金制度の延長、陸転のための訓練の実施、さらに、船員職業安定所と公共職業安定所等との連携を強化するなど緊急的に陸上職域への転換を促進する施策を講じた。
(3) 新規学卒者の確保
 (採用者数の増加)
 新規学卒者については、これまで厳しい経営環境にあったため、海運業、漁業とも採用は低調であったが、昭和63年度卒業生については、商船大学、商船高専及び海員学校とも海上産業への就職者が62年度を上回った。特に外航海運においては、61年から63年にかけてその採用者数は著しく落ち込んでいたが最近に至り、海運不況も底を脱したこと及び若手職員が不足しつつあることを反映し、また、若手職員の確保は後継者育成、年齢構成のアンバランスを解消するうえでも必要であることから、平成元年度の新規学卒者の採用は前年度に比べ倍増した〔2−4−6表〕
 また、各船社では、平成2年度以降の求人開始及び採用内定の時期も、従来陸上産業に比べ著しく遅かったものを陸上産業並に近づけるようできる限り早め、新規学卒者の確保を図ることとしている。
(4) 内航船員の労働条件の改善と確保対策
 (内航船員対策)
 内航海運は、不十分な労働条件、労働環境等による若年船員の入職の忌避、定着率の低下、また、これらに伴う船員の高齢化、後継者確保難が生じており、船舶所有者等は、賃金の水準、休暇・勤務の不規則性の解消等労働条件の改善に向けて努力を続けるとともに荷主の協力と理解も得て、船員にとって魅力ある職場作りに努める必要がある。
 業界においても船員対策のための委員会を設け検討しているが、政府としても、船員の労働時間の短縮や船員災害防止等の措置を講じて労働条件、労働環境の向上を図っている。
(5) 外国人船員受入れ問題
 (混乗問題)
 外国人労働者の陸上への受入れについては、閣議了解により原則として受け入れないこととされており、船員についてもこれを準用して日本船であって日本の船社が配乗権を有するものについては外国人船員を配乗しないよう行政指導を行っているが、海運業・漁業等の分野においては、その現況を勘案し、外国人船員を受け入れたいという意向がある。
 外航海運においては、本章第1節「4 フラッギング・アウト問題」で述べたとおり、昭和63年12月海運造船合理化審議会海運対策部会小委員会のワーキンググループにおいて、近海船等の分野において従来より行われており、外国人労働者の国内受入れ問題の範疇外とされている海外貸渡方式による日本船への外国人船員の配乗、いわゆる日本人船員との混乗を外航船舶一般に拡大すべきであるとする報告がなされた。これを受け、労使間で協議が重ねられ、本年10月25日合意が成立した。今後、この海外貸渡方式による混乗が円滑に実施されることが期待されており、現在、その具体的方策について調整が進められている。
 また、近年クルーズ用の豪華客船の建造が進む等客船事業が活発化しているが、これら客船に船客の多様なニーズに対応する等の観点からサービス要員等として外国人導入の動きがあり、関係者間で問題点について検討が進められている。
 さらに、遠洋漁業等の分野においては、外国200海里水域内に入漁する場合に、沿岸国から自国民船員の配乗を我が国漁船に要求するケースがあること等から外国人の乗船を認めて欲しいとの要望があり、現在、外国で乗・下船させる等一定の条件でこれを乗船させる方向で検討が進められている。
 このように、外国人船員の受入れ問題は焦眉の急の課題となっており、そのための体制作りが急務となっている。

2 船員制度の近代化と船員教育体制の充実
(1) 船員制度の近代化
 (近代化実験の推進)
(ア) 実験の推進
 船員制度の近代化は、近年における船舶の技術革新の進展に対応した新しい船内職務体制を確立する〔2−4−7図〕とともに乗組員を少数精鋭化することにより、厳しい海運情勢の下で日本人船員の職域の確保を図ることを目的とし、昭和52年以来、船内職務の実態及び諸外国の船員制度についての調査が進められ、これを踏まえて、54年からは、実際に運航されている船舶を用い、船員制度近代化委員会の下で作成された新しい船内就労体制の試案について、その実行の可能性及び妥当性を検証するための実験を行ってきている。
 58年4月には、その第一段階の実験結果を受け、甲板部、機関部両部の職務を行う運航士及び船舶技士の制度を導入し、乗組員18名で運航する近代化船の乗組み体制(〔2−4−7図〕第一種近代化船)が法制化された。
 その後、引き続き第二段階、第三段階の実験が進められ、61年4月には、乗組員16名体制で運航する第二種近代化船が、63年12月には、乗組員14名で運航する第三種近代化船がそれぞれ法制化された〔2−4−7図〕
(イ) パイオニアシップ実験と今後の近代化
 一方、昭和62年10月からは円高等の急激な情勢の変化に対応して、早急に船員制度の近代化を一層推進する必要があるとの観点から、特定の航路、船種について船内作業が効率的に行えるように配慮した設備を備えた近代化船により、世界で最も少数精鋭化された乗組み体制(11名)の実験(パイオニアシップ実験〔2−4−7図〕)を行っており、また、63年12月から当面乗組員13名体制を念頭においた、第三次総合実験(D実験)を開始している。今後は、これまでの実験の成果を生かしつつ、質的により深度化を目指す方向で実験を引き続き実施していく必要がある。
 なお、平成元年10月末現在の近代化船の隻数は計181隻〔2−4−8表〕となっている。
(2) 船員教育体制の充実
 (海員学校等の教育体制の整備・充実)
 海員学校については、船員制度近代化に対応した教育を充実するため、昭和61年度から中卒3年制を主体とした航海・機関の総合教育を実施するとともに、教育内容のレベルアップを図り、高卒同等資格を付与する等の抜本的学制改革を行って教育体制の整備を図ったが、この制度の下での初めての卒業生が平成元年3月に生まれた。
 海技大学校については、近代化の一層の進展に対応した教育を実施するとともに、昨今の海運水産界の厳しい雇用情勢を踏まえ、昭和62年度から、部員の職員化の促進のため短時間で上級の海技資格を取得するための科を新設、さらに各種資格取得のための訓練コースを充実する等、船員の職域拡大を図るための教育体制の整備を図った。
 また、航海訓練所では、船員制度近代化に対応した運航士教育を新人教育として59年度から実施し、63年度から運航士が誕生している。

3 船員労働時間の短縮と船員災害防止対策の推進
(1) 船員労働時間の短縮
 (船員労働時間短縮の推進)
 労働時間の短縮が、我が国の重要政策の一つとされていることから、昭和63年、船員の労働時間の短縮を主とする内容とした船員法の改正を行い、平成元年4月から週平均労働時間を当面48時間以内とした。その実施に当たっては、パンフレットの配布、説明会の開催等により、新制度への円滑な移行と適切な実施を図った。
 さらに、総トン数700トン未満の内航船(以下「小型船」という。)に乗り込む船員の労働時間及び休日について定めた「小型船に乗り組む海員の労働時間及び休日に関する省令」(以下「小労則」という。)を改正し、小型船に乗り組む船員についても平成2年4月1日から週平均労働時間を48時間以内とすることとなった。
 これらの法令改正により労働時間短縮のための制度作りを行ったわけであるが、今後は、船員の職場を魅力あるものとするためにも、引き続きこれらの新制度の適切な実施を図り、当面の週48時間労働性の定着に向けて指導、啓もうを行うとともに、労使の協力のもと、さらなる労働時間短縮に向けての環境づくりを進めることにより、船員法の最終的な目標である週48時間労働性の早期実現を図っていく必要がある。
 また、小労則制定以来20年あまりが経過しているが、この間、小型船の運航形態及びこれに乗り組む船員の労働形態に変化が生じているものと考えられ、このような状況に対応し、小型船に乗り組む船員の労働時間等の基準に関する法制の適正を期するため、小型船に対する船員法の労働時間等に関する規定の適用範囲の拡大について検討を進めていくこととしている。
(2) 船員災害防止対策の推進
 (総合安全診断システムの実用化)
 船員災害防止については、第5次船員災害防止基本計画(昭和63年度〜平成4年度)及び平成元年度同実施計画に基づき、中小船舶所有者における自主的な災害防止対策の推進、災害多発業種・地域に対する安全対策の充実強化等を図っているほか、 総合安全診断システム(体と心の健康調べ)の確立のため実証が行われていつところである。
 総合安全診断システムは近年における船舶の技術革新の進展、漁ろう手段の変革等船員を取り巻く労働環境が変化してきていることに対応し、船員に対して広く人間科学的診断(心の健康度、心的特性、安全に対する態度等)を実施し、船員の自己啓発を促進することによって船員各自の健康の維持増進を図るとともに、船舶所有の安全管理対策の向上に役立て、ひいては船員災害の防止に寄与させるものであり、平成2年度から実用化されることとなっている。



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