平成元年度 運輸白書

第5章 ウォーターフロントの高度利用と港湾整備

第5章 ウォーターフロントの高度利用と港湾整備

第1節 ウォーターフロントの高度利用

    1 港のルネッサンス
    2 良好なウォーターフロント環境の創造
    3 賑わいのあるウォーターフロントの形成
    4 ニューフロンティアへの展開


1 港のルネッサンス
(1) インナーハーバー等の再生〔2−5−1図〕
 船舶の大型化やコンテナ化等に対応した外港地区における港湾施設の整備の進展に伴い、一部で古くに整備されたインナーハーバー(内港地区)の物流機能が低下しつつある。一方、インナーハーバーは、市街地に位置する場合が多く、より高度な利用の可能性を有していることから、水際線の魅力を活用しつつ、業務、商業、文化・交流施設等の整備を図り、地域や港の活性化の拠点として再生することが求められている。
 この場合、諸外国にみられる港湾としての機能を失った荒廃したインナーハーバーの再開発と異なり、我が国のインナーハーバーは、老朽化、陳腐化の程度の問題はあるが、現在でも機能しているものがほとんどである。このため、これを円滑かつ効率的に進めていくためには、再開発等のマスタープランを作成し、関係者の合意形成を図ることが不可欠である。
 さらに、事業化の促進のためには、公共事業や多種多様な民活事業を組み合わせ、統一的、総合的に事業を実施する必要がある。こうした総合的なマスタープランを策定するため、61年度より、ポートルネッサンス21調査を実施しており、その数は平成元年度までに全国42港に及んでいる。また、これらの成果を踏まえた具体的プロジェクトが、既に、釧路港(東港区北地区)、青森港(本港地区)、横浜港(MM21地区)、神戸港(高浜地区)、博多港(博多埠頭等)、那覇港(泊地区)等全国各地において展開されており、これらの港では、総合的な港湾空間の拠点が形成されつつある。
 また、近年における産業構造の変化に伴い、臨海工業地帯においては、産業の立地条件が大きく変化するとともに、素材型産業を中心に一部で工場の移転、統廃合が進み、土地の遊休化が生じている。
 このため、こうした土地を新たな産業の立地や、水際線を最大限に活用し地域の活性化を先導するプロジェクトの展開の場として再活用を図るとともに、人々が自由に訪れ、海と楽しむことのできる水際線の整備を目途とする臨海部活性化調査を63年度より開始し、平成元年度までに全国11港で実施している。
(2) 大都市圏における新たな臨海部空間の形成〔2−5−2図〕
 大都市圏の臨海部においては、国際化、情報化に対応して、国際情報機能を備え、文化レクリエーション、居住機能をもあわせもつ新しい港湾空間を形成しようとする動きが活発になっている。
 東京港における「臨海部副都心計画」は、多心型都市構造への転換を推進するため都心に近接した東京港13号地等の埋立地に国際的情報受発信機能「東京テレポート」、及び国際交流機能「東京国際コンベンションパーク」を配置するとともに、豊かな水辺環境を生かした業務、商業、居住、レクリエーション機能等を導入し数万人の人口を有する副都心を建設しようとするものである。
 このプロジェクトの推進にあたっては、対象地域が埋立地であることから、道路、鉄道、港湾等の交通基盤施設の整備を推進するとともに、地震時における液状化等の災害に対する安全性の確保についての配慮が必要である。
 運輸省は、このプロジェクトを支援するために新交通システム、道路等の臨港交通施設、海上バスターミナル、緑地、親水護岸の整備を進めるとともに、民間事業者等が行う拠点となる施設の整備に対しては、港湾関係の民活制度を積極的に活用していくこととしている。
 このほか、大阪港の「テクノポート大阪計画」、横浜港の「みなとみみらい21計画」等も情報通信機能、国際交流機能を核とした新しいまちづくりを進めようとするものであり、運輸省は、これらに対しても積極的な支援を行っているところである。

2 良好なウォーターフロント環境の創造
(1) 環境改善から環境創造へ
 港湾においては、いわゆる公害の防止、環境の改善という観点からの事業の推進が図られる一方で、国民の価値観の多様化、余暇時間の増大等に伴って、親水空間の整備等良好な環境を創造するといった観点からの要請が強くなっている。
 運輸省では、港湾がもつ恵まれた資質を最大限に活かして、良好なウォーターフロント環境を創造するための施策を積極的に推進している。
(2) 歴史的港湾環境の創造
 港にはそれぞれ固有の歴史がある。昔日を物語る歴史的港湾施設が今なお至るところに残っており、また、港湾施設には築後百年を越すものもある。こうした歴史的港湾施設を港湾文化の貴重な財産として保全するとともに、周辺地域を歴史的な情緒の漂うウォーターフロント空間とするため、平成元年度から歴史的港湾環境創造事業を小樽港等全国7港において推進している。
(3) ふるさとの海岸づくり
 豊かさを実感できる国民生活の実現を目指して、全国で地域特性に応じた豊かで魅力のあるまちづくりが展開される中で、運輸省では港湾海岸における海岸保全施設整備事業を進めていくにあたって「ふるさとの海岸づくり」を提唱している。
 「ふるさとの海岸づくり」では、従来の防護優先の海岸整備から、海岸が持っている貴重な価値を再評価し、地域住民に親しまれ、海辺とふれあえる美しい景観を持つと共に、背後のまちづくりと一体となった安全で潤いのある海岸空間の創造へと転換を図ろうとするものである。平成元年度には、今後の模範となるような事業計画を選定して、その重点的整備を図り、その効果を広く全国に普及させるべく、津田港海岸を始め、全国4港においてふるさと海岸整備モデル事業を実施している。
(4) シーブルー計画 −快適な海域環境創造−〔2−5−3図〕
 港湾・海洋の環境改善に関しては、従来より、港湾における海水汚染を防止するための堆積汚泥の浚渫・覆土事業や内湾域におけるゴミ・油の回収事業等を実施し、着実に成果をあげてきている。
 快適なウォーターフロント空間の形成にあたっては、沿岸陸海域における良好な環境の保持が不可欠であり、海域については従来の公害の防止という概念を超え、快適な環境の創造を積極的に行っていく必要がある。
 運輸省では、このような快適な海域環境、すなわち「美しい海」を創造するためシーブルー計画を推進している。その一環として、ヘドロの堆積した海域における覆砂や海浜整備による水質・底質の浄化、豊かな生物相の回復に加えて、親水空間の確保等の快適環境の創造を図るための海域環境創造事業(シーブルー事業)を平成元年度には瀬戸内海等の2海域及び2港で実施している。

3 賑わいのあるウォーターフロントの形成
(1) マリーナの整備
 近年、ヨットやモーターボートによるレクリエーション活動が活発化しており、その基地となるとともに賑わいのあるウォーターフロント形成の中核となるマリーナ整備の要請が強くなっている。運輸省では、プレジャーボートの保管需要が1999年までの間に少なくとも40万隻程度となるものと見込み、これに応えるため、昭和63年9月に「全国マリーナ等整備方針」を策定し、1999年までに少なくとも新たに約28万隻分に相当するプレジャーボートの保管施設の整備を図ることとした〔2−5−4表参照〕
 平成元年度には、公共マリーナを小名浜港等30港において整備を行っている。また、緊急的な放置艇対策として、運河や水路等の水域を活用した日常利用型の簡易な係留施設(プレジャーボートスポット)の整備を平成元年度より公共事業により推進しており、伏木富山港等25港で整備を行っている。
 さらに、利用者の多様なニーズに応えるとともに放置艇の解消を図ること等を目的として、民間、第3セクターが行うマリーナの整備を支援しており、昭和63年12月に港湾法施行令を改正し、重要港湾において、民間事業者が行うマリーナの整備に対し、国及び港湾管理者から無利子貸付を行う制度(埠頭整備資金貸付金事業)を創設した。このほかに総合保養地域整備法の特定民間施設である民間マリーナの整備に対する金融・税制・財政上の助成措置を講じ、その整備の促進を図っている。
(2) クルージング需要等に対応した旅客船ターミナルの整備
 近年、国内・国際クルーズ客船等の就航が相次いでおり、国際旅客船の寄港にも対応しうる旅客船ターミナル整備の要請が高まっている。旅客船の寄港は、それに併せたイベントの開催等を通じて賑わいあふれるウォーターフロントを演出する重要な要素となるものであり、旅客船用のふ頭及び周辺環境の整備の必要性が高まっている。
 このような状況に対応するため、平成元年度には、長崎港等において大型旅客船バースをイベント広場を含む緑地、駐車場等と一体的に整備するとともに、神戸港等において民間活力の活用により質の高いサービスを提供する旅客ターミナル施設の整備を推進している。
(3) 高質な緑地、人工海浜等の整備
 レクリエーンョン活動や憩いの場の創出、交流や賑わいの場の提供等を通じ港湾空間を豊かな生活空間として活用しようとする要請に対応して、魚釣り施設や親水護岸の整備、イベント広場の提供等高質な緑地の整備を平成元年度は青森港等112港で推進している。
 また、各種リゾート・レクリエーション施設の整備の進展に伴い、海岸についてもその積極的かつ多目的な利用が求められている。このため、高質な人工ビーチの造成を主体とした利用空間を創造し、海洋性レクリエーション開発による地域振興に資するための海岸環境整備事業を平成元年度は伏木富山港等76港で推進している。

4 ニューフロンティアへの展開
(1) 沖合人工島の整備
(ア) 沖合人工島整備の要請
 我が国のウォーターフロントにおいては、既にその陸域が港湾施設等により稠密に利用されるとともに、水域も漁業、海上交通等により高度に利用されている場合が多い。さらに、海洋性レクリエーンョン活動等の進展に伴い、ウォーターフロントに対する要請も高度化・多様化するとともに増大してきている。
 沖合人工島は、陸域から離れた海域に人工島を建設し既存のウォーターフロントを損なうことなく、新たなウォーターフロントを創造するとともに、背後に利用価値の高い静穏な海域を創出し、人工島、静穏海域と新旧のウォーターフロントが一体となった海陸複合空間を確保するものである。
 また、沖合人工島方式によれば、利用価値の高いまとまった空間を確保できることから、物流、生産のほか、海洋性レクリエーション、研究開発、居住等の多様な機能を自由に集積させ、組合わせ、付加価値の高い空間を創出することができる。加えて、既存の沿岸域利用との調整が図り易く、また、既存海岸の保全に対して有効であり、更に建設残土等の廃棄物の処理空間としての活用も期待できる。このため、今後、港湾の利用の高度化を推進し、海洋・沿岸域の新たな活用を促進するために沖合人工島の整備を図る必要がある。
(イ) 沖合人工島の整備に向けて〔2−5−5図〕
 運輸省では昭和55年度から沖合人工島の実現をめざして調査検討を開始し、元年度からは民間活力を活用した沖合人工島の整備を推進するため、港湾整備事業との連携をとりつつ、NTT無利子貸付け(収益回収型)、日本開発銀行等からの融資を行っている。
 この制度を活用した最初の沖合人工島プロジェクトとして、マリーナなどの海洋性レクリエーション基地を核とした「和歌山マリーナシティ」計画が元年度より進められている。
 このほか、横須賀、清水、玉野・倉敷、下関の4海域のプロジェクトについて、事業化に向けた詳細な検討を行う「沖合人工島事業化推進調査」を実施するとともに、木更津、別府、葛西の3海域においては、実現可能性を探るフィージビリティ・スタディを実施している。
(2) 海上浮体施設の整備〔2−5−6図〕
 最近の経済情勢の変化に対処して、内需拡大、地域の振興等に資するため、国際会議場、大規模イベントホール等の経済社会の基盤の充実に資する施設の整備を図ることが重要となっている。一方、所得の向上、自由時間の増大等により、国民の余暇活動は年々活発化し、海洋性レクリエーションに対する関心もこれまでになく高まっている。
 このような状況の中で、造船及び港湾の技術を活用して海域の有効活用を図る各種の海上浮体施設の整備が進められている。平成元年4月には、尾道市の沖合いに、「境ヶ浜マリンパーク」の中核施設として、親水公園、水族館、映像施設、旅客船バース等の複合機能を備えたフローティングアイランドが完工した。現在計画中のものとしては、係留船とその背後地を活用して海洋性レクリエーション施設を整備する「呉フェニックス計画」、多目的ホール、インテリジェントオフィス等を備えた浮体ビルを長崎港内に設置する「長崎海上浮体ビル建造計画」、国際会議場、中小会議室、駐車場等の複合施設を備えた豪華客船風の大規模浮体施設を海上に設置する海上コンベンションセンター整備計画等がある。
 これらの計画は、地域の活性化、国民生活の質的向上に重要な役割を果たすとともに、新たな造船需要を喚起し造船業の経営基盤の強化に資することができるため、運輸省としても、これらが円滑に進むようNTT無利子貸付制度の活用等の財政的支援及び計画・設計にあたっての技術的支援など各種の措置を講じている。
 また、これら海上浮体施設の安全確保については、船舶安全法に規定される安全基準及び港湾法に基づく港湾の施設の技術上の基準に基づく検査を行い万全を期している。
(3) 海洋・沿岸域の計画的利用の推進
(ア) 海洋・沿岸域利用に対するニーズの高まり
 我が国は、国土面積が約38万km2と、人口1億人余を有する国としては諸外国と比較しても狭小であるが、その周辺には広大な水域を有している。またわが国は、3万4千kmに及ぶ長い海岸線に恵まれ、これらの海洋・沿岸域を有効に利用して国土の形成を図ってきた。
 近年、国民の親水ニーズや、沿岸域を利用した地域振興の気運が急速に高まっており、そのなかで港湾の果たす役割も変化し、ますます大きくなっている。
(イ) 海洋・沿岸域の計画的利用の推進
 このような状況の下で、海洋・沿岸域の環境の保全と安全の確保を図るとともに、自然とのふれあい、資源、空間としての多面的利用可能性を積極的に引き出す総合的、計画的な海洋・沿岸域の利用の中核となる港湾の整備を推進することにより、魅力ある地域振興を図る必要がある。
 このため、運輸省においては、従来より海洋・沿岸域の実態分析や広域的な港湾整備等に係る諸調査を実施するとともに、海域の利用の稠密な三大湾(東京湾、伊勢湾、大阪湾)において、40年代以降数次にわたり、湾全体の開発利用・保全の指針となる広域的な港湾整備のあり方を示す「港湾計画の基本構想」を策定した。
 今後とも、時代のニーズに的確に対応し、海洋・沿岸域の計画的利用を推進することとしており、元年度においては、瀬戸内海などにおいて港湾を中心にした広域的な海洋・沿岸域利用について調査を実施している。



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