平成元年度 運輸白書

第5章 ウォーターフロントの高度利用と港湾整備
 |
第2節 進展する港湾整備 |
1 物流の高度化に対応した港湾の整備
2 経済社会活動を支える港湾の整備
3 地域振興の核となる港湾の整備
4 民活事業の進展
5 民間技術開発への支援と港湾の施設の技術上の基準の充実
- 1 物流の高度化に対応した港湾の整備
- 港湾をとりまく物流環境の変化は急速に進行している。従来の原材料(原油、金属鉱等)を輸入し、これを加工して輸出するという我が国の貿易構造は、内需拡大型経済の定着、国内企業の海外進出などにより、製品、半製品を双方向に輸出する産業の国際水平分業へと変化している。このことは、製品輸入を中心とするコンテナ貨物量の増大、近海、東南アジアとのコンテナ定期航路数の増加に顕著に現れている。
今後とも、我が国の産業構造の変革の進むなか、このような港湾取扱貨物の質的、量的変化は一層進むと予想される。一方、全国総合開発の観点からは、多極分散型国土の形成を図るため国際港湾の地方展開、内貿港湾相互のネットワークの形成が必要となっている。
このため、港湾においては、これらの課題に適確に対応し、荷役の自動化など、より効率的な港湾の整備・運営を進めていく必要がある。
(1) 外貿コンテナターミナルの整備
我が国の港湾において取扱う輸出入コンテナ貨物は年率10%を超える高水準で増加を続けている。これらの貨物の多くは依然として東京湾、伊勢湾、大阪湾の三大湾の諸港において取扱われているが、三大湾以外の港湾における輸出入コンテナ貨物の取扱いは着実に増加しており、昭和63年度には全国の8%程度を担うに至っている。また、コンテナ定期船の寄港する港湾は昭和63年に新たに金沢港を加え、全国で19港となった。
コンテナ貨物量の増大とともに、パナマ運河を通行できないような大型のコンテナ船が就航するなど、主要な航路におけるコンテナ船の大型化が急速に進展している。
このような状況に対応し、平成元年度は、三大湾においては東京港、名古屋港等5港において大型のコンテナターミナルの整備を、また、三大港以外においては博多港、那覇港においてコンテナターミナルの整備を実施している。
(2) 内貿ユニットロードターミナルの整備
国内においても、雑貨貨物の増大とともに、貨物輸送の効率性及び定時性の確保がますます重要となり、コンテナ船、RO/RO船、フェリー等定期的な運航を行う内航船舶により輸送されるユニットロード貨物が着実に増加している。
このため、貨物の海上輸送時間の短縮とともに、輸送圏域の全国への拡大を図るため、各地城の内貿の基幹となる港湾において、ユニットロード貨物の取扱実績、隣接港湾との機能分担、背後圏の広さ、高速道路とのアクセス等を考慮しつつ、内貿ユニットロードターミナルの重点的な整備を行っている。
平成元年度は松山港等13港において内貿ユニットロードターミナルの整備を実施している。
(3) 幹線臨港道路の整備
コンテナ貨物輸送等の増大に伴い、車輛の大型化、港湾関連交通と一般交通の錯綜などの問題が生じている。海陸輸送の接点である港湾においては、埠頭間の連絡を強化するため、あるいは埠頭と背後の幹線道路網を直結するための臨港道路の整備が不可欠となっている。
平成元年度は新潟港等14港において幹線臨港道路の整備を実施している。
(4) 情報・通信基盤の整備〔2−5−7図〕
コンテナ化の進展や製品輸入の拡大により、港湾においては貨物の小口化、多品種化が進んでいる。このように多様化した貨物の埠頭間、埠頭内の流動を迅速かつ効率的に行うための港湾情報システムの整備、各種情報関連施設の整備が求められている。
すでに北九州港等において港湾情報システムが整備されており、平成元年度は苫小牧港において情報管理施設が着工されることになっている。
- 2 経済社会活動を支える港湾の整備
- 貿易構造の変化により、取扱品目が様変わりするなかで、我が国の経済社会活動を支える港湾の役割は引き続き重要なものとなっている。
(1) 資源の安定供給
海外炭、LNG、LPG等石油代替エネルギーの需要の増大や、石油備蓄の促進など、エネルギーの安定的供給を確保するため港湾の整備を積極的に推進している。
平成元年度は、相馬港(石炭火力発電対応)、船川港(国家石油備蓄対応)等4港においてエネルギー港湾の整備を実施している。
さらに、穀物、木材等の運搬船の大型化や荷役形態の変化に対応するため、多目的の公共大型バースの整備を青森港など33港において実施している。
(2) 海上輸送の安定性の向上
高質な輸送サービスが求められるなかで、船舶の大型化と高速化が進展している。このような状況にあって、安定的な海上輸送体系の確保を図るため、船舶航行のふくそうする海域における海の道路ともいうべき航路の整備、及び荒天時の船舶の待避の場である避難港、避難泊地の整備を進めている。
平成元年度には、14の開発保全航路、及び11の避難港の整備を行っている。
さらに、貨物の荷役の安全性と安定性を保証するために、港内水域の静穏さの向上をめざした防波堤等の整備を進めている。
平成元年度には、71港において、防波堤、航路、泊地等の整備を進めている。
- 3 地域振興の核となる港湾の整備
- 東京への諸機能の一極集中を是正し、多極分散型の国土を形成するためには、地方において産業おこしや基盤となる生活空間の形成を行い、地域の活性化を進める必要がある。一方、水辺では古くから物流活動、産業活動、レクリエーション活動が営まれており、地域の中心として貴重な空間を提供してきたが、社会の成熟化の進展に伴い水辺に求められる機能を多様化している。
港湾は、これらの水際線利用への要請に適切に応え、地域振興の核となる必要がある。
(1) マリンタウン・プロジェクトの推進
地方の港湾において、海洋空間を高度に利用するとともに、海の豊富な資源や水際線の魅力を最大限に引き出し、地域に新たな産業をおこし、海域の利用と一体となった魅力ある個性的なまちづくりを進めることにより、地域の活性化を図るマリンタウン・プロジェクトを昭和60年より実施している。マリンタウン・プロジェクトはまちづくりのマスタープラン作りを行う調査、及びマスタープランにある個々の施設の各種制度の組み合わせによる整備からなるもので、具体的導入施設としては、旅客船、フェリー等に対応したターミナル施設、マリーナ、人工海浜等のレクリエーション施設、イベント広場等のアメニティ施設、地場産業センター等の産業施設等がある。
平成元年度までに、30港においてマリンタウン・プロジェクト調査を実施しており、すでに、瀬棚港、手結港、名洗港、伊東港等で事業が実施されている。
(2) 海上旅客輸送の新展開〔2−5−8図〕
近年、高速の旅客船の導入が全国の航路において相次いでいる。これらの高速の海上旅客輸送は、離島、半島等の陸上交通インフラストラクチャー整備が不可能な、あるいは遅れている地域の人々にとって、一日行動圏の拡大につながるばかりでなく、新たな観光需要を創出し、地域活性化を支援するものと期待される。
港湾においては、これらの航路の安全性、定時性を確保し、サービス水準の向上を図るため、客船埠頭等の整備を進めている。
- 4 民活事業の進展
- (1) 民活事業制度の充実
- 国際化や情報化の進展、価値観やライフスタイルの変化などに伴い、港湾の機能に対する要請も高度化、多様化してきている。これらの要請に的確に応えていくためには、従来からの港湾整備事業や港湾関係起債事業による岸壁や道路の整備、土地の造成等の基盤施設の整備に加えて、総合的な開発整備のマスタープランのもとに、民間の資金力、経営力、技術力等の導入を図る必要がある。このため、昭和61年度以来、開発整備の拠点となる民間の施設整備に対し、税制、財政上の支援、規制緩和等の措置を講じている。これらを年表の形でまとめると、〔2−5−9表〕のとおりである。
現在、港湾関係の民活制度としては、@民活法特定施設整備事業、A特定民間都市開発事業((財)民間都市開発推進機構関連)、B沖合人工島の整備、C多極分散型国土形成促進法関連事業、D総合保養地域整備法特定民間施設整備事業の5つの事業制度がある。
これらの事業制度については、年々、支援措置の拡充を図っており、平成元年度においては、@海洋性レクリエーション活動、海底鉱物資源開発等に係る研修等を行うことにより、港湾の機能の高度化に資するハーバーコミュニティセンター(仮称)の民活法の特定施設への追加、A沖合人工島の土地造成に対する開銀等融資制度の創設及び臨海部空間創造事業(新規)による沖合人工島における公共施設整備に対するNTT無利子貸付(NTT−A)、B多極分散型国土形成促進法の中核的民間施設(政令施設)に対する税制の特例措置の拡充(法人税特別償却、特別土地保有税、事業所税の優遇)、NTT無利子貸付の対象化等、C総合保養地域整備法の特定民間施設に対する税制の特例措置の拡充(法人税の特別償却等)等を図った。
- (2) 民活事業の進展〔2−5−10図〕
- 民活事業関連施策の充実や、港湾に寄せられるさまざまな要請の増大を反映して、全国で多くの民活プロジェクトが始動しつつある。63年度までに、民活法特定施設整備事業として7プロジェクト8施設、特定民間都市開発事業として8プロジェクトの事業に着手している。
このうち、既に、釧路港の旅客ターミナル施設(釧路フィッシャーマンズワーフ)、直江津港の旅客ターミナル施設、博多港のマリンタワー(福岡タワー)とウォーターフロントプロムナード、与島港の旅客ターミナル施設(フィッシャーマンズワーフ)及び堺泉北港の上屋が供用を開始している。これらの施設は、市民が集い、海に親しみ、憩える拠点施設として、港湾を中心としたウォーターフロントを市民の交流の場へと再生することを先導する施設であり、地域の活性化に大きく貢献している。
民活プロジェクトを円滑に推進するためには、事業者に対する税制上・財政上の支援とともに、公共事業等による周辺の基盤施設の整備による支援が重要である。このため、ポートルネッサンス21調査等のプロジェクト調査の中で、適切な官・民の役割・機能分担等を検討するなど、計画づくりの段階から官・民協力して開発を進めるための検討を行っている。
今後は、民活プロジェクトの大都市圏から地方圏への一層の展開、定着を図るとともに、既に供用されている施設に関する分析を通じて計画・建設・管理・運営上の課題や地域の活性化に果たす役割についての認識を深め、推進体制の充実・強化を図っていくこととしている。
- 5 民間技術開発への支援と港湾の施設の技術上の基準の充実
- (1) 民間技術開発への支援制度の充実
- 今後の港湾整備及び海域利用における多種多様な要請に的確に応えるためには、国と民間との適切な役割分担の下で効率的な技術開発を推進し、その成果を普及、活用していく必要がある。民間の技術開発を支援する方策として、技術開発関係融資の斡旋に加えて、開発した技術の実証的確認を行うための「実海域実験場提供システム」を昭和62年度より開始しており、現在までに東京港、鹿島港などで合計8件の利用がなされている。また、民間が開発した技術について国がその成果を評価し、普及を図る「港湾に係る民間技術の評価制度」を平成元年6月から施行しており、基礎マウンド築造機械については7件、高能率海上測位装置については14件の申請があった。この他、共同技術開発については、国と民間との共同研究の拡充及び公益法人を活用する体制の強化を図ることとした。
- (2) 港湾の施設の技術上の基準の改正
- 運輸省では、港湾の安全性を確保し、利用の円滑化を図るために、「港湾の施設の技術上の基準」を定めている。近年の港湾に対する要請の多様化、港湾の技術に関する新たな開発成果の蓄積など各種の情勢変化をふまえ、技術基準を全面的に改正し、平成元年4月より新基準の適用を開始した。主要な改正点は、@マリーナに関する技術基準を充実させるなど安全・快適な港湾空間創出のための技術基準の整備、A大水深・高波浪や軟弱地盤といった港湾の建設条件の苛酷化に対処するために開発された新技術の編入、B港湾の施設の維持管理に関する技術基準の充実などである。また、軟弱地盤着底式防波堤など新技術実証試験によりその実用性が確認された構造物についても、順次、基準化の検討を進めている。

平成元年度

目次