平成元年度 運輸白書

第6章 新たな航空の展開
 |
第6章 新たな航空の展開 |
この章のポイント
○ 利用者利便の向上のため、航空企業間の競争を促進することとし、国際線の複数社化及び国内線のダブル・トリプルトラック化の推進を図ってきており、導入路線の輸送実績は着実に向上している。
○ 航空運賃については、安全かつ良質なサービスの確保に配慮しつつ可能な限り低廉な運賃設定をめざし、各航空企業の生産性の一層の向上等を進めてコストの引き下げを図るとともに、割引制度の拡充・多様化を推進するほか、国際航空運賃の方向別格差の是正を積極的に推進する。
○ コミューター航空をはじめとする地域航空システムについては、採算上の問題等を克服しようとする地域の関係者の創意工夫の努力が重要であるが、運輸省としても航空の新たな可能性を拓くものとしこれを支援する。
○ 関西国際空港の整備、新東京国際空港の整備及び東京国際空港の沖合展開の三大プロジェクト並びに一般空港の整備を進め、国際及び国内航空需要の増大に対応していく。
 |
第1節 躍進する航空 |
1 拡大を続ける航空輸送
2 航空運賃問題への対応
3 航空の一層の活性化のために
4 伸びゆく国際航空
5 地域航空システムの現状と整備方策
- 1 拡大を続ける航空輸送
- (1) 航空輸送の現状
- 昭和63年度の輸送実績については、対前年度の伸び率は62年度に比べ若干の低下がみられたが、国際旅客輸送の伸びを筆頭に旅客・貨物とも引き続き拡大基調にある〔2−6−1図〕〔2−6−2図〕。具体的には、国内旅客数は対前年度比5.8%増の5,295万人で、日本発着の国際旅客数は対前年度比18.4%増の2,664万人となっている。さらに貨物輸送については、国内貨物が対前年度比7.9%増の61.8万t、国際貨物が対前年度比15%増の140.2万tとなっている。
- (2) 競争促進施策の積極的推進
- 現在、我が国においては、61年6月の運輸政策審議会の答申「今後の航空企業の運営体制の在り方について」の趣旨に沿って、安全運航の確保を基本としつつ、航空企業間の競争促進を通じて利用者利便の向上を図るため、国際線の複数社化及び国内線のダブル・トリプルトラック化を推進している。
(ア) 国際線の複数社化
国際線においては61年より、全日本空輸が国際定期路線を次々に開設し、平成元年に入ってからも、ストックホルム、バンコク、ウィーン、ロンドン、モスクワ、サイパンへと新路線を開設した。また日本エアシステムは61年9月以降チャーター便の運航により国際線への進出を果たしたが、63年7月には同社にとっては初の国際定期路線である東京−ソウル線を開設した。また、平成2年2月にはシンガポール線を開設する予定となっている。これらの結果、東京−ソウル線においては我が国航空会社3社による競争が実現しており、他の国際定期路線においても着実に我が国航空企業の複数社化が進展している〔2−6−3表〕。
貨物についても、日本貨物航空が61年より東京−香港等の路線、平成元年11月東京−バンコク−シンガポール線を開設し、複数社化が進められている。
(イ) 国内線のダブル・トリプルトラック化
国内線についてはダブル・トリプルトラック化の路線需要量の基準を、それぞれ、ダブルトラック化については年間需要70万人以上、ただし札幌、東京(羽田・成田)、名古屋、大阪、福岡、鹿児島及び那覇の各空港間を結ぶ路線にあっては年間需要30万人以上、トリプルトラック化については、年間需要100万人以上と定めている。
この基準に沿って61年以降、〔2−6−4表〕のように国内線において順次ダブル・トリプルトラック化を実施している。
このようなダブル・トリプルトラック化には、航空企業による新たな路線の展開、増便等が必要であるが、現在国内航空輸送需要の大部分が集中している東京国際空港及び大阪国際空港の空港処理能力は限界に達しつつある。このような状況を抜本的に改めるため、現在、東京国際空港の沖合展開及び関西国際空港の整備が進められている。このうち、東京国際空港の新A滑走路の供用が63年7月に開始されたことにより、東京国際空港発着の路線の新設・増便が可能となり、63年7月及び平成元年7月に同空港関係路線の拡充が図られた〔2−6−5表〕。
- (3) 競争促進施策の効果
- 複数社化ないしはダブル・トリプルトラック化された路線については、競争促進による需要の喚起や我が国企業経営の活性化が期待される。例えば63年7月に全日本空輸及び日本エアシステムが新たに参入し我が国航空会社3社による競争が行われている東京−ソウル線においては、複数社化される直前の6か月と複数社化後の同期の輸送実績を比較してみると、我が国航空企業全体の輸送実績は約71万人から約97万人へと36.9%の伸びを示した。また、我が国航空企業の積み取りシェアーも25.9%から28.6%へと高まり、複数社化による我が国航空企業の躍進がうかがえる。
国内線についても競争促進導入による需要の変化を見てみると、例えば63年7月にダブルトラック化された東京−広島線においては、ダブルトラック化前3年の年平均旅客輸送伸び率は9%であったが、ダブルトラック化後1年の輸送実績は対前年26.2%の伸びを見せた。これは同期間中の全国の航空利用旅客輸送実績の伸び(7.5%)をも大きく上回っている。
- (4) 中小航空企業の路線展開
- 我が国の中小航空企業は、地域住民の利便の確保のため、採算性の悪い路線を数多く運航しているが、そのなかでも地域住民の生活上必要不可欠な離島路線については、不採算であっても運航を維持することが強く求められている。このため、これらの中小航空企業については、経営の安定化と利用者利便の向上を図るため、経営基盤の強化に資するような路線展開を積極的に認めてきている。62年以降エアーニッポンについては、全日本空輸からの路線移管により福岡−小松線、東京−八丈島線、鹿児島−那覇線、大阪−高知線を開設し、また、それぞれ日本エアシステム、南西航空の一社体制であった福岡−鹿児島線、那覇−石垣線へ参入した。さらに南西航空については、沖縄から本土への路線である、那覇−松山線、那覇−岡山線及び東京−宮古線を開設した。また、従来不定期航空運送事業を行っていた日本エアコミューターについても、日本エアシステムからの路線移管により63年7月鹿児島−沖永良部線において定期航空運送事業を開始し、続いて鹿児島−与論線、鹿児島−屋久島線を開設した。
- 2 航空運賃問題への対応
- (1) 国内航空運賃問題
- 我が国航空企業の収支は、60年の日航機事故以来低迷を続けてきたが、62年度に入り需要の回復や原油安に支えられて好調に転じ、航空3社計の経常利益は539億円となった。しかしながら、この経常利益の水準は航空企業がかろうじて8分配当を行いうる水準に過ぎないこと(電力・ガス企業はともに安定的に1割配当)、売上高利益率3.8%であること(電力企業、7.9%、ガス企業、10.9%−63年度)等からみて他業種と比較して必ずしも高い水準にあるとは言えないものである。
国内航空運賃は、57年以降7年余りにわたり据え置かれているが〔2−6−6図〕、今後は三大プロジェクトの進捗等により巨額の設備投資がコスト増要因として考えられる。しかしながら、今後とも、安全かつ良質なサービスの確保に配慮しつつ、企業経営の効率化により可能な限り低廉な運賃設定をめざし、また、輸送力の活用と利用者のニーズに対応した割引制度の拡充・多様化を促進していくことが運賃政策上の課題である。
なお、元年4月1日からは通行税の廃止及び消費税の導入に伴い税込の旅客運賃について6.48%(離島路線にあっては4.58%)の値下げが行われた〔2−6−7表〕。
各路線ごとに見た場合には、例えば、北海道方面について、1キロメートル当たりの賃率が他の路線に比して相対的に割高になっている路線(特に東京−釧路、帯広、旭川、女満別)がある。これらの路線は、需要量が比較的少ないこと、季節波動が大きいこと等により、路線ごとの費用を勘案すれば本来的に割高となることはやむを得ない面もある。(ただし、前記道東4路線については、飛行経路の変更を行ったこともあり、これに伴うコスト減分の値下げ(1,000円)を62年12月に行ったところである。)今後とも、遠距離逓減を基本としつつ路線距離、使用機材、需要の動向等を勘案し、同じような態様の路線については同じようなレベルの運賃が設定されるような整合性のある運賃体系の形成を図っていくことが適当である。
- (2) 国際航空運賃問題
- 国際航空運賃は、固定相場制当時においては、基軸通貨であるドル又はポンド建てで設定されていた(各国発運賃は、ドル又はポンド建てで運賃に固定レートを乗じた額)。しかしながら、48年の変動相場制への移行に伴い同一路線における自国発運賃と相手国発運賃とを調整する基準がなくなり、それぞれ発地国通貨建て(例えば日本発は円建て、米国発はドル建て)で設定されることが国際的に採用されるに至った。これに伴い、同一路線におけるそれぞれの国発の運賃は、その後の各国の物価水準の変動等に応じて、それぞれ独立して改定され、現在に至っている。このような発地国通貨建て主義の下では、為替変動や運賃改定に伴い自国発運賃の額と相手国発運賃を実勢レートで自国通貨に換算した額との間に相対的に差異を生じること(いわゆる「方向別格差」)が不可避となり、特に、大幅かつ急激な為替変動がある場合には利用者間の不公平感が出るという問題が生ずるに至った。
(ア) 方向別格差是正に向けて
このような方向別格差が長期にわたって相当程度継続する場合には、利用者の不公平感をできる限り解消するため、その是正を図る必要がある。60年以降の円高の進行は、航空企業にとって、急速かつ大幅なものであり、このような円高に対応して運輸省は、日本発円建て運賃の値下げを強力に指導してきたところである。また、IATA(国際航空輸送協会)の場においても元年7月以降はSDRで各国通貨をモニターし、±3%を超える変動が20日間以上続いた場合には方向別格差の是正を勧告するとの決議が採択されるに至っている。
方向別格差の是正方法としては、我が国が主体的に方向別格差是正を行うという観点から、まず日本発運賃の値下げし主眼において是正指導を行っていくこととしている。
運輸省としては、このような考え方に基づき、63年9月13日関係航空会社に対し次のような指導を行い、強力に方向別格差の是正を進めているところである。
(a) 目標
- a) 太平洋線、欧州線及びオセアニア線については、普通往復運賃に係る方向別格差を原則として解消することを目標とする。
- b) 東南アジア線等a)以外の主要路線については、普通往復運賃に係る方向別格差指数(日本発運賃を100とした場合における相手国発運賃の割合)が当面70〜90程度の水準となるよう格差を縮小することを目標とし、その他の路線についても大幅な是正を図ることとする。
(b) 目標達成の時期
遅くとも平成元年度中に達成することを目途とする。
(イ) 方向別格差是正の実施状況
この結果、関係航空会社においては順次方向別格差是正のための日本発運賃の値下げを実施しており、元年11月1日現在では、日本発中間クラス普通往復運賃のレベルを100とした場合の相手国発中間クラス普通往復運賃のレベルは、太平洋線のロサンゼルスで104、欧州線のロンドンで95、オセアニア線のシドニーで103となる等着実に改善されてきている〔2−6−8表〕。
今後とも昭和63年9月の方針に従って方向別格差の一層の是正が図られるよう引き続き関係航空企業に対する指導を行っていくことが必要である。
- (3) 割引運賃の拡充
- 割引運賃については、利用者の不当な差別取扱い等の問題を生じない限り、各路線の特性に応じて各航空企業の創意工夫を活かしつつ弾力的に設定されることが適当であり、既に行政運営においても弾力的かつ迅速な対応を行っているところである。
このような考え方に沿って、国内航空運賃については、これまでも団体包括旅行割引、女性グループ割引、単身赴任者割引等の各種の割引運賃が導入されてきた。今後は、特に個人向けの割引運賃の拡充を図ることが適当であり、具体的には需要の季節波動に合わせた個人的割引運賃等の導入が検討課題として考えられる。
また、国際航空運賃に係る割引運賃については、我が国の海外旅行者の場合には従来団体客が中心であったことから、日本発の割引運賃は団体割引運賃が主体であったが、ビジネス客をはじめとする個人旅行者の増加等に対応する上で日本発運賃についても個人割引運賃の拡充を図っていくことが適当である。特に、このような個人割引運賃拡充は実質的に方向別格差の是正にも寄与し得るものである。
なお、割引運賃については、その適用について混乱を招かないよう一般の利用者にとって分かり易く、利用し易いものとすべきであり、このことが運賃に関する利用者の信頼感を維持するために不可欠の前提であると考えている。このため、航空企業から利用者への情報提供も十分に行うべきであり、さらに、その適用条件・割引率等については基本運賃との違いや各種割引運賃の間の関係について誤解が生じないよう適正な配慮が払われる必要がある。さらに、既存の割引運賃についても、このような観点から適宜見直しを行うことにより、基本運賃と割引運賃との関係を適切に調整していくことが必要と考えている。
- 3 航空の一層の活性化のために
- (1) 三大プロジェクト関連施設の整備
- 現在、我が国においては、航空輸送の抜本的拡充に対する国民の緊急の要望に応えるため、三大プロジェクトが同時並行的に進められているところである。その推進に当たっては、空港基幹施設の着実な整備のみならず完成後の三大空港が十分にその機能を発揮しうるよう格納庫、整備工場、貨物上屋等航空関連企業の施設が円滑に整備されることが不可欠である。
このような関連施設のために航空関連企業において今後数年間に巨額の設備投資が集中し、減価償却費負担、金利負担、賃貸料等の急増により、航空企業の収支構造は急速に悪化し、この結果、航空運賃の上昇等サービスも悪化がもたらされかねない。したがって、運輸省としても、航空企業がこのような今後の負担の増大及び収支構造の悪化に備えて積極的に経費の削減、財務体質の改善等に努め、三大プロジェクトの円滑な推進とその完成後における経営の安定及び航空輸送サービスの維持を図ることが利用者利便の確保の観点からも必要であると考えている。
- (2) 航空企業の経営体質強化のために
- (ア) 円高に伴う国際競争力の低下
- 我が国航空企業と米国系航空企業との間においては、業務効率化の側面では既に格差を生じているが、円高・ドル安の傾向が今後さらに進行する場合には、現在の我が国企業と外国企業との間における国際競争力(コスト競争力)の格差は一層拡大する。
- (イ) 空港制約の解消とその影響
- 新東京国際空港の概成や関西国際空港の開港は、我が国発着の国際航空輸送力を飛躍的に増大させることとなるが、これに伴う外国航空企業の輸送力の拡大は、我が国企業を外国企業との激しい競争下に置くこととなり、既に述べたような企業体質の格差を顕在化させるものと考えられる。
また、国内航空の分野においても、東京国際空港の沖合展開工事の完成や関西国際空港の開港は、我が国国内航空輸送について輸送力の制約を解消し、輸送力の大幅な拡大を可能とすることになるが、このことは、ダブルトラック化及びトリプルトラック化の一層の推進を促すとともに国内航空輸送分野において我が国航空企業間に激しい競争をもたらすこととなる。
- (ウ) 経営体質の強化の必要性
- 今後の航空事業を取り巻く経営環境について以上に述べたような認識に立つならば、我が国航空企業は国際輸送分野においては外国航空企業との厳しい競争下に置かれ、同時に国内輸送の分野においても、航空企業間の競争が激化することとなる。この結果、採算性の高い路線においても、座席利用率の低下等に起因して収益性の低下が生じることが予想され、その場合には、採算性の低い路線の維持が問題となるおそれもある。
以上のような状況下で経営の安定化を図っていくために、我が国航空企業全体を通じて一層の、あるいは根本的な経営体質の強化を図っていくことが不可欠である。また、このことによって、我が国航空交通ネットワークの維持・発展が図られ、将来における利用者利便の一層の向上のための基盤整備が図られることとなるものである。
このため、航空企業においては、安定の確保を基本としつつ、財務体質改善等によるコストの改善を図るとともに、関連事業の積極的な展開、創意工夫を凝らしたサービスの提供等を通じた需要の喚起を図ることにより、経営の効率化と活性化を積極的に進めていく必要がある。
- 4 伸びゆく国際航空
- (1) 我が国の国際航空政策
- (ア) 国際航空の枠組み及び航空交渉の基本目的
- 現在の国際航空の枠組みは、1944年に採択された国際民間航空条約(シカゴ条約)にその基礎を置いている。原則として、国際定期航空運送事業は二国間の航空協定に基づいて運営され、同協定において二国間に提供される航空輸送に関する路線、輸送力及び運賃等の原則等について規定されることとなっている。また、国際不定期航空運送業務は発着国政府の規制に基づいて実施されることとなっている。このような国際航空の枠組みの中で、世界各国は、いずれの国も利用者利便の向上という観点のほかに、自国企業の状況、地理的条件、観光政策との兼ね合い等といった要素を勘案して、自国の利益を確保するという観点から航空交渉を推進しているのが現状である。我が国としては、機会均等という航空協定の基本的原則に従って、輸送需要に適合した輸送力を確保することにより、我が国をめぐる国際的な人的交流及び物的流通の促進に向けて努力することを航空交渉の基本的目標としている。
- (イ) 国際線複数社体制
- 61年6月の運輸政策審議会答申を踏まえ、我が国航空企業による国際線の複数社体制を推進しているところであり、平成元年には、全日本空輸が4月にストックホルム(スウェーデン)に、7月にバンコク(タイ)、ウィーン(オーストリア)、ロンドン(英国)及びモスクワ(ソ連)に新たに相次いで乗り入れを開始した。〔2−6−3表〕。このうち、ストックホルム線についてはスカンジナビア航空との、ウィーン線についてはオーストリア航空及びアエロフロートとの共同運航により運航されている。また、元年5月の日・シンガポール航空当局間協議においては日本エアシステム及び全日本空輸がシンガポールに乗入れを、元年9月の日韓航空当局間協議においては日本貨物航空が韓国に乗入れを、また、元年11月の日仏航空当局間協議においては全日本空輸がパリに乗入れを、それぞれ平成2年より開始するための輸送力枠が確保された。今後とも諸外国との航空交渉において、本邦企業全体としての国際競争力の確保に配慮するとともに、相手国との間で航空政策の調整を行いながら、我が国の複数の企業による国際航空路線の運営を可能とする枠組みの形成を図っていく必要がある。
- (2) 我が国をめぐる国際航空の最近の動き
- (ア) 航空交渉と航空協定新規締結
- 近年の国際航空の急激な発展にともない、各国との航空交渉も増加し、過去一年間(63年9月〜元年8月)に、我が国と航空協定を既に締結している国37か国のうち22か国との間で、23回にわたり協議が行われた。これらの協議において、我が国航空企業による国際線の複数社体制の推進、新規地点の追加、増便取り決め等航空関係の充実を中心として、利用者利便の向上に向けて航空交渉が推進された。
また、我が国の航空市場としての価値の高さから、我が国との航空協定締結を希望する国は多数あり、元年には、新たにオーストリア及びトルコとの間でそれぞれ航空協定が締結された。航空協定の新規締結は昭和59年の日・スリランカ航空協定以来5年ぶりのことである。このうち、オーストリアについては、航空協定締結の予備的協議が62年8月より4回にわたり行われ、63年11月には航空協定締結交渉が開催され、協定本文等につき基本的な合意がなされ、協定署名(元年3月)、国会承認を経て7月に発効し、同月、日墺間の直行路線が全日本空輸、オーストリア航空及びアエロフロートの共同運航により開設された。また、トルコについては、62年11月に需要等に関する現地調査が、また、63年6月に航空協定締結の予備的協議が行われ、これらを受けて同年10月に航空協定締結交渉が開催され、協定本文等につき基本的な合意がなされ、協定署名(元年3月)、国会承認を経て7月に発効し、8月に日土間の直行路線がトルコ航空により開設された。これらにより、元年10月現在で、航空協定既締結国は39か国、航空協定締結の申し入れを我が国に行っている国は39か国となっている。
- (イ) 日米航空交渉の推進
- 日米間においては、航空権益の総合的均衡を図るべく今日まで30年余りにわたり航空協議が重ねられている。
これまでにも、60年4月の暫定合意(外交文書の署名・交換は同年5月)により、新規企業である全日本空輸及び日本貨物航空の日米間乗入れ等が実現するなど、両国の航空権益の均衡化が図られてきていたが、本年11月に東京で開催された日米航空交渉においては、旅客便については、日米双方それぞれ6本の主要路線(うち3路線は東京、大阪以外の地点に限定)の開設、また、貨物専用便については、日本航空及び日本貨物航空のシカゴ乗入れ、米国企業の日本への新規乗入れ(1路線)など昭和27年の日米航空協定締結以来最大規模の合意が成立した。今回の合意は、近年における日米間の航空輸送需要の急激な増加に適切に応えるものであり、日米両国関係の一層の緊密化に貢献するものである。また、現在東京及び大阪両空港の受入れ能力が限界に近づいているため、地方空港から直接米国に結ぶ路線を多く開設することが可能となり、地方空港の国際化が促進されることとなった。
なお、路線権益の不均衡など、日米間には依然として是正すべき点が残されているが、これについては、今回の合意においても、61年9月に再開された包括的協定改定交渉を今後とも継続していくことを確認しているところであり、双方の航空権益の総合的均衡に向けて交渉を推進していく必要がある。
- (ウ) 外国航空企業の路線展開
- 元年に入ってからの新規路線の開設はめまぐるしく、新たにヴァージン・アトランティック航空(英国)、オーストリア航空及びトルコ航空がそれぞれ日本乗入れを入れを開始したほか、多数の新規路線が開設されている。また、8月にはフィラデル・エクスプレス(米国)がフライング・タイガー航空(FT)と合併しFTが運航していた路線を承継して運航を開始している〔2−6−9表〕。
- (3) 地方空港の国際化
- 地域社会の国際化を図るとともに、我が国の基幹的な国際空港である成田、大阪空港の容量制約を緩和するため、需要等に応じて地方空港の国際化を推進している。元年には、名古屋、福岡、新千歳の各空港において新たに路線が開設されている〔2−6−9表〕。また、地方空港国際化の一環として、国際化を進める上で必要な需要の掘り起こしを図るため、モデル・プログラム・チャーター等により、地方空港発着の国際チャーター便の運航を促進している。
- 5 地域航空システムの現状と整備方策
- (1) 地域航空システムをめぐる動き
- 我が国の航空輸送は、大型機材による全国規模での定期輸送を中心として発展してきたが、近年、所得水準の上昇等による高速性志向の一層の高まり、小型航空機材の性能の向上等の諸情勢の変化を背景として、小型航空機による定期的旅客輸送(いわゆるコミューター航空)を導入しようという気運が高まっており、また、防災、緊急輸送、VIP輸送等の多様な分野で積極的に小型航空機の利用を図る動きも広がってきている。
小型機による旅客輸送としては、63年度においては、離島航空路線を中心に8社30路線が運航されており、同年度の輸送実績は合計で約34万人となっている。
コミューター航空は輸送量が小規模であること、小型航空機輸送であるため輸送コストが相対的に高いこと等の理由により、その採算性に問題がある。このため、現在運航されている路線の多くは、関係の地方公共団体等により出資、運航補助、着陸料の減免等の経営の支援がなされている状況にある。
地域航空をめぐる新しい動きとして、62年4月29日に我が国初の本格的都市間コミューター航空として大分−広島−松山間の路線の運航が開始された。また、ヘリコプターを利用したコミューター航空(いわゆるヘリ・コミューター航空)については、63年6月20日に東京国際(羽田)−新東京国際(成田)両空港間において我が国初の本格的な運航が開始され、平成元年3月25日からは横浜まで運航区間が拡大された。
- (2) 地域航空システムの今後のあり方
- (ア) 地域航空システムに対する基本的認識
- また、コミューター航空をはじめとする地域航空については、昭和62年6月に閣議決定された第四次全国総合開発計画においても、高速交通体系の一環として重要な位置付けがなされている。
地域航空の整備は、それぞれの地域の特性に応じた航空輸送について、地域が自ら工夫し、検討していくことが必要であるが、全国航空ネットワークを補完する機能を通じて航空輸送需要の拡大に資するとともに、国民生活の発展に寄与するものであることから、運輸省としてもその整備に取り組んできたところであり、今後とも各般の施策を推進していくこととしている。
- (イ) 地域航空システムの整備に対する具体的取組
- (航空審議会における検討)
地域航空の整備に関し、学識経験者等に幅広く意見を聞くため、62年4月、航空審議会に「地域航空輸送問題小委員会」を設置し、以下のとおり検討結果がとりまとめられた。
(a) 各関係主体の役割
コミューター航空は、全国航空ネットワークの形成及び離島におけるシビルミニマムの確保という国の責務の範囲というよりは、むしろ第一義的には地域の責務としての地域交通体系に含まれるものとしてとらえることができる。国は、地域における関係者の創意工夫を前提として、一定の支援を行うことが必要である。
(b) 飛行場の整備
地方公共団体が主体となって整備し、国は、財政上の支援を行うことが適当である。
(c) コミューター航空事業
事業者の創意工夫による経営改善、需要喚起のための努力を基本としつつ、地域における関係者による支援措置が講じられることが必要である。国はコミューター航空事業者に対する金融上、税制上の支援を行うことが適当である。
(d) 航空保安対策
コミューター空港及びヘリポートにおいては、地方公共団体が主体となって、航空灯火、航空気象観測施設及び航空保安無線施設等の整備を行うことが適当である。国は、地方公共団体による施設整備に対する一定の財政上の支援等を行うことが適当である。
(e) 二大都市圏における地域航空の受入対策
- (@)東京圏における固定翼機によるコミューター航空の受入れについては調布飛行場を当面活用することが考えられる。
ヘリコプターによるコミューター航空の受入れについては羽田、成田両空港とも一定程度の受入れが可能であり、さらに東京ヘリポート等の有効活用、都心における公共用ヘリポートの整備を図る。
- (A)大阪圏における固定翼機によるコミューター航空の受入れについては、大阪国際空港(伊丹)では一定程度の受入れが可能であり、さらに八尾空港の有効活用、都心における公共用ヘリポートの整備を図る。
(f) 操縦士の確保
コミューター航空の操縦士を確保するため、コミューター航空事業者においては、一層の経営改善努力を行い事業採算性を高めるとともに、国においては、自衛隊退職者等の就業促進のための条件整備等を行う。
(g) 規制の合理化
航空機の運航の安全性を確保するための規制が、地域航空の特性に適応したものとなっていない面があることから地域航空に係る諸規制の合理化を行う。
(具体的施策の展開)
以上の検討結果を踏まえ、運輸省は、地方公共団体が設置する公共用へリポート、コミューター空港の整備に対する無利子貸付制度と、民間事業者が整備するヘリポート及びコミューター空港の整備並びにコミューター事業者の事業に必要な施設の整備に対する財政投資制度の創設を行った。また、地域航空整備のための具体的方策に関する事例研究的調査や、ヘリポートの設置規制、機材規制等の事項についての規制の合理化を進めている。

平成元年度

目次