平成元年度 運輸白書

第7章 観光レクリエーンョンの振興

第7章 観光レクリエーンョンの振興


この章のポイント

○ 外国人訪日旅行の促進と国内観光の振興を図るため「90年代観光振興行動計画(TAP90's)を推進する。
○ 国民の海外旅行を促進するため「海外旅行倍増計画(テン・ミリオン計画)」を推進する。
○ 海洋性レクリエーションに対する国民の関心・要請の高まりに対応するため、「Marine'99(マリン・ナインティ・ナイン)計画」を推進する。また、近年外航客船旅行者数が確実に増加している状況に鑑み、安全運航確保等の振興策の検討を進める必要がある。


 近年、国民の自由時間の増大や自由時間活動への関心の高まり等を反映し、観光レクリエーションについてもそのニーズは質的に高度化・多様化しつつある。
 運輸省は、このような国民の観光レクリエーション活動の動向に対応し、昭和62年9月に、日本人海外旅行の促進を図るための「海外旅行倍増計画(テン・ミリオン計画)」を、また、63年4月には、外国人訪日旅行の促進と国内観光の振興を図るための「90年代観光振興行動計画(TAP90's)」をそれぞれ策定し、観光レクリエーション活動の促進を図るための施策を統合的、計画的に推進している。また、63年7月には、「Marine'99計画」を策定し、海洋性レクリエーション活動の進行を図るための施策を推進している。

第1節 観光の振興


(1) 90年代観光振興行動計画(TAP90's)等の推進
(ア) 観光立県推進会議の開催
 第1回観光立県推進地方会議が4月13日から15日まで熊本・長崎両県において、第2回観光立県推進地方会議が6月26日及び27日の両日宮城・山形両県において開催された。これらの地方会議では、それぞれの地域の観光振興方策について活発な審議が行われ、その結果が報告書として取りまとめられた。
 なお、これらの地方会議に関連して地元及び中央会議メンバー各社が一体となった全国的規模のキャンペーンが行われた。
(イ) 新たな観光地作り
(a) リゾート地域の整備
 ゆとりある国民生活の実現、地域の活性化等のため、「総合保養 地域整備法(いわゆるリゾート法)」では、国民が余暇を利用して滞在しつつスポーツ、レクリエーンョン、教養文化活動等の多様な活動を行うことができるリゾート地域を民間活力の活用に重点を置きつつ整備することとしている。
 同法により、平成元年11月末までにリゾート地域の整備に係る17道府県の基本構想が承認されている。
 運輸省としても、周辺の既存観光地との調和やその積極的活用により、魅力あるリゾート地域の整備が図られるよう、積極的に支援していくこととしている。
(b) 家族旅行村の整備〔2−7−1図〕
 家族旅行村は、国民の観光レクリエーション需要に対応して、家族が恵まれた自然の中で手軽に観光レクリエーション活動ができるようキャンプ場、ピクニック緑地、スポーツレクリエーンョン施設、簡易宿泊施設等を整備するもので、現在、29地区において供用が開始され、12地区において整備が行われている〔2−7−2図〕
(ウ) 外国人訪日促進施策の推進
(a) 国際観光モデル地区の整備
 国際観光モデル地区構想は、優れた観光資源を有する観光地のうち、外客受入体制の整備に熱心な地域を国際観光モデル地区として指定し、安心して一人歩きできる環境をつくり、同地域への外客の来訪を促進し、地方の国際化、国際的相互理解の増進等に寄与しようというものである。
 現在34道県36地区が国際観光モデル地区に指定され〔2−7−3図〕、同地区においては、地方公共団体等が中心となって整備実施計画を策定し、この計画に基づき、国際観光振興会と連携して「i」案内所、総合案内板、各種標識等の整備、パンフレットの充実、善意通訳、ホーム・ビジットの普及等外客受入体制の整備を推進している。
 この結果、指定された36地区においては、例えば「i」案内所は、指定前の29カ所から平成元年4月には67カ所に、総合案内板は同じく288カ所から662カ所に、善意通訳者は同じく5,485人から11,597人にそれぞれ増加した。
 また、国際観光モデル地区相互間の連携を密にしつつその整備の円滑な推進を図ることを目的として「国際観光モデル地区推進協議会」が組織されており、同協議会において、外客向け観光ルートの整備、カルチャー・カード(外客の日本国内における旅行をより充実した魅力あるものとするため、美術館、城郭等の観光施設、宿泊施設等の料金が割引になるカード)の導入、交通機関の運賃割引制度の活用に関する各種検討委員会を設け、検討を進めた。
(b) 国際交流村の整備
 国際交流村は、国際観光モデル地区における外客誘致の拠点として、外客に対する地域の自然、文化、歴史等の紹介や外客の伝統的生活文化体験のための施設、イベントを通じた外客と地域住民の交流の場となる施設等を一体的に整備するものである。
 これは、地方における国際観光振興と国際交流の促進を図ることを目的として、昭和63年度より事業が開始されたもので、現在5地区において整備が行われている〔2−7−3図〕
(c) 国際市民交流基盤施設の整備
 市民レベルにおける国際化の促進に資する交流拠点の形成を図るため、民活法は「国際市民交流基盤施設」(注)を規定しており、運輸省においては、同施設の整備を行う民間事業者に対して金融、税制に支援措置を講じることとしている。
(d) 登録ホテル・旅館等の整備
 訪日外国人の利便の増進等による国際観光の振興の観点から、国際観光ホテル整備法に基づき、施設・設備の優れたホテル・旅館を登録するとともに、国際観光レストラン登録規程に基づき、外国人旅行者が容易にかつ快適に食事ができる優秀なレストランを登録することにより、外客接遇の充実を図っており、運輸省としては、登録を受けたホテル・旅館等について税制等の支援措置を講ずることとしている。これにより、平成元年11月末現在、594軒のホテル、1,624軒の旅館及び145軒のレストランが登録されている。

(注) 「国際市民交流基盤施設とは、我が国又は外国の経済・社会・技術等を効果的に紹介するための一群の施設のことであり、以下の施設を一定のエリア内に整備するもののことである。
1) 展示施設(ex.歴史博物館、観光情報インフォメーションセンター等)
2) 展示物として供される建物又は構築物(ex.城の再現、外国の街並みの再現等)
3) 観覧場その他の共同利用施設(ex.イベントスペース、総合案内場等)

(e) 外客誘致活動の充実
 (特)国際観光振興会は、世界主要都市に配置された海外観光宣伝事務所を通じて広報活動、旅行見本市等への参加事業を実施するとともに、訪日旅行を促進するため、外客の関心の高い国際観光モデル地区、円高対策等の特別PRを実施している。
 また、訪日観光客の経済的負担の軽減と利便の向上のため、各種観光施設等の割引が可能となるカルチャー・カード導入モデルシステム開発調査を実施する等外客誘致活動の充実を図っている。
(エ) コンベンションの振興
(a) 国際コンベンション・シティ構想の推進等
 国際及び国内の各種会議、見本市・展示会などのコンベンションの振興は、地域へ人とともに物、情報、文化等を呼び込むことを通じて、人的交流等による国際相互理解の増進、地域経済の活性化及び地方都市の国際化等に大きく寄与するものであることから、近年、多くの地方都市がその振興に熱心に取り組んでいる。
 このような状況に対応して、地域におけるコンベンション振興に対する取組みを支援し、我が国全体のコンベンション振興を図るため、国際コンベンション・シティ構想に基づき、昭和63年4月及び12月に全国の25都市を国際コンベンション・シティとして指定〔2−7−4図〕し、海外宣伝、人材育成、ノウハウ及び情報の提供等に係る支援措置を講じている。
 また、地域においてコンベンションの誘致・受入れ、主催者に対する支援等の活動を行う中核的推進機関である地方コンベンションビューローの設立等に対する支援を通じて、地域における振興体制の整備を推進している。これまで運輸省の支援のもとに、仙台、福岡、横浜、宮崎、岐阜、浜松及び千葉で財団法人としてコンベンションビューローが設立された。
(b) 国際会議場施設の整備
 国際会議の開催は、国際相互理解の増進等に寄与するものであるため、運輸省においては、民活法に基づき、国際会議場施設の整備を行う民間事業者に対して、金融、税制の支援措置を講じることとしている。同法に基づき、平成元年2月には富山県の宇奈月国際会館に係る整備計画の認定を行うとともに、昨年度に引き続き、横浜港みなとみらい21計画の国際会議場施設の整備を推進している。
(オ) 旅行者保護施策
 旅行業法においては、消費者保護の見地から、旅行業者を登録制とし、営業保証金の供託、取引準則の遵守等を義務付けているところであり、運輸省では、旅行業者に対する旅行業法遵守状況の総点検を行うほか、(社)日本旅行業協会や(社)全国旅行業協会とも協力して、旅行者に対する登録業者利用励行の呼び掛け、営業保証金の周知等を行っている。
 さらに、近年の海外旅行の増加に伴い、旅行者が事故等に遭遇するケースも増大していることから、旅行業者に対し、旅行者への安全情報の提供及び保険加入促進並びに緊急時における連絡体制の充実を図るよう指導している。また、平成元年7月1日以降に出発する海外主催旅行に係る死亡補償金・後遺障害補償金の額を引き上げるよう指導し(最高額1,500万円→2,000万円)、旅行者の安全対策の一層の充実を図っている。
(2) 海外旅行倍増計画(テン・ミリオン計画)の推進
 (計画の策定及び見直し)
 日本人の海外旅行の促進を図ることは、国際相互理解の増進に役立つだけでなく受入れ国においては、雇用機会の増大や観光関連産業の発展等による経済振興及び外貨獲得に資するとともに、我が国及び相手国の国際収支のバランス改善にも寄与するものであることから、今後、相互依存関係の深まる国際社会において我が国の安定的な存立を確保するために極めて重要になってきている。このため、運輸省は、昭和62年9月、「海外旅行倍増計画(テン・ミリオン計画)を策定し、海外旅行促進キャンペーン等の実施、海外における日本人観光客の受入れ環境の改善、海外旅行者安全対策等の施策を官民が密接に連携を取りつつ、総合的、計画的に推進していくこととした。さらに63年7月には各方面からの提言等を取り入れつつ日本人の海外での安全対策や長期連続休暇取得運動の充実を図るため所要の改正を行い、国民の海外旅行を促進するための施策を強力に推進している。
 本計画の実現に向けての活動とともに、近年は円高に伴う海外旅行の割安感の浸透もあって、62年の日本人海外旅行者数は対前年比23.8%増の683万人に、63年は同23.4%増の843万人に達した。
 (計画の具体的実施状況)
(ア) 海外における日本人観光客の受け入れ環境の改善
 諸外国の観光開発・振興に対する経済・技術協力の充実・強化を図り、観光関係従業員の交流等を推進している。また、日本人観光客受け入れの促進策や阻害要因の改善策等について意見交換を行うため、官民合同の日本人海外旅行促進ミッションを平成元年度においてはニュー・ジーランドへ派遣した。
(イ) 海外旅行促進の環境整備
 平成元年4月から、所得税を課さないこととされている企業の従業員福祉旅行の旅行期間要件が2泊3日以内から3泊4日以内に緩和されたが、さらに海外からのお土産品の免税枠引き上げ等海外旅行促進のための税制上の措置を検討している。海外観光情報の充実を図り、開発途上国の観光宣伝活動を支援するため、民間企業に参加を呼びかけ「善意観光宣伝事務所制度」を推進し、観光宣伝コーナーの設置、観光展の開催等を行っている。また、東南アジア諸国連合貿易投資観光促進センター(アセアン・センター)では、我が国における観光宣伝活動の一環として、アジア太平洋博覧会(福岡'89)等に参加した。
(ウ) 海外旅行者安全対策等の検討
 運輸省において「日本人海外旅行安全等対策研究会」を開催し、旅行者への安全情報の提供、事故時の連絡体制の充実に関する旅行業者に対する指導の徹底、学校旅行総合保険の新設、任意保険への加入促進等を検討、実施してきているが、元年7月1日以降に出発する海外主催旅行に係る死亡補償金・後遺障害補償金の額を引き上げるよう指導し(最高額1,500万円→2,000万円)、旅行者の安全対策の一層の充実を図っている。
 さらに、国際観光振興会を通じ日本人海外旅行者に対する旅行の安全に関する情報の提供と各種の相談・案内業務を行っている。
(エ) 海外旅行促進フォーラムの活動
 運輸省の推進する「海外旅行倍増計画」を民間レベルで推進する母体である海外旅行促進フォーラムは、63年7月に「日本人海外旅行の促進についての要望」をまとめ、旅券発給、CIQ手続きの迅速化、査証の相互免除の推進、休暇の平準化、長期連続休暇の取得推進等について関係省庁へ要請し、本計画の実施、見直しに反映させた。また、相手国が日本人観光客をより多く受入れるために必要となる方策として「方面別観光振興策(提言)」を主要国(地域)別に取りまとめた。
 フォーラムには、2つの委員会と4つの懇談会が設置されているが、このうち観光投資委員会では、ホリディ・ビレッジ構想の推進等、地方空港国際化問題懇談会ではモデル・プログラム・チャーターの実施等による地方空港の国際化、客船旅行懇談会では最近脚光を浴びてきた外航客船旅行の促進等について活発な意見交換が行われ、施策に着実に反映させている。



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