平成元年度 運輸白書

第8章 国際協力の拡充
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第8章 国際協力の拡充 |
この章のポイント
◯ 運輸関係国際協力は、開発途上国の経済発展にとって極めて重要であることに鑑み、鉄道、港湾、空港等の輸送基盤整備はもとより、観光、輸送安全等開発途上国における多様な協力ニーズにも積極的に対応していくこととしている。
◯ 科学技術協力分野における国際協力が重要視されてきており、運輸省においても運輸分野における国際科学技術協力を推進している。
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第1節 国際社会への貢献 |
1 運輸分野経済協力の動向
2 多様化する経済協力要請への対応
3 効果的な運輸分野経済協力の推進
4 重要性が増大するアジア地域に対する協力
5 気象に係る国際協力
- 1 運輸分野経済協力の動向
- 鉄道、港湾、空港等は、物流、人流の要として開発途上国の経済発展の上で欠くことのできないものであり、このため、我が国の有償資金協力においても、運輸関係分野はプロジェクト借款の約2割という大きな割合を占めている〔2−8−1図〕。また、開発途上国のプロジェクトに対して実現可能性を検討するための調査(フィージビリティ・スタディ)又は基本計画を検討するための調査(マスタープラン)の作成を行う開発調査についても、運輸分野に関する協力要請は多く、全開発調査案件の約2割を占めている。
加えて、最近は、新たに施設を整備するだけでなく、既存施設の近代化、効率化等に対する協力や施設の管理・運営等ソフト面での協力要請も多くなり、また、観光や気象等協力分野も多様化している。
我が国の国際的地位の向上と影響力の増大に伴い、国際社会に対し積極的貢献を行うことは、我が国の果たすべき重要な責務となっている。
我が国に対しては運輸分野においても、より多く、より質の高い協力が要請されており、今後も開発途上国に対する協力を一層推進していくことが必要である。
(1) 資金協力〔2−8−2図〕
63年度は、中国の青島港拡充計画及び大同・秦皇島間鉄道建設計画、インドの観光基盤整備計画、パプア・ニューギニアのポートモレスビー国際空港整備事業等17件に対し総額977億円に及ぶ円借款の交換公文が締結された。また、無償資金協力としては、スリ・ランカの自動車整備工訓練センター建設計画、ネパールの輸送力増強計画、西サモアのアピア港整備計画等13件に対し総額93億円の供与の交換公文が締結された。
(2) 技術協力〔2−8−3図〕
63年度は、中国の天津市快速鉄道建設計画、ウルグアイのカラスコ国際空港整備計画、インドのニューマンガロール港改良計画等63年度において新たに着手したものを含め合計41件について国際協力事業団を通じてフィージビリティ・スタディの実施、マスタープランの作成等の開発調査を行った。
また、同事業団を通じ、32の国及び国際機関に対し長期132名、短期153名の専門家を派遣し、68の国及び地域から331名の研修員を受け入れるとともに、開発途上国の人材育成に寄与するため、アルゼンティンの国鉄中央研修センター等6件のプロジェクト方式技術協力(注)を実施した。
さらに、同事業団を通じ、63年度はインドネシアに対し鉄道車両の検修技術指導のための専門家チームを、フィリピンに対しバスの保守・管理技術指導のための専門家チームをそれぞれ派遣して、既に我が国の経済協力等により供与された鉄道車両やバスの維持・保守について現場指導を行いつつ技術移転を図る、いわゆるリハビリテーション協力を実施している。リハビリテーション協力は開発途上国に対する援助の効果的な実施に寄与するものであり、我が国の経済協力の質的向上を図るため積極的に推進していく必要がある。
また、我が国の港湾開発に関する基本政策とそのしくみを学ぶための国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)主催の港湾開発政策セミナーが、コンテナ化をテーマに、運輸省の全面的な支援の下に、平成元年10月、横浜及びぺナン(マレイシア)で開催され、7か国から13名が参加し、活発な議論がかわされた。
注) 国際協力事業団が実施している技術協力の専門家派遣、研修員受入れ、機材供与という3つの形態をひとつのプロジェクトとして総合し、一貫して計画的、かつ、総合的に運営、実施する協力形態で、日本政府と開発途上国政府との共同事業として実施される。
運輸部門では、鉄道学園、航海訓練センター、港湾水理センター等の事業がある。
- 2 多様化する経済協力要請への対応
- (1) 国際観光開発総合支援構想(ホリディ・ビレッジ構想)の推進等
- 近年、開発途上国においては、外貨獲得、雇用の増大等の観点から、国際的な観光地(観光拠点)の整備に対する熱意が高まっており、中でも、63年に843万人に達し、近く1000万人を数えるものと予想される我が国からの海外旅行者の受入れに大きな期待を寄せている。
しかしながら開発途上国においては、インフラストラクチャーの未整備、ノウ・ハウの不足、民間資金の不足等が観光開発のネックになっていることが多く、また、無秩序な観光開発に対する不安も生じつつある。
このような背景を踏まえて、運輸省は平成元年に国際観光開発総合支援構想を策定し、開発途上国における観光開発を積極的に推進していくこととした。
この構想は、開発途上国における国際的な観光地の計画的整備を支援するため、国際協力事業団による開発調査、海外経済協力基金による観光関連インフラストラクチャーの整備に対する資金協力、ホテル、レクリエーション施設等いわゆるスーパーストラクチャーの整備に対する民間の資金及びノウ・ハウの活用等を組み合わせて総合的な協力を行おうとするものである。平成元年度においては、この構想の推進のため、(財)国際観光開発研究センターを通じて、メキシコ、フィリピン等へ調査団を派遣する等の措置を講じた。
また、運輸省は、平成元年10月6日の国際協力の日(注)に際し、フィリピン、マレイシア、メキシコ、フィジーから観光分野の要人を招へいし、「観光と国際協力」をテーマとして「運輸経済協力シンポジウム」を実施し、観光振興に対する各国の取り組み状況や我が国からの観光協力についての考え方等について活発な意見交換を行った。
注) 国際協力の重要性について国民的理解を得るため、我が国が初めてコロンボプランへの参加を決定した10月6日を「国際協力の日」とすることが62年9月に閣議了解され、関係機関が各種記念行事を行うことにより、国際協力に対する啓蒙を図っていくこととしている。
- (2) 輸送安全対策協力
- 最近、開発途上国において鉄道、海運等輸送機関に係る大事故が相次いでいるが、輸送の安全性の確保は、開発途上国の経済社会の発展に重要であるばかりでなく、人命の保護という緊急の課題であることから、ハード・ソフト両面にわたる安全性の向上策を早急に講ずる必要がある。
我が国は、過去において輸送機関に係る事故の苦い経験を踏まえて輸送安全対策を講じてきている。運輸省はこれらの知見・経験を踏まえて、開発途上国のニーズに対応しつつ、輸送の安全性の向上を図るための協力を積極的に行っていくこととし、元年度は鉄道、海運、航空の3分野について、フィリピン、インドネシア等において、開発途上国に対し輸送機関の安全性の向上に関する提言を行うための調査を行っている。
- 3 効果的な運輸分野経済協力の推進
- (1) 開発途上国のニーズに見合った経済協力の推進
- 開発途上国側のニーズに見合った経済協力を実施するためには、開発途上国における運輸分野の現状を把握するとともに、積極的に優良プロジェクトの発掘を行うことが必要である。また、開発途上国によっては、その国が抱えている運輸分野の問題点を認識しながらも、的確に協力案件に結びつけられないでいる場合があり、プロジェクトの形成促進を図っていく必要がある。このため、運輸省では開発途上国における運輸分野の現状及び課題等を把握するための調査を実施するとともに、民間が行うプロジェクト発掘を積極的に支援している。
また、相手国の実情及び我が国との二国間関係を十分踏まえて、協力を効果的かつ円滑に推進するため、運輸省では、開発途上国から要入の招へい、各種セミナー・シンポジウムの開催を通じて意見交換、情報収集を積極的に推進している。
- (2) フォローアップの実施
- 効果的・効率的な経済協力を実施するためには、協力実施後に効果の分析、問題点の抽出等の評価を行い、今後の協力の実施に役立てることが重要である。このような観点から、運輸省では59年度から、我が国が実施した運輸分野の協力プロジェクトについての評価を行っている。
63年度は、タイとスリ・ランカにおいて港湾分野について、また、元年度はフィリピンとタイにおいて航空分野についてそれぞれ評価を行っている。
- 4 重要性が増大するアジア地域に対する協力
- 運輸分野における経済協力は、我が国と経済的、歴史的に結びつきが深いアジア地域に対するものが多くなっている。特に、近年、目覚ましい経済発展を遂げつつあり、運輸基盤の整備が必要不可欠となっているASEAN諸国及び広大な国土と人口を有し、経済協力に関するポテンシャルの高いインドが今後ますます重要となるものと思われる。
(1) ASEAN諸国〔2−8−4図〕
ASEAN諸国においては、域内諸国の急速な経済発展、工業化等により、国際貨物輸送及び国際旅客輸送が世界の他地域に比し大きな伸びを示している。また、工業生産の拠点が域内諸国の経済発展及び為替レートの変更等により先進工業諸国からASEAN諸国に対し分散、展開してきているため、物流のパターンに、大きな変化が生じつつある。ASEAN諸国における急速な経済成長は今後とも持続するものと予想され、この経済成長を支え、促進するため、ASEAN諸国においては港湾、空港等輸送インフラストラクチャーの適切な整備が急務となっている。
他方、我が国は、63年度にASEAN諸国に対して、運輸分野の有償資金協力の約1/4を供与しているとともに、142名の専門家を派遣(運輸分野の約5割)する等運輸分野経済協力の重要な対象地域となっている。今後、ASEAN諸国における輸送インフラストラクチャー整備について我が国経済協力に対する要請は、ますます高まることが予想され、運輸省としては、近隣国であり、経済的関係も深いASEAN諸国の経済発展に貢献するため、積極的に協力要請に応えていくこととしている。
(2) インド
インドに対する運輸分野における協力は、従来円借款を中心に行われてきたが、61年度に鉄道近代化計画を対象とした開発調査の要請がなされて以来、技術協力についても積極的な協力関係が維持されており、資金・技術両面での協力が、より一層緊密化している。開発調査については、平成元年度には、ニューデリー駅近代化計画調査、カルカッタ・ハルディア港開発計画調査及びニューマンガロール港整備計画調査が63年度に引き続き実施されている。また、資金協力については、開発調査で技術協力を行った鉄道車両工場近代化事業に対する円借款が供与されることとなっている。
特に、鉄道分野については、63年12月にシンディア鉄道大臣が訪日したのを契機に日印鉄道実務者協議を定期的に実施することが合意されている。
- 5 気象に係る国際協力
- 大気に国境はなく、的確な情報提供による災害防止を主目的とする気象業務の遂行においては、気象観測データの相互国際交換に代表される種々の国際協力が不可欠である。我が国は世界の気象業務の調和的発展を目的とした国際協力活動を推進している世界気象機関(WMO)(155カ国、5領域より構成)の中心的な構成員として、その事業活動への積極的な参加・協力により、国際的な貢献を果たすこととしており、静止気象衛星の打ち上げ・運用、情報提供などを通じてアジア地域の気象情報サービスの要としての役割を担うとともに、WMOの全世界的な気象観測・通信網整備の推進、観測技術基準の統一、予報のための技術開発の推進、気候変動の解明に向けた観測・研究の実施等を行っている。
これら活動の一環として、平成元年から気象庁は、WMOが国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)と合同で運営している台風委員会の提唱に沿って、東南アジア各国への台風の追跡・解析・予報情報の提供を行う「太平洋台風センター」の運用を開始している。同センターの運用を含む台風委員会の活動は、自然災害防止のための活動を国際的に推進することを目的に1990年から開始される国連の「国際防災の10年」の課題のひとつである台風災害の防止・軽減のための国際活動の推進に多大の貢献をもたらすものと期待されている。
また、人為的要因による気候変動問題に対処するためにWMOと国連環境計画(UNEP)の両機関が設置した「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)に対し、気候変動予測等の科学的知見の取りまとめを所掌する作業委員会に気候予測モデルによる研究成果を中心に参加し、同パネルの活動への協力を行っている。
さらに、太平洋沿岸諸国間の津波データの即時的な交換を所掌している太平洋津波警報組織、海水温・海流等の海洋環境のリアルタイムベースでの交換を行う全世界海洋情報サービスシステム(IGOSS)等に代表されるユネスコ政府間海洋学委員会の活動にも積極的に参加している。
このほか、WMOや国際協力事業団と協力してアジア・中南米・アフリカ地域各国の気象機関を対象に、集団研修や個別研修のための研修員の受け入れや専門家の派遣による技術指導等を行い、これら各国の気象技術の資質向上や気象施設整備のための技術協力の推進にあたっている他、アメリカ、中国、オーストラリア等との研究者・専門家の交流促進にも力を入れている。

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