平成元年度 運輸白書

第9章 安全対策、環境対策、技術開発等の推進

第9章 安全対策、環境対策、技術開発等の推進


この章のポイント

◯ 運輸省は、運輸行政の基本である交通安全の確保のため、交通安全業務計画を定め、陸・海・空のすべての分野においてこれを積極的に推進している。
◯ 健全な運輸の発展のためには、環境保全に対する取り組みが必要不可欠であるとの認識に立ち、交通公害対策、海洋汚染対策等運輸に関連する環境対策を実施している。
◯ 未来へ向けて、磁気浮上式鉄道、新形式超高速船、運輸多目的衛星等の新しい運輸技術の開発を推進する。


第1節 交通安全の確保

 交通安全の確保は運輸行政の基本であり、このための施策の推進は最も重要な課題の一つである。運輸省としては、人命尊重が何ものにも優先するとの見地に立ち、従来から、交通安全対策全般にわたる総合的かつ長期的な施策の大網を定めた交通安全基本計画に基づき、毎年度、交通安全業務計画を具体的に定め、各輸送機関の安全の確保に努めてきている。
 平成元年度は、第四次交通安全基本計画(昭和61〜平成2年度)に基づき、交通安全施設等の整備、車両・船舶・航空機等輸送機器の安全性の確保、交通従事者の資質の向上及び適切な連行管理の確保等の施策を更に推進するとともに、気象資料等の収集の強化並びに適時に的確な予報・警報等の提供、救難体制の整備や被害者の救済対策にも積極的に取り組むことにより、陸・海・空すべての分野における交通安全対策の一層の充実を図っている。
 また、障害者・高齢者の移動・交通対策も長期的かつ総合的に推進している。

    1 交通事故の概況
    2 交通安全対策の推進


1 交通事故の概況〔2−9−1表〕
 道路交通事故による死者数は、昭和63年には10,344人と前年に比べ997人(10.7%)増加し、昭和50年以降13年ぶりに10,000人を超えた。また、発生件数及び負傷者数も前年に比べ増加した。
 鉄軌道交通事故のうち運転事故による死者数は、昭和63年には471人と前年に比べ62人(15.2%)増加したが、踏切事故については、死者数は216人と前年とほぼ同数であったものの、負傷者は320人と前年に比べ232人(30.1%)と大巾に減少した。
 海上交通については、昭和63年に救助を必要とする海難に遭遇した船舶は1,972隻と減少したが、第一富士丸事故等の発生により死亡・行方不明者は311人と前年に比べ52人(20.1%)増加した。
 航空交通における昭和63年の民間航空機事故件数(機内における病死を除く)は35件で、死者数は13人であった。

2 交通安全対策の推進
(1) 道路交通の安全対策
ア 事業用自動車の安全な運行の確保
 自動車運送事業者には、安全な運行の確保を図るため運行管理者の選任、事故の報告、乗務員の指導・監督等が義務付けられており、運輸省では、その確実な実施を図るよう指導・監督を行うとともに、事故原因を調査することにより同種事故の再発防止に努めている。
 しかし、昭和63年の道路交通事故による死者数は10,344人と昭和50年以来13年ぶりに1万人を超え、事業用自動車の事故による死者数も、1,939人と前年に比べ302人増加した。
 このような状況に鑑み運輸省は、昭和63年11月、全国の自動車運送事業者に対し、連行管理の充実強化、過労防止の徹底、車両の点検整備の励行等について指導し、事故防止の徹底を図っている。さらに、近年、高速道路における事故が急増している状況に鑑み、平成元年7月、バス事業者及びトラック事業者の関係団体に対し、高速道路における事故防止について指導した。
イ 車両の安全確保(車両の安全性に関する技術基準の改善等) 
 自動車等の道路運送車両の安全を確保するため、道路運送車両法に基づき、自動車の構造・装置等について、保安上の技術基準(道路運送車両の保安基準)が定められている。
 この保安基準については、道路交通環境の変化等に対応し適宜改正が行われており、平成元年3月には、自動車の前面窓ガラス等への着色フィルムの貼付について、交通安全上必要な運転視野の確保を図るため、助手席側面ガラスを規制対象に加えるとともに、可視光線透過率を規定し、着色フィルムに係る規制を強化した。
 また、大型車の安全性を一層向上させるため、アンチロックブレーキシステムの導入、普及を図ることとし、事故時の被害が大きいと考えられる車種への装着義務付けの検討を行っている。
 また、幼児等の乗車中の安全性の向上を図るという見地から、年少者用補助乗車装置(チャイルドシート)の要件を定めるとともに、当該装置の基準適合性を促進するため、運輸大臣が行う保安装置の型式認定の対象品目とし、昨年12月に最初の大臣認定として25型式を一括認定した。
 さらに、軽自動車の規格については、平成2年1月1日より衝突時の安全性を向上させるため、長さを10cm伸ばして3.3m以下とし、また、運動性能を前回規格改訂時(昭和51年当時)の水準に回復させるため、排気量を110cc増大させて660cc以下とすることとした。
 (自動車の検査及び整備の充実)
 自動車の安全の確保と公害の防止を図るため、国が自動車の検査(車検)を行っているが、近年における自動車の構造・装置への新技術の採用は目覚ましいものがあり、常時四輪駆動、アンチロックブレーキ、四輪操舵等が急速に普及しつつある。このため、これらに的確に対応すべく総合的な検査用機器の導入を行うなど検査体制の充実強化に努めている。
 一方、整備についても新技術に適切に対応するため、技術資料の充実、整備士の再教育等を推進するとともに、検討会による調査・検討を進めている。特に、本年10月には、全国の自動車ディーラー等において整備事業者向けの技術相談窓口を設置し、新技術に関する相談体制の充実を図った。また、ユーザーの保守管理意識の向上と定期点検整備の励行を図るため、点検教室等のキャンペーンを推進している。
 また、整備事業の近代化を図るため、中小企業近代化促進法に基づく、経営戦略化構造改善計画の推進や自動車整備近代化資金の活用のほか、一定期間内に不具合が発生した場合には無償で再整備する整備保証制度の促進を図っている。
ウ オートマチック車(AT車)の急発進・急加速問題への対応 
 昭和62年度から交通安全公害研究所は、車両構造上の原因究明の試験調査を実施し、平成元年4月に次のような最終報告を発表した。試験調査においては、多くの事例の中で報告されているような、突然エンジンの駆動力が増大して車両が加速し、同時にブレーキも効かなくなるような暴走現象は認められなかった。このため、AT車に共通するような構造装置に係る欠陥が潜在的にあって、そのために急発進・急加速現象(ブレーキを踏んでも車が停止しないような暴走現象)が引き起されることはないものと判断される。
 この最終報告を踏まえ、日本自動車工業会等に対し、自動車ユーザーに適正な運転操作についての周知、キー・インターロック付シフトロック装置等の車両構造上の対策の早期実施、車載電子機器のフェールセーフ性の確保と信頼性の向上等を指導している。
エ 自動車事故被害者の救済 
 自動車事故による被害者の救済を図るため、自動車損害賠償責任保険(共済)及び政府の保障事業を中心とする自動車損害賠償保障制度が設けられているが、平成元年7月1日には最近の賃金・物価の動向を勘案して自動車損害賠償責任保険の支払基準を改正するなど、同制度の適切な運用を行っている。
 また、自動車事故対策センターにおいて、交通遺児等を対象とする生活資金の貸付け、重度後遺障害者に対する介護料の支給、附属千葉療護センターにおける重度後遺障害者の治療及び養護等の業務を行っている。さらに、本年7月には、仙台市に東北療護センターを開設し、重度後遺障害者の療護体制の強化を図った。
(2) 鉄軌道交通の安全対策
ア 鉄軌道の安全性の確保
 鉄軌道における事故は長期減少傾向にあるが、安全性を一層高めるため、@施設面では、自動信号化、ATS(自動列車停止装置)の設置・改良、CTC(列車集中制御装置)化、軌道強化、列車無線設備の整備等による鉄軌道施設の整備、A車両面では、コンピューターの利用等新しい技術を取り入れた検査方法の導入による車両の安全性の確保、B運転面では、乗務員等に対する教育訓練の充実、厳正な服務と適正な運行管理の徹底等による安全連行対策を実施している。
 このような中で、昭和63年12月のJR東日本中央線東中野駅列車衝突事故等の事故が発生した。運輸省としては、このような事故の発生を受けて、JR各社に対し、安全の確保に万全を期するよう厳しく指導するとともに、運輸省とJR各社の安全担当責任者で構成する鉄道保安連絡会議を定期的に開催することとし、安全対策に関する情報交換等を行い、安全対策の推進に努めている。
 なお、JR各社においては、このような事故を契機に、高機能の自動列車停止装置(ATS−P等)の導入の促進等により一層の安全確保に努めるとともに、安全対策の着実な推進を図るため、種々の検討を行っている。
イ 踏切事故の防止対策
 踏切事故の防止については、第四次踏切事故防止総合対策(昭和61〜平成2年度)に基づき、昭和63年度においては、立体交差化78か所、構造改良288か所、保安設備の整備554か所の改良を行った。
 国は、これらの整備のために必要な資金を財政投融資により確保するとともに、一定の要件を満たす鉄道事業者に対し、地方公共団体と協力して踏切保安設備の整備費の一部を補助している。
(3) 海上交通の安全対策
ア 海上交通環境の整備
  (港湾等の整備)
 昭和63年度は、港内の船舶の安全を確保するため、新潟港等71港において防波堤、航路、泊地等の整備を行った。また、沿岸海域を航行する船舶の安全を確保するこめ、輪島港等11港の避難港を整備するとともに、備讃瀬戸航路等14の狭水道航路において拡幅、増深等を行った。東京湾口の浦賀水道航路については、第三海塗の撤去等について引き続き検討を進めている。
 (海上交通情報機構の整備)
 海上保安庁は、ふくそうする海域における船舶の安全かつ能率的な運航を確保するため、海上交通情報機構の整備、運用を行っており、平成元年6月には、関門海峡海上交通センターの運用を開始したところである。また、昨年7月に発生した第一富士丸事故の重大性に鑑み、東京湾海上交通センターの機能の充実強化等を図っている。さらに、大阪湾等においても、その整備について検討している。
 (大規模プロジェクトに係る安全対策の推進)
 東京湾横断道路等の建設は、海上交通に大きな影響を与えるおそれがあるため、海上保安庁では、従来から事業主体等の関係者に対し、建設中及び完成後の航行安全対策等を確立し、これに基づいて警戒船の配備、各種航行援助施設の整備等を実施するよう指導してきている。また、船舶の航行を制限する海域の設定、警戒のための巡視船艇の配備等必要な措置を講じている。
 (航路標識・海図等の整備)
 海上保安庁は、灯台・灯浮標等の航路標識の整備を行っており、元年度には、浮標式の国際的統一に伴う灯浮標等の様式の変更工事を完了する。また、海図等の水路図誌を整備するとともに、船舶交通の安全に係る緊急を要する情報を航行警報等により提供している。
イ 船舶の安全運航の確保
 (船員災害の防止対策等)
 船員に着目した安全対策としては、第5次船員災害防止基本計画(昭和63年3月公示)に基づき、労働環境の変化に対応した安全衛生対策、災害多発業種等に対する安全対策等を実施するとともに、生存対策に関する講習会を開催するほか、船員労務官による監査、指導を行うことにより、船員の安全対策の強化を推進している。
 我が国の港に入港する外国船舶に対しては、「1987年の船員の訓練及び資格証明並びに当直の基準に関する国際条約」(STCW条約)に規定されている航海当直及び船員の資格証明に関する基準に適合しているかについての監督を実施している。このうち、特に船員の資格証明に関する監督については、全国一斉の集中的な監督を行い、その実効を期している。
 さらに、船舶の航行の安全を図るため、STCW条約に基づき昭和62年度から、身体適性及び知識・技能のチェックを行った上で海技免状の有効期間(5年)の更新を認める海技免状の更新制度を導入しており、63年度からは海技免状が失効した者に対し講習を受けることにより免状の再交付を行う失効再交付事務を行っている。
 (旅客船の安全対策)
 旅客船の事故は、運航管理制度の定着等により長期減少傾向にあるが、最近、小型旅客船、高速艇、屋形船等を使用するミニ遊覧船、海上タクシー、納涼船等の事業が瀬戸内海、東京湾等において増加しており、これらの事業に対する安全指導の確立が必要となっている。このため、元年度には四国運輸局に小型旅客船指導の担当官を配置し、これらの事業の実態を把握するとともに海上運送法の諸規制をベースとして指導を行っている。また、交通機関の高速化が要請される中で、時速80キロメートル以上の高性能を有するジェット推進船等の高速船を導入する動きが活発化しているので、夜間航行等の安全対策について検討を進めている。
 (海上交通ルール及び航行安全対策)
 海上保安庁では、海上交通ルールを定めた海上交通安全法等の海上交通関係法令に基づく規制に加えて、船舶の種類に応じた所要の安全指導を行っている。
 また、昨年発生した第一富士丸事故の重大性に鑑み政府が決定した「船舶航行の安全に関する対策要綱」に基づき、海上交通ルールの忠実な遵守に関する指導徹底、東京湾内における航路哨戒用巡視艇の増強配備、東京湾海上交通センターと連絡を取るべき船舶の範囲の拡大等の措置を講ずることにより、輻輳海域における航行安全指導体制のより一層の充実強化を図っている。
ウ 船舶の安全性の確保
 (国際動向への対応)
 国際航海に従事する船舶の安全性の確保については、国際海事機関(IMO)において検討され、「1974年の海上における人命の安全のための国際条約(74SOLAS条約)」及び関連規則等が制定されている。平成2年春には貨物船が損傷した際の復原性の確保を目的として同条約の改正が行われることとなっている。さらに、国際的な旅客船ブームを受けてIMOでも旅客船の安全性、特に防火構造、設備の向上の必要性について検討が行われており、我が国としても旅客船の安全性の確保の重要性を強く認識し、この検討に積極的に参画することとしている。
 さらに、一般危険物及び放射性物質の海上輸送量の増大とその物性の多様化に対応するため、一般危険物についてはIMOの船舶による危険物運送の国際基準であるIMDGコード(国際海上危険物規程)の25回改正までを国内規則に導入するための検討を行い、また、放射性物質に対しては、昭和60年に国際原子力機関(IAEA)において改正が行われ、現在原子力安全委員会において審議中である放射性物質安全輸送規則の国内法化について検討を行う等、安全基準の確立及び安全審査体制の整備を行っている。
 (検査体制の整備等)
 潜水船やプレジャーボートに代表されるように、船舶及び関係諸設備等は、技術的に年々多様化・高度化している。これに対応するため、船舶検査体制の充実強化を図るとともに、型式承認、事業場認定等の検査の合理化に努めている。
 さらに、74SOLAS条約等の基準を満足しない船舶を排除し、船舶の安全と海洋汚染の防止を確保するため、外国船に対して監督を行っているが、昭和63年10月から効力試験を実施する等その一層の強化を図っている。
 また、第一富士丸事故に係る「船舶航行の安全に関する対策要綱」において、船舶設備に関し非常時における旅客脱出のための出入口等の検討を行うこととされた。これを受けて、運輸省としては、平成元年7月25日、船舶設備規程及び船舶安全法施行規則の一部を改正し、指導通達の内容(旅客室及び公室等の出入口の要件強化、家具等の移動防止装置、遊魚船における転落防止装置等)を船舶安全法関係省令に規定する等の措置を講じた。
 (GMDSSへの対応)〔2−9−2図〕
 「全世界的な海上遭難・安全制度」(GMDSS)は、現行の海上における無線通信システムの問題点を根本的に解消するため、衛星通信技術、ディジタル通信技術等最新の通信技術を利用して、いかなる海域の船舶も陸上からの航行安全に関わる情報を適切に受信することができ、また、遭難した場合は、捜索救助機関や付近航行船舶に対して、迅速に救助要請を行うことができる全地域的な遭難・安全通信体制を確立しようとするもので、平成4年2月には、この制度を世界的なレベルで導入するための改正SOLAS条約が発効する予定である。
 運輸省においても、この制度を円滑に導入するため、GMDSS関連設備の一部について技術基準を定めたが、今後さらに非条約船へのGMDSS導入の検討を行うと同時に、船舶安全法及び関係法令の改正を進めることとしている。
エ 海上捜索救助体制の整備
 昭和60年6月に発効した「1979年の海上における捜索及び救助に関する国際条約」(SAR条約)を受けて、昭和61年12月に米国との間で締結された捜索救助に関する国際協定により、我が国は本邦からほぼ1200海里に及ぶ広大な海域において、捜索救助を行う責務を有することとなった。このため、海上保安庁では、従来からの捜索救助体制の整備に加えて、昭和57年度からヘリコプター搭載型巡視船と航空機を中心とする機動力に優れた広域哨戒体制の整備を推進しており、本年9月には、海上保安庁として初めての大型ジェット飛行機(ファルコン900)が就役したところである。このほか、効率的な捜索救助に資するため船位通報制度(JASREP)を運用している。
 さらに、平成4年2月から導入予定のGMDSSに対応し、元年度から関連陸上施設の整備に着手している。
(4) 航空交通の安全対策
ア 航空保安システムの整備
 航空機は、航空保安無線施設(VOR/DME等)から発射された電波により空中に構成された航空路上を飛行している。これらの航空機を管制するために航空路監視レーダー(ARSR、ORSR)及び空港監視レーダー(ASR)の整備を進めるとともにレーダー情報と飛行計画情報を提供する管制情報処理システム(RDP、FDP、ARTS)を整備してきている。一方、地方空港のジェット化に伴い、定時性の確保とより安全な着陸を行うために計器着陸装置(ILS)及び進入灯(ALS)を整備してきている。
 なお、昭和63年度においては、稚内及び福江ILS、知念及び蔵王山田にVOR/DME等を整備完了し運用を開始した。
 また、東京国際空港の沖合展開等三大プロジェクトの進展に伴う航空交通量の大幅な増加に対処し、航空交通の安全を図るため、平成5年度の運用開始に向けて次の機能を有する「航空交通システムセンター」(仮称)の整備を進めることとしている。
@ フローコントロール機能:全国の航空交通の流れを一元的に把握し、必要な指示等を関係機関に行う。
A 開発評価機能:管制情報処理シスアムのソフトウェアを一元的に開発・評価する。
B 危機管理機能:災害等が発生し、航空管制施設が大きな被害を受けた場合にバックアップする。
 また、関西国際空港の整備により予想される関西空域における航空交通のふくそうと多様化に対処するため、同空域内の複数の空港に係る進入管制を一元的に実施して空域の有効利用と管制処理能力の向上を図るための「広域レーダー進入管制所」(仮称)についても平成4年度運用開始を目途に整備している。
イ 航空機の安全運航の確保
 (運航管理の改善)
 航空運送事業者は、航空機の運航基準、運航管理の実施方法等を運航規程に定めるよう義務付けられており、運輸省ではその確実な実施を図るよう指導・監督を行っている。なお、航空機乗組員に義務付けられている航空身体検査証明の基準が、平成元年2月に循環器系の検査項目について、一部改正され、同年5月から施行された。
 (航空大学校及び航空保安大学校の充実)
 航空需要が拡大する一方、操縦士の不足が予測され、高速公共交通機関である定期航空の操縦士を安定的に確保していくことが大きな課題となっているが、航空大学校は、基幹操縦要員の養成のため、重要な役割を果たしている。平成元年8月からは、従来防衛庁に委託していた別科生の回転翼航空機操縦訓練も開始した。
 航空保安大学校においては、新規採用職員の効果的な研修に資するため、平成元年度は、実験無線局の機器更新等研修施設の充実に努めている。また、同岩沼分校においては、高度な専門技術修得のため、教育用レーダー装置の性能向上を図ることとしている。
 (航空保安対策)
 我が国の航空保安対策は、「よど号」事件を契機に、ハイジャック防止対策として始まり、各空港において、凶器を航空機に持ち込ませないためのX線検査装置、金属探知機設置等の保安対策を講じてきた。その結果、我が国においては、昭和55年以降ハイジャック事件は発生していない。
 しかし、国際的には、近年航空機爆破の重大事件が続発しており、我が国でも爆発物対策の強化等を図っているところである。
ウ 航空機の安全性の確保
  昭和63年4月の米国アロハ航空機事故を契機として、長期間使用されている航空機(いわゆる経年機)の安全性の確保が強く求められている。
 我が国においても航空機の経年化に伴う事故の発生を未然に防止するため、従来から各航空会社等に対し経年化に伴って疲労亀裂、腐蝕、接着の剥れ等が発生しやすい航空機の構造部材に対する点検・整備の強化及び改修等の促進を指示してきたところである。さらに、米国連邦航空局が主催した経年機対策会議の提言等を踏まえ、対策の強化を図ることとしている。
 また、平成元年9月に(財)航空輸送技術研究センターが設立され、航空機の安全性の維持向上に必要な技術に関する調査・研究等が一層促進されることになった。
エ 小型航空機の事故防止対策
 近年の小型航空機の事故件数はほぼ横ばい状態であり、昭和63年の航空事故件数は31件であった。運輸省としては、航空事業者及び自家用小型航空機運航者に対し「小型航空機の安全運航ハンドブック」を配布し安全運航に努めるよう指導するとともに、超軽量動力機運航者に対しては安全飛行に関する注意事項をまとめた「超軽量動力機安全マニュアル」を活用し安全飛行の知識の普及を図った。
オ 緊急時における捜索救難体制の整備
 民間航空機の捜索救難については、国際民間航空条約に準拠し、警察庁、防衛庁、運輸省、海上保安庁及び消防庁が「航空機の捜索救難に関する協定」を締結し、救難調整本部(RCC)を東京空港事務所に設置して共同実施に当たっている。 救難調整本部においては、遭難位置の推定及び捜索区域を決定するために必要な施設の性能向上を進めるとともに、関係機関との合同訓練を定期的に行い、捜索救難体制の一層の充実強化を図ることとしている。
(5) 障害者・高齢者対策
 障害者・高齢者が、公共交通機関をできるだけ身体的、精神的に負担がからず、かつ安全に利用できるよう必要な対策を講ずることは、障害者の社会参加の機会の増大及び高齢化社会の到来に対応してますます重要な課題となってきている。
 運輸省では、こうした観点から各交通事業者に対して、鉄道駅等におけるエレベータ、エスカレータの設置、段差の解消(スロープ化)、低床・広ドアバスの導入、シルバーシートの設置等の施設整備を進めるよう指導してきているが、このほか、これらの施設が適切に整備されるよう、国際障害者年に当たる昭和56年以降、継続して、公共交通ターミナルにおける身体障害者用施設整備ガイドラインの作成調査、身体障害者や高齢者の公共交通機関のための情報提供のあり方に関する調査等を実施してきている。昭和62年度からは、障害者・高齢者のための公共交通機関の車両構造モデルデザインを作成すべく、3か年計画で調査を実施している。



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